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事故
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「フェリシア様、フェリシア様!」
アンナが私を呼んでいる。
目を開けると心配そうな顔のアンナと
エミリがいた。
「ああ、フェリシア様!よかった。
目を覚まされて。ご気分はいかがですか?」
あのまま気を失ったのね。
ひどい目にあったわ。
接触してくるモノに遭遇するのは本当に
久しぶりだ。
アレに掴まれた足が痛い。
「もうじきゴードルに着きます。
そろそろ下船のためのお支度をしなければ
いけませんが……。
お体の方は大丈夫でしょうか?
もう少し、休まれてからにいたしますか?」
アンナがためらいがちに言う。
その顔では予定が押していそうね。
「大丈夫よ。やっぱり夜霧で体が冷えたの
がいけなかったのね。
モルトン卿の言う事をきけばよかったわ。
迷惑をかけてごめんなさいね。
もう平気よ。面倒をかけるけれど、
支度をお願いできるかしら?」
「はい、かしこまりました」
ホッとした顔のアンナとエミリ。
さあ、急がないとね?
ベッドから起き上がり足を下ろす。
「まあ、フェリシア様!足に痣が!」
エミリに言われて自分の左足首を見る。
くっきりと手の形をした痣ができている。
成る程。これのせいで痛かったのね。
「倒れた時にどこかにぶつけたのね。
目立つから包帯でも巻いてくれる?」
「これ手の形みたいで気味が悪いですね」
「エミリ!失礼ですよ!
すぐに湿布を貼って包帯を巻きましょう。
婚儀の前にお怪我をさせてしまって
申し訳ありません」
「ああ、平気よ。さ、急ぎましょう。
早く支度しないと。お迎えを待たせる訳に
はいかないのでしょう?」
「はい、慌ただしくて申し訳ありません。
それとこれを……」
「アンナが私にペンダントを差し出す。
フェリシア様の倒れられた時に側に落ちて
いたのを拾いました。
フェリシア様の物ですよね?」
銀の鎖に小さな青い石が嵌め込まれた
ペンダントトップ。私の物ではない。
でも、なぜか気になる。
思わず受け取りまじまじと見てしまう。
「さあ、急ぎましょう。まずはお着替え
からです!途中でご気分が悪くなったら
遠慮なくおっしゃって下さいね」
アンナの言葉にエミリが腕捲りをする。
物凄い勢いで私の支度に取りかかる二人に
気圧されてこのペンダントが私の物では
ないと言いそびれてしまった。
そのまま手に握りしめたままでいると、
アンナが他の宝飾品とともにしまいこん
しまった。
どうしよう。
なんだかとても急いでいる様子。
ペンダントの持ち主を探してくれとは
言い出しにくい。
仕方がない。お城に到着したら事情を
話して持ち主を探してもらおう。
それにしても必死な二人。
私が中々目を覚まさず予定が押して
しまったのだろう。申し訳ない。
慌ただしく下船すると迎えに来た馬車に
乗り込む。
馬車の両隣は護衛の騎士が固めて
くれている。馬車を先導する形で
モルトン卿ら船旅を共にした騎士達が
馬で走って行く。
馬車には私とアンナとエミリの三人。
馬車の窓からゴードルの景色を楽しむ。
大きな港町から離れ田園地域に入る。
「あら、川があるわ」
大きな川が見える。
「カドナ川です。あの川まで行ったら
休憩を取ります。
船から降りたら今度は馬車ですもの。」
お疲れでしょう?」
アンナがすまなそうに言う。
「大丈夫よ。知らない土地だから景色を
見ているだけで楽しいわ」
楽しいけれど、実はへとへとに疲れている
とは言えない。
馬車は立派な物で揺れも少ないとは思う。
このスピードにしては。
物凄い速さで駆け抜ける。
何でこんなに急いでいるのだろう。
遠くに見えていた川がどんどん近くなる。
馬車が止まった。
はぁ。やっと休憩だ。
昼食を兼ねての休憩と聞いている。
少しは休めるだろう。お腹がすいた。
はしたないが思わずお腹に手をやる。
「うふふ。お腹がすきましたね。
フェリシア様、すぐに支度をしますね」
エミリが笑う。
先にエミリとアンナが騎士の手を借りて
馬車を降りる。
昼の支度のために走って行く二人。
残された私も馬車を降りようとエスコート
のモルトン卿に手を伸ばす。
モルトン卿の手に私の手が触れる前に
馬車をひく馬達が大きく嘶く。
その瞬間がくんと自分の体が大きく揺れる。
馬車の壁に体をしたたか打ち付け、
床に投げ出される。
「きゃあ!!」
馬車に繋がれた馬が突然走り出す。
「フェリシア様!!」
私を呼ぶ声がする。
必死に座席にしがみつく。
馬車の扉は開いたままだ。
振り落とされたら外に投げ出される。
「止まれ!止まるんだ!!」
御者が必死で馬を止めようとしている。
ガタガタと大きく揺れながら悪路を
突っ走る。振り落とされる!
どんどん加速していく馬車。
「いやあぁぁ!!」
怖い!どうしたらいいの。
誰か助けて!
「フェリシア様!!」
モルトン卿の声が聞こえる。
追いかけてきてくれたの?
ほっとしたのも束の間。
ガタン!!一際大きな音と衝撃が
やって来る。
再び、馬車の壁に体をぶつける。
「っ!!」
突然の浮遊感。
今度は天井に体が衝突する。
落ちてる?!
馬の嘶きと御者の悲鳴。
衝突と共にザバン!!と水音が。
馬車の中に大量の水が入ってくる。
川に落ちた?!
沈んでいく馬車。
冷たい、苦しい。
駄目だ。早く馬車から出ないと!
必死で手をかく。
泳ぎは得意だが、ドレスが重い。
苦しい!溺れる。
なんとか沈む馬車から出る。
水面を目指し浮上しようとするが
逆にどんどん引き込まれるように川底に
体が沈んでいく。
右足を何かに引っ張られる。
何かが右足に絡みついている。
一体何が?
目を向けた瞬間水中で悲鳴を
上げそうになり、
一気に口の中に水が入ってくる。
いや、苦しい。やめて離して!
目玉のない落ち窪んだ孔が二つ。
私に向けられていた。
赤いドレスを着た女が私の右足にぶら
下がっている。
黒髪が右足に蛇のように絡まっている。
苦しい。駄目。もう……。
意識が朦朧とする中、反対の左足が
ぽうっと
青白く光るのが見える。
何?
女が嫌そうな顔で私から離れる。
女だけが沈んでいく。
『一人はいや……』
女の声が聞こえた。
その時ぐいっとと腕を引かれた。
誰かに抱き寄せられぐんぐん浮上する。
「ぶはぁ!!ゲホっ!ゲェ」
水面に出たが咳き込み、水を吐き
息ができない。
苦しい。思わず私を抱えて泳ぐ人に
しがみつきそうになるのを耐える。
駄目、今しがみついたらこの人も溺れる。
なるべく力を抜くようにする。
寒くて苦しい。
でも力強い腕に抱えられ、さっきまでの
恐怖はなかった。
キラキラと陽に照らされて輝く濡れた
銀の髪に見とれる。
きれい。
ぼんやりした意識。
抱き抱えられ。地面に下ろされる。
ゴツゴツした石の感触。痛い。
込み上げる嘔吐感。
ゲェゲェと水を吐いた。
「ゆっくり息を吸え」
背中を擦られる。促されるままゆっくり
息を吸う。中々呼吸が調わない。
「慌てるな。もっとゆっくり」
低い声で促される。
なんとか息ができるようになると
抱き上げられ運ばれる。
寒くてガチガチと歯が音をたてる。
「少し我慢しろ」
深い、深い青い瞳が私を見下ろしている。
この人は誰?
冷たく整った顔に見惚れる。
胸がきゅうきゅうと締め付けられる。
なんなのこれ?
「……あなたは?」
「リチャード・クロノス・ゴードル。
お前の夫だ」
夫……この方がリチャード様。
なんの抑揚もない冷たい声で
告げられた名前。
それきり口を開かずどんどん歩く
リチャード様。
寒さに震えながら思った。
なんだか分からない想い。
この方に好かれたい。
なぜだかそう思った。
アンナが私を呼んでいる。
目を開けると心配そうな顔のアンナと
エミリがいた。
「ああ、フェリシア様!よかった。
目を覚まされて。ご気分はいかがですか?」
あのまま気を失ったのね。
ひどい目にあったわ。
接触してくるモノに遭遇するのは本当に
久しぶりだ。
アレに掴まれた足が痛い。
「もうじきゴードルに着きます。
そろそろ下船のためのお支度をしなければ
いけませんが……。
お体の方は大丈夫でしょうか?
もう少し、休まれてからにいたしますか?」
アンナがためらいがちに言う。
その顔では予定が押していそうね。
「大丈夫よ。やっぱり夜霧で体が冷えたの
がいけなかったのね。
モルトン卿の言う事をきけばよかったわ。
迷惑をかけてごめんなさいね。
もう平気よ。面倒をかけるけれど、
支度をお願いできるかしら?」
「はい、かしこまりました」
ホッとした顔のアンナとエミリ。
さあ、急がないとね?
ベッドから起き上がり足を下ろす。
「まあ、フェリシア様!足に痣が!」
エミリに言われて自分の左足首を見る。
くっきりと手の形をした痣ができている。
成る程。これのせいで痛かったのね。
「倒れた時にどこかにぶつけたのね。
目立つから包帯でも巻いてくれる?」
「これ手の形みたいで気味が悪いですね」
「エミリ!失礼ですよ!
すぐに湿布を貼って包帯を巻きましょう。
婚儀の前にお怪我をさせてしまって
申し訳ありません」
「ああ、平気よ。さ、急ぎましょう。
早く支度しないと。お迎えを待たせる訳に
はいかないのでしょう?」
「はい、慌ただしくて申し訳ありません。
それとこれを……」
「アンナが私にペンダントを差し出す。
フェリシア様の倒れられた時に側に落ちて
いたのを拾いました。
フェリシア様の物ですよね?」
銀の鎖に小さな青い石が嵌め込まれた
ペンダントトップ。私の物ではない。
でも、なぜか気になる。
思わず受け取りまじまじと見てしまう。
「さあ、急ぎましょう。まずはお着替え
からです!途中でご気分が悪くなったら
遠慮なくおっしゃって下さいね」
アンナの言葉にエミリが腕捲りをする。
物凄い勢いで私の支度に取りかかる二人に
気圧されてこのペンダントが私の物では
ないと言いそびれてしまった。
そのまま手に握りしめたままでいると、
アンナが他の宝飾品とともにしまいこん
しまった。
どうしよう。
なんだかとても急いでいる様子。
ペンダントの持ち主を探してくれとは
言い出しにくい。
仕方がない。お城に到着したら事情を
話して持ち主を探してもらおう。
それにしても必死な二人。
私が中々目を覚まさず予定が押して
しまったのだろう。申し訳ない。
慌ただしく下船すると迎えに来た馬車に
乗り込む。
馬車の両隣は護衛の騎士が固めて
くれている。馬車を先導する形で
モルトン卿ら船旅を共にした騎士達が
馬で走って行く。
馬車には私とアンナとエミリの三人。
馬車の窓からゴードルの景色を楽しむ。
大きな港町から離れ田園地域に入る。
「あら、川があるわ」
大きな川が見える。
「カドナ川です。あの川まで行ったら
休憩を取ります。
船から降りたら今度は馬車ですもの。」
お疲れでしょう?」
アンナがすまなそうに言う。
「大丈夫よ。知らない土地だから景色を
見ているだけで楽しいわ」
楽しいけれど、実はへとへとに疲れている
とは言えない。
馬車は立派な物で揺れも少ないとは思う。
このスピードにしては。
物凄い速さで駆け抜ける。
何でこんなに急いでいるのだろう。
遠くに見えていた川がどんどん近くなる。
馬車が止まった。
はぁ。やっと休憩だ。
昼食を兼ねての休憩と聞いている。
少しは休めるだろう。お腹がすいた。
はしたないが思わずお腹に手をやる。
「うふふ。お腹がすきましたね。
フェリシア様、すぐに支度をしますね」
エミリが笑う。
先にエミリとアンナが騎士の手を借りて
馬車を降りる。
昼の支度のために走って行く二人。
残された私も馬車を降りようとエスコート
のモルトン卿に手を伸ばす。
モルトン卿の手に私の手が触れる前に
馬車をひく馬達が大きく嘶く。
その瞬間がくんと自分の体が大きく揺れる。
馬車の壁に体をしたたか打ち付け、
床に投げ出される。
「きゃあ!!」
馬車に繋がれた馬が突然走り出す。
「フェリシア様!!」
私を呼ぶ声がする。
必死に座席にしがみつく。
馬車の扉は開いたままだ。
振り落とされたら外に投げ出される。
「止まれ!止まるんだ!!」
御者が必死で馬を止めようとしている。
ガタガタと大きく揺れながら悪路を
突っ走る。振り落とされる!
どんどん加速していく馬車。
「いやあぁぁ!!」
怖い!どうしたらいいの。
誰か助けて!
「フェリシア様!!」
モルトン卿の声が聞こえる。
追いかけてきてくれたの?
ほっとしたのも束の間。
ガタン!!一際大きな音と衝撃が
やって来る。
再び、馬車の壁に体をぶつける。
「っ!!」
突然の浮遊感。
今度は天井に体が衝突する。
落ちてる?!
馬の嘶きと御者の悲鳴。
衝突と共にザバン!!と水音が。
馬車の中に大量の水が入ってくる。
川に落ちた?!
沈んでいく馬車。
冷たい、苦しい。
駄目だ。早く馬車から出ないと!
必死で手をかく。
泳ぎは得意だが、ドレスが重い。
苦しい!溺れる。
なんとか沈む馬車から出る。
水面を目指し浮上しようとするが
逆にどんどん引き込まれるように川底に
体が沈んでいく。
右足を何かに引っ張られる。
何かが右足に絡みついている。
一体何が?
目を向けた瞬間水中で悲鳴を
上げそうになり、
一気に口の中に水が入ってくる。
いや、苦しい。やめて離して!
目玉のない落ち窪んだ孔が二つ。
私に向けられていた。
赤いドレスを着た女が私の右足にぶら
下がっている。
黒髪が右足に蛇のように絡まっている。
苦しい。駄目。もう……。
意識が朦朧とする中、反対の左足が
ぽうっと
青白く光るのが見える。
何?
女が嫌そうな顔で私から離れる。
女だけが沈んでいく。
『一人はいや……』
女の声が聞こえた。
その時ぐいっとと腕を引かれた。
誰かに抱き寄せられぐんぐん浮上する。
「ぶはぁ!!ゲホっ!ゲェ」
水面に出たが咳き込み、水を吐き
息ができない。
苦しい。思わず私を抱えて泳ぐ人に
しがみつきそうになるのを耐える。
駄目、今しがみついたらこの人も溺れる。
なるべく力を抜くようにする。
寒くて苦しい。
でも力強い腕に抱えられ、さっきまでの
恐怖はなかった。
キラキラと陽に照らされて輝く濡れた
銀の髪に見とれる。
きれい。
ぼんやりした意識。
抱き抱えられ。地面に下ろされる。
ゴツゴツした石の感触。痛い。
込み上げる嘔吐感。
ゲェゲェと水を吐いた。
「ゆっくり息を吸え」
背中を擦られる。促されるままゆっくり
息を吸う。中々呼吸が調わない。
「慌てるな。もっとゆっくり」
低い声で促される。
なんとか息ができるようになると
抱き上げられ運ばれる。
寒くてガチガチと歯が音をたてる。
「少し我慢しろ」
深い、深い青い瞳が私を見下ろしている。
この人は誰?
冷たく整った顔に見惚れる。
胸がきゅうきゅうと締め付けられる。
なんなのこれ?
「……あなたは?」
「リチャード・クロノス・ゴードル。
お前の夫だ」
夫……この方がリチャード様。
なんの抑揚もない冷たい声で
告げられた名前。
それきり口を開かずどんどん歩く
リチャード様。
寒さに震えながら思った。
なんだか分からない想い。
この方に好かれたい。
なぜだかそう思った。
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