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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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カールが百合の宮に着くと硬い表情の執事に迎えられた。
遅い時間だというのに沢山の部屋の明かりが灯っていてメイドたちが行き交っているのが見える。これも主の出産という一大事の為か。
見慣れない光景に少し驚いたが、ルイが生まれた時は早くからエリザベートの部屋で待機していたのでその間メイドたちがどんな動きをしていたのか見ていなかったのだ。
執事が案内したのは応接間だった。
カールもそれ程親しくないルイザの私室に入り込むつもりはないので不満はない。
カールがソファに座ると同時に侍女が入ってきてお茶が出された。
「随分早いな」
夜中にお茶を頼むことはあるが、昼間よりも時間が掛かるものだ。思わず呟いてから気がついた。
侍女たちははカールがいつ来ても良いように備えていたのだ。
そっと侍女の顔を窺えば、執事と同じように硬い表情をしている。思えば廊下ですれ違ったメイドたちも、カールに気がつけば慌てて頭を下げていたけれど皆同じような顔をしていた。
彼らは元々エリザベートを慕っていた。
あまりにもルイザを気に掛けないカールに困惑しながらも、エリザベートに愛情を注ぐカールを知っているので仕方ないかと考えていた。
それでもこんな時くらいはすぐに駆けつけてくると思っていたのだ。それなのに今は真夜中である。
自身に向けられた視線に居心地の悪さを感じたカールは一つ咳払いをして尋ねた。
「それで、特に問題はないんだな?」
「はい。侍医からは報告がありません。時間が掛かっていますが、初産ですのでこれは仕方がないかと。侍女の話では妃殿下は陣痛の合間に食事をされ、水分も摂っておられるそうです」
複雑な感情を抱いていても執事の真の主人はカールである。カールの問い掛けに淀みなく答える。
だけど執事は、誰かが産屋を出入りする度に「陛下はまだなの?!何故来ないの?!」と叫び続けるルイザに、根負けした侍女が日が落ちた頃カールが来たと嘘を吐いたことは話さなかった。嘘がばれるほど二人が語り合う日が来るとも思えない。
「そうか。では待つしかないな」
そう言うとカールは目を閉じてソファの背もたれに背中を預けた。
時間が掛かるのは初めからわかっている。ここで夜を明かす覚悟もしていた。居心地悪く感じる彼らの視線もカールが受け止めなければならないものだ。
彼らの複雑な気持ちをカールは理解できた。寧ろカール自身が困惑している。
ルイザを迎える前から愛せないことはわかっていた。
それでも側妃として、世継ぎの母として尊重するつもりだったのに、少しも大切にできないのは何故だろう。
頭で考えることと心で感じることはこれ程違うのだと痛感するばかりだ。今では世継ぎを得ることよりエリザベートを裏切る役目から解放されることを望むばかりである。
自己嫌悪に沈むカールだったが、そこに扉を叩く音が聞こえて目を開いた。
部屋に入ってきたイーネが傍へ来て頭を下げる。
「失礼致します、陛下。子ども部屋をご覧になりますか?」
「!!」
ルイザから何度も相談のあった部屋である。
頭からすっかり抜け落ちていたことにカールは気がついた。
遅い時間だというのに沢山の部屋の明かりが灯っていてメイドたちが行き交っているのが見える。これも主の出産という一大事の為か。
見慣れない光景に少し驚いたが、ルイが生まれた時は早くからエリザベートの部屋で待機していたのでその間メイドたちがどんな動きをしていたのか見ていなかったのだ。
執事が案内したのは応接間だった。
カールもそれ程親しくないルイザの私室に入り込むつもりはないので不満はない。
カールがソファに座ると同時に侍女が入ってきてお茶が出された。
「随分早いな」
夜中にお茶を頼むことはあるが、昼間よりも時間が掛かるものだ。思わず呟いてから気がついた。
侍女たちははカールがいつ来ても良いように備えていたのだ。
そっと侍女の顔を窺えば、執事と同じように硬い表情をしている。思えば廊下ですれ違ったメイドたちも、カールに気がつけば慌てて頭を下げていたけれど皆同じような顔をしていた。
彼らは元々エリザベートを慕っていた。
あまりにもルイザを気に掛けないカールに困惑しながらも、エリザベートに愛情を注ぐカールを知っているので仕方ないかと考えていた。
それでもこんな時くらいはすぐに駆けつけてくると思っていたのだ。それなのに今は真夜中である。
自身に向けられた視線に居心地の悪さを感じたカールは一つ咳払いをして尋ねた。
「それで、特に問題はないんだな?」
「はい。侍医からは報告がありません。時間が掛かっていますが、初産ですのでこれは仕方がないかと。侍女の話では妃殿下は陣痛の合間に食事をされ、水分も摂っておられるそうです」
複雑な感情を抱いていても執事の真の主人はカールである。カールの問い掛けに淀みなく答える。
だけど執事は、誰かが産屋を出入りする度に「陛下はまだなの?!何故来ないの?!」と叫び続けるルイザに、根負けした侍女が日が落ちた頃カールが来たと嘘を吐いたことは話さなかった。嘘がばれるほど二人が語り合う日が来るとも思えない。
「そうか。では待つしかないな」
そう言うとカールは目を閉じてソファの背もたれに背中を預けた。
時間が掛かるのは初めからわかっている。ここで夜を明かす覚悟もしていた。居心地悪く感じる彼らの視線もカールが受け止めなければならないものだ。
彼らの複雑な気持ちをカールは理解できた。寧ろカール自身が困惑している。
ルイザを迎える前から愛せないことはわかっていた。
それでも側妃として、世継ぎの母として尊重するつもりだったのに、少しも大切にできないのは何故だろう。
頭で考えることと心で感じることはこれ程違うのだと痛感するばかりだ。今では世継ぎを得ることよりエリザベートを裏切る役目から解放されることを望むばかりである。
自己嫌悪に沈むカールだったが、そこに扉を叩く音が聞こえて目を開いた。
部屋に入ってきたイーネが傍へ来て頭を下げる。
「失礼致します、陛下。子ども部屋をご覧になりますか?」
「!!」
ルイザから何度も相談のあった部屋である。
頭からすっかり抜け落ちていたことにカールは気がついた。
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