追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

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第4章 錬金都市アラストと知り合いだと思いたくない知り合い

第30話 魔王の兄妹、街を歩く

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 錬金都市アラストの午後は、陽光に照らされてにぎやかだった。
 石畳の通りを、ガルドたち三人はゆっくりと歩いていた。
 通りの両脇には露店がずらりと並び、香辛料の香りや焼きたてのパンの匂いが鼻をくすぐる。

 ――だが。

 街の空気は、どこか引きつっていた。

「……ふふ、ご主人様。あのお店、すごくかわいいですね。あっちには帽子屋さんもありますよ」

 ルーナが無邪気な声で腕にしがみつく。
 彼女の白銀の髪は陽に透け、紅い瞳は輝くように美しい。

 通りすがりの子どもたちが、「きれいな人だ!」と目を輝かせる。
 だが、大人たちは違った。

 ――明らかに、視線が冷たい。

 誰も声をかけてこない。
 目が合えばすぐに視線を逸らされ、二歩三歩と距離を取られる。
 昨日まではなかったはずの空気の変化に、ガルドは薄々気づいていた。

「……ノランの噂が、広がってるな」

 ガルドがつぶやくと、ルージュが静かに頷く。

「確実に……危険因子を見たなどの根拠なき風評が、街の上層から流されている可能性が高いです」
「ほんっと嫌なやつですね、あの錬金野郎……私たちが危険って、どこがですか!」

 ルーナが頬をぷくりと膨らませる。
 だが、その声に反応したのか、近くにいた婦人が小さく肩をすくめて後ずさった。
 その様子を見たガルドは、胸の奥にじくりとした痛みを覚えた。
 彼女たちは、何もしていない。ただ街を歩いているだけなのに。

「……悪いな、ルーナ、ルージュ。俺が無理にこの街に来ようって言ったせいで」

 ガルドが眉を下げると、ルーナがすぐに首を振った。

「ちがいますっ!ご主人様は悪くありません……だから、落ち込まないでください」

 そう言って、彼女はガルドの手をぎゅっと握った。

「さあ、今日は美味しいご飯でも食べましょう?あっちにね、地元で人気って書いてあった料理屋さんがあるんです。おすすめは、とろける煮込みハーブ牛ですって♪」
「……とろける、だと……?」
「ふふっ。でしょ? 主様も絶対好きだと思いました」

 ルーナは小さく笑い、ガルドの手を引いて歩き出した。
 その後ろを、ルージュが静かに歩く。
 彼の紅い瞳は、周囲に向けられていた。

 どこか、目に見えない『違和感』を探るように、ルージュは立ち止まり空気の流れを読むように瞳を細めた。

「……妙ですね。この街に張られている結界がわずかに変調を起こしています。もともとは防御結界――外からの脅威を防ぐためのものでしたが……どうやら、別の目的に書き換えられつつあるようです」
「別の目的?」

 ガルドが眉をひそめる。

「特定の魔力を感知し、排除する――そういう仕組みに、段階的に変質しているようです」
「……つまり、俺たちを弾く結界に変えられてるってことか」

 ルージュは静かにうなずいた。

「はい。おそらく、我々を『異物』と判断させるように、結界の命令文が改ざんされている。技術的には錬金術師……特にこの都市の上層部にいる者の関与が濃厚です」
「……あー……なるほどな。ノランが関係してるってわけか。やれやれ……」

 ガルドは頭をかき、乾いた笑みを漏らした。

「結界まで使って排除しようってか……小細工好きだな、あいつ……」

 ガルドは、ルーナが笑顔で手を振って案内している姿を見て、苦笑した。
 この街で、あの兄妹に何かがあれば。
 怒り狂うのはルーナだし、静かに怒るのはルージュだ。
 その二人を抑えられるのは、世界広しといえど自分しかいないのだ。

(……さて、胃が痛くなってきたぞ)
「でも、今はいいや。せっかくルーナがご飯って誘ってくれたんだ。少しだけ……のんびりしても、罰は当たらないよな」

 そう言って、ガルドは二人のあとを追った。

 夕陽が、アラストの街並みに長く影を落とす。
 その光と影の中で、ささやかな幸せと、不穏な気配が交錯していた。
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