25 / 40
第3章 旅の始まりと穏やかな日常
第25話 小さな村の祭りと、ルーナの踊り
しおりを挟む
小高い丘を越えた先に、その村はあった。
名前もないような、小さな集落。
だがその日は、村全体がにぎやかな熱気に包まれていた。
彩り鮮やかな布が広場に張り巡らされ、あちこちに素朴な屋台と、村人たちの笑い声があふれていた。
「お祭り……みたいですね」
ガルドが目を丸くしながらそうつぶやくと、隣のルーナが目を輝かせて声を上げる。
「わぁ……すごいですご主人様!あっちに金魚がいますよ、金魚!そしてあっちは――屋台焼き菓子!?あれってお砂糖たっぷりでふわふわで……っ!」
すでに興奮気味のルーナの目線が、屋台から屋台へと跳ね回っている。
一方、ルージュは人混みに目を細めながら、落ち着いた口調で言った。
「ガルド様、警戒は怠らぬよう。人が集まる場には往々にして不審者や盗賊が紛れる可能性が……」
「まあまあ、今日はせっかくだし、ちょっとぐらい楽しんでもいいだろ?」
ガルドが笑って肩をすくめると、ルージュは小さく頷いた。
すると、声が聞こえた。
「そこのお兄さんたち、旅の方? よかったらお祭り楽しんでいってくれ!」
陽気な初老の男性が声をかけてきた。
村のまとめ役だというその人の話では、今日は年に一度の『豊穣祭』で、夜には踊りの奉納もあるという。
「……踊り……!」
その言葉に、ルーナが反応した。
「ご主人様……あの……わたし、踊ってみたいです!」
「え?」
ガルドは驚き、思わず二度見してしまった。
普段のルーナは甘え上手で、主にべったりな守りのスタイル。
それが自分から「人前に立ちたい」と言い出すなんて――めずらしい。
「この村の皆さん、すごく楽しそうで……私も、なにかできたらって思ったんです。ご主人様が笑ってくれるなら……私、がんばります!」
彼女の紅い瞳がまっすぐにガルドを見つめる。
その純粋な願いに、彼はこそばゆい思いを抱えながらも、微笑んで頷いた。
「……わかった。やってみよう。楽しんでこい、ルーナ」
「はいっ!」
ルーナは嬉しそうにくるくると一回転し、まるで本物の踊り子のように軽やかに走り去っていった。
その背中を見送ったガルドに、ルージュが静かに問う。
「ガルド様、照明と音響を調整しましょうか。群衆の視線を自然に誘導し、ルーナの存在感を最大限に引き出す演出も可能です」
「いや……お祭りだし、そういうのは……ほどほどにな?」
「承知しました。あくまで『自然に目立つ』方向で調整します」
「いや、だから自然にって……おいルージュ、今の顔、ちょっとやる気出てなかったか!?」
そんな軽口を交わしながら、夜が訪れる。
広場の中央。
焚き火の周囲に人々が輪を作り、その中でルーナは踊っていた。
村の借り物だという簡素な白い衣装をまとい、彼女はくるくると舞う。
紅い瞳と白銀の髪が炎の揺らぎに照らされ、まるで月下の精霊のように幻想的だった。
音楽は笛と太鼓だけの素朴なもの。
だが、ルーナの舞にはそれだけで十分だった。
「……すごいな」
ガルドがぽつりとつぶやく。
村の人々も皆、笑顔でルーナを見守っていた。
子供が手を叩き、大人たちが拍手を送る。
その中心にいるのは、かつて“魔王の器”と恐れられた少女。
今はただ、幸せそうに踊っている。
「……ああ、こういうの、いいな……」
ガルドの声に、隣のルージュも静かに頷く。
夜空の下、笑顔と拍手に包まれながら――ガルドは静かに思った。
(この旅の中で、もっといろんな『幸せ』に出会えたらいいな)
そう願いながら、ルーナの舞い続ける姿を、いつまでも見守っていた。
名前もないような、小さな集落。
だがその日は、村全体がにぎやかな熱気に包まれていた。
彩り鮮やかな布が広場に張り巡らされ、あちこちに素朴な屋台と、村人たちの笑い声があふれていた。
「お祭り……みたいですね」
ガルドが目を丸くしながらそうつぶやくと、隣のルーナが目を輝かせて声を上げる。
「わぁ……すごいですご主人様!あっちに金魚がいますよ、金魚!そしてあっちは――屋台焼き菓子!?あれってお砂糖たっぷりでふわふわで……っ!」
すでに興奮気味のルーナの目線が、屋台から屋台へと跳ね回っている。
一方、ルージュは人混みに目を細めながら、落ち着いた口調で言った。
「ガルド様、警戒は怠らぬよう。人が集まる場には往々にして不審者や盗賊が紛れる可能性が……」
「まあまあ、今日はせっかくだし、ちょっとぐらい楽しんでもいいだろ?」
ガルドが笑って肩をすくめると、ルージュは小さく頷いた。
すると、声が聞こえた。
「そこのお兄さんたち、旅の方? よかったらお祭り楽しんでいってくれ!」
陽気な初老の男性が声をかけてきた。
村のまとめ役だというその人の話では、今日は年に一度の『豊穣祭』で、夜には踊りの奉納もあるという。
「……踊り……!」
その言葉に、ルーナが反応した。
「ご主人様……あの……わたし、踊ってみたいです!」
「え?」
ガルドは驚き、思わず二度見してしまった。
普段のルーナは甘え上手で、主にべったりな守りのスタイル。
それが自分から「人前に立ちたい」と言い出すなんて――めずらしい。
「この村の皆さん、すごく楽しそうで……私も、なにかできたらって思ったんです。ご主人様が笑ってくれるなら……私、がんばります!」
彼女の紅い瞳がまっすぐにガルドを見つめる。
その純粋な願いに、彼はこそばゆい思いを抱えながらも、微笑んで頷いた。
「……わかった。やってみよう。楽しんでこい、ルーナ」
「はいっ!」
ルーナは嬉しそうにくるくると一回転し、まるで本物の踊り子のように軽やかに走り去っていった。
その背中を見送ったガルドに、ルージュが静かに問う。
「ガルド様、照明と音響を調整しましょうか。群衆の視線を自然に誘導し、ルーナの存在感を最大限に引き出す演出も可能です」
「いや……お祭りだし、そういうのは……ほどほどにな?」
「承知しました。あくまで『自然に目立つ』方向で調整します」
「いや、だから自然にって……おいルージュ、今の顔、ちょっとやる気出てなかったか!?」
そんな軽口を交わしながら、夜が訪れる。
広場の中央。
焚き火の周囲に人々が輪を作り、その中でルーナは踊っていた。
村の借り物だという簡素な白い衣装をまとい、彼女はくるくると舞う。
紅い瞳と白銀の髪が炎の揺らぎに照らされ、まるで月下の精霊のように幻想的だった。
音楽は笛と太鼓だけの素朴なもの。
だが、ルーナの舞にはそれだけで十分だった。
「……すごいな」
ガルドがぽつりとつぶやく。
村の人々も皆、笑顔でルーナを見守っていた。
子供が手を叩き、大人たちが拍手を送る。
その中心にいるのは、かつて“魔王の器”と恐れられた少女。
今はただ、幸せそうに踊っている。
「……ああ、こういうの、いいな……」
ガルドの声に、隣のルージュも静かに頷く。
夜空の下、笑顔と拍手に包まれながら――ガルドは静かに思った。
(この旅の中で、もっといろんな『幸せ』に出会えたらいいな)
そう願いながら、ルーナの舞い続ける姿を、いつまでも見守っていた。
0
あなたにおすすめの小説
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
周りが英雄職なのに俺だけが無職の冒険者 ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~
咲良喜玖
ファンタジー
冒険者ルルロアの大冒険です
以前のものを少々作り直しました。
基本の話は同じですが、第三部から展開が違います。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる