血まみれの王妃は冷酷王の愛を乞う

斑猫

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懐妊

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あの新月の夜から二ヶ月。
体調を崩し未だに私はベッドの住人だ。

あの後、私は王に抱かれ城へと戻って
来たらしい。
通常なら夜明けとともに司祭や神官達が
月神殿に繋がれた王を迎えに来る手はず
だった。

だが今回は夜明けとともに王が私を抱き上げ
徒歩で大手門に戻ってきたのを
見張りの兵が見つけた。

王は私のショールを腰に巻きつけた
だけで全裸。
私は血まみれの夜着姿。
年初めの新月の生還者。

上へ下へと大騒ぎとなった。
本当に国王夫妻なのか。
いや、本当に魔物でなく人間なのか。
疑う者すらいたようだ。

王の人面瘡は抱き上げた私の体で隠れて
いて人目には触れていない。
その事に安堵する。


司祭様や神官達が慌ててやって来て
私達を保護した。

粘液だらけで血まみれの私達。
すぐに医師が呼ばれ診察を受ける。
王も私も屋外で激しい行為に及んだために
いたるところに擦り傷が出来ていたし
何よりも疲れきっていて発熱もあった。

そのまま二人とも寝込む事になる。
王は新月の後はいつも一週間ほど
寝込むので、そのつもりですでに予定が
組まれており混乱はない。
そして確かに一週間で公務へと復帰した。

問題は私だ。
高い熱は一週間ほどで下がったが、
いつまでも微熱が続き食べ物を胃が
受け付けない。

果実水を薄めたものや薄い味付けの
スープを少しずつ飲み。
薄切りにした果物を時間をかけてひと切れ
ふた切れ何とか食べて命を繋いでいる。

アンナもエミリも心配そうに私に付き添う。

私の意識が戻った時、アンナは新月の夜に
外に出るなど自殺行為だと泣いて怒った。

だがエミリは静かに微笑むだけだった。
エミリにはまだお姉様の事は聞いていない。
ただ短剣は役にたったと礼だけを言った。
エミリも何も語らずただ頭を下げられた。

月神の剣は今はまた布でくるまれ
私の枕元に置いてある。

もう少し食べないとお腹の子が育たない。
けれど無理をすると吐き戻してしまう。
皆にはまだ言っていないが私の長引く
体調不良はおそらく悪阻だろう。

月のものが二月来ていない。
それにあの夜に確かに別の命を感じた。
間違いない。
ただあまりにも早すぎて懐妊の事を
言い出せなかった。

今日はいつもより熱が高い。
うつらうつらと眠ってばかりいる。
ふと目が覚めるとベッドの側の椅子に
王が座って書類に目を通していた。

いつもならアンナかエミリが座っている
椅子に王が……。
あの夜から一度も会っていない。
二月ぶりに見る王の顔。

王が書類から視線を私へと移す。

……何を言われるのだろう……怖い。
神事とはいえ鎖で拘束された王を
無理矢理凌辱した。
罵られるようなひどい事をした自覚はある。
でも……この人に嫌われるのはつらい。

緊張して王が口を開くのを待つ。

「悪阻がひどそうだな。何か食べたい物は
あるか?それ以上痩せると死ぬぞ。
それとも死にたいのか?」

王の口から出たのは私の体調を気づかう
言葉だった。
悪阻……王は私が身籠った事を知って?

「フェリシア……産むつもりか?
どんな子供が生まれてくるか分からないぞ」

「どんな子供でも私の子です。私と王の。
絶対に産みます。産ませて下さい!」

駄目よ。取り上げないで。
私の子よ。王と私の子供。
それにこの子を産まなければ来年の新月には
また御使いがやって来てしまう。
王にまたあんな事をさせられない。
私は両手でお腹を押さえる。


「そうか……産んでくれるのか。そうか。
……ならもう少し頑張って食べないとな。
フェリシア、口を開けろ」

言われた通り口を開けると口の中に何か
柔らかくて甘い物を放りこまれた。

……美味しい。なに?これ。
さっと口の中で溶けるように消えた。
爽やかな酸味とくどくない甘さ。
果物っぽいけど……お菓子かしら?

「南方の果物の砂糖漬けだ。柔らかくて
滋養があるそうだ。
病人によく食べさせると聞いたので
取り寄せた。どうだ食べられそうか?」

「……はい。美味しいです。とても……」

王が優しい。
もっと冷たい態度をとられると思っていた。
子供の事をどう切りだそうかと思っていた。
なのに……。

「触れて……いいか?」

え?私に?大丈夫?嫌なのではなくて?
戸惑う私に王が手を伸ばしてくる。

頬を撫で親指で私の唇をそっとなぞる。
優しく触れてくる王の指にドキドキする。

「あの夜……初めてのフェリシアに
無理な事をさせてしまった。すまなかった」

王が私に詫びる。
なぜ?ひどい事をしたのは私なのに。

「巫覡として事をおさめてくれたのだろう。
だが屋外であのような……本当にすまない。
しかも子供まで……」

「陛下、謝らないで下さい!私が望んで
した事です。あんな事、いつまでも続けて
いたら死んでしまいます。
追い討ちをかけるように襲ってしまって
私の方こそ、すみませんでした」

「いや、その……俺は目茶苦茶気持ちが
良かったので謝られてもな。フェリシア
こそ人面瘡にまで舐め回されて……。
今度こそ俺が嫌になったろう?」

「あれは……はい。かなり驚きましたけど。
気持ちは……その……良かったですよ?」

王の青い瞳が大きく見開かれる。
信じられないものを見るように驚いた
顔の王に私が困る。

どうしよう。変な事を言った?
でも確かに気持ち良かった。
どうしよう。変な性癖に目覚めたら。
色々な場所を長い舌で同時に責められる。
思い出してゾクゾクする。
あれはあっけなくすぐに達する。

「……気持ち良かったのか。そうか!」

ものすごいうれしそうな顔で王が笑う。
……この人の笑顔は二度と見られないと
諦めていた。
でもこんなにうれしそうに笑う。

人面瘡に舌責めされて喜ぶような
特殊性癖を持っていて良かった。

王に抱き寄せられる。

「大事にする。ずっと側にいてくれるか?」

王が真剣な顔で私に尋ねる。

「お側にいてよいのならいつまでも」

私がそう答えると王が私を抱き寄せ
私のお腹に手をあてる。
優しい声でお腹の子に声をかける。

「早く生まれて来い。お前がどんな化物
でも父も母も楽しみに待っているぞ?
な?フェリシア?」

「はい。生まれるのが待ちどおしいです」

王が私に顔を近づける。
重なる唇。
優しく入ってくる舌。
とても幸せな気分だ。

『オ・レ・モ・キ・スシタイ~』

私は王の胸から聞こえる人面瘡の声を
完全に無視して甘い王との口付けに
酔いしれた。



















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