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第3章 旅の始まりと穏やかな日常
第24話 静かな湖と、夜の語らい
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その湖は、地図にも載っていない、小さな隠れ里のような場所だった。
木々のざわめきも届かないほど静かで、水面はまるで鏡のように星空を映している。
風はなく、虫の声すら穏やかで、世界がひととき眠りについたような夜だった。
焚き火の炎が、パチパチと乾いた音を立てている。
そのそばに座るガルドは、火を見つめながら、ふと空を見上げた。
「……こんなに綺麗な星空、いつぶりだろうな」
向かい側に座るルージュは、やはり無表情のまま静かに夜空を見上げていた。
だが、その横顔はどこか柔らかく焚き火の灯りに照らされて淡く浮かんでいる。
しばらくの沈黙の後、ルージュがぽつりと口を開いた。
「ガルド様は……変わり始めております」
「……俺が?」
「はい。以前のガルド様は、ご自身を価値のない存在であると見なしていた。誰からも必要とされないと、自らを断じていた。しかし、今は違います」
ガルドは小さく息を飲む。
その言葉が、胸の奥の柔らかい部分を静かに叩いた。
「変わったというより……変わろうとしてる、って感じかもしれない」
「それで十分です。……ガルド様がガルド様として在ろうとする限り、私たちの誓いは揺るぎません」
その静かな言葉に、ガルドは少しだけ目を伏せた。
焚き火の赤い炎が瞳に映る。
「……あの頃は、本当に孤独だったんだ」
ぽつり、とこぼれたその言葉には過去の重みがにじんでいた。
「パーティーにいた時……居場所はあったはずなのに、誰にも声を届かせられなかった。ただ黙って、笑って、期待されないように振る舞って……役立たずって思われるくらいなら空気でいた方がマシだった」
そう言ったあと、ガルドは小さく笑った。
自嘲でもなく、懐かしむような、どこか遠い目をした笑みだった。
「でも、お前たちに会って……ああ、俺にも、ちゃんと『居ていい場所』があったんだって、思えたんだ」
その言葉に、焚き火の炎が静かに揺れる。
ルージュは目を細め、わずかに表情を緩めた。
それは感情をほとんど見せない彼にしては、かなり明確な“安堵”の表れだった。
だが、次の瞬間――彼はすっと立ち上がる。
「……わかりました、ガルド様。勇者たちを処しましょう」
「は?」
唐突すぎる発言に、ガルドは目を瞬かせた。
ルージュは本気の顔で、淡々と続ける。
「今すぐにでも王都へ向かい、かつて主様を排斥した不忠の者どもを――一人残らず、跡形もなく排除いたします。可能な限り苦痛を与える形で進めましょう。ご命令いただければ、速やかに」
「いやいやいやいやいや!? ちょっと待て、落ち着けルージュ!!」
ガルドが慌てて立ち上がり、ルージュの腕を止める。
彼の顔には心底「やめてくれ」の色が浮かんでいた。
「もういいから!もう過ぎたことだし!今の俺には、お前たちがいる。それで十分だから!」
「……そうですか。残念です」
ルージュはあからさまに納得していない顔で、しぶしぶ座り直した。
その背筋はどこか名残惜しそうだったが、ガルドの言葉に反論はしない。
彼にとって、それが『主命』であるなら――それが全てなのだ。
「我々は、ガルド様の元に在るべき存在です。ガルド様の傍以外に、我らが在る理由はありません」
その言葉は、誓いというより『理』のように語られていた。
忠誠ではなく、『在るべき場所』としての当然の在り方。
その想いが、ルージュの中では当たり前のように根付いている。
ガルドは肩の力を抜き、火のそばに転がっていた薪を一本、火にくべる。
ぱちん、と爆ぜた火の粉が、夜空に吸い込まれていった。
すると、ルーナが突然声を発する。
「……ごしゅじんさまぁぁ……にんじんはきらいですぅ……にんじんが……追いかけてくるぅ……」
突然、焚き火の横に寝袋ごと転がってきたのは、すやすや寝息を立てていたはずのルーナだった。
寝ぼけたまま、ガルドの腕にがしっとしがみつき顔をすり寄せる。
「むにゃ……あったかい……ご主人様は、にんじんじゃないから、すき……」
ガルドとルージュが思わず顔を見合わせた。
次の瞬間、ルージュはすっと立ち上がり、淡々とした声でつぶやいた。
「……ガルド様、これは……意図的な接触か、睡眠中の潜在意識の欲求によるものか確認が必要です」
「待て、ルージュ。寝ぼけてるだけだ。あとでちゃんと寝袋に戻してやるから、剣を抜くな」
「了解しました……剣の使用は見送ります」
ルージュが剣の柄から手を離すのを見て、ガルドはため息をつきながらも小さく笑った。
ルーナはなおも寝言をつぶやきながら、ガルドの腕に頬をすり寄せている。
そして、時折ふにゃっと笑うその表情は、まるで幸せそのものだった。
星空の下で交わした言葉と、焚き火のぬくもり。
そして、安心しきった寝顔のルーナ。
その夜、ガルドの胸にあった『孤独』の記憶は、少しだけ遠のいていった。
木々のざわめきも届かないほど静かで、水面はまるで鏡のように星空を映している。
風はなく、虫の声すら穏やかで、世界がひととき眠りについたような夜だった。
焚き火の炎が、パチパチと乾いた音を立てている。
そのそばに座るガルドは、火を見つめながら、ふと空を見上げた。
「……こんなに綺麗な星空、いつぶりだろうな」
向かい側に座るルージュは、やはり無表情のまま静かに夜空を見上げていた。
だが、その横顔はどこか柔らかく焚き火の灯りに照らされて淡く浮かんでいる。
しばらくの沈黙の後、ルージュがぽつりと口を開いた。
「ガルド様は……変わり始めております」
「……俺が?」
「はい。以前のガルド様は、ご自身を価値のない存在であると見なしていた。誰からも必要とされないと、自らを断じていた。しかし、今は違います」
ガルドは小さく息を飲む。
その言葉が、胸の奥の柔らかい部分を静かに叩いた。
「変わったというより……変わろうとしてる、って感じかもしれない」
「それで十分です。……ガルド様がガルド様として在ろうとする限り、私たちの誓いは揺るぎません」
その静かな言葉に、ガルドは少しだけ目を伏せた。
焚き火の赤い炎が瞳に映る。
「……あの頃は、本当に孤独だったんだ」
ぽつり、とこぼれたその言葉には過去の重みがにじんでいた。
「パーティーにいた時……居場所はあったはずなのに、誰にも声を届かせられなかった。ただ黙って、笑って、期待されないように振る舞って……役立たずって思われるくらいなら空気でいた方がマシだった」
そう言ったあと、ガルドは小さく笑った。
自嘲でもなく、懐かしむような、どこか遠い目をした笑みだった。
「でも、お前たちに会って……ああ、俺にも、ちゃんと『居ていい場所』があったんだって、思えたんだ」
その言葉に、焚き火の炎が静かに揺れる。
ルージュは目を細め、わずかに表情を緩めた。
それは感情をほとんど見せない彼にしては、かなり明確な“安堵”の表れだった。
だが、次の瞬間――彼はすっと立ち上がる。
「……わかりました、ガルド様。勇者たちを処しましょう」
「は?」
唐突すぎる発言に、ガルドは目を瞬かせた。
ルージュは本気の顔で、淡々と続ける。
「今すぐにでも王都へ向かい、かつて主様を排斥した不忠の者どもを――一人残らず、跡形もなく排除いたします。可能な限り苦痛を与える形で進めましょう。ご命令いただければ、速やかに」
「いやいやいやいやいや!? ちょっと待て、落ち着けルージュ!!」
ガルドが慌てて立ち上がり、ルージュの腕を止める。
彼の顔には心底「やめてくれ」の色が浮かんでいた。
「もういいから!もう過ぎたことだし!今の俺には、お前たちがいる。それで十分だから!」
「……そうですか。残念です」
ルージュはあからさまに納得していない顔で、しぶしぶ座り直した。
その背筋はどこか名残惜しそうだったが、ガルドの言葉に反論はしない。
彼にとって、それが『主命』であるなら――それが全てなのだ。
「我々は、ガルド様の元に在るべき存在です。ガルド様の傍以外に、我らが在る理由はありません」
その言葉は、誓いというより『理』のように語られていた。
忠誠ではなく、『在るべき場所』としての当然の在り方。
その想いが、ルージュの中では当たり前のように根付いている。
ガルドは肩の力を抜き、火のそばに転がっていた薪を一本、火にくべる。
ぱちん、と爆ぜた火の粉が、夜空に吸い込まれていった。
すると、ルーナが突然声を発する。
「……ごしゅじんさまぁぁ……にんじんはきらいですぅ……にんじんが……追いかけてくるぅ……」
突然、焚き火の横に寝袋ごと転がってきたのは、すやすや寝息を立てていたはずのルーナだった。
寝ぼけたまま、ガルドの腕にがしっとしがみつき顔をすり寄せる。
「むにゃ……あったかい……ご主人様は、にんじんじゃないから、すき……」
ガルドとルージュが思わず顔を見合わせた。
次の瞬間、ルージュはすっと立ち上がり、淡々とした声でつぶやいた。
「……ガルド様、これは……意図的な接触か、睡眠中の潜在意識の欲求によるものか確認が必要です」
「待て、ルージュ。寝ぼけてるだけだ。あとでちゃんと寝袋に戻してやるから、剣を抜くな」
「了解しました……剣の使用は見送ります」
ルージュが剣の柄から手を離すのを見て、ガルドはため息をつきながらも小さく笑った。
ルーナはなおも寝言をつぶやきながら、ガルドの腕に頬をすり寄せている。
そして、時折ふにゃっと笑うその表情は、まるで幸せそのものだった。
星空の下で交わした言葉と、焚き火のぬくもり。
そして、安心しきった寝顔のルーナ。
その夜、ガルドの胸にあった『孤独』の記憶は、少しだけ遠のいていった。
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