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5巻
5-1
しおりを挟む第一章
滴る汗が石畳の間に落ちては消えていく。
昼のうだるような暑さが残るなか、茜色と紫色の混じりあった空に人々の喧騒が溶けていった。
俺――アラン・ファー・レイナルは、その光景を眺めながら仲間とともに宿に向かう。
葡萄の都と呼ばれる街に軒を連ねるのは、石造りの建物。赤や紫で塗られた壁は、この辺りでとれる葡萄の色と同じだ。人々が着ている服も、その色が多かった。
ありとあらゆる場所に葡萄を模った彫刻が存在し、粒や葉の数、向きなどのデザインで住所を表しているらしい。
酒場を示す樽やジョッキの看板が掲げられた店では、多くの人が酒を酌み交わしている。
ベルドザルム領の首都パウーラは今、喜びの声で溢れていた。
冒険者達に通達された緊急依頼を受け、パウーラにやってきた俺は、ゴブリンとオーガの大群から街を守った。
大通りに未だ戦いの跡は残るものの、人々は杯を片手に飲み歌っている。
勝利の歌、喜びの歌、称賛の歌。様々な歌がそこかしこから聞こえていた。
女達は炊き出しのために出していた鍋を、今度は祝いの料理を作るために使っている。
男達は敵を倒すために振るっていた武器で、喜びの音を打ち鳴らしていた。
子供達は逃げるためではなく喜びから街中を走り回り、勝利の報せは、彼らの口からパウーラの隅々にまで届けられた。
それを聞いた老人達は、寿命が延びたと安堵の息をつく。
日はもう山の向こうに沈みきっていて、先ほどまで敵を照らすために使われていた明かりは、人々の笑顔を一層輝かせていた。
誰それがどこで活躍しただとか、無事だったとか、怪我をしたとか。
この勝利の話が、いたるところで飛び交っている。
その中で多く聞こえてくるのは、精霊の奇跡が起きたという声だ。
『精霊の乙女』が精霊を呼び出し、火の巨人フレイムオーガを打ち倒した。
精霊が彼女達の祈りに応え、パウーラを救うために現れた。
そんな噂がパウーラの民の間に広がっている。
間違っていない。藍華騎士団のフラン姉ちゃん達がそれを成したのは、事実なのだから。
人々の嬉しそうな顔を見て、声を聞いて。今日は後世まで伝えられるべき、パウーラの歴史的な日になっただろう、と俺は確信した。
宿につき、客室に荷物を置いて一息つく。
「アラン、勝利の祝いや! 早く行くで!」
「うまいもの、たくさんあるか!?」
「僕も行っていいよね、アラン!」
詰め寄ってきたのは、カサシス、グイ、ターブの三人。
カサシスは、王都ダオスタでの剣闘大会で知り合った、凄腕剣士だ。帝国の名門貴族家の出らしいが、まったく気取らず、俺とは友人関係にある。
緑色の髪をした、下あごから覗く小さな牙がチャームポイントのグイは、もともとゴブリンだった。とある一件で俺がゴブリンである彼女の命を救ったら、小鬼族という種族になってしまったのだ。
どうやらゴブリンは皆、本来はグイのような小鬼族であったらしいのだが、神代に邪神によって醜悪な姿にさせられてしまったのだとか。
グイの場合は、俺が神様より与えられた力――祝福の光を使い回復してあげたことで、肉体と魂が浄化され、元の姿に戻った。
できれば全てのゴブリンを元に戻してあげたいところだが、なかなか難しく、邪神から解放できたのは今のところグイただ一人だ。
小さな体に透き通った羽を持つ妖精のターブは精霊樹の森に住んでいたが、ある事件をきっかけに共に行動するようになった。
彼は、人の感覚を狂わせる幻術を得意としていて、街の中など人目のある場所では、グイに幻術をかけて人間に見えるようにしている。もちろん、自分の姿は見えないようにして。
はしゃぐ三人は勝利の宴に参加したくて、今にも飛び出していきそうな勢いだ。もちろん、その気持ちは俺も同じだが。
「ちょっと待ってくれよ……っと、準備はこれでいいかな?」
「主、財布を忘れている」
「おっと、危ない。ありがとう、ルプス」
俺に財布を差し出してくれたのは、狼人のルプス。俺の従者をしてくれている。
俺は財布を懐にしまい、部屋の鍵をかけて、みんなと街へ繰り出した。
「んでも、騎士団の連中は大変そうやなあ」
カサシスの隣を歩きながら、苦笑して返す。
「まあ、あの人達が街の人と一緒に騒ぐわけにはいかないだろうね」
「街の外は元通りっちゅうか、綺麗になってもうたけど、中はそうはいかへんからなあ」
「亡くなった人もいるからね」
このパウーラを守るため共に戦ったダオスタ第三騎士団――通称、蒼竜騎士団、そして藍華騎士団は、死者の弔いと壊れた建物の復旧作業に取り掛かっていた。
戦いが終わったばかりで疲労もあるだろうに、街中を動き回っている姿を見ていると本当に頭が下がる。
ちなみに俺達を含む冒険者は、パウーラを防衛するまでが仕事だったので、もうすでに依頼は達成している状態だ。
復興支援はまた別の依頼となるが、今は街中がお祭り騒ぎのため冒険者組合も窓口が閉じられていて、依頼を受けようにも受けられない。
まあボランティアで騎士団の作業を手伝えばいい話で、俺もそうするつもりだったのだが、戦いの一番の功労者であるお前達は休めと言われ、手伝わせてもらえなかったのだ。
「お言葉に甘えて、今日は勝利を味わわせてもらおうか」
「そうやな」
歩いていると、上機嫌の街の人々に声をかけられた。
彼らからまず渡されたのは、小さな樽のようなコップだ。
それを手にするや否や、なみなみと注がれる葡萄酒。
飲めと促され、口にしてはまた減った分を注がれる。
食えと言われて、勧められた串に刺さった香ばしい肉を口に運ぶ。
肉はいくらでもあると言われて彼らの指さす先を見れば、山のように積まれていて驚いた。
俺達が冒険者だとわかると、感謝の言葉を贈られた。
道を進んで場所が変わっても、人が変わっても、それらが尽きることはない。
「こちらにいらっしゃいましたか!」
しばらく街を練り歩いていると、少し息を切らした兵士が話しかけてきた。
その口ぶりから、俺達を探していたことが窺える。
日中の暑さはだいぶ和らいだとはいえ、まだまだ熱気が残っているのに、彼は金属の鎧を着込み、かなり汗をかいている。
とりあえず熱中症になってはいけないと思い、水を飲ませ、結界術の応用で彼の周りの気温を下げてあげると、とても喜んでいた。
一息ついた兵士から告げられたのは、明日の午前中に領主の館まで足を運んでほしい、ということだった。
特に用事はないので二つ返事で承諾すると、頭を深く下げて兵士は立ち去っていく。
さて、また街歩きを再開するかと思ったところで、周囲の人々から何やら期待に満ちた目を向けられていることに気づいた。
……たぶん、さっきの兵士にかけてあげた術のことだよな。
その後、カサシスや周りの人達にねだられ、兵士と同じように冷気の結界術をかけてあげたのは、言うまでもない。
飲んで、歌って、踊って、また飲んで、飲まされて。
夜更けまで楽しんだ俺は、ルプスの肩を借りて何とか宿にたどり着いた。
身体を拭く気も起きず、帰ってきた格好のままベッドにダイブ。そのまま眠りについたのだった。
†
悪夢を見た。
ただひたすら、暗い道を歩く。
足元さえも見えない、闇の中。
行く先もわからず、闇雲に進み続ける。
不意に聞こえてきたのは、声だった。
意味はわからない。
呻き声、悲鳴、それらが入り混じったような声。
俺は怖くなり、逃げ出した。
暗闇の中を必死で走ったが、うまくいかない。
何かに足を取られ、転ぶ。
起き上がり、走る。また転ぶ。
何度かそれを繰り返すと、今度は起き上がれなくなった。
足に何かが絡まっていることに気づき、目を向ける。
それは、手だった。
無数の手が、俺の足を、さらには腕を、体を捕らえて放さない。
声は出せなかった。
うつぶせのまま、永遠と錯覚するような長い時が流れる。
そんな時間を過ごして、やがて聞こえてきたのは声だった。
「お前ダけハ、ユルさナい……!」
女とも、男ともとれない声。
だが、やけに聞き覚えのある声。
何かに襲われる……!
「……ラン! アラン!」
体が揺さぶられ、誰かが俺の名前を呼んでいる。
意識は少しずつ覚醒していった。
薄らと目を開ければ、俺を覗き込んでいる誰かの顔がぼんやりと見えた。
「……アラン。大丈夫?」
かけられた声は、こちらを気遣う優しいものだ。
俺は上半身を起こし、その人物を見る。
「……フラン、姉ちゃん?」
俺の声はかすれていた。
ひどく喉が渇いている。全身に汗をかいてしまっていて、濡れた衣服が気持ち悪い。
「……何か悪い夢を見たのね。とてもうなされていたわ」
「……夢?」
そう言って俺の額に触れたフラン姉ちゃんの手は、冷たくて気持ちがいい。
彼女の顔は暗くてよく見えない。だけど、その表情には心配の色が濃く表れていた。
「顔色が悪いわ……それに、すごい汗。一体どんな夢を見たの?」
「……夢」
いつもなら忘れてしまう夢の内容。今回も、確かに細かな部分については覚えていない。
だけど、覚えていた。
あの無数の手の感触、そして声……。
「……怖い夢を、見たのね」
「……うん」
「そう」
フラン姉ちゃんは、言葉少なに、俺を抱きしめた。そして、ゆっくりと優しい手つきで、背中を撫でる。
突然フラン姉ちゃんの香りに包まれ、俺は戸惑うしかない。
「フフ……昔、アランがこうしてくれたのよ?」
「え?」
「覚えてない?」
「えっと……」
頭の中の引き出しを片っ端から開けてみるが、これといった記憶は出てこない。
そのまま答えられないでいると、フラン姉ちゃんが小さくため息をついた。
「そっか、覚えてないかあ」
「ご、ごめん、フラン姉ちゃん」
「でもそれって、記憶に残らないくらい何気なくしてくれたってことよね。そんなことができるアランは、やっぱりすごい子だったのね」
フラン姉ちゃんに背中を撫でられつつ優しい言葉をかけられて、顔が熱くなった。
「フフフ。いつかとは逆の立場ね」
「確かに、そうだね」
俺の顔色が大分ましになったのだろう。
小さな明かりしか灯らない、光の術具。その光に照らされて、フラン姉ちゃんは小さく笑った。
真夏の夜の悪夢は、優しい彼女によって、汗とともに流れ落ちて消えていった。
身体を拭いた俺は、部屋に二つあるベッドのうち、フラン姉ちゃんが座るベッドとは別の方に腰掛けた。
互いの膝と膝がつきそうな距離で向かい合う。
この部屋は急遽用意されたもので、かなり狭い。ベッドが二つ置かれれば、あとはその間を人一人が何とか通れるくらいのスペースしかないのだ。もちろん、椅子や机なんて気の利いたものはない。
フラン姉ちゃんは騎士団所属だからきちんとした部屋を用意されたはずだけど、俺達は冒険者枠での参加だ。そのため、間に合わせの部屋をあてがわれたのだろう。
でも別に不満はない。功労者として、さらには救国の英雄ヤンの息子として大々的に俺のことが公表されるよりはよっぽど気楽だし、これで良かったと思っている。
まあ、この宿の主人には「街を救ってくれた方々をこんな所に泊めるなんて」と、めちゃくちゃ恐縮されてしまったけど、カサシスもこの状況を面白がっていたし問題ない。
「で、フラン姉ちゃんは、こんな夜更けになんでここに来たのさ? 一応、俺も男だよ?」
「……え? だって、アランがどうしてるか気になったんだもの。騎士団の仕事を一通り片付けたら、こんな時間になっちゃっただけよ」
「だからって……!」
「それに、快く入れてくれたわよ、あのサージカント様が」
フラン姉ちゃんが扉に視線を向けると、小さな物音が響き、気配が動くのがわかった。
「……カサシスが?」
「ええ。彼が見張っているんだもの。アランが私に変なことなんて、できるわけないでしょ」
「じゃあ、フラン姉ちゃんは、あいつがそこにいるのがわかってて……?」
「当たり前でしょう。まったく!」
フラン姉ちゃんは少し顔を赤くして、頬を膨らませた。これは幼い頃からの、彼女の恥ずかしさをごまかす仕草だ。
これをしているとき、下手なことを言うと本気の怒りモードになってしまうから、俺は何も口に出さない。
可愛いとか愛らしいとか言うと逆効果なのは、俺が身をもって知っていることだ。
フラン姉ちゃんは見張りと言ったが、扉の向こうの気配はすでに消えている。
カサシスが気を利かせて立ち去ったのだろう。あいつのことだから、俺がフラン姉ちゃんに変なことをしないのは十分わかっている。
もちろん、俺を信用してくれているのはフラン姉ちゃんも同じだ。見張り云々と言ったのも、ほんの冗談にすぎない。カサシスがいなくなったのを横目で確認すると息を吐き、俺に向き直った。
「アランが気になったのも本当だけど……私が、ここに来たのは」
「うん」
居ずまいを正して、俺もフラン姉ちゃんの目を見つめる。
「来たのは……」
「来たのは?」
しかしフラン姉ちゃんの言葉はなかなか続かなかった。
俺は下手なことは言わないよう、じっと彼女の言葉を待った。
そんな俺に、フラン姉ちゃんは咳払いを一つして、口を開く。
「明日、ベルドザルム家で、式典が行われるのだけど」
「式典? 今回の勝利の? ……それとも、犠牲者の葬儀? 一応、俺も呼ばれてるよ」
「……両方、と言いたいところだけど、違うわ。明日の式典は、勝利を祝うものよ。犠牲者の葬儀は、後日行われるの」
「後日? 神光教会の神父はこの街にもいるだろうし、葬儀はその勝利の式典と同じ日にでもできるんじゃ? もしかして、その神父が今回の戦いで……?」
「いえ、違うわ。神父様はご健在よ。ただ、葬儀は後日……と言ってもあと三日ほどだけど、その日取りで行うほうがいいという、上の決定なのよ。それに明日行う式典も実は慰労会のようなもので、正式な式典は葬儀と同日に行われることになっているわ」
「神父はいるのに、葬儀はしない。しかも明日の勝利の式典も、正式なものじゃない……? 上の人がなんでそんな日取りにしたのか、意味がわからないよ。葬儀だけ、先にすることはできないの?」
「アラン、教主様がダオスタにいらっしゃるって話は知ってるわよね?」
「え、うん。そりゃ知ってるけど」
「実は、今回の件をお聞きになった教主様が是非とも犠牲者を追悼したいと仰っているみたいで、ね。光栄なことだから、ついでとばかりに同日に正式な勝利の式典も行おうと上は判断したみたいよ」
「はあ、教主様が」
なるほど。理屈はわかった。
確かにこの国のみならず、大陸最大規模の宗教である神光教会の、それも教主自らが式典を行うと言っているのだ。滅多に起こり得ない出来事ではある。
一方、ベルドザルム領主としては、街を守ってくれた功労者達を労い勝利を祝う場を早く設けたい。だから明日、非公式の式典を催すというわけだ。
しかし、勝利の式典はともかく、死者を弔う葬儀は何よりも優先すべきだと思う。
彼らの魂はまだ肉体に、現世に未練があり、その場に留まってしまっているのだから。
そんな心情が顔に出ていたのか、少し困ったようにフラン姉ちゃんが話しかけてくる。
「簡易的に、この街の神父様が慰魂の儀式を行っているから、心配しなくてもいいと思うのだけど」
「……そっか。そうだよね」
神父が魂の慰めをしているのなら大丈夫か。俺はそう納得した。
「そういえば、フラン姉ちゃん。グレタは……?」
焼き菓子に薬物を混入し、フラン姉ちゃんをはじめとした藍華騎士団に所属する貴族令嬢を意のままに操っていたグレタ。
藍華騎士団の団員は俺の光の力で正気に戻ったが、首謀者であるグレタは取り逃がしてしまった。今回のパウーラの騒動の後、突然姿を現して俺を襲ってきたのだが、襲撃に失敗するとそのまま立ち去ったのだった。
「……捜索しているけど、見つからないわ。アランの言っていた通り、もうこの街にはいないかもしれない」
「でも、フラン姉ちゃん。昨日も言ったけど、グレタはもう……」
あのグレタの様子は、明らかに異常だった。何か邪悪なものに取り憑かれたような、憎しみに駆られた表情と声は忘れられない。
「……わかってる。……でも、信じたいのよ」
藍華騎士団としても、もっと人員を出して捜索にあたりたいそうだが、今はとにかくパウーラの復興と教主来訪に備えなければならない。フラン姉ちゃんは歯がゆい思いをしているだろう。
いたたまれなくなって、俺はグレタから話題を変えるために、明日のベルドザルム家での式典に話を戻した。
「で、明日の式典で何か気になることでも?」
「式典自体はいいのだけど、ただ、あれよ」
「あれ?」
「その、私を……」
「フラン姉ちゃんを?」
「だから……あれよ。光の騎士団が……」
「光の騎士団って、神光教会の?」
「そう。それが、私に入隊を許可するって言ってきて……」
「えっ!? フラン姉ちゃん、光の騎士団に入るんだ!?」
「は、入るわけ、ないじゃない!」
俺が驚いて声を上げると、フラン姉ちゃんは慌てて否定した。
「え? でも、光の騎士団だよね? すごい名誉なことなんじゃ?」
「そりゃ、名誉は名誉よ。大名誉ね。だけど、女性はあの騎士団に入ったが最後、除隊するには光の騎士団の男性と結婚しなきゃいけないのよ!? そんなの、私には無理に決まってるじゃない!」
「あ……」
そういえばそうだった。
光の騎士団――正式名称は『神光教会直轄神主警衛隊』という。
ゴブリンやオーガなんかが闊歩する世界だ、当然自分達の身を守るための武装が必要となる。
大仰な名前の通称『光の騎士団』は、要するに神光教会が所有する武力のことだ。
「警衛」と名前がついているが、光の騎士団は門番のように一定の箇所を守るわけではない。その前につく「神主」という字のごとく、神を――そしてその使いである神光教会を守るという御役を、神から与えられた組織なのだという。
光の騎士団に所属するのは、男性の場合は既婚者でも問題ないが、女性は未婚の乙女に限られる。
フラン姉ちゃんの言う通り、女性だと除隊が簡単には認められないらしく、許されるのは結婚が決まったとき、もしくは三十歳を超えた場合のみ。
ちなみに光の騎士団に所属する女性は、同じ騎士団所属の独身男性と結婚するケースが圧倒的に多いそうだ。だからこそ、さっきのフラン姉ちゃんの発言になるのだが。
ともかく、神は神光教会と共に、信者と共にある。それが彼ら神光教会の教えだ。
だから、彼らは教会を、信者を守り、なによりも教主を死守する。
今回パウーラにやってくる教主の護衛も、当然光の騎士団が務めている。それも、かなりの規模で。
「光の騎士団のことは忘れてたな。だけど、戦力があるなら今回の戦いに教会も少し力を貸してくれれば良かったのに」
「仕方ないわよ。光の騎士団にとっては教主様をお守りするのが最優先だもの。教主様が襲われているのならいざ知らず、他国の一地方の街が襲撃されたくらいじゃ、動くことはないわ」
「……そうなんだ」
ちなみに彼らはその求められている役割の特性上、守りの技術に長けているらしい。
人間一人が構築できる結界術ならば俺の母がこの国で一番で、母を上回る個人の術者がいるとすれば、うちのレイナル領にいる妖精族くらいだろう。
しかし聞くところによると、集団での結界をはじめとした防御陣の構築において、光の騎士団の右に出るものはないのだとか。
会話が途切れ、静かになった部屋の中。遠くから街の喧騒が風に乗って聞こえてくる。
「……とにかく、明日!」
「え、うん」
「明日、アランは……私の、そ、その……婚約者として、ベルドザルム家まで一緒に行くのよ! い、いいわね!?」
突如大声を発したフラン姉ちゃんはその勢いのまま、足早に……いや、全力ダッシュで部屋から出て行くのだった。
「……え? 婚約……者? フラ……ね、……えぇ?」
一人、混乱する俺を取り残して。
応援ありがとうございます!
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