追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

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第3章 旅の始まりと穏やかな日常

第26話 旅の宿と、肩を並べる時間

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 街道沿いの小さな宿屋。
 木造の古びた建物だが、旅人には居心地のよさで評判らしい。
 受付を済ませたガルドたちは、夕食前にひとまず風呂を借りることにした。
 男女別ではあるものの、ルーナは当然のようにガルドに付いてくる。

「だ、だから、こっちは男湯だって……!?」
「えへへ、大丈夫ですよ。どうせ、私とご主人様の仲ですし~」

 そう言って、全く悪びれずにガルドの腕にぴったりくっつくルーナ。
 風呂の湯気よりも彼女の体温のほうが、よほど熱い気がする。

「……ガルド様、脱衣所の鍵は確認済みです。侵入者は排除しますので安心を」

 脱衣所の外からルージュの無機質な声が聞こえた。
 すでに全身を拭き終えたらしく、完璧に整った髪でタオル片手に警戒モードである。

(……いろいろツッコミどころ多すぎる)

 ガルドはタオルを被りながら、内心ため息をついた。

    ▽

 風呂上がり、三人は食堂で夕食を取った。
 粗食ながら温かく、香ばしい焼き魚や素朴なミソシルと言うスープが、胃にじんわり染みる。

「ふふ、やっぱり地元の味っていいですね。ご主人様、これもどうぞ」
「お、おいルーナ、自分の分もちゃんと食えよ」

 ルーナは自分の魚をほぐしてはガルドの皿に乗せ、にっこり微笑む。
 その笑顔は、どこまでも柔らかい。
 ルージュはというと、黙々と食事を進めながらも、時折ガルドの食器に目を向けていた。
 どこか「ガルド様の好みを記録中です」と言わんばかりの気配を漂わせている。

 そんな静かな時間が流れていく。

 食後――共同部屋に移り、三人は横並びで寝床に腰を下ろした。
 厚手の敷布団に大きな毛布。寝るには十分な設備だ。
 そして当然のように、ルーナがガルドの左腕にぴったりとくっついてきた。

「はぁ~……やっぱりご主人様の隣が、いちばん落ち着きます~」

 すりすりと頬を寄せる彼女に、ガルドはもう驚かなくなっていた。

「……最近、ちょっと慣れてきた自分が怖い」
「慣れてもらって大丈夫ですよ?ご主人様の隣は、私の指定席ですから♪」

 右側ではルージュがいつもの無表情で座っていたが、何気なくガルドの毛布の端を直したり、枕の位置を整えたり地味に『ガルド様ケア』を発揮している。

 ガルドはふと、天井を見上げながら小さく呟いた。

「……こうして、何気なく飯食って、風呂入って、寝る……そんなだけの時間だけどさ……前のパーティーじゃ、こんなの一度もなかった」

 その言葉に、ルーナがピクリと反応する。

「……」

「一緒に旅をしてたはずなのに、飯は各自、寝るのも別々、会話も仕事のことばっかで……。誰かと肩並べて『お疲れ』って言うことすらなかった。ずっと……空気みたいな存在だったんだ、俺」

 そこまで言って、自分でも言葉にして驚いたのか、少しだけ笑った。

 そのとき――ルーナの表情がすっと曇り、何かを決意したような声で言った。

「……ご主人様。皆殺しにしましょうか、。前のパーティーみんな、まとめて」

 あまりにも物騒な言葉が飛び出す。
 そして、ルージュもまた静かに続けた。

「ルーナに同意します。排除対象の特定は済んでおります。順に対応可能です」
「ちょっと待てお前ら!誰がそんなこと頼んだ!?」

 ガルドが慌てて手を振ると、ルーナがむくれた顔で言う。

「だってぇ……ご主人様が、そんなに寂しかったって聞いたら……ねぇ?許せませんよ、そんな人たち」
「許す価値もありません」
「よくもご主人様を空気扱いしてくれたなぁーっ!」

 ガルドは額を押さえ、深いため息をついた。

「だからって、みなごろしはやめろ……」

 そんなやりとりのあと、ルーナがふいに表情を和らげ、そっとガルドの腕に抱きつく。
 ぎゅっとしがみつく力は、さっきの物騒な言葉よりもずっと優しく、温かかった。

「……でも、今が、ご主人様の本当の時間です」

 その声は、いつもより少しだけ真剣だった。
 彼女は瞳をまっすぐに見つめ、続ける。

「私と……お兄ちゃんと……そして、これから出会う誰かと一緒に作る時間が、ご主人様の人生なんです。だから……前のことなんて、思い出さなくていいんですよ」
「……ルーナ……」
「それに、私がいますから! ……ずーっと、ずっと隣にいますから。夜も昼も、朝もずっと!……えへへ、今夜も、腕枕してもらっても……いいですか?」

 頬を染めながら上目遣いで見つめるルーナに、ガルドは困ったように笑う。

「お前なあ……」
「だめですか?」
「……まあ、いっか」
「やったぁ♪」

 ルーナは嬉しそうに身を預け、まるで猫のように喉を鳴らす。
 一方、ルージュはといえば。

「……ガルド様の左側は、やはりルーナに譲るべきですね。では、私は背後の警戒を」
「……ルージュ、お前ももうちょっとリラックスしような?」
「警戒態勢の中でこそ安息が得られます。ガルド様の平穏のためには敵を十歩先で処するべきかと」
「だから処すな!」

 ガルドの苦笑とともに、宿の灯りが静かに落とされた。

 温かな布団の中、彼は心地よい体温と――ほんの少しの不安(主にルーナとルージュの暴走)に囲まれながら、ゆっくりと目を閉じる。
 今日も、穏やかな一日だった。
 それが、何よりの幸せだった。
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