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3巻
3-1
しおりを挟む第一章
精霊樹の森を襲った混乱から、一ヶ月近く経った。
あの日、突如現れた邪神の尖兵の大群は、人々を襲撃してゾンビに変えながら森を中心部へと進み、精霊樹にまで達した。森の民達と協力して人々を避難させた俺――アラン・ファー・レイナルは、女神ミミラトル様とエエカリアリス様とともに森に聖域を展開し、なんとかこの尖兵達の掃討に成功したんだが……。
骨の姿をした尖兵と違い、肉体のあるゾンビには、聖域の力が効かなかったのだ。だから、聖域展開後もレイナル領軍によってゾンビの討伐が続けられていた。
この一ヶ月の間に討伐されたゾンビは、百数十体。最後に発見されてから、すでに一週間が経っている。さすがにもうゾンビはいなくなったようだ。
季節も移り、汗ばむような陽気がここ何日か続いている。
そんなある日の朝、俺は自分が住むレイナル城の一室に、母マリアと女神エエカリアス様から呼び出されていた。
「慰霊祭?」
「ええ、森にゾンビはもういないでしょうから、亡くなった人達の供養のために、慰霊祭を執り行いたいのです」
そう言うのはエエカリアス様――俺はアリス様と呼んでいる――だ。
母も頷く。
現在、アリス様はレイナル城の数ある塔の中の一室に住んでいる。
そしてアリス様は最近、俺の母と仲が良い。
この前も、二人で楽しそうにケーキを作ったりしていた。
鉢に植えられた新生精霊樹の種は無事発芽し、アリス様が毎日見守っているらしい。
この新生精霊樹の成長はかなり速いようで、城の中庭に移される日もそう遠くなさそうである。
「先代精霊樹の見える場所に祭壇を造ろうと思いますの。森の南の枝があった辺りですわね。日取りは三週間後くらいがいいかしら。……それで、アランには、このことを皆に伝えて回ってほしいのですわ」
「俺に、ですか?」
「ええ、一応落ち着いてきたとはいえ……精霊樹の森の人達とレイナル領の人間との間にわだかまりがあるのは知ってますわね?」
「はい」
森が邪神に操られた骨の獣やゾンビに襲われたことで、森の住人達はレイナル領に避難してきた。
だが彼らと、レイナル領にもともと住む人々の関係はぎくしゃくしている。
特に樹西の村の人々――過去、人間の奴隷にされた獣人が多い――が、一方的に領民の人間を敵視している。俺については森で彼らの傷ついた同胞を救ったということもあって受け入れてくれたものの、やはり人間全体に対する不信感を簡単に拭うことはできないのだろう。
もちろんすべての樹西の民がそうなのではなく、彼らの中にもレイナル領に溶け込もうと努力している人だって少しはいる。だが樹西以外の村の民の中にも、人間を敵視している人はおり、森の住民全体として見れば、人間を忌避する人々のほうが圧倒的に多いのだ。
俺は時間が経てば彼らも変わっていくだろうと楽観視していたのだが、約一ヶ月が経った今でも彼らはレイナル領の人間に関わろうとしない。
「慰霊祭を通じて、このわだかまりを解消したいのよ。レイナル領の人々は、領主家である私達が呼びかければ基本的に皆さん参加してくれるでしょう。問題は精霊樹の森の、特に樹西の村の人達ね。『人間が来るなら参加しない』と言い出す人もいると思うの」
母がそう言った。
「そこで、アランの出番なのですわ」
アリス様が俺を見つめ、母が言葉を継ぐ。
「今回、森に起こった件で、あなたはミミラトル神様の代行者という役割を見事に果たしたわ。神の光で人々を救い、邪神の手の者達を退けた。精霊樹の森のすべての民が、そのことを知ってる。……それにアラン、あなた今、彼らから『光の御子』って呼ばれてるらしいわね?」
「うぇっ!?」
思わず変な声が出てしまう。
確かに最近、一部の人達からそんなふうに呼ばれているのは知っていた。
だけど、俺をそう呼ぶのは精霊樹の森から避難してきた人達だけのはず。
何で母が知って……ああ、母の隣でにんまりしている女神様が教えたに違いない。
俺はアリス様を軽く睨むが、彼女はどこ吹く風といった表情だ。
「そんなあなたが頼めば、きっと彼らも参加してくれるわ。アラン、お願いできるかしら?」
「お願いしますわ、アラン」
母とアリス様が、じっと俺を見つめてくる。
こりゃ、断れそうにないな。
「……わかりました」
二人が、嬉しそうに顔を見交わした。
俺は部屋をあとにした。
ここのところ気温が上がってきているとはいえ、朝はまだ涼しい。
城の廊下にはひんやりとした空気が漂っている。
「主、どこへ行く? 俺もついて行こう」
後ろから声をかけられた。
「おはようございます、ルプスさん」
俺を「主」と呼ぶ、狼人のルプスさんである。
灰色の髪の毛の間から覗く彼の目は鋭い。初めの頃は威圧されているように感じたものだ。
ルプスさんは長身で、俺より十センチ以上背が高い。
細身だが、鍛え上げられたその肉体は筋肉の密度が非常に高いようで、腕相撲では元近衛騎士団兵のセアドさんも勝てないらしい。
「えーと、ちょっと母達に頼まれて、城下にいる森の人達のところへ……って、ルプスさん、俺がここにいるって知ってて来たんですか?」
「ああ」
「どうやってわかったんです?」
「匂いだ」
「……さいですか」
……さすが狼人、抜群の嗅覚である。
ルプスさんは、精霊樹の森が邪神の尖兵に襲われた際、瀕死の重傷を負った樹西の民だ。当時、洞の中に運び込まれた彼は、俺の新たに覚醒した力――聖なる光の力によって一命を取りとめた。
そのためか俺に恩を感じているようで、レイナル領に避難してきてからは、いつも俺に付き従おうとしてくる。
んで、俺は毎回それを断ろうとするのだけど――。
「俺一人で大丈夫ですよ。ちょっと出かけてくるだけですから」
「しかし、外ではいつ、何が起こるかわからない。それに、この土地の権力者に付き人がつかぬのはおかしい」
「いや、でも……」
「……俺は不要か? 主」
じっと見つめてくるルプスさん。
俺はこの目に弱い。
一見、相手を睨んでいるような目つきなのだが、実際は違う。これは悲しんでいる目なのだ。俺に怒られた時のラス――俺の相棒の白狼で、今は森の番人のような存在として日々森を巡回している――みたいな表情である。
「そ、そんなことはないです」
「では、俺も行こう。主は命に替えても守る」
「ですから、このレイナル領でそんな物騒なことは起こらないですってば」
「いや、ここには人間がいる……行くぞ、主」
こうして、俺はいつもルプスさんに押し切られてしまうのだ。
ちなみに一瞬だが彼の尻尾が激しく揺れるのを、俺は見逃さなかった。
めっちゃ喜んでくれているな。
立ち止まっている俺に、ルプスさんが振り返って言う。
「何をしている? 行くぞ、主」
「了解です」
まるで散歩をせがむ犬だ……などと、ちょっと失礼なことを考えてしまう。
俺は苦笑しながら、ルプスさんのあとに続いた。
†
俺達はまず城のそばにある避難民用の仮設住宅地に向かい、サルベさんを訪ねた。
樹東の村の村長だったコボルト族のサルベさんは、城下に住む森の民達のリーダーを務めてくれている。
サルベさんは自身の住居の前で仲間達と立ち話をしていた。
俺達に気づいたサルベさんは、勘よく察してくれたのか仲間達を帰らせ、家に上げてくれた。
出されたお茶を飲んで少し世間話をしてから、俺は用件を切り出す。
「慰霊祭? 精霊樹の森で?」
「はい。ぜひ、森の民の皆さんにも参加してもらいたくて」
「そっか。じゃあ、ゾンビってやつらは森から完全にいなくなったんだな?」
「おそらく。ゾンビは一週間前に一体見つかって以来、目撃されていませんので」
「わかった。ちなみに慰霊祭のあとは、俺達、森に帰れるのかな?」
「ええ、問題ないと思います」
「そうか……きっと皆喜ぶよ。レイナル領には色々と世話になってるけど、やっぱりいつかは故郷に戻りたいって思ってるはずだからな」
これまで、森のどこにゾンビが潜んでいるかわからない状態だったため、森への立ち入りはレイナル領軍を除いて控えてもらっていた。
慰霊祭は森の安全宣言でもある。慰霊祭を終えたあとは、森への立ち入りが自由になる予定だ。
「なあなあ! そのなんとか祭、飯もいっぱい出るのか!?」
「ちょっと、コー! 出ないに決まってるでしょ!」
戸口から、いきなり騒がしい声が聞こえた。
コボルト男子のコッカスと、小人族の女の子トリスだ。たまたま前を通りかかって話を聞いたらしい。
「えー、そうなのか……」
「そうよ」
「でも、捧げものの団子くらいは出るんじゃないのか?」
「もう! 捧げものなんか食べちゃダメに決まってるじゃない! それに、慰霊祭っていうんだから、亡くなった人の霊魂を慰めるためにやるわけでしょ。厳粛な雰囲気のお祭りのはずだわ」
「うぇー……。俺、そんなの出たくないなあ」
息ぴったりの掛け合いに、入り込む隙がない。
それにしても……話が変な方向に向かっている気がする。
「えーとね、ご飯は、出るよ」
俺は一瞬の隙を突いて口を挟んだ。
「えっ!? 出るのか?」
「うん。もちろん式典中は出せないけど、そのあとにね。慰霊祭はレイナル領民と精霊樹の森の人々との交流が目的でもあるから、御馳走が用意されるはずだよ。それでサルベさん、慰霊祭の準備を、皆さんにも手伝っていただきたいんです」
「準備か? どんなことをするんだ?」
サルベさんが言う。
「はい。会場の設営なんかはレイナル領軍が中心になってすると思うので、そうですね、料理のお手伝いをお願いできれば」
「わかった、何人くらい必要だ?」
「具体的にはまだわかりませんが、そんなに大勢じゃなくて大丈夫かと」
「じゃあ、何人必要かわかったら教えてくれ」
「わかりました」
「なあアラン、本当か!? 本当に食べ物が出るのか?」
興奮気味にコーが聞いてくる。
「ああ、本当だよ」
「なら、俺も参加する! ていうか、準備手伝う!」
「ありがとう、コー」
「じゃあ私も手伝うわ。コーがつまみ食いしないように見張ってなくちゃ」
「うん、トーもありがとう」
ひとまずサルベさんの理解は得られた。ついでに、コーとトーの協力も。
だが、ここまではもともと心配していない。
サルベさんをはじめ、城の敷地内に避難している人々は比較的レイナル領に馴染んでいる人達だからだ。
問題はもう一つの避難民キャンプに住む人々である。
「主、行こう」
「はい」
俺とルプスさんは城を出て、少し離れた場所にあるキャンプ地に向かった。
†
汗ばむような日差しの中を、二人で歩いている。
前を行くルプスさんの腰丈のマントが、彼の動きに合わせて揺れる。
彼は右腕だけマントから出し、左腕は中に隠すようにしているのだが、これには理由がある。
「ルプスさん。左腕の具合はどうですか?」
「問題ない。ないことには、もう慣れた」
ルプスさんはそう言ってマントから左腕を少し出してみせるが、腕は肘のところまでしかない。
そう、ルプスさんは肘から下を失ってしまっているのだ。
あの時、俺の力でルプスさんは死を免れた。
だが、骨の獣達との戦いで失った左腕は、元には戻らなかった。
「すみません。俺にもう少し力があったら……」
「主のせいではない。俺は主に命を救われたのだ」
「ですが」
「では聞くが、あの時、主は力を抜いていたのか?」
「そんなわけありません! もちろん必死で――」
「俺の目にもそう映った」
「え?」
「主は全力を尽くした。俺は助かった。それでいい」
ちょっとだけ振り返って言ったルプスさんの表情は、笑っているように見えた。
森の洞穴で彼を助けようとした時、俺は本当に必死だった。だから自分の手から発せられていたという光にまったく気づかず、あとで人から聞いて知ったのだ。
「主に救われたあと、仲間達は言った。主が、樹西の民を救ったと。俺だけでなく、森に住む皆の命を救ったのだと。だから俺は、主を自らの主と決めたのだ」
「ルプスさん……」
「だから、主が思い悩む必要はない」
そう言って、右腕を掲げるルプスさん。
その横顔は、どこか晴ればれしているように見える。
俺は彼の言うとおり、これ以上悩まないことに決めた。
俺達は歩き続けた。
レイナル城から遠く離れ、畑や田んぼが広がる農業地帯を越えて、精霊樹の森がうっすらと地平線の先に見える辺り――。
そこに、森の避難民達のキャンプ地があった。物理的な距離からも明らかなように、彼らは城下に暮らすサルベさん達のグループに比べてレイナル領に馴染んでいない。母達が慰霊祭へ参加するかどうか心配しているのも、ここに住む人々である。
彼らは一時的に、ここに建てられた仮設住宅に住んでいた。
住宅といっても、木と布だけで造られた、要するにほったて小屋である。強風が吹けば簡単に飛ばされてしまいそうだ。
そんな家々が立ち並ぶ中を俺達は進み、目的だったキャンプ地の中央の家にたどり着いた。
そこはこのキャンプのまとめ役達が集う場所である。
声をかけて中に入ると、樹霊族のアルティリエさん――ティーリさんと、グティエレスさん、ソルスキアルさんがいた。
「アランか、今日はどうした?」
美しく輝く長い金髪をなびかせて、ティーリさんが言った。
「ええ、ちょっと相談がありまして。オルボーンさんはいますか? ティーリさん」
「オルボーンか……あいにくだが、今朝早くから森に入ってしまっている」
「いつ頃戻りそうですか?」
「どうだろう、もう少しかかるんじゃないか」
オルボーンさんも樹霊族だ。そして、このティーリさんの父親である。精霊樹の森から避難する際に森側のリーダーを担ってくれたオルボーンさんは、避難完了後もそのままこの地のリーダーを務めてくれていた。ティーリさんら他の樹霊族の人達は、彼のサポートをしている。
基本的に森にはレイナル領軍しか立ち入らないことになってはいるものの、キャンプのリーダーであるオルボーンさんやサポートの樹霊族の人達は、時折森の様子を見に行っていた。
このキャンプ地には、彼ら樹霊族と、樹西の村の人々が暮らしている。
彼らもサルベさん達同様、精霊樹の森に戻ることを強く希望していた。
いや、サルベさん達以上に、だろう。それはわざわざこうして森の近くにキャンプを設けているところからも明らかだ。
ティーリさんをはじめとして、樹霊族の人々は、俺だけでなくレイナル領民全体に対しどちらかといえば友好的だ。
彼らは特段、人間に対して思うところがあるわけではないらしい。奴隷として扱われるなど、かつて人間からひどい仕打ちを受けてきた樹西の人々とは、少し事情が異なるのだ。
だが彼らは樹霊族という名が示すとおり、森と共にしか生きられないのだという。「樹霊族とはそういう種族なのだ」と、いつかティーリさんが言っていた。
「アラン、体調は大丈夫か? ヴィルホにいじめられたりしていないか?」
ティーリさんが顔を寄せてくる。
「あはは。大丈夫ですよ、ティーリさん。それにヴィルホさんは別に俺をいじめてるわけじゃないですし」
彼女は何度か、レイナル領軍が誇る「鬼将軍」、ヴィルホさんと俺の城内訓練を見学したことがあった。
「……そうは言うが、訓練にしてはいささか度が過ぎているように見えたぞ?」
ティーリさんが言っているのは先週の訓練のことだろう。俺はヴィルホさんにこっぴどくやられ、途中で気を失ってしまったのだ。
「厳しくやってくれって、俺がそう注文したんですよ」
「しかし、いくら何でも気を失うまでやらなくても……」
「俺が未熟なだけです。ほんとに、心配はいりませんから」
「そうは言うが……見てるこちらの気持ちも考えてくれないか?」
「ごめんなさい。……でも、強くなるためには、あれくらいの訓練が必要なんです」
「気絶するような訓練が?」
「あれくらいじゃないと、強くなれないんです」
「つまり……やめるつもりはないのか?」
「今のところは」
「どうしても?」
「はい」
ティーリさんはため息をつく。
「わかった……では、私も奴にまた稽古をつけてやろう。精霊術に対する訓練を奴も積まねばならないだろうしな。前回は風で吹き飛ばしてやったが、次は水で……いや、土に埋めてやるのもいいかもしれない……」
ティーリさんは見学だけでは足りないようで、いつも俺のあとにヴィルホさんに戦いを挑んでいた。俺が気絶したこの前の時には、得意の術――樹霊族が扱う精霊術を駆使して、ヴィルホさんを翻弄したらしい。
さすがの鬼将軍も、精霊術を自在に操るティーリさんには敵わないようである。
「……ほどほどにしてあげてくださいね?」
「ふふふ、そう心配するな。ほどほどに痛めつけてやる」
「見てるこっちの気持ちも考えてくださいよ」
「……アラン。それはさっき、私が言ったぞ?」
「あ、そうでした」
「まったく……」
俺の頭を小突くティーリさん。
「あはは、すみません」
俺は笑いながら謝る。
最近は、ティーリさんとこうした気軽なやりとりをすることも増えていた。
これまでより、ぐっと距離が近くなったように思える。
だけど、あの夜のこと――森でゾンビにやられた傷によってひどい熱にうなされ、レイナル城に運び込まれた彼女と俺がキスをしてしまったことを、ティーリさんは覚えていなかった。
やはりあの時彼女は、意識が朦朧としていたのだろう。キスだけでなく、自分が俺のことを好きだと言ったことも、まったく記憶にないみたいだ。もちろん本人に確認なんかできるわけがないけど、その後それとなくあの日のことを話した感じだと、まず間違いなさそうだった。
残念といえば残念なものの、どこかほっとしている自分がいた。
もちろんティーリさんとキスしたことは天にも昇るくらい嬉しかったし、彼女からの「告白」も、俺は一生忘れないだろう。
俺だって、ティーリさんのことは好きだ。
だけど……俺は前世で恋人なんていなかったし、転生してからも、そういうのはまったく未経験だから、こういう状況でどうすればいいのかがさっぱりわからない。しかも相手はキスも告白も覚えていないのだ。あれから時間も経っている。今さら俺のほうから何て言えばいいのか……こんなの、恋愛初心者にはハードルが高すぎると思うんだ……。
それはそれとして、あのキスのためだろう、あれ以来、ティーリさんの術の力がかなりパワーアップした。
意識したわけじゃないけど、あの時、俺は自分の「他者強化能力」を使っていたみたいだ。
オルボーンさんが先日言っていたのだが、今や、精霊術で彼女の右に出る者はいないらしい。
「他者強化能力」は転生の際に神様から授かった力で、触れるだけで相手の能力を上昇させるというものだ。その力のことはティーリさんも知っていて、彼女は急に自身の術の力が上昇したことが不思議だったらしく、ある時俺に力を使ったのかと聞いてきたが……「ゾンビに受けた傷のせいで倒れたティーリさんを介抱する際、能力を使った」と苦しい言い訳をすると、「そうだったのか」と一人納得していた。……俺、嘘はついていない。
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