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4章 〜過去 崩れゆく世界〜
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カールから明日百合の宮へ行くと聞いたエリザベートは淡々と受け入れた。
エリザベートがずっと傍にいるカールに困惑していたのは、新しい家族との時間を奪っている罪悪感だけではなく儀式をどうするのか気になっていたからだ。
事情があり片親だけで儀式を済ませることもあるがそれは片方の親が亡くなっている場合がほとんどで、そうでない場合は世間的に親子と公表できない間の子だったり、父親に自分の子と認めてもらえない子ということになる。不貞の子として肩身の狭い思いをすることになるのだ。
だけどギデオンは間違いなくカールの子だ。
カールが息子にそんな思いをさせるはずがない。
だからこれは当然のことだとエリザベートは理解していた。
「………行ってくる。できるだけ早く戻るからな」
「いってらっしゃいませ」
エリザベートに見送られ、馬車に乗り込んだカールは不安でいっぱいだった。
何か悪いことが起こりそうな嫌な予感はずっと続いている。エリザベートが穏やかであればあるほど不安が募っていく。
だけど儀式ばかりは無視するわけにいかないので、少しの時間だから大丈夫だと自分に言い聞かせて進んだ。
「陛下!来てくださったんですね!」
カールが百合の宮に着くとエントランスホールでルイザが待っていた。
清楚なベージュのワンピースドレスを着て装飾品もペンダントトップに小さなピンクのダイヤがついたネックレスと真珠のイヤリングだけ。纏めた髪にも小さな白い花の飾りが付いているだけのシンプルな格好だ。化粧が少し濃いような気がしたが、これまで化粧をしたルイザと顔を合わせたのはほんの数回だけなので、こんなものなのかと見過ごした。
カールが腕を差し出すとルイザが嬉しそうに腕を絡めてくる。ここで待たれていてはエスコートしないわけにいかないのだ。カールの気を引こうとして何かと話し掛けてくるルイザを気の毒に思いながら、カールは曖昧に相槌を打っていた。
ルイザの部屋ではすっかり準備が整っていた。
二人が部屋へ入ると子を抱いたマクレガー伯爵夫人が近寄ってきて頭を下げる。伯爵夫人に抱かれたギデオンは眠たいのか伯爵夫人に頬を擦り付けていた。
「殿下は元気に育っておられます。よくミルクも飲まれますし、夜もよく眠ってくださいます」
「そうか……」
確かにおくるみに包まれたギデオンは顔色もよく健康そうに見える。
ギデオンを見つめていたカールは必死に忘れようとしていた温もりが蘇るようで慌てて目を逸らした。
「では、時間が遅くなりますので始めさせていただきますね」
伯爵夫人が一礼して去っていく。
この日は儀式の為にいつも置かれているソファーがなくなっていた。その代わりテーブルの上には木の桶が置かれ、少し離れた場所に椅子が二脚置かれている。
カールとルイザが椅子に座ると浴室から湯が運ばれてきて御湯の儀式が始まった。
本当はマクレガー伯爵夫人はカールに子を抱いて欲しかった。
だからギデオンの顔がよく見えるように抱いて愛情が湧くように話し掛けた。その試みは半分成功していたと思う。
だけどカールは頑なだ。無理に抱かせようとすると余計に拒絶するだろう。
時間は掛かるだろうが会う機会を増やして少しずつ距離を縮めるしかない。
ギデオンを湯に入れて優しく体を洗いながら、マクレガー伯爵夫人はそう考えていた。
エリザベートがずっと傍にいるカールに困惑していたのは、新しい家族との時間を奪っている罪悪感だけではなく儀式をどうするのか気になっていたからだ。
事情があり片親だけで儀式を済ませることもあるがそれは片方の親が亡くなっている場合がほとんどで、そうでない場合は世間的に親子と公表できない間の子だったり、父親に自分の子と認めてもらえない子ということになる。不貞の子として肩身の狭い思いをすることになるのだ。
だけどギデオンは間違いなくカールの子だ。
カールが息子にそんな思いをさせるはずがない。
だからこれは当然のことだとエリザベートは理解していた。
「………行ってくる。できるだけ早く戻るからな」
「いってらっしゃいませ」
エリザベートに見送られ、馬車に乗り込んだカールは不安でいっぱいだった。
何か悪いことが起こりそうな嫌な予感はずっと続いている。エリザベートが穏やかであればあるほど不安が募っていく。
だけど儀式ばかりは無視するわけにいかないので、少しの時間だから大丈夫だと自分に言い聞かせて進んだ。
「陛下!来てくださったんですね!」
カールが百合の宮に着くとエントランスホールでルイザが待っていた。
清楚なベージュのワンピースドレスを着て装飾品もペンダントトップに小さなピンクのダイヤがついたネックレスと真珠のイヤリングだけ。纏めた髪にも小さな白い花の飾りが付いているだけのシンプルな格好だ。化粧が少し濃いような気がしたが、これまで化粧をしたルイザと顔を合わせたのはほんの数回だけなので、こんなものなのかと見過ごした。
カールが腕を差し出すとルイザが嬉しそうに腕を絡めてくる。ここで待たれていてはエスコートしないわけにいかないのだ。カールの気を引こうとして何かと話し掛けてくるルイザを気の毒に思いながら、カールは曖昧に相槌を打っていた。
ルイザの部屋ではすっかり準備が整っていた。
二人が部屋へ入ると子を抱いたマクレガー伯爵夫人が近寄ってきて頭を下げる。伯爵夫人に抱かれたギデオンは眠たいのか伯爵夫人に頬を擦り付けていた。
「殿下は元気に育っておられます。よくミルクも飲まれますし、夜もよく眠ってくださいます」
「そうか……」
確かにおくるみに包まれたギデオンは顔色もよく健康そうに見える。
ギデオンを見つめていたカールは必死に忘れようとしていた温もりが蘇るようで慌てて目を逸らした。
「では、時間が遅くなりますので始めさせていただきますね」
伯爵夫人が一礼して去っていく。
この日は儀式の為にいつも置かれているソファーがなくなっていた。その代わりテーブルの上には木の桶が置かれ、少し離れた場所に椅子が二脚置かれている。
カールとルイザが椅子に座ると浴室から湯が運ばれてきて御湯の儀式が始まった。
本当はマクレガー伯爵夫人はカールに子を抱いて欲しかった。
だからギデオンの顔がよく見えるように抱いて愛情が湧くように話し掛けた。その試みは半分成功していたと思う。
だけどカールは頑なだ。無理に抱かせようとすると余計に拒絶するだろう。
時間は掛かるだろうが会う機会を増やして少しずつ距離を縮めるしかない。
ギデオンを湯に入れて優しく体を洗いながら、マクレガー伯爵夫人はそう考えていた。
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