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元カレからの告白
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「ママ、ばいばい」
「シンちゃん、転ばないようにね。ばいばい」
昨日の怪我を心配していたのに、真哉はいつも通りに元気いっぱいで、今日はお絵描きをするんだと張り切っている。
保育所の先生も真哉の元気な様子に胸を撫でおろし、笑顔で迎えてくれる。
先生に「よろしくお願いします」と言って、真哉へ手を振ると、小さな手を振り返してくれた。
疲れた心に癒しをもらって、遥香は顔を上げる。
自宅に戻り、朝食の用意をしに『城間別邸』へ向かった。
遥香は直哉に会うと思うと少し緊張していた。
頭の中で、グルグルとシミュレーションをしながら、芝生の上に敷かれた石畳を踏みしめる。
お見舞いを頂いたお礼を言って、出来れば、お出かけのプランを立てて、記憶の手掛かりをつかみたい。
花ブロックを越えて建物へ近づくと、母屋の大きなガラスの向こう、リビングのソファーにゆったりと座っている直哉が見えた。
白いVネックのカットソーにデニムのパンツ姿は、5年前に始めて会った時と同じようなスタイル。
あの時に戻ったような気がして遥香はの胸は胸が高鳴り、踏み出す足が速くなる。
玄関のチャイムを押そうとしたところで扉が開く。
「おはよう」と直哉の艶のある低めの声が耳に響き、顔を上げると視線が絡む。
変に意識してしまっている自分を自覚しながら、遥香は恥ずかしさを隠すようにぺこりと頭を下げた。
「おはようございます。朝食お持ちいたしました。それと、昨日はお気遣い頂きありがとうございました。おかげさまで、息子は元気に保育所に行きました。今日は、ご案内できますよ」
「昨日、急におじゃまして悪かったね。シンちゃんの怪我が酷く無くて安心したよ」
会話の内容は穏やかなのに、直哉の瞳が不安そうなのが、気に掛かる。
遥香は、わざと明るい声を出し、手にしたバスケットを持ちあげた。
「はい、ありがとうございました。シンも大喜びで絵本見ていました。あの……お食事は、ダイニングテーブルにご用意してもよろしいでしょうか?」
「ああ、ダイニングでいいよ。食事の後、時間もらってもいい?」
「はい、大丈夫です」
遥香はパタパタとキッチンに入り、バスケットからタッパーを取り出し、プレートに盛り付ける。
その合間に様子をチラリと窺う。すると、直哉はリビングテラスのソファーに座り、思い詰めたように窓の外を見つめていた。
やっぱり、記憶が戻るためのお手伝いをして、ふたりで過ごした日々を思い出してもらいたい。きっと、直哉の記憶の中に素敵な思い出が眠っているはず。
そう自分に言い聞かせ、滞在期間内に思い出してくれる事に賭けてみることにした。
ダイニングテーブルに朝食を並べ終わり、直哉へ顔を向けると、視線に気付いたのか、直哉が振り返る。
遥香は、ポーカーフェイスを貼りつけ直哉へ声をかける。
「お待たせいたしました。お食事の間に水回りの清掃をさせて頂きます」
「ありがとう。お願いするよ」
直哉がゆっくりと立ち上がり、ダイニングテーブルに近づいて来る。
高い身長、以前よりも少し細くなったとはいえ、バランスの良い体躯に見惚れてしまう。
俯き加減だった直哉が顔を上げた。長いまつ毛に縁どられた切れ長の瞳。そのきれいな虹彩が遥香を見つめた。
彼の唇が動く。
「安里さん……」
それだけで、ドキンと心臓が跳ねた。
「あの、冷めないうちに召し上がってください。私、お掃除してきます」
直哉の視線に落ち着かない気持ちになって、逃げるように浴室に駆け込んだ。
スポンジに洗剤を含ませ、水回りの清掃に取り掛かった。
シャボン玉が出来て、ふわりと空に舞う。
(なんで、あんな瞳で私の事を見たの?もしかして……。記憶の扉が開かれたのかも?)
そんな期待が遥香の心に舞い落ちる。
フゥっと、一息ついて、窓の外を眺めると、背丈よりも高い月桃の大きな葉の間からは白い房状の可憐な花が咲き、その花を撫でるように心地よい風が吹いている。
期待と後悔を織り交ぜながら、いつもの手順で掃除を済ませ、キッチンに戻る。
すると、食事を終えた直哉が遥香の方へ顔を向ける。
「今、コーヒーをお持ちしますね」
「話があるから、安里さんも一緒に飲んでくれるよね」
「はい、ご一緒させていただきます」
コーヒーメーカーで入れたコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。
向かいの席に腰を下ろすと、直哉が遥香を見つめる。
遥香は、その真剣な表情に緊張して、膝の上でギュッと手を握り込んでしまう。
そして、直哉がゆっくりと話し始めた。
「事故の時に頭を打って、記憶の一部が思い出せない話をしたよね。一昨日、遥香を車で轢きそうになった時に、その記憶が戻ったんだ」
「えっ?」
「シンちゃん、転ばないようにね。ばいばい」
昨日の怪我を心配していたのに、真哉はいつも通りに元気いっぱいで、今日はお絵描きをするんだと張り切っている。
保育所の先生も真哉の元気な様子に胸を撫でおろし、笑顔で迎えてくれる。
先生に「よろしくお願いします」と言って、真哉へ手を振ると、小さな手を振り返してくれた。
疲れた心に癒しをもらって、遥香は顔を上げる。
自宅に戻り、朝食の用意をしに『城間別邸』へ向かった。
遥香は直哉に会うと思うと少し緊張していた。
頭の中で、グルグルとシミュレーションをしながら、芝生の上に敷かれた石畳を踏みしめる。
お見舞いを頂いたお礼を言って、出来れば、お出かけのプランを立てて、記憶の手掛かりをつかみたい。
花ブロックを越えて建物へ近づくと、母屋の大きなガラスの向こう、リビングのソファーにゆったりと座っている直哉が見えた。
白いVネックのカットソーにデニムのパンツ姿は、5年前に始めて会った時と同じようなスタイル。
あの時に戻ったような気がして遥香はの胸は胸が高鳴り、踏み出す足が速くなる。
玄関のチャイムを押そうとしたところで扉が開く。
「おはよう」と直哉の艶のある低めの声が耳に響き、顔を上げると視線が絡む。
変に意識してしまっている自分を自覚しながら、遥香は恥ずかしさを隠すようにぺこりと頭を下げた。
「おはようございます。朝食お持ちいたしました。それと、昨日はお気遣い頂きありがとうございました。おかげさまで、息子は元気に保育所に行きました。今日は、ご案内できますよ」
「昨日、急におじゃまして悪かったね。シンちゃんの怪我が酷く無くて安心したよ」
会話の内容は穏やかなのに、直哉の瞳が不安そうなのが、気に掛かる。
遥香は、わざと明るい声を出し、手にしたバスケットを持ちあげた。
「はい、ありがとうございました。シンも大喜びで絵本見ていました。あの……お食事は、ダイニングテーブルにご用意してもよろしいでしょうか?」
「ああ、ダイニングでいいよ。食事の後、時間もらってもいい?」
「はい、大丈夫です」
遥香はパタパタとキッチンに入り、バスケットからタッパーを取り出し、プレートに盛り付ける。
その合間に様子をチラリと窺う。すると、直哉はリビングテラスのソファーに座り、思い詰めたように窓の外を見つめていた。
やっぱり、記憶が戻るためのお手伝いをして、ふたりで過ごした日々を思い出してもらいたい。きっと、直哉の記憶の中に素敵な思い出が眠っているはず。
そう自分に言い聞かせ、滞在期間内に思い出してくれる事に賭けてみることにした。
ダイニングテーブルに朝食を並べ終わり、直哉へ顔を向けると、視線に気付いたのか、直哉が振り返る。
遥香は、ポーカーフェイスを貼りつけ直哉へ声をかける。
「お待たせいたしました。お食事の間に水回りの清掃をさせて頂きます」
「ありがとう。お願いするよ」
直哉がゆっくりと立ち上がり、ダイニングテーブルに近づいて来る。
高い身長、以前よりも少し細くなったとはいえ、バランスの良い体躯に見惚れてしまう。
俯き加減だった直哉が顔を上げた。長いまつ毛に縁どられた切れ長の瞳。そのきれいな虹彩が遥香を見つめた。
彼の唇が動く。
「安里さん……」
それだけで、ドキンと心臓が跳ねた。
「あの、冷めないうちに召し上がってください。私、お掃除してきます」
直哉の視線に落ち着かない気持ちになって、逃げるように浴室に駆け込んだ。
スポンジに洗剤を含ませ、水回りの清掃に取り掛かった。
シャボン玉が出来て、ふわりと空に舞う。
(なんで、あんな瞳で私の事を見たの?もしかして……。記憶の扉が開かれたのかも?)
そんな期待が遥香の心に舞い落ちる。
フゥっと、一息ついて、窓の外を眺めると、背丈よりも高い月桃の大きな葉の間からは白い房状の可憐な花が咲き、その花を撫でるように心地よい風が吹いている。
期待と後悔を織り交ぜながら、いつもの手順で掃除を済ませ、キッチンに戻る。
すると、食事を終えた直哉が遥香の方へ顔を向ける。
「今、コーヒーをお持ちしますね」
「話があるから、安里さんも一緒に飲んでくれるよね」
「はい、ご一緒させていただきます」
コーヒーメーカーで入れたコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。
向かいの席に腰を下ろすと、直哉が遥香を見つめる。
遥香は、その真剣な表情に緊張して、膝の上でギュッと手を握り込んでしまう。
そして、直哉がゆっくりと話し始めた。
「事故の時に頭を打って、記憶の一部が思い出せない話をしたよね。一昨日、遥香を車で轢きそうになった時に、その記憶が戻ったんだ」
「えっ?」
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