131 / 142
4章 〜過去 崩れゆく世界〜
5
しおりを挟む
カールがギデオンを避けていてもどうしても外せない子どもの為の儀式がある。
特に王家の子どもにとって風習通りに儀式を行うのは重要なことだ。行われていないと王子としての正当性を疑われることになりかねない。
カールはマクレガー伯爵夫人から王子を初めて沐浴させる「御湯の儀式」はどうするのかという手紙を受け取り、これ以上逃げられないことを悟った。
ギデオンはマクレガー伯爵夫人に体を拭かれているが、「御湯の儀式」をしていないので生まれて10日経っても沐浴をできていないのだ。
カールは悩んだ挙げ句、明日の夜「御湯の儀式」を行うと返事を出した。
儀式の準備だけは生まれる前から進めさせていたのでカールが指示さえ出せばいつでも行えるようになっている。
カールが明日百合の宮へ来るというのはイーネからルイザに知らされた。
「明日の夜、陛下が御湯の儀式の為にこちらへいらっしゃいます。妃殿下も同席されるのですから体調を整えなければいけないでしょう」
「え?!陛下がいらっしゃるの?!」
ベッドの中でぼんやりしていたルイザはイーネの言葉に声を上げた。
今日も朝から一騒ぎした後貧血を起こして倒れたのだ。体調が回復しているとはとても言えず、顔色も青白い。
「はい。明日は御湯の儀式ですが、これから先五十の祝いや洗礼もございます。しっかりなさらなければなりません」
五十の祝いは子が生まれて50日目に行われる初めて食事を食べる日だ。勿論本当に何かを食べるわけではなく、口元まで持っていって食べさせる真似事をするだけだが、この子が今後一生食べるのに苦労しないようにという願い込められている。洗礼は教会で神の信者になる為に必要な儀式だ。
どの儀式も当然両親が揃って行われる。
「大変!急いで準備をしなきゃ!!陛下がいらっしゃるのにこんな姿は見せられないわ!!」
「御湯の儀式の準備は既に終わっていますのでご安心下さい。ですが痩せられましたので用意したドレスはサイズが合わないかもしれませんね」
御湯の儀式に必要なのは沐浴の為の新しい桶と清潔で大きなタオル、沐浴の後に着させる白い肌着と夜着だけだ。
カールの指示を受けてイーネがどれも手配している。桶は杉の産地として有名な領地で優秀な職人に作らせたし、タオルも絹織物で有名な領地の商人に直接注文をして届けさせた。肌着も夜着も最高級のものだ。
ただ御湯の儀式で沐浴されるのは乳母の役目で、両親はその様子を見守るしかない。
だから豪華なドレスは必要なく、むしろ清潔感があり清楚に見える白っぽいドレスが良いとされている。
イーネはルイザの為に締め付ける必要のないベージュのワンピースドレスを用意していた。
「そう、ドレスが……。困ったわ………」
ルイザは青白い顔を更に青ざめさせた。
サイズの合わないブカブカのドレスなんて着ていたらみっともない思われるだろう。
カールの気を引かないといけないのにこれ以上おかしな姿を見せるわけにはいかない。出産してから肌の手入れもしていないのでボロボロで見苦しいに違いない。
そんなルイザの気持ちがイーネにはわかっていた。
だけど表情を変えることなくルイザが今やるべきことを告げる。
「妃殿下が今やるべきことはきちんと休まれることです。少しでも体を回復させないと体力が保ちませんよ」
体力が戻っていれば朝の内にドレスを試着して詰めることもできるかもしれない。
休憩を挟みながらじっくり入浴をして肌を磨き上げることも、しっかり化粧を施して目の下の隈や青白い頬を隠すこともできるかもしれない。
それらはすべてルイザの体調次第で、最悪の場合儀式の途中で退出することになるかもしれないのだ。その場合、サイズの合わないドレスや乾燥した肌より悪い印象を残すことになる。
「………わかったわ。今日はもう大人しくしているわ」
ルイザは焦る気持ちを抑えて目を閉じた。
出産後、ルイザがゆっくり休んだのはこの日が初めてだった。
特に王家の子どもにとって風習通りに儀式を行うのは重要なことだ。行われていないと王子としての正当性を疑われることになりかねない。
カールはマクレガー伯爵夫人から王子を初めて沐浴させる「御湯の儀式」はどうするのかという手紙を受け取り、これ以上逃げられないことを悟った。
ギデオンはマクレガー伯爵夫人に体を拭かれているが、「御湯の儀式」をしていないので生まれて10日経っても沐浴をできていないのだ。
カールは悩んだ挙げ句、明日の夜「御湯の儀式」を行うと返事を出した。
儀式の準備だけは生まれる前から進めさせていたのでカールが指示さえ出せばいつでも行えるようになっている。
カールが明日百合の宮へ来るというのはイーネからルイザに知らされた。
「明日の夜、陛下が御湯の儀式の為にこちらへいらっしゃいます。妃殿下も同席されるのですから体調を整えなければいけないでしょう」
「え?!陛下がいらっしゃるの?!」
ベッドの中でぼんやりしていたルイザはイーネの言葉に声を上げた。
今日も朝から一騒ぎした後貧血を起こして倒れたのだ。体調が回復しているとはとても言えず、顔色も青白い。
「はい。明日は御湯の儀式ですが、これから先五十の祝いや洗礼もございます。しっかりなさらなければなりません」
五十の祝いは子が生まれて50日目に行われる初めて食事を食べる日だ。勿論本当に何かを食べるわけではなく、口元まで持っていって食べさせる真似事をするだけだが、この子が今後一生食べるのに苦労しないようにという願い込められている。洗礼は教会で神の信者になる為に必要な儀式だ。
どの儀式も当然両親が揃って行われる。
「大変!急いで準備をしなきゃ!!陛下がいらっしゃるのにこんな姿は見せられないわ!!」
「御湯の儀式の準備は既に終わっていますのでご安心下さい。ですが痩せられましたので用意したドレスはサイズが合わないかもしれませんね」
御湯の儀式に必要なのは沐浴の為の新しい桶と清潔で大きなタオル、沐浴の後に着させる白い肌着と夜着だけだ。
カールの指示を受けてイーネがどれも手配している。桶は杉の産地として有名な領地で優秀な職人に作らせたし、タオルも絹織物で有名な領地の商人に直接注文をして届けさせた。肌着も夜着も最高級のものだ。
ただ御湯の儀式で沐浴されるのは乳母の役目で、両親はその様子を見守るしかない。
だから豪華なドレスは必要なく、むしろ清潔感があり清楚に見える白っぽいドレスが良いとされている。
イーネはルイザの為に締め付ける必要のないベージュのワンピースドレスを用意していた。
「そう、ドレスが……。困ったわ………」
ルイザは青白い顔を更に青ざめさせた。
サイズの合わないブカブカのドレスなんて着ていたらみっともない思われるだろう。
カールの気を引かないといけないのにこれ以上おかしな姿を見せるわけにはいかない。出産してから肌の手入れもしていないのでボロボロで見苦しいに違いない。
そんなルイザの気持ちがイーネにはわかっていた。
だけど表情を変えることなくルイザが今やるべきことを告げる。
「妃殿下が今やるべきことはきちんと休まれることです。少しでも体を回復させないと体力が保ちませんよ」
体力が戻っていれば朝の内にドレスを試着して詰めることもできるかもしれない。
休憩を挟みながらじっくり入浴をして肌を磨き上げることも、しっかり化粧を施して目の下の隈や青白い頬を隠すこともできるかもしれない。
それらはすべてルイザの体調次第で、最悪の場合儀式の途中で退出することになるかもしれないのだ。その場合、サイズの合わないドレスや乾燥した肌より悪い印象を残すことになる。
「………わかったわ。今日はもう大人しくしているわ」
ルイザは焦る気持ちを抑えて目を閉じた。
出産後、ルイザがゆっくり休んだのはこの日が初めてだった。
41
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる