追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

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第3章 旅の始まりと穏やかな日常

第27話 この旅路の、名もなき日々の尊さ

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 空は晴れ渡り、秋めいた風が野を渡る。
 陽光が緩やかに差し込む山道を、三つの影が並んで歩いていた。
 道端には野草が咲き、小鳥のさえずりが風に溶ける。

 今日という日は、特別な事件が起きることもなく――誰かを助けることも、魔物に襲われることもなく、ただ静かに、時だけが流れていった。

「ふぁあ……今日は静かですねぇ……」

 ルーナが背伸びをしながら、小さくあくびをこぼす。
 それは退屈ではなく、満ち足りたものを抱える者の仕草だった。

「こういう日も……悪くない」

 ガルドが小さく微笑むと、隣を歩くルージュが頷いた。

「……世界が静寂を保つ一日。それは、ある種の奇跡です」

 旅を始めてから、もう半日近くが経つ。
 数々の出会い、出来事、戦い――確かに刺激のある日々ではあった。
 だが、今日のように、何も起こらない日もある。
 午後には川辺で水を汲み、静かな林の中に野営の準備を整えた。
 焚き火に火が灯り、鍋の中で野菜がコトコトと煮える。

「今日はシチューです♪」

 ルーナが嬉しそうに木のスプーンをかき回す。
 火加減は完璧。
 野菜の甘みがゆっくりと溶け出していた。
 ガルドは火の前に腰を下ろし、ふと夜空を見上げる。
 星がちらほらと瞬き始め、やがて空を覆う天の川となる。

「……何もない一日、か」

 ポツリと、彼がつぶやいた。
 どこか感慨深そうなその声に、ルージュが静かに口を開く。

「名もなき一日を積み重ねることこそが、生の証明……我々はかつて、戦いと滅びの中に生きていました。だがガルド様のもとに在る今、こうしてただ一日を無事に終えるという行為に、価値を見出せる」
「ふふ……詩人みたいです、お兄ちゃん」

 ルーナがふわりと笑いながらガルドの隣に座る。
 彼の肩に頭を預け、ぽそりと囁いた。

「でも、ご主人様と一緒なら……どんな日だって、退屈なんかしません」
「……ルーナ」
「私は、ご主人様と歩けるなら、毎日こうでもいいんです。たとえご飯がにんじんばっかでも、雨に降られても、道に迷っても。ずっと、ずーっと一緒がいい」

 その無邪気な笑顔に、ガルドの胸がじんわりと温かくなる。
 彼女の言葉には、何の打算もない。
 ただ、素直な気持ちだけが込められていた。
 対するルージュはといえば、いつもと変わらず無表情なまま、焚き火の向こうから静かに言った。

「……明日もまた、ガルド様の隣に在る一日となりますように」
「……ああ。ありがとう、二人とも」

 ガルドはその言葉に深く頷いた。

 王都で『無能』と罵られ、追放され、全てを失ったあの日。
 何も持たずに外の世界に出た彼は、まさかこんな穏やかな時間に巡り会えるとは思っていなかった。
 誰かと食事を分け合い、焚き火を囲み、星空を見上げながら語り合う――それは、過去の勇者パーティーでは決して得られなかった普通の幸せだ。
 派手な戦いも、名声も、今の彼には必要なかった。
 今こうして、「何も起きない一日」を過ごせることこそ、何よりも尊い。

(……こういう日々が、ずっと続いてくれたらいいな)

 静かにそう願いながら、ガルドは焚き火の炎を見つめた。

 薪がはぜる音と、ルーナの小さな寝息。
 そして、ルージュの変わらぬ静かな気配。

 名もなき一日。
 だがそれは、確かに彼の人生を満たしていく。
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