「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた

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 可愛らしい息子が駆けてくるのを見ながら、これからのことを考えていた。

 ルーカスの言う通りである。血は、けっしてごまかすことはできない。ましてやなかったことにすることも。この先、ことあるごとに命を狙われたり祭りたてられたりするだろう。それ以前に、このままいけばあのふたりの王子のどちらかが国王になる。そうすれば、かならず反乱が起きる。結果、国王は断罪される。国王だけではおさまらない。王族は根絶やしにされる。たとえ他国に亡命しようと逃げ隠れしようと、かならずや捜しだされて断頭台の露と消える。

 運命に従わねばならないのなら、避けることができないのなら、積極的になるべきだ。だれにとってもよりよい結果になるよう努力すべきだ。

 ケンなら立派な国王になることができる。ルーカスや彼の家族が支えてくれるはずだから。ケンなら、この国の人たちを守り、しあわせにしてくれる。

 これは、親バカなわたしの推測ではない。希望的観測でもない。「レディの勘」、でもない。

 ケンこそが「生まれながらの王」だからである。

(これはやはり、親バカの贔屓目かもしれないわね)

 それでもいい。それでもケンを信じたい。

 ケンのことはともかく、わたし自身は彼にたいしてできることは多くはない。足をひっぱることしかできないかもしれない。それでも、彼の精神面のサポートや使い走りみたいなことならできるはず。

(やるのよ。ケンの可能性同様、わたしも可能性があるはず。母になり、わたしのすべてがかわったのだから)

 そう。すべてがかわった。ケンがかえてくれたのだ。そして、ルーカスもかえてくれた。

 彼らは、わたしにチャンスをくれたのだ。

「母さん、ルーカスと手を握り合っていたよね?」
「えっ?」

 気合いを入れた瞬間、ケンが尋ねてきた。彼は、ルーカスとわたしを交互に見ている。

 そのとき、彼の目線と座っているわたしのそれとが同じ高さであることに気がついた。わたしが小柄で座高が低いからではない。ケンは、また背が高くなっている。彼は、日に日に成長している。どんどん立派になっている。

 肉体的にも精神的にも……。

 ケンは、いずれわたしから巣立っていく。そのことを考えるとゾッとする。だから、できるだけそのことは考えないようにしている。そして、いまこのとき全力で彼とすごすようにしている。

「ケン。じつは、おれはきみの母さんと知り合いでね。きみと母さんを迎えに来たというわけさ」
「ルーカス、母さんと結婚するの?」
「ちょっ、ケン……」

 まだ心の準備ができていない。というよりか、まだそんな段階ではない。

「そうだよ、ケン。きみの母さんとおれは結婚し、おれはきみの父親になる。だから、これからはみっちり剣の稽古をつけてやれる。言っておくが、剣の稽古は厳しいぞ。だから、そこは覚悟しておけ。しかし、それ以外ではやさしくて気前のいい父親になる。それから、やさしくて気遣い抜群の夫になる。働き者で愛情深く、いつなんどきでもふたりを優先し、守る。だから、そこは安心してくれ」
「ルーカス。あなた、なにを言いだすの」

 文字通り驚愕した。というよりか、面食らった。

「母さん、よかったね。おめでとう。ぼくもこれで安心できる。集中していろいろなことを学ぶことができる」

 ケンはわたしをハグし、それからルーカスをハグした。

 わたしの最愛の息子は、わたしが考えている以上にしっかり者のようだ。

 いいえ。わたしたちの最愛の息子、ね。



 五年前、陛下に離縁されて追放されるまでの七日の間にぜったいにしたかったことは、ちゃんとかなった。そればかりか、願い以上のものを得ていたのだ。

 そして、言葉は悪いけれどおまけまでついてきた。

 ケンという宝を得たばかりか、こんなわたしを愛してくれる夫までできた。

 これ以上、なにを望むことがあるのかしら? 

 五年前のわたしに教えてやりたい。示してやりたい。

『マコ、焦らなくても大丈夫よ。あなたのぜったいしたいことはちゃんとできるから。陛下からのいただく種は、五年の月日を経て育ち、立派な実になるから。結果オーライ。だから安心していいのよ』

 そのように。

 このさき、わたしたちはどうなるかわからない。過酷で悲惨な道を歩むことになることだけはわかっている。そのさきにあるもが、はたして生なのか死なのか。あるいは、悲惨な末路なのかしあわせなのか。

 どのような将来を迎えることになっても、愛する息子と夫といっしょなら何も怖くはない。怖れることはない。

 わたしたち親子、いいえ、家族の愛と絆さえあれば、どんなことだってできる。

 いいえ。かならずややり遂げてみせる。


                                  (了)
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