影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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3章 〜過去 正妃と側妃〜

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 ルイザを迎えて半年も経つとカールは焦れてきていた。
 ルイザが懐妊するまで閨を続けなければならない。懐妊してもそれが王子とは限らないが、懐妊すれば一旦閨を止めることができる。

 早く懐妊して欲しい。
 最近はそればかりを考えていた。



 その日は突然訪れた。
 その日は妃の定期検診が行われる日で、特に問題がなければ報告書が届けられるだけだ。それなのに侍医長がカールの執務室を訪ずれたのだ。
 エリザベートに何かあったのかと気色ばむカールに侍医長は静かに首を振った。

「側妃殿下がご懐妊されました」

「何………?」

 それは待ちに待った報せのはずだった。
 それなのにカールは大きな衝撃に襲われた。

 子ども……ができたのだ。
 エリザベートではない、他の女性との子どもが。
 エリザベートには二度と持つことができない、自分の子どもが。

 不意に窓辺に座ってルイの墓に話し掛けるエリザベートの姿が浮かんで息が詰まった。

「陛下!大丈夫ですか!!」

 遠くから慌てた侍医長の声が聞こえ、外に出ていた侍従たちが駆け込んでくる。カールは一瞬気を失っていたらしい。
 その後侍医長の診察を受ける間も百合の宮へ向かう馬車の中でも、浮かぶのはエリザベートにどう伝えれば良いのかという思いばかりだった。





「陛下!来てくださったんですね!!」

 カールが部屋へ入るとルイザは弾けるような笑顔を見せた。
 懐妊はルイザにとって間違いなく朗報だろう。座っていたソファから立ち上がり、足早に近づいてくる。

「侍医長からお聞きになりましたよね?春頃には生まれるそうですわ」

「………そうか」

 カールは自分の口から漏れた声が酷く乾いていることに気がついていた。
 エリザベートが懐妊した時はいつだって心が浮き立っていたのに、少しも喜びが湧いてこない。頭の中がぼんやりして夢の中の出来事を見ているようだ。
 現実を受け入れるのを拒否しているのだろうか。

「………そなた、寝ていなくて良いのか」

 ふと頭に浮かんだことを訊いてみた。
 エリザベートが懐妊した時はいつも具合が悪そうで、ほとんど寝て過ごしていたのだ。それなのに何度も子が流れている。
 だけどルイザは、いつもより元気そうに見えた。コルセットをつけない楽なワンピースを着ていなければ懐妊したとは信じられないくらいだ。 

「妃殿下はまだ悪阻も始まっておりませんし、普段通りに過ごされても問題ございません。勿論体調に異変があればすぐに休んでいただきます」

「そういう、ものなのか」

 イーネの言葉に呆然と頷く。
 カールが知っている妊婦とは違いすぎてクラクラする。
 
「陛下。まだ膨らみはわかりませんが、触ってみませんか?」

 ルイザがはしゃいだ様子でカールの腕を取り、腹に触れさせようとする。
 それに気付いたカールは咄嗟に手を振り払っていた。

「きゃあっ!!」

 ルイザの悲鳴が響く。
 だけどカールは振り返ることなく部屋を飛び出した。

 あれに触れてはいけない。

 そんな強迫観念のようなものが押し寄せていた。
 
 




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