22 / 40
第3章 旅の始まりと穏やかな日常
第22話 街の市場と、おそろいの旅装
しおりを挟む
昼前、三人は旅の道すがら立ち寄った中規模の街に足を踏み入れていた。
街の中心部には賑やかな市場が広がり、人々の声と活気、色とりどりの屋台が視界を埋め尽くしている。
ルーナは目を輝かせ、まるで初めて外の世界を見た子どものように右へ左へと落ち着かない。
「わあっ……!ご主人様、見てください!あの果物、丸いのに青いですよ!」
「グリナの実だな。ちょっと酸っぱいけど、甘さもあってうまいぞ」
「うぅ、でもああいうの、切ると変な汁が出てきたりしませんか……?」
果物屋の前で真剣な顔になるルーナに、ガルドは苦笑しながらも視線を向ける。
その隣を歩くルージュは相変わらず無表情だが、ほんのわずかに足取りが軽いように見えた。
どこか――微かに、だが確実に、この旅の時間を楽しんでいるのが伝わってくる。
そんな穏やかな空気の中で、ガルドはふと思い立つ。
「そういえば……二人とも旅装備って全然持ってなかったよな?この街でちゃんとした装備を整えておこうか」
「えっ、ほんとですかっ! 嬉しいです、ご主人様っ!」
「……衣服の強度と機能性を優先してください。ガルド様が同伴する以上、装飾は不要です」
「もう、お兄ちゃんってば、つまんない!せっかくなんだからおしゃれも楽しみましょうよ!」
服屋の屋台で、三人は思い思いに旅装備を見て回った。
最終的に選んだのは、色違いのシンプルなマントと軽装の防具。
動きやすく、街中でも浮かない無難なデザインだったが、それでもルーナは喜んで何度も鏡を見てくるくると回る。
「ふふっ、ご主人様、似合ってますか?」
「ああ、ばっちりだよ。……そのマント、風になびくと意外と格好いいかもな」
ルーナは顔を赤らめて、そっとマントの端を握った。
一方、ルージュは黙って黒銀の装備を手に取り、それに合う深い青のインナーを静かに重ね合わせてみせた。
それは、ガルドがいま身につけている服装と驚くほど調和の取れた配色だった。
「……ガルド様の装備色とのバランスを意識しました。視覚的な連携と、識別しやすさの両立を意図しております」
「へぇ……ちゃんと考えてたんだな」
「当然です。ガルド様と並ぶ存在として不調和は――許容できません」
その声はあくまで冷静。表情も変わらず無機質。
けれど、その語尾にはどこか、静かな熱が滲んでいた。
ガルドが「考えてたんだな」と言った瞬間、ルージュの指先がわずかに動いた――まるで褒められて、照れ隠しのように裾を整えるようなほんの一瞬の無自覚な仕草。
どこか誇らしげで、それでいて何気ないそぶりを崩さない彼の態度に、ガルドは心の中で小さく笑った。
(……本当は、俺のこと、すごく気にしてくれてるんだよな)
言葉にはしない。表情にも出さない。
けれどルージュの一つ一つの行動が、確かに『ガルド様第一』であることを物語っていた。
支払いを済ませて屋台を出たところで、ふと隣の露店から声がかかった。
「おや、旅人さん。あんたら、いい装備してるじゃないか。最近は物騒でね、身の安全は大事だよ」
果物を並べていた商人風の中年男性だった。
陽気な顔立ちだが、口調の端々に警戒心がにじんでいる。
「物騒って……何かあったんですか?」
ガルドの問いに、商人は声を落とす。
「なんでも、最近このあたりに『勇者パーティー』が来たらしくてね。強いのはいいんだけど、あんまり無茶するって噂があるのさ。『魔物退治』って名目で民家まで壊してったって話もあるし……」
「……勇者パーティーが」
ガルドの表情がわずかに強張るのを、ルーナは横目で察知した。
彼女はさりげなく腕を組んでガルドに寄り添い、小さく微笑む。
「……ふふ、大丈夫ですよ、ご主人様。あんなの、もう関係ありません」
「……ああ。そうだな」
ガルドは一瞬、王都の広場での追放の記憶が脳裏をよぎる。
だが、今の自分にはこの手にマントがある。
隣には、ルーナとルージュがいる。
それだけで、十分だった。
その夜、宿屋の一室。
月明かりが差し込む窓際で、ガルドは静かにマントの裾を整えながら、言った。
「……なんか、ちょっと旅人っぽくなった気がするな」
「はいっ! 明日は温泉がある街まで行きたいです!ご主人様と、のんびりしたいですっ!」
「……湯あたりには注意すべきです。温泉成分による魔力の循環障害が報告されています」
「……お兄ちゃん、そういうとこなんだよ……」
やがて、三人の笑い声が、小さな宿の部屋に優しく響いていく。
それは、ほんのひとときの平穏。
けれど、確かな『仲間』としての絆が、静かに育ち始めている証だった。
街の中心部には賑やかな市場が広がり、人々の声と活気、色とりどりの屋台が視界を埋め尽くしている。
ルーナは目を輝かせ、まるで初めて外の世界を見た子どものように右へ左へと落ち着かない。
「わあっ……!ご主人様、見てください!あの果物、丸いのに青いですよ!」
「グリナの実だな。ちょっと酸っぱいけど、甘さもあってうまいぞ」
「うぅ、でもああいうの、切ると変な汁が出てきたりしませんか……?」
果物屋の前で真剣な顔になるルーナに、ガルドは苦笑しながらも視線を向ける。
その隣を歩くルージュは相変わらず無表情だが、ほんのわずかに足取りが軽いように見えた。
どこか――微かに、だが確実に、この旅の時間を楽しんでいるのが伝わってくる。
そんな穏やかな空気の中で、ガルドはふと思い立つ。
「そういえば……二人とも旅装備って全然持ってなかったよな?この街でちゃんとした装備を整えておこうか」
「えっ、ほんとですかっ! 嬉しいです、ご主人様っ!」
「……衣服の強度と機能性を優先してください。ガルド様が同伴する以上、装飾は不要です」
「もう、お兄ちゃんってば、つまんない!せっかくなんだからおしゃれも楽しみましょうよ!」
服屋の屋台で、三人は思い思いに旅装備を見て回った。
最終的に選んだのは、色違いのシンプルなマントと軽装の防具。
動きやすく、街中でも浮かない無難なデザインだったが、それでもルーナは喜んで何度も鏡を見てくるくると回る。
「ふふっ、ご主人様、似合ってますか?」
「ああ、ばっちりだよ。……そのマント、風になびくと意外と格好いいかもな」
ルーナは顔を赤らめて、そっとマントの端を握った。
一方、ルージュは黙って黒銀の装備を手に取り、それに合う深い青のインナーを静かに重ね合わせてみせた。
それは、ガルドがいま身につけている服装と驚くほど調和の取れた配色だった。
「……ガルド様の装備色とのバランスを意識しました。視覚的な連携と、識別しやすさの両立を意図しております」
「へぇ……ちゃんと考えてたんだな」
「当然です。ガルド様と並ぶ存在として不調和は――許容できません」
その声はあくまで冷静。表情も変わらず無機質。
けれど、その語尾にはどこか、静かな熱が滲んでいた。
ガルドが「考えてたんだな」と言った瞬間、ルージュの指先がわずかに動いた――まるで褒められて、照れ隠しのように裾を整えるようなほんの一瞬の無自覚な仕草。
どこか誇らしげで、それでいて何気ないそぶりを崩さない彼の態度に、ガルドは心の中で小さく笑った。
(……本当は、俺のこと、すごく気にしてくれてるんだよな)
言葉にはしない。表情にも出さない。
けれどルージュの一つ一つの行動が、確かに『ガルド様第一』であることを物語っていた。
支払いを済ませて屋台を出たところで、ふと隣の露店から声がかかった。
「おや、旅人さん。あんたら、いい装備してるじゃないか。最近は物騒でね、身の安全は大事だよ」
果物を並べていた商人風の中年男性だった。
陽気な顔立ちだが、口調の端々に警戒心がにじんでいる。
「物騒って……何かあったんですか?」
ガルドの問いに、商人は声を落とす。
「なんでも、最近このあたりに『勇者パーティー』が来たらしくてね。強いのはいいんだけど、あんまり無茶するって噂があるのさ。『魔物退治』って名目で民家まで壊してったって話もあるし……」
「……勇者パーティーが」
ガルドの表情がわずかに強張るのを、ルーナは横目で察知した。
彼女はさりげなく腕を組んでガルドに寄り添い、小さく微笑む。
「……ふふ、大丈夫ですよ、ご主人様。あんなの、もう関係ありません」
「……ああ。そうだな」
ガルドは一瞬、王都の広場での追放の記憶が脳裏をよぎる。
だが、今の自分にはこの手にマントがある。
隣には、ルーナとルージュがいる。
それだけで、十分だった。
その夜、宿屋の一室。
月明かりが差し込む窓際で、ガルドは静かにマントの裾を整えながら、言った。
「……なんか、ちょっと旅人っぽくなった気がするな」
「はいっ! 明日は温泉がある街まで行きたいです!ご主人様と、のんびりしたいですっ!」
「……湯あたりには注意すべきです。温泉成分による魔力の循環障害が報告されています」
「……お兄ちゃん、そういうとこなんだよ……」
やがて、三人の笑い声が、小さな宿の部屋に優しく響いていく。
それは、ほんのひとときの平穏。
けれど、確かな『仲間』としての絆が、静かに育ち始めている証だった。
10
あなたにおすすめの小説
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
周りが英雄職なのに俺だけが無職の冒険者 ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~
咲良喜玖
ファンタジー
冒険者ルルロアの大冒険です
以前のものを少々作り直しました。
基本の話は同じですが、第三部から展開が違います。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる