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56.おかえりなさい。
しおりを挟む藍月くんが仕事のために夕方に出ていってから、とりあえず荷物を広げて、片していく。とりあえず必要なのは下着とかくらいかな。泊まらせてもらってたときの歯ブラシとかパジャマとかあるし。一通り終わったかな。
暇になって、時間を潰すためにテレビをつける。するとそこに映し出された画面には、藍月くんが登場していた。その姿からは、俺に昨日見せたような弱さも陰も一切見いだせなかった。画面の中の藍月くんは純粋に格好良くて、世間の人気者だ。
俺にだけ見せてくれる姿に対しての特別感。それと同時に感じる距離の遠さ。それでも付き合っているからには、隣に立てるように努力するしかない。
藍月くんのSNSを確認すれば、久々に告知以外の投稿がされていた。alfalfaの三人が笑顔で写った写真とともに、MV楽しみにしてて!という言葉が添えられていた。
俺が側にいなかった間は投稿されていなかったそれを見れば、俺の存在は、画面の中のキラキラして遠く感じる藍月くんにも、ちゃんと影響を与えているんだなと思えた。
俺もコメントしておこう。
シバ@alfalfa_fan
久々の藍月くんの投稿嬉しいです。三人の楽しそうな姿に元気を貰えました!
よし!じゃあそろそろご飯の準備に取り掛かろうかな。とりあえず、冷蔵庫を開ける。割と何でも作れそうだな…。うーん…
レシピ調べてみてから決めよう。美味しそうなやつないかなー。あ!釜飯食べたいかも。冷蔵庫、椎茸ある、鶏肉ある、出汁もある!
釜飯に決定!あとは、焼き魚とかにしようかな。お吸物もつくれるし。炊くだけ簡単ご飯。手抜き…といえば手抜きかもしれないけど、まだ本格的な調理に自信ないから許して藍月くん。
ささっとご飯釜に材料をいれていく。炊くスイッチを押して、おわり。お吸物の出汁をとっておこうかな。魚だけ藍月くんが帰ってきてから焼こう。
お吸物の味見もしてみる。少し薄いけどいい感じかな。温め直したら多分良いぐらいの味になると思う。
あとは藍月くんの帰りを待つだけ。お風呂も洗っておくか。お風呂も広いこの家の手入れは大変そうだな、なんて一緒に住むことを本格的に考えている自分に、恥ずかしくなって苦笑する。
お風呂を洗っている間に、ガチャリと扉の音がする。あれ?まだ8時じゃないよね?藍月くんもう帰って来たのかな?
「リンさんっ!!」
藍月くんの叫ぶような声が聞こえる。藍月くんの焦ったような叫びに、早く返事をしなければと思い、俺も聞こえるように少し大きめの声で話す。
「藍月くん、おかえり」
俺の声はちゃんと聞こえたようで、こちらに向かってくる足音が聞こえる。ばたばたと走っているようだ。普段は元気だけれど、行動は落ち着いていて、走るのなんて見たことない。
よっぽど慌てているのかも知れないな。お風呂に走り込んで来たかと思えば、そのまま抱き着いてくる。…最近よく抱き締められるな。藍月くんの距離が近くて心臓がもたないから、慎んでほしい…。
「おかえり、藍月くん」
「ただいま!リンさん!!…はぁ…居ないかと思って焦った…」
「ふふっ凄い慌てっぷりだったね」
「笑わないでくださいよー…でもおかえりって良いですね!」
「ふふっそうだね。ご飯食べよっか?」
「はい!すっごい楽しみに帰ってきました!」
藍月くんの言うように、おかえりとただいまが言えるって確かに良いものだ。ただいまって言って帰ってきてくれるのって、家族って感じがする。
お風呂ももう洗い終わるところだったから、最後にシャワーで流して、掃除を終える。藍月くんは、手洗いや着替えをしにいった。お風呂のスイッチを入れておいて、すぐに入れるようにしておく。
魚をコンロにいれて、お吸物の鍋も火にかける。藍月くんも着替え終わって、手伝ってくれる。いい感じに魚も焼けて、ご飯の準備も整った。向かい合わせに座って手を合わせる。
「「いただきます」」
初めてではないけど、やっぱり食べてもらうのは緊張する…。藍月くんの反応をつい伺ってしまう。ひとくち食べて、にこりと笑った藍月くんが「とっても美味しいです!」と言ってくれたのに安心する。そして自分も食べ始めた。
それからも、料理について感想をくれる。優しい…。藍月くんの作るものの足元にも及ばないくらいなのに。二人で洗い物を済ませて、リラックスした時間が流れる。
「ねぇ、リンさん。今日シてもいいですか?」
「え?なにを?」
「ふふっわかってないのも可愛いです。
…エッチしたいです。」
「…うん…いいよ。」
せっかく両思いで付き合ってるんだから、したくない訳じゃない。ただとてつもなく緊張するだけで…。赤面した顔を膝に埋めつつも、にこにこする藍月くんをチラ見する。
普段の無邪気な笑顔は笑顔は鳴りを潜め、大人っぽい妖艶な笑みを浮かべていた。
っ!!その表情も似合いすぎる…。推しが格好良過ぎて辛い。
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