【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~

安里海

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東京デート2

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「慶太と行ったTAKARAリゾート彩都里も凄い良かったもの。一生に一度の思い出だわ」

  そう言って、沙羅は懐かしむように目を細め、天井のステンドグラスを見上げる。
  髪がさらりと動き、シャンプーの甘い香りが慶太の鼻腔をくすぐった。

「沙羅、一生に一度とは言わずに、また行こうよ」

「ありがとう。約束ね」

   ステンドグラスから降り注ぐ淡い光の中で、儚げに微笑む沙羅があまりに綺麗に見える。捕まえていないと何処かへ消えて行きそうな気がした。

   今、直ぐにでも沙羅を抱きしめたい。
   でも、大人の分別がそれを邪魔する。
   そっと伸ばした指先で、沙羅の髪に触れた。
 
「ん、約束する」

   やっと結ばれた沙羅との大切な時間を誰にも奪われたくない。
 ありのままの自分を受け入れてくれる沙羅の手を離す事など無理だ。
 慶太は、沙羅との未来を切に願っていた。

「ねえ、この螺旋階段も素敵よね。エッシャーの絵の中にいるみたい」

 3階から見下ろす螺旋階段は、まるでRPGゲームか絵画の中に居るような感覚に陥り、芸術的で見る者を魅了する。
 
「螺旋階段は、非日常的だよな。木製なのもいいかも」

「うん、このまま何処か知らない場所に行けそう」
 
 
   慶太に腕を差し出され、沙羅は手を添えた。
 こつん、こつんと一歩づつ螺旋階段を下り始める。
 このまま、ふたりで何処までも行けそうな気がした。

「私も仕事先で良い事があったの。今、お掃除に伺わせて頂いて居るおウチの方が、なんと、母方の親戚で、私の従伯叔母にあたる方だったの。すっごい偶然だと思わない!? 親戚が居るとは思わなかったから嬉しくて」

「親戚? どうしてわかったの?」

 沙羅からの意外な話しに、慶太は目を丸くした。
 大学時代の後輩である田辺に、沙羅の就職を頼んだが、親戚の捜索までは依頼していない。
 ちなみに日下部真理からの紹介という事にして、沙羅の精神的負担にならないように手をまわしたのは、ナイショの話。

「写真を見せて頂いたの。そうしたら、ウチにある写真と同じ物があって、その中に子供の頃の母が藤井様と写っていたの。ふたりで顔を見比べちゃった」

「本当に偶然なんだ……」

「そうなの、驚いちゃった。女の人って結婚すると苗字が変わってしまうのが一般的でしょう。だから、お互い親戚だなんて思いもしなくて、わかった時には何を言っていいのか戸惑ったわ。母の旧姓と藤井様の旧姓が同じで、従妹同士だってわかってね。明日の夜、娘と藤井様と3人でお食事をする予定なの。今から楽しみ」

 慶太は田辺が limpieza de la casa を興す時に何かと尽力した。
 ベンチャー企業への出資者である藤井を田辺に紹介したのも慶太だ。
 パーティーで知り合った気さくな性格の藤井とは、同郷と言う事も手伝って打ち解けるのには時間が掛からなかった。
 あの藤井と沙羅が、親戚だったなんて想像もしていなかった。

「素敵な親戚が出来てよかったな。明日は楽しんでおいで」
   

 ホテル東京6階のラウンジカフェのテラス席にある、ゆったりとしたソファーに向かい合い、ふたりは腰を下ろした。
    ここのテラス席は、隣の席との距離が離れていて、プライベート感が演出されている。
  ビルの合間から見える空には、もこもこと羊雲が浮かび、爽やかな秋の風が火照った頬を撫で心地いい。慶太と視線が絡むと、意味もなく笑みがこぼれる。

 テーブルの上に置かれた、かわいらしい小鳥がモチーフのティースタンドに並ぶスイーツは、どれも宝石のように美しい。

「なんだか、食べるのがもったいぐらいキレイ」

「気に入ってくれた? テイクアウトも頼んでおくから、お嬢さんへのお土産にして」

「ありがとう。美幸にも食べさせてあげたいなって思っていたの」

「……受験が終わって、落ち着いたら会わせてもらえるかな?」

 慶太からの提案に沙羅はうなずく。

「2月の始めが試験日なの。それが終われば結果がどうあれ一区切り付くから、それとなく聞いてみるね」

「楽しみにしているよ」

 思春期の難しい年頃、母親の女の部分を見せていいのか、実のところ迷ってしまう。出来る事なら、自然な形で美幸に慶太を紹介したい。

「卒業式が終わってから、美幸と一緒に金沢へ行くのもいいかも、両親のお墓参りが出来るわ」

「もし、金沢に来るなら飛行機のチケットを取るから富士山を眺めて見る?」

「上から眺める富士山かー。贅沢で素敵な提案ね」

 以前、なんとなく話しをした事を慶太はしっかりと覚えていてくれていた。沙羅は嬉しくなってしまう。

「慶太、ありがとう」

 花が咲いたように笑う沙羅へ、甘やかな微笑みを返した。そして、おもむろに立ち上がると、沙羅の横に座り直す。
 いくらソファー席とは言え、ふたりの距離が近すぎて、沙羅はドキマギしてしまう。

「どうしたの?」

「沙羅……これを」

 そう言って、慶太は沙羅の首に手をまわす。そして、手が離れると首元には、一粒のダイヤモンドが輝いていた。沙羅にもわかるほど有名なニューヨーク5番街にあるブランドのネックレスだ。

「えっ、こんなに高い物をもらえないわ」

 誕生日でも記念日でも無いのに、こんなに高価なプレゼントを渡されて、沙羅は戸惑ってしまう。

「会えない間の御守り代わりに、着けておいて」

 本当のところは、慶太自身の願掛け。
 いつか左手の薬指にはめるような指輪を贈れたらという願いが込められている。
 心の隅にある不安を取り除くための精神安定剤でもあった。



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