「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた

文字の大きさ
9 / 10

9.

しおりを挟む
「一目惚れだったんだ」

 彼は、美貌を近づけてきた。

 キラキラすぎて目がくらみそうになる。

「王宮の謁見の間できみの父親たちと交渉していたとき、謁見の間の片隅にいるきみを見つけた。あのとき、きみは怯えていた。それだけじゃない。孤独で寂しそうでなによりはかなかった。ピンときたよ。きみは、おれと同じなのだと。そして、そう感じた瞬間、戦争や政争に明け暮れていたおれの心が震えた。震え、ついには怖くなってきた。きみをここで助けなければ、いまきみをどうにかしないと、きみは死んでしまうと予感した。だから、おれが守らなければならない。そして、おれが愛さなければならない。そう強く確信した。そうなるといてもたってもいられなくなり、会見中に将軍にこっそり進言した。きみを人質にして本国に送れば、将軍の手柄となるだろうとね。欲だけのバカな将軍は、そんなくだらないおれの進言を鵜呑みにし、まんまとのったわけだ」
「はぁ……」

 あまりの展開に、「はぁ」以外に反応しようがあるだろうか。 


「マコ。きみとケンを見つけるのに時間がかかってしまい、ほんとうに悪かったと思っている。しかし、マクラウド司祭からこの町でしあわせに暮らしているのだと聞かされた。じつは、彼はおれの名付け親なんだ。驚いたよ。これは、神が導いてくれたんだとね。偶然ではなく必然だったんだとつくづく思ったよ」
「わたしとケンを拾ってもらって以来お世話になっているジョーイとライラ同様、司祭様にもお世話になっているの。あなたの言う通り、神のお導きだったのかもしれない」

 そこまで信仰心があるわけではない。祖国にいたときから、神にたいして腹を立てたり恨んだりしたことはすくなくない。

 しかし、わたしとケンがこの町にたどり着いてこうして生きながらえていること。そして、ルーカスはわずかな情報をもとにこの町にたどりついた。結果、わたしたちは出会えた。訂正。再会できた。これはもう神の導き以外のなにものでもない。

 都合よすぎるけれど、いまなら神様を信じることができる。

「ケンは、他の子どもたちよりはるかに賢くて腕っぷしも強い。彼は、剣の素質がある。それから、参謀としての素質もね」
「ええ。でも、それだけじゃない。やさしく気遣い抜群で機転がきく。それから、正義感が強くて前向きで人の痛みをよく知っていて、さらには……」

 ケンはいいところがありすぎる。だから、ひとつひとつ挙げるのが大変。

「ブハッ!」

 一生懸命ケンのいいところを挙げている途中で、ルーカスが盛大にふきだした。

「マコ、きみはほんとうに親バカだな」
「悪かったわね。ケンは、あんなに可愛いんですもの。親バカにならざるをえないわ」
「そうだな。きっとおれもそうなるんだろうな」
「なんですって? というか、ケンのことを褒めてどうするつもりなの?」
「きみとケンに会うまでは、もしも会ったらテムス国に逃げようと考えていた。じつは、今回のことがなくても、国王からきみを奪い去って逃げるつもりだった。まったく関係のないテムス国に、潜伏先や仲介人の確保をして準備万端にしているんだ」
「なんですって?」

 驚くのも飽きてきた。

「しかし、きみたちに、いや、ケンに会って気がかわった。このまま一生逃げ隠れし、つねに身の危険に怯えながら暮らすより、いっそ攻めた方がいいのではないか、と。まだ幼いが、ケンにはその資質がありそうだ。もちろん、資格もある。ケンは、あのろくでなしの王子たちよりずっとずっといい政治を行える。それこそ、国民のための政治をおこなうことができる。マコ、そんな顔をするなよ。わかっている。くだらない政争に巻き込まれたくない。ケンを巻き込みたくない。きみのその気持ちは理解している。おれだって、できればそんな煩わしいことはごめんだ。いっそ見て見ぬふりをし、いっさいかかわりたくない。しかし、この国のおおくの人たちのことを考えれば、自分たちだけ平穏に暮らし、しあわせになるなんてことできるわけはない。違うかい?」

 彼は、わたしの手を握ったまま熱心に語っている。

「もちろんケン本人に話しをし、本人がどうしたいのかによる。もっとも、それもまだ五歳では理解出来ないだろう。どうしたいかなどと迫る方がおかしいし、理不尽だ。ケンだけではない。マコ、きみの生活も一変してしまうことになる。もしも逃げずに戦うことを選択すれば、ジョーイとライラや司祭や町の人たちと別れなければならない。彼らに迷惑をかけることになるからだ」
「いいわ。わたしは、戦う。もちろん、ケンしだいだけど」
「な、なんだって?」

 わたしの即答に、つぎはルーカスが驚く番だった。

「母さん」

 そのとき、教会の大扉からケンが飛び出してこちらに駆けてきた。

 授業が終ったのだ。

 司祭様は、のんびり歩いてくる。

 ケンが駆けよってくるまでに、ルーカスはわたしの手から自分の手を離していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

婚約者を追いかけるのはやめました

カレイ
恋愛
 公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。  しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。  でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...