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1巻
1-2
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五歳になった。
俺がハイハイしたり、立ったり、しゃべったりするたびに両親が狂喜乱舞して、あまりの喜びっぷりにちょっと引いたりしつつも、平穏無事に過ごしている。
ちなみに俺が一歳のとき父が昇進したらしく、家を改築した。家はかなり広くなり、お手伝いさんを五人も雇うことになった。
うち四人が女性ではあったが、みんな四十歳以上だ。
母が若い女性を雇うのを許さなかった……ってのが主な理由なんだけどね。
あと、家族が増えた。三つ下の妹。
可愛い。めっちゃ可愛い。
名前はフィアス。フィアス・ファー・レイナルだ。
あの両親の子供だ、可愛くないわけがない。
フィアスは父似の赤髪に、少し気の強そうな目をしている。
ぷにぷにのほっぺに、ぷくぷくした手足、ふかふかのお腹。
幼児ってのはみんな可愛いんだろうけど、うちの妹が一番だと思う……兄馬鹿だって? そんな馬鹿な。
フィアスはもう二歳になるが、初めて俺の名前を呼んでくれた時は感動した。うん、両親の喜びっぷりがわかったよ。
今も、よちよち歩きで俺を追いかけては、笑みを浮かべている。
その笑顔が可愛すぎて、もう!
「フィアスはアランが大好きなのね」
母がそう言っていたけど、もしそうなら嬉しい。すごい嬉しい。超嬉しい!
こんな幸せなことがあるだろうか。
「いや! 俺が一番だよなー、フィアス」
父がフィアスを抱き上げてそんなことを言っているが、父よ、空気読め。五歳の息子に対抗するのはかっこ悪いぞ!
「むー、やっ!」
案の定、フィアスが父に、平手打ちならぬ平手押しをかまして嫌がっている。
体をよじって父の腕から脱出しようと必死だ。
いいぞフィアス、もっとやってやれ! でも落っこちたら危ないから、身をよじるのはやめるんだ!
「ほら、あなた、大人げないですよ、なに子供相手にむきになってるんですか」
母が見かねて父からフィアスを取り上げた。フィアスは途端に機嫌が良くなる。たぶん、抱き方とか肌ざわりとか匂いとか色々あるんだろうけど、どう見ても母が一番好かれていると思いました。
最近の俺はというと、宮廷法術師の母に法術と勉強を教わりながら、たまに、近衛騎士団副団長の父から剣の手ほどきを受けている。
日課である素振り千本と法術の勉強は、一日たりとも怠っていない。
そうそう、俺の容姿だが、これについては心の底からあの神様に感謝してしまった。
黒曜石のような輝きの黒髪は母ゆずり。少し癖っ毛だが、これは父似だと思う。
自分で言うのもなんだけど、顔の全パーツが完璧なバランスで配置されていて、これを美少年と言わずして何というのか? という勢いだ。
黒い瞳には、金色の筋が何本か、瞳の中心から放射状に走っている。初めて鏡で見た時は「病気か!?」と慌てたものだが、これについては母から、霊力が高い印だと教えられた。
その日、部屋で本を読んでいると、父から声がかかった。
「アラン、剣を持って中庭に来い」
「うん、わかった」
俺は読んでいた本を閉じ、練習用の剣を持って父と家の中庭に向かう。
ちなみに読んでいたのは絵本だ。話し言葉は一応わかるんだけど、読み書きがまだできないのでしょうがない。早く大人向けの本を読めるように、がんばらなくては。
「アラン、百本の素振りは毎日ちゃんとやってるか?」
「うん」
そう、実は父から言われていたのは「百本」だったんだけど、自主的に「千本」に増やしていたのだ。
そのおかげか、父に教えてもらった型はもう全部身についている。
神様にもらった能力では自分のことは強化できないみたいだし、だからって家族に守られてばかりってのも、男として情けないからね。
中庭に着くと、父は俺に向き直ってからかうように言った。
「んじゃ、かかってきな」
◆ヤン視点◆
「え?」
アランは驚いて声をあげた。
無理もない、俺が模擬戦の相手をしてやるのは初めてのことだからな。
日課の素振りは欠かさずやっているようだが……。
あんなつまらない練習を、よくもまあ続けられるもんだ。
俺がこいつくらいの頃は遊んでばっかりだった気がする。今となってはほとんど覚えちゃいないが。
……さてさて、俺の自慢の息子は、どれだけ成長してんだ?
まだ戸惑っているアランに、もう一度声をかける。
「どうした? 遠慮はいらんから、さっさとかかってこい」
「あ、うん、ちょっと待って」
「あん?」
アランはそう言ってから、おもむろに、足首を回したり膝を曲げたり、手首をぷらぷらさせ始めた。
なんだありゃ? なんかの儀式か?
待てと言われたから待っているが、何をしてるのかさっぱりわからなかった。
「……アラン、お前それ何やってんだ?」
「準備体操だよ」
聞いてもやっぱりよくわからん。
準備ってことは、体を温めてるってことか?
しばらくして、ジュンビタイソウとかいう妙な儀式が終わったらしく、アランは剣を握る。
そして、力を込めて言った。
「行きます!」
「おう」
少しためらいながらも、アランは力を溜めてぐっと踏み込み、上段から俺の肩めがけて切りつけてきた。
所詮子供の、しかも習いたての剣……なんて思っていたのだが、これがなかなか。
力こそないが、その剣速には驚かされた。そこらの兵士なんかよりよっぽど速い。練習の成果か?
俺は感心しつつ、上から、右から、左から振られてくる剣を、弾く。
幾度となく弾かれながら、それでもアランは攻撃をやめなかった。
上が駄目なら、横から。
横が駄目なら、下から。
下でも駄目なら、斜めから。
アランは工夫していた。
俺が教えてやった型に、独自の発想を加えて。
二十回ほど剣撃を弾かれたところで、アランはいったん俺から離れて、呼吸を整える。
目を閉じて深呼吸しているアランに、俺は期待した。
次は何を見せてくれやがるんだ、と。
アランは息を深く吸い込み、ゆっくり目を開ける。
俺は驚いた。
真剣な眼差しをまっすぐ俺に向けて、未熟ながらも、殺気を飛ばしてきやがったからだ。
……いい目だ。
思わず見とれてしまいそうになった、その時だった。
「――ふっ!」
アランの足が地を蹴り、今までよりさらに速く、俺の顔面めがけて鋭い突きを放ってきた。
おいおい、これ当たったら、いくら練習用の剣でも普通に死ねるぞ?
俺は咄嗟にそれをかわし、逆にアランの喉もとに剣を突きつける。
しまった、つい、本気を出しちまった……。
アランは「参りました」と降参するが、まだこんなちっこいのに、とんでもねえな。
マリアから、初歩のものとはいえ治癒術と結界術を習得したと聞いて、うちの息子はどんだけ天才なんだと有頂天になったもんだが、まさか剣でもこれほどとはな。
もちろん未熟な部分も多いが、この歳でこれだけできれば上出来すぎるだろ。
最後の突きなんかは、正直ヒヤッとさせられたしな。
手合わせを終え、負けたアランが落ち込んでいないかちょっと気になったが、どうやら杞憂だったらしい。
落ち込むどころか、アランは自分の攻撃のどこに問題があったか、次はどこを鍛えればいいか、積極的に聞いてきた。
天才のうえに、慢心がない。
マリアが言ってたが、アランは学問に関しても習ったことをそのままにせずきちんと復習して、知識を自分のものにしていってるそうだ。
そりゃ、モテるわな。
アランと町を歩けば、いつだって若い女の子達が寄ってくる。アランはいつも恥ずかしそうにしてるけどな。
この前なんか、近衛騎士団長のジョルジェットの娘と初顔合わせをしたんだが、あのお転婆のフランチェスカが、顔を真っ赤にしてモジモジしちまってたぞ。
……悔しくなんかないぞ? 俺にはマリアがいるんだからな。悔しいわけがない。ほんとだぞ?
俺だって、勤め先の城では、メイド達からアプローチされたりしてるんだ。
俺はマリアを愛しているから、絶対に手を出したりしないけどな。
元は平民の俺が、手柄を立てて今じゃ近衛騎士団の副団長、そのうえ子爵だ。
それもこれも、四年前に終結した戦争で、敵に囲まれた王や大公の命を救ったってのがでかい。あの時はこちらは俺一人だったから、正直死ぬ覚悟だったが、気づいてみれば千人近い敵兵すべてを倒していた。王もびっくりしていたが、俺自身、信じられなかった。
ちょうどその少し前、アランが生まれた頃からやけに体が軽くなって、技の切れが驚くほど良くなったのを覚えている。
マリアもその頃から法術に磨きがかかり、今では城の結界のほとんどを担当するまでになっているが、二人で「親として守るものができたせいだ」なんてよく笑ってる。
それにしても、アランのあの瞳の金色の筋……まさか言い伝えにある……王人?
……って、そんなこと、あるわけねえか。
第二章
父が近衛騎士、母が宮廷法術師ということもあり、俺の家はこの国の首都「ダオスタ」の中でも国王の城に近い中心地区にある。
中心地区は比較的身分の高い人間の住む地域で、住民は貴族や神官など、裕福な者が多い。
ダオスタの都市は、まるで玉葱の皮のように、城壁が四層になっているのが特徴だ。
一番内側の城壁は国王の城を囲んでいて、その外側には貴族の居住区があり、中央から数えて二層目の城壁がそれを囲んでいる。
二層目と三層目の間には平民が暮らしているが、この区域の住民はわりあい裕福だ。
四層目の内側も同じく平民地区だが、ここには獣人や亜人などが住み、特に西側はもっとも貧しい人々の住居が並んでいる。当然だが治安は悪く、盗みや殺しが日常茶飯事らしい。
この国では人間が権力の頂点に君臨していて、人間以外――つまり獣人や亜人は、貴族になることはもちろん、使用人などの職につくこともできない。そのため、傭兵などの危険な仕事をしたり、やむなく犯罪に走ったりする者が多いという。
これは、人間が神に一番近い存在だと説いている「神光教会」の思想に基づくものだ。神光教会にはいくつもの分派が存在するが、この国でもっとも支持されているのは人間至上主義を掲げる過激派だった。
教会の定める「人間」は、赤人、青人、黄人、白人、黒人の五つのみ。それ以外は人間ではない。
この世界にはエルフやドワーフもいて、彼らは人間に近い姿をしているにもかかわらず、「亜人」として括られている。人間と亜人の混血の場合には、特徴の強いほうの人種と見なされる。
ちなみに人間の五種は、肌や髪の色などをめやすに見分けられている。
我が家では、黄色がかった肌の俺と母が黄人。赤毛の父と妹は、赤人だ。
余談だが、人間は種別ごとに大体の性格が決まっているとかで、黒人はおっとり、赤人は情熱的、青人は無口などと言われているようだ。だけどこれは血液型占いなんかと同じで、けっこう適当っぽい。
さて、俺は今、とある湖のほとりを両親と散策している。お付きの使用人も一緒だ。
ダオスタへ続く街道沿いの有名な景勝地であるこの湖は、旅人のちょうどいい休憩ポイントの為か、いつでも多くの人で賑わっていた。今日もすごい人出だ。
街道には露店が並び、食べ物や、雑貨が売られている。
雑貨屋には、麦わらの帽子や鞄、木や石でできた装飾品、木彫りの置物などが並んでいる。食べ物の店からは、何を焼いているのか、香ばしい匂いが漂ってきていた。
それにしても、どの雑貨屋にもやたらとドラゴンの彫刻が置いてある。
この世界に存在する生物の中で最強を誇るドラゴン。そのドラゴンを、置物として飾りたいという人がかなりの数いるのだろう。
木、石、金属、水晶……さらには、目に水の精霊石が使われているドラゴンまであった。
その精霊石がひときわ目を引くので母に聞いてみると、笑いながら「偽物よ」と教えてくれる。
本物の精霊石はもっと透きとおっていて、値段もこれの十倍はするらしい。
とはいえ、羽を広げたそのドラゴンの置物は、他のどれよりかっこよく見えた。でもこれだってけっこう高いし、気軽に「買って」なんて言えない。サイズも俺の背丈くらいあるから、買ってもらっても正直置き場に困るかもしれない。だから、かわりに買ってもらったこの手乗りサイズのドラゴンで満足です。いやほんとに。
「でもこのでっかいドラゴン、なかなかいいぞ?」
だからほら、なんで買おうとしてるのさ、父?
「無駄づかいは許しませんよ、あなた」
ほら、母様も言ってるじゃん。
「いや、でもよ……安くしてくれるみたいだし」
「いりません。ほら、行きますよ」
父は名残惜しそうに、何度もドラゴンを振り返る。
母に腕をとられて引きずられている父を、一体誰が、近衛騎士団の副団長様だと思うだろうか。
駄々をこねて母にむりやり連れていかれるというその立ち位置は、本来、子供である俺のものだと思うんだ……。
湖のほとりには、水の精霊が彫られた石碑が立っている。作られてから六百年が経った今でも、石碑は美しさを保っていた。
俺はそのそばから、湖を見渡した。
青い空に白い雲。湖の遥か向こうには、緑の森と、なだらかな曲線を描く山々。
湖には小船が何艘か浮いていて、あの上で人々は釣りをしたり、愛を語り合ったりしているのだろう。
陸のほうでも、うちの両親が……。
「マリア、覚えているか? あの夜の誓いを……」
「ええ、もちろんよ……ヤン」
石碑のそばで人目も憚らずいちゃいちゃしていたので、俺はその場に置いて、お付きの人を連れて歩き出した。
何でもこの湖のほとりで二人は婚約したそうなのだが、果てしなくどうでもいい。
ただ、身内のひいき目を抜きにしてもこの美男美女はそれはそれは絵になり、その美しさ故に彼らの世界を邪魔しようとする者もいなかった。
ある者は呆けたように見惚れ、ある者は頬を染め、またある者は手にした絵筆を必死に動かしている……あれ、あの絵描き、観光客相手に肖像画を描いてる人じゃないのか? 仕事そっちのけだ。
ふいに、湖面を大きな鳥の影が横ぎった。
俺は足を止め、空を見上げる。
「ミランダ、あれはなんていう鳥?」
俺は振り返って質問した。
「え? え~とですね……ねえ、アンタ知ってる?」
俺の後ろには、我が家で働いている、ミランダとその夫ジュリオが立っている。
夫婦そろってレイナル家で働くこの二人は、俺にまるで自分の子供のように接してくれる。
ジュリオは元商人ということもあり、家の経理関係を全面的に任されていた。
俺の両親はそういうの無理そうだし、ジュリオがいなかったら、うちの家計管理はやばいんじゃないだろうか?
もともと細い目をさらに細めて、ジュリオが口を開く。
「ああ、あれは木目鳥ですね。羽の裏が木目のような模様なのが特徴です。この辺ではあまり見ない鳥ですね」
「へ~」
ジュリオは五歳の俺にも、丁寧な口調で答えてくれた。
俺は二人を連れて湖岸を離れ、近くの森を散策することにした。
木漏れ日を浴び、風に揺れる木々の葉音を楽しむ。
時折聞こえる鳥の鳴き声に耳を澄まし、足元に咲く花を見つけては立ち止まる。
前世ではあんまり森とか行かなかったけど、こういうのもいいなぁ。
森林浴に行ったりする人の気持ちが、ちょっとわかった気がする。
少し進むと小川があり、そこに架けられた小さな橋を渡ると、ひらけた場所に出た。
伐採されたらしい、大木の切り株が目にとまる。
「ちょっと、休んでもいい?」
「もちろんです」
切り株に腰を下ろし、目を閉じた。
頬を撫でる風が気持ちいい。
しばらくそうしていると、ふと気になる気配を感じた。
……とても強く、でも、今にも消えてしまいそうな気配。
俺は無意識に立ち上がり、その方向へ走り出していた。
◆ジュリオ視点◆
私がレイナル家の使用人になったきっかけは、当主ヤン・ファー・レイナル様に命を救われたことである。
先の戦争が始まった時、私はある町に行商に行っていたのだが、何の因果か、その町が戦火に巻き込まれてしまった。
そういった情報には常に気を配っていたつもりだったから、運が悪かったとしか言いようがない。
……いや、実は戦争になりそうだとの情報を、私はおぼろげながらも掴んでいた。
ただ、さすがに今すぐは始まらないだろうと、高をくくっていたのだ。
気がつけば私は、わけもわからないまま剣を持たされ、襲いかかる敵と必死に戦っていた。
町の門が敵に閉鎖されて逃げ場もない中、肩を並べて戦っていた者が一人また一人と倒れていく。だが私はそれにかまわず、必死に剣を振るった。
このとき私を支配していたのは、死にたくないという思いだけ。
しかしこちらの軍勢は所詮、素人の寄せ集め。全滅は時間の問題だった。
幾人かの敵に傷を負わせはしたものの、後退し続け、とうとう追いつめられた。
背後には壁、敵に突きつけられる剣の切っ先は、まっすぐ私に向いている。
――ああ、ここで死ぬのだ。
そう覚悟したとき、その男は現れた。
「あきらめるな! もうすぐ援軍が来る!」
どこから現れたのか、男は一瞬で三人の敵を切り伏せる。
敵は反応すらできていないようだった。
鬼神のごとき強さとは、まさにああいうものを言うのだろう。
私が瞬きをするたびに、敵が倒されていく。
私は思った。奇跡が起こったのだと。
彼の言葉どおり、援軍はすぐにやってきた。
敵はもともと奇襲で町を乗っ取ろうとした部隊だ。人数は多くなかった。
援軍が到着するや、敵はあっという間に逃げていった。
だがあのとき彼が現れなかったら、私は確実に命を落としていただろう。
彼が援軍の一員であったことはすぐわかった。だがなぜ一人で切り込んできたのか。不思議に思った私は、そばにいた兵士に聞いてみた。
「本当は全員で突撃するつもりだったんだが、武器の用意に時間がかかってな……あいつは『こんなことをやってるうちにあの町の奴らは死んじまう。悪いが先に行く!』とか言って、一人で行っちまったのさ」
それを聞いて私は絶句した。
そんな無謀な特攻が許されるのだろうか。
しかしその兵士から彼の名を聞いて、私は納得するより他なかった。
「ほんと無茶苦茶だよな。だが、さすがは赤火のヤンだよ。あんたも聞いたことくらいあるだろう?」
赤火のヤン。
彼に関する逸話は、私もたびたび耳にしていた。
曰く、百人の敵に囲まれながら、そのすべてを返り討ちにした。
曰く、五百人の兵隊に追われながら、殿を務めあげた。
曰く、矢の雨の中を駆け抜け、大将首を討ち取った。
私はこうした話を聞くたび、どれほど武骨な大男なのだろうと想像したものだった。だが戦友と朗らかに笑い合っているその姿は、ごく普通の青年にしか見えなかった。
その後、戦争が一旦の終結を迎え、彼が国王から爵位を賜ったと聞いた。そして使用人を募集しているとも。
私はすぐに妻と二人、レイナル家に赴いて門を叩いた。
……あの時拾った命を、今度は彼のために使おうと。
俺がハイハイしたり、立ったり、しゃべったりするたびに両親が狂喜乱舞して、あまりの喜びっぷりにちょっと引いたりしつつも、平穏無事に過ごしている。
ちなみに俺が一歳のとき父が昇進したらしく、家を改築した。家はかなり広くなり、お手伝いさんを五人も雇うことになった。
うち四人が女性ではあったが、みんな四十歳以上だ。
母が若い女性を雇うのを許さなかった……ってのが主な理由なんだけどね。
あと、家族が増えた。三つ下の妹。
可愛い。めっちゃ可愛い。
名前はフィアス。フィアス・ファー・レイナルだ。
あの両親の子供だ、可愛くないわけがない。
フィアスは父似の赤髪に、少し気の強そうな目をしている。
ぷにぷにのほっぺに、ぷくぷくした手足、ふかふかのお腹。
幼児ってのはみんな可愛いんだろうけど、うちの妹が一番だと思う……兄馬鹿だって? そんな馬鹿な。
フィアスはもう二歳になるが、初めて俺の名前を呼んでくれた時は感動した。うん、両親の喜びっぷりがわかったよ。
今も、よちよち歩きで俺を追いかけては、笑みを浮かべている。
その笑顔が可愛すぎて、もう!
「フィアスはアランが大好きなのね」
母がそう言っていたけど、もしそうなら嬉しい。すごい嬉しい。超嬉しい!
こんな幸せなことがあるだろうか。
「いや! 俺が一番だよなー、フィアス」
父がフィアスを抱き上げてそんなことを言っているが、父よ、空気読め。五歳の息子に対抗するのはかっこ悪いぞ!
「むー、やっ!」
案の定、フィアスが父に、平手打ちならぬ平手押しをかまして嫌がっている。
体をよじって父の腕から脱出しようと必死だ。
いいぞフィアス、もっとやってやれ! でも落っこちたら危ないから、身をよじるのはやめるんだ!
「ほら、あなた、大人げないですよ、なに子供相手にむきになってるんですか」
母が見かねて父からフィアスを取り上げた。フィアスは途端に機嫌が良くなる。たぶん、抱き方とか肌ざわりとか匂いとか色々あるんだろうけど、どう見ても母が一番好かれていると思いました。
最近の俺はというと、宮廷法術師の母に法術と勉強を教わりながら、たまに、近衛騎士団副団長の父から剣の手ほどきを受けている。
日課である素振り千本と法術の勉強は、一日たりとも怠っていない。
そうそう、俺の容姿だが、これについては心の底からあの神様に感謝してしまった。
黒曜石のような輝きの黒髪は母ゆずり。少し癖っ毛だが、これは父似だと思う。
自分で言うのもなんだけど、顔の全パーツが完璧なバランスで配置されていて、これを美少年と言わずして何というのか? という勢いだ。
黒い瞳には、金色の筋が何本か、瞳の中心から放射状に走っている。初めて鏡で見た時は「病気か!?」と慌てたものだが、これについては母から、霊力が高い印だと教えられた。
その日、部屋で本を読んでいると、父から声がかかった。
「アラン、剣を持って中庭に来い」
「うん、わかった」
俺は読んでいた本を閉じ、練習用の剣を持って父と家の中庭に向かう。
ちなみに読んでいたのは絵本だ。話し言葉は一応わかるんだけど、読み書きがまだできないのでしょうがない。早く大人向けの本を読めるように、がんばらなくては。
「アラン、百本の素振りは毎日ちゃんとやってるか?」
「うん」
そう、実は父から言われていたのは「百本」だったんだけど、自主的に「千本」に増やしていたのだ。
そのおかげか、父に教えてもらった型はもう全部身についている。
神様にもらった能力では自分のことは強化できないみたいだし、だからって家族に守られてばかりってのも、男として情けないからね。
中庭に着くと、父は俺に向き直ってからかうように言った。
「んじゃ、かかってきな」
◆ヤン視点◆
「え?」
アランは驚いて声をあげた。
無理もない、俺が模擬戦の相手をしてやるのは初めてのことだからな。
日課の素振りは欠かさずやっているようだが……。
あんなつまらない練習を、よくもまあ続けられるもんだ。
俺がこいつくらいの頃は遊んでばっかりだった気がする。今となってはほとんど覚えちゃいないが。
……さてさて、俺の自慢の息子は、どれだけ成長してんだ?
まだ戸惑っているアランに、もう一度声をかける。
「どうした? 遠慮はいらんから、さっさとかかってこい」
「あ、うん、ちょっと待って」
「あん?」
アランはそう言ってから、おもむろに、足首を回したり膝を曲げたり、手首をぷらぷらさせ始めた。
なんだありゃ? なんかの儀式か?
待てと言われたから待っているが、何をしてるのかさっぱりわからなかった。
「……アラン、お前それ何やってんだ?」
「準備体操だよ」
聞いてもやっぱりよくわからん。
準備ってことは、体を温めてるってことか?
しばらくして、ジュンビタイソウとかいう妙な儀式が終わったらしく、アランは剣を握る。
そして、力を込めて言った。
「行きます!」
「おう」
少しためらいながらも、アランは力を溜めてぐっと踏み込み、上段から俺の肩めがけて切りつけてきた。
所詮子供の、しかも習いたての剣……なんて思っていたのだが、これがなかなか。
力こそないが、その剣速には驚かされた。そこらの兵士なんかよりよっぽど速い。練習の成果か?
俺は感心しつつ、上から、右から、左から振られてくる剣を、弾く。
幾度となく弾かれながら、それでもアランは攻撃をやめなかった。
上が駄目なら、横から。
横が駄目なら、下から。
下でも駄目なら、斜めから。
アランは工夫していた。
俺が教えてやった型に、独自の発想を加えて。
二十回ほど剣撃を弾かれたところで、アランはいったん俺から離れて、呼吸を整える。
目を閉じて深呼吸しているアランに、俺は期待した。
次は何を見せてくれやがるんだ、と。
アランは息を深く吸い込み、ゆっくり目を開ける。
俺は驚いた。
真剣な眼差しをまっすぐ俺に向けて、未熟ながらも、殺気を飛ばしてきやがったからだ。
……いい目だ。
思わず見とれてしまいそうになった、その時だった。
「――ふっ!」
アランの足が地を蹴り、今までよりさらに速く、俺の顔面めがけて鋭い突きを放ってきた。
おいおい、これ当たったら、いくら練習用の剣でも普通に死ねるぞ?
俺は咄嗟にそれをかわし、逆にアランの喉もとに剣を突きつける。
しまった、つい、本気を出しちまった……。
アランは「参りました」と降参するが、まだこんなちっこいのに、とんでもねえな。
マリアから、初歩のものとはいえ治癒術と結界術を習得したと聞いて、うちの息子はどんだけ天才なんだと有頂天になったもんだが、まさか剣でもこれほどとはな。
もちろん未熟な部分も多いが、この歳でこれだけできれば上出来すぎるだろ。
最後の突きなんかは、正直ヒヤッとさせられたしな。
手合わせを終え、負けたアランが落ち込んでいないかちょっと気になったが、どうやら杞憂だったらしい。
落ち込むどころか、アランは自分の攻撃のどこに問題があったか、次はどこを鍛えればいいか、積極的に聞いてきた。
天才のうえに、慢心がない。
マリアが言ってたが、アランは学問に関しても習ったことをそのままにせずきちんと復習して、知識を自分のものにしていってるそうだ。
そりゃ、モテるわな。
アランと町を歩けば、いつだって若い女の子達が寄ってくる。アランはいつも恥ずかしそうにしてるけどな。
この前なんか、近衛騎士団長のジョルジェットの娘と初顔合わせをしたんだが、あのお転婆のフランチェスカが、顔を真っ赤にしてモジモジしちまってたぞ。
……悔しくなんかないぞ? 俺にはマリアがいるんだからな。悔しいわけがない。ほんとだぞ?
俺だって、勤め先の城では、メイド達からアプローチされたりしてるんだ。
俺はマリアを愛しているから、絶対に手を出したりしないけどな。
元は平民の俺が、手柄を立てて今じゃ近衛騎士団の副団長、そのうえ子爵だ。
それもこれも、四年前に終結した戦争で、敵に囲まれた王や大公の命を救ったってのがでかい。あの時はこちらは俺一人だったから、正直死ぬ覚悟だったが、気づいてみれば千人近い敵兵すべてを倒していた。王もびっくりしていたが、俺自身、信じられなかった。
ちょうどその少し前、アランが生まれた頃からやけに体が軽くなって、技の切れが驚くほど良くなったのを覚えている。
マリアもその頃から法術に磨きがかかり、今では城の結界のほとんどを担当するまでになっているが、二人で「親として守るものができたせいだ」なんてよく笑ってる。
それにしても、アランのあの瞳の金色の筋……まさか言い伝えにある……王人?
……って、そんなこと、あるわけねえか。
第二章
父が近衛騎士、母が宮廷法術師ということもあり、俺の家はこの国の首都「ダオスタ」の中でも国王の城に近い中心地区にある。
中心地区は比較的身分の高い人間の住む地域で、住民は貴族や神官など、裕福な者が多い。
ダオスタの都市は、まるで玉葱の皮のように、城壁が四層になっているのが特徴だ。
一番内側の城壁は国王の城を囲んでいて、その外側には貴族の居住区があり、中央から数えて二層目の城壁がそれを囲んでいる。
二層目と三層目の間には平民が暮らしているが、この区域の住民はわりあい裕福だ。
四層目の内側も同じく平民地区だが、ここには獣人や亜人などが住み、特に西側はもっとも貧しい人々の住居が並んでいる。当然だが治安は悪く、盗みや殺しが日常茶飯事らしい。
この国では人間が権力の頂点に君臨していて、人間以外――つまり獣人や亜人は、貴族になることはもちろん、使用人などの職につくこともできない。そのため、傭兵などの危険な仕事をしたり、やむなく犯罪に走ったりする者が多いという。
これは、人間が神に一番近い存在だと説いている「神光教会」の思想に基づくものだ。神光教会にはいくつもの分派が存在するが、この国でもっとも支持されているのは人間至上主義を掲げる過激派だった。
教会の定める「人間」は、赤人、青人、黄人、白人、黒人の五つのみ。それ以外は人間ではない。
この世界にはエルフやドワーフもいて、彼らは人間に近い姿をしているにもかかわらず、「亜人」として括られている。人間と亜人の混血の場合には、特徴の強いほうの人種と見なされる。
ちなみに人間の五種は、肌や髪の色などをめやすに見分けられている。
我が家では、黄色がかった肌の俺と母が黄人。赤毛の父と妹は、赤人だ。
余談だが、人間は種別ごとに大体の性格が決まっているとかで、黒人はおっとり、赤人は情熱的、青人は無口などと言われているようだ。だけどこれは血液型占いなんかと同じで、けっこう適当っぽい。
さて、俺は今、とある湖のほとりを両親と散策している。お付きの使用人も一緒だ。
ダオスタへ続く街道沿いの有名な景勝地であるこの湖は、旅人のちょうどいい休憩ポイントの為か、いつでも多くの人で賑わっていた。今日もすごい人出だ。
街道には露店が並び、食べ物や、雑貨が売られている。
雑貨屋には、麦わらの帽子や鞄、木や石でできた装飾品、木彫りの置物などが並んでいる。食べ物の店からは、何を焼いているのか、香ばしい匂いが漂ってきていた。
それにしても、どの雑貨屋にもやたらとドラゴンの彫刻が置いてある。
この世界に存在する生物の中で最強を誇るドラゴン。そのドラゴンを、置物として飾りたいという人がかなりの数いるのだろう。
木、石、金属、水晶……さらには、目に水の精霊石が使われているドラゴンまであった。
その精霊石がひときわ目を引くので母に聞いてみると、笑いながら「偽物よ」と教えてくれる。
本物の精霊石はもっと透きとおっていて、値段もこれの十倍はするらしい。
とはいえ、羽を広げたそのドラゴンの置物は、他のどれよりかっこよく見えた。でもこれだってけっこう高いし、気軽に「買って」なんて言えない。サイズも俺の背丈くらいあるから、買ってもらっても正直置き場に困るかもしれない。だから、かわりに買ってもらったこの手乗りサイズのドラゴンで満足です。いやほんとに。
「でもこのでっかいドラゴン、なかなかいいぞ?」
だからほら、なんで買おうとしてるのさ、父?
「無駄づかいは許しませんよ、あなた」
ほら、母様も言ってるじゃん。
「いや、でもよ……安くしてくれるみたいだし」
「いりません。ほら、行きますよ」
父は名残惜しそうに、何度もドラゴンを振り返る。
母に腕をとられて引きずられている父を、一体誰が、近衛騎士団の副団長様だと思うだろうか。
駄々をこねて母にむりやり連れていかれるというその立ち位置は、本来、子供である俺のものだと思うんだ……。
湖のほとりには、水の精霊が彫られた石碑が立っている。作られてから六百年が経った今でも、石碑は美しさを保っていた。
俺はそのそばから、湖を見渡した。
青い空に白い雲。湖の遥か向こうには、緑の森と、なだらかな曲線を描く山々。
湖には小船が何艘か浮いていて、あの上で人々は釣りをしたり、愛を語り合ったりしているのだろう。
陸のほうでも、うちの両親が……。
「マリア、覚えているか? あの夜の誓いを……」
「ええ、もちろんよ……ヤン」
石碑のそばで人目も憚らずいちゃいちゃしていたので、俺はその場に置いて、お付きの人を連れて歩き出した。
何でもこの湖のほとりで二人は婚約したそうなのだが、果てしなくどうでもいい。
ただ、身内のひいき目を抜きにしてもこの美男美女はそれはそれは絵になり、その美しさ故に彼らの世界を邪魔しようとする者もいなかった。
ある者は呆けたように見惚れ、ある者は頬を染め、またある者は手にした絵筆を必死に動かしている……あれ、あの絵描き、観光客相手に肖像画を描いてる人じゃないのか? 仕事そっちのけだ。
ふいに、湖面を大きな鳥の影が横ぎった。
俺は足を止め、空を見上げる。
「ミランダ、あれはなんていう鳥?」
俺は振り返って質問した。
「え? え~とですね……ねえ、アンタ知ってる?」
俺の後ろには、我が家で働いている、ミランダとその夫ジュリオが立っている。
夫婦そろってレイナル家で働くこの二人は、俺にまるで自分の子供のように接してくれる。
ジュリオは元商人ということもあり、家の経理関係を全面的に任されていた。
俺の両親はそういうの無理そうだし、ジュリオがいなかったら、うちの家計管理はやばいんじゃないだろうか?
もともと細い目をさらに細めて、ジュリオが口を開く。
「ああ、あれは木目鳥ですね。羽の裏が木目のような模様なのが特徴です。この辺ではあまり見ない鳥ですね」
「へ~」
ジュリオは五歳の俺にも、丁寧な口調で答えてくれた。
俺は二人を連れて湖岸を離れ、近くの森を散策することにした。
木漏れ日を浴び、風に揺れる木々の葉音を楽しむ。
時折聞こえる鳥の鳴き声に耳を澄まし、足元に咲く花を見つけては立ち止まる。
前世ではあんまり森とか行かなかったけど、こういうのもいいなぁ。
森林浴に行ったりする人の気持ちが、ちょっとわかった気がする。
少し進むと小川があり、そこに架けられた小さな橋を渡ると、ひらけた場所に出た。
伐採されたらしい、大木の切り株が目にとまる。
「ちょっと、休んでもいい?」
「もちろんです」
切り株に腰を下ろし、目を閉じた。
頬を撫でる風が気持ちいい。
しばらくそうしていると、ふと気になる気配を感じた。
……とても強く、でも、今にも消えてしまいそうな気配。
俺は無意識に立ち上がり、その方向へ走り出していた。
◆ジュリオ視点◆
私がレイナル家の使用人になったきっかけは、当主ヤン・ファー・レイナル様に命を救われたことである。
先の戦争が始まった時、私はある町に行商に行っていたのだが、何の因果か、その町が戦火に巻き込まれてしまった。
そういった情報には常に気を配っていたつもりだったから、運が悪かったとしか言いようがない。
……いや、実は戦争になりそうだとの情報を、私はおぼろげながらも掴んでいた。
ただ、さすがに今すぐは始まらないだろうと、高をくくっていたのだ。
気がつけば私は、わけもわからないまま剣を持たされ、襲いかかる敵と必死に戦っていた。
町の門が敵に閉鎖されて逃げ場もない中、肩を並べて戦っていた者が一人また一人と倒れていく。だが私はそれにかまわず、必死に剣を振るった。
このとき私を支配していたのは、死にたくないという思いだけ。
しかしこちらの軍勢は所詮、素人の寄せ集め。全滅は時間の問題だった。
幾人かの敵に傷を負わせはしたものの、後退し続け、とうとう追いつめられた。
背後には壁、敵に突きつけられる剣の切っ先は、まっすぐ私に向いている。
――ああ、ここで死ぬのだ。
そう覚悟したとき、その男は現れた。
「あきらめるな! もうすぐ援軍が来る!」
どこから現れたのか、男は一瞬で三人の敵を切り伏せる。
敵は反応すらできていないようだった。
鬼神のごとき強さとは、まさにああいうものを言うのだろう。
私が瞬きをするたびに、敵が倒されていく。
私は思った。奇跡が起こったのだと。
彼の言葉どおり、援軍はすぐにやってきた。
敵はもともと奇襲で町を乗っ取ろうとした部隊だ。人数は多くなかった。
援軍が到着するや、敵はあっという間に逃げていった。
だがあのとき彼が現れなかったら、私は確実に命を落としていただろう。
彼が援軍の一員であったことはすぐわかった。だがなぜ一人で切り込んできたのか。不思議に思った私は、そばにいた兵士に聞いてみた。
「本当は全員で突撃するつもりだったんだが、武器の用意に時間がかかってな……あいつは『こんなことをやってるうちにあの町の奴らは死んじまう。悪いが先に行く!』とか言って、一人で行っちまったのさ」
それを聞いて私は絶句した。
そんな無謀な特攻が許されるのだろうか。
しかしその兵士から彼の名を聞いて、私は納得するより他なかった。
「ほんと無茶苦茶だよな。だが、さすがは赤火のヤンだよ。あんたも聞いたことくらいあるだろう?」
赤火のヤン。
彼に関する逸話は、私もたびたび耳にしていた。
曰く、百人の敵に囲まれながら、そのすべてを返り討ちにした。
曰く、五百人の兵隊に追われながら、殿を務めあげた。
曰く、矢の雨の中を駆け抜け、大将首を討ち取った。
私はこうした話を聞くたび、どれほど武骨な大男なのだろうと想像したものだった。だが戦友と朗らかに笑い合っているその姿は、ごく普通の青年にしか見えなかった。
その後、戦争が一旦の終結を迎え、彼が国王から爵位を賜ったと聞いた。そして使用人を募集しているとも。
私はすぐに妻と二人、レイナル家に赴いて門を叩いた。
……あの時拾った命を、今度は彼のために使おうと。
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