追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

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第3章 旅の始まりと穏やかな日常

第22話 街の市場と、おそろいの旅装

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 昼前、三人は旅の道すがら立ち寄った中規模の街に足を踏み入れていた。
 街の中心部には賑やかな市場が広がり、人々の声と活気、色とりどりの屋台が視界を埋め尽くしている。
 ルーナは目を輝かせ、まるで初めて外の世界を見た子どものように右へ左へと落ち着かない。

「わあっ……!ご主人様、見てください!あの果物、丸いのに青いですよ!」
「グリナの実だな。ちょっと酸っぱいけど、甘さもあってうまいぞ」
「うぅ、でもああいうの、切ると変な汁が出てきたりしませんか……?」

 果物屋の前で真剣な顔になるルーナに、ガルドは苦笑しながらも視線を向ける。
 その隣を歩くルージュは相変わらず無表情だが、ほんのわずかに足取りが軽いように見えた。
 どこか――微かに、だが確実に、この旅の時間を楽しんでいるのが伝わってくる。

 そんな穏やかな空気の中で、ガルドはふと思い立つ。

「そういえば……二人とも旅装備って全然持ってなかったよな?この街でちゃんとした装備を整えておこうか」
「えっ、ほんとですかっ! 嬉しいです、ご主人様っ!」
「……衣服の強度と機能性を優先してください。ガルド様が同伴する以上、装飾は不要です」
「もう、お兄ちゃんってば、つまんない!せっかくなんだからおしゃれも楽しみましょうよ!」

 服屋の屋台で、三人は思い思いに旅装備を見て回った。

 最終的に選んだのは、色違いのシンプルなマントと軽装の防具。
 動きやすく、街中でも浮かない無難なデザインだったが、それでもルーナは喜んで何度も鏡を見てくるくると回る。

「ふふっ、ご主人様、似合ってますか?」
「ああ、ばっちりだよ。……そのマント、風になびくと意外と格好いいかもな」

 ルーナは顔を赤らめて、そっとマントの端を握った。
 一方、ルージュは黙って黒銀の装備を手に取り、それに合う深い青のインナーを静かに重ね合わせてみせた。
 それは、ガルドがいま身につけている服装と驚くほど調和の取れた配色だった。

「……ガルド様の装備色とのバランスを意識しました。視覚的な連携と、識別しやすさの両立を意図しております」
「へぇ……ちゃんと考えてたんだな」
「当然です。ガルド様と並ぶ存在として不調和は――許容できません」

 その声はあくまで冷静。表情も変わらず無機質。
 けれど、その語尾にはどこか、静かな熱が滲んでいた。

 ガルドが「考えてたんだな」と言った瞬間、ルージュの指先がわずかに動いた――まるで褒められて、照れ隠しのように裾を整えるようなほんの一瞬の無自覚な仕草。
 どこか誇らしげで、それでいて何気ないそぶりを崩さない彼の態度に、ガルドは心の中で小さく笑った。

 (……本当は、俺のこと、すごく気にしてくれてるんだよな)

 言葉にはしない。表情にも出さない。
 けれどルージュの一つ一つの行動が、確かに『ガルド様第一』であることを物語っていた。

 支払いを済ませて屋台を出たところで、ふと隣の露店から声がかかった。

「おや、旅人さん。あんたら、いい装備してるじゃないか。最近は物騒でね、身の安全は大事だよ」

 果物を並べていた商人風の中年男性だった。
 陽気な顔立ちだが、口調の端々に警戒心がにじんでいる。

「物騒って……何かあったんですか?」

 ガルドの問いに、商人は声を落とす。

「なんでも、最近このあたりに『勇者パーティー』が来たらしくてね。強いのはいいんだけど、あんまり無茶するって噂があるのさ。『魔物退治』って名目で民家まで壊してったって話もあるし……」
「……勇者パーティーが」

 ガルドの表情がわずかに強張るのを、ルーナは横目で察知した。
 彼女はさりげなく腕を組んでガルドに寄り添い、小さく微笑む。

「……ふふ、大丈夫ですよ、ご主人様。あんなの、もう関係ありません」
「……ああ。そうだな」

 ガルドは一瞬、王都の広場での追放の記憶が脳裏をよぎる。
 だが、今の自分にはこの手にマントがある。
 隣には、ルーナとルージュがいる。
 それだけで、十分だった。

 その夜、宿屋の一室。

 月明かりが差し込む窓際で、ガルドは静かにマントの裾を整えながら、言った。

「……なんか、ちょっと旅人っぽくなった気がするな」
「はいっ! 明日は温泉がある街まで行きたいです!ご主人様と、のんびりしたいですっ!」
「……湯あたりには注意すべきです。温泉成分による魔力の循環障害が報告されています」
「……お兄ちゃん、そういうとこなんだよ……」

 やがて、三人の笑い声が、小さな宿の部屋に優しく響いていく。

 それは、ほんのひとときの平穏。
 けれど、確かな『仲間』としての絆が、静かに育ち始めている証だった。
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