追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

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第3章 旅の始まりと穏やかな日常

第25話 小さな村の祭りと、ルーナの踊り

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 小高い丘を越えた先に、その村はあった。

 名前もないような、小さな集落。
 だがその日は、村全体がにぎやかな熱気に包まれていた。
 彩り鮮やかな布が広場に張り巡らされ、あちこちに素朴な屋台と、村人たちの笑い声があふれていた。

「お祭り……みたいですね」

 ガルドが目を丸くしながらそうつぶやくと、隣のルーナが目を輝かせて声を上げる。

「わぁ……すごいですご主人様!あっちに金魚がいますよ、金魚!そしてあっちは――屋台焼き菓子!?あれってお砂糖たっぷりでふわふわで……っ!」

 すでに興奮気味のルーナの目線が、屋台から屋台へと跳ね回っている。
 一方、ルージュは人混みに目を細めながら、落ち着いた口調で言った。

「ガルド様、警戒は怠らぬよう。人が集まる場には往々にして不審者や盗賊が紛れる可能性が……」
「まあまあ、今日はせっかくだし、ちょっとぐらい楽しんでもいいだろ?」

 ガルドが笑って肩をすくめると、ルージュは小さく頷いた。
 すると、声が聞こえた。
 
「そこのお兄さんたち、旅の方? よかったらお祭り楽しんでいってくれ!」

 陽気な初老の男性が声をかけてきた。
 村のまとめ役だというその人の話では、今日は年に一度の『豊穣祭』で、夜には踊りの奉納もあるという。

「……踊り……!」

 その言葉に、ルーナが反応した。

「ご主人様……あの……わたし、踊ってみたいです!」
「え?」

 ガルドは驚き、思わず二度見してしまった。

 普段のルーナは甘え上手で、主にべったりな守りのスタイル。
 それが自分から「人前に立ちたい」と言い出すなんて――めずらしい。

「この村の皆さん、すごく楽しそうで……私も、なにかできたらって思ったんです。ご主人様が笑ってくれるなら……私、がんばります!」

 彼女の紅い瞳がまっすぐにガルドを見つめる。
 その純粋な願いに、彼はこそばゆい思いを抱えながらも、微笑んで頷いた。

「……わかった。やってみよう。楽しんでこい、ルーナ」
「はいっ!」

 ルーナは嬉しそうにくるくると一回転し、まるで本物の踊り子のように軽やかに走り去っていった。
 その背中を見送ったガルドに、ルージュが静かに問う。

「ガルド様、照明と音響を調整しましょうか。群衆の視線を自然に誘導し、ルーナの存在感を最大限に引き出す演出も可能です」
「いや……お祭りだし、そういうのは……ほどほどにな?」
「承知しました。あくまで『自然に目立つ』方向で調整します」
「いや、だから自然にって……おいルージュ、今の顔、ちょっとやる気出てなかったか!?」

 そんな軽口を交わしながら、夜が訪れる。

 広場の中央。
 焚き火の周囲に人々が輪を作り、その中でルーナは踊っていた。
 村の借り物だという簡素な白い衣装をまとい、彼女はくるくると舞う。
 紅い瞳と白銀の髪が炎の揺らぎに照らされ、まるで月下の精霊のように幻想的だった。
 音楽は笛と太鼓だけの素朴なもの。
 だが、ルーナの舞にはそれだけで十分だった。

「……すごいな」

 ガルドがぽつりとつぶやく。

 村の人々も皆、笑顔でルーナを見守っていた。
 子供が手を叩き、大人たちが拍手を送る。
 その中心にいるのは、かつて“魔王の器”と恐れられた少女。
 今はただ、幸せそうに踊っている。

「……ああ、こういうの、いいな……」

 ガルドの声に、隣のルージュも静かに頷く。

 夜空の下、笑顔と拍手に包まれながら――ガルドは静かに思った。

(この旅の中で、もっといろんな『幸せ』に出会えたらいいな)

 そう願いながら、ルーナの舞い続ける姿を、いつまでも見守っていた。
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