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司祭
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「私を娶るように進言し議会を動かしたのは
あなたでしたか」
私と王の黒歴史。ずぶ濡れの婚姻式に
立ち合ってくれた司祭様。
私の体調が落ち着いたのを見計らって
私を訪ねてやって来た。
エミリの話ではこの司祭様が王の次の
花嫁として私の名を上げたのだという。
当然、儀式絡みだろう。
何せこの方は海神神殿と月神殿の司祭を
兼任されている。
嫌な話の前に少しでも食べ物を
胃に入れよう。
お茶菓子代わりに最近すっかり
私の栄養源となった南方の果物を
口に入れる。
爽やかな酸味と甘さにうっとりする。
悪阻の時期を何とか乗りきり
ようやく食欲が戻って来た。
王が南方から取り寄せてくれたこの
果物の砂糖漬けは不思議と食べられ
これのお陰でつらい悪阻を乗りきれた
ようなものだ。
後で知ったがこれは大変高価で貴重なもの
らしい。なのに今でも私の部屋には普通に
常備してある。
なんだか申し訳ない。
貧乏小国の王族の生まれのせいか
高価で貴重という言葉に弱い。
子供のためだと思え気にするなと王が言う。
なので高価で貴重な果物を今もせっせと
食べながら司祭様に話しかけた。
「ええ。もしかしたらエーギルの巫女姫様
ならば海神様のお怒りを鎮められるかもと
一縷の望みを持ってお迎えしました。
それに怪異に慣れたお方なら、
陛下の人面瘡にも他の姫君よりは
堪えられるのではと思いまして。
あの婚姻式は肝を冷やしましたが
今では仲睦まじくていらっしゃる。
思った以上のご縁でした。
本当にありがとうございます」
司祭様が私に頭を下げる。
ごめんなさい。エーギルの巫女姫と言っても
前にへっぽこがつくわ。
私の巫覡の才はたかが知れている。
頭なんて下げないで。
今回は月神の剣が手元にあったから
何とかなったに過ぎない。
私の母国は造船と海神神殿の国エーギル。
エーギルの海神神殿は周辺国に
強い影響力を持つ。
自然災害の予知や鎮めの儀式を行う
巫覡が沢山いる。
私の母はその神殿の神殿長を務める
巫女だった。
神降ろしの巫女姫と呼ばれていたそう。
今では私の姉がその神殿長を務める。
エーギルは王族よりもこの神殿長の方が
地位が高い。
お姉様は国内の貴族と結婚したが
未だにこの神殿長として君臨している。
事実上の国の支配者だ。
私は母よりも国王である父の血が
濃いのだろう。
大した力は受け継がなかった。
それでも神殿には長い間巫女として
仕えて来たのだ。
力はないが知識はある。
海神様の御使い。
長い間王を苦しめて来た悪夢。
終わらせる事ができて本当に良かった。
「それで海神様との契約は一体何が報酬
だったのですか?対価を払う前に報酬を
受けとる。一番危ない契約です。
約束を違えた場合の神の祟りは凄惨です。
しかも長い間、放置しましたね?
丸投げされる方の身にもなって下さい。
王は一体、いつからあのような目に
あわされてきたのですか?」
そう。これだけは聞いておきたい。
一体なぜ?
司祭様の顔色は悪い。
「津波です。津波から港を守るためでした。
五代前の国王の御世、大きな地震の後で
巨大な津波が押し寄せました。
とっさに王は海神様に祈りを捧げた。
何を引きかえにしてもいい。
津波からこの地を守ってくれと」
「その王は巫覡の才がありましたね。
祈りだけで神降ろしをするなんて」
成る程。報酬の先取りは仕方がない。
自然災害から国を守ったのか。
でも対価は?
「津波は一瞬で消え去り。凪いだ海から
最初の御使いが上がって来ました。
お前の血筋の者と御使いとの間に子を成せと
王に迫りました。
青黒い触手を何本もうねらせる化物。
王には王女が一人だけ。
王女は他国へ逃げました」
最低~!一番してはいけない事を
やらかした。
対価の踏み倒し。しかも大津波を鎮める
なんて桁違いの神力を使わせておいて。
「他国へ逃げた王女はその地で結婚。
生まれた子供を呼び寄せ世継ぎとして
次の王としました。ですが年初めの新月に
御使いは必ずやって来る。
武力では神は追い払えず。
困った王は月神殿を頼りました」
「神を武力で……なんて愚かな。
大体、なぜ月神殿に頼るの海神様よ?
海神神殿になぜ頼らないの」
「もはや海神様自体が恐怖の対象だった
からではないでしょうか。
月神殿の司祭は海神様の神器を
どこからか手に入れ儀式を行いました。
あの化物のような御使いと人が交わるのは
無理だと……神器を使い御使いをその身に
宿し、王族と交わり子を成す。
けれど儀式は失敗しました。
神降ろしに失敗し、月神殿の神官は
海神の祟りですべて死にました」
「あの仮面の神器は欠損していたわ。
男神の仮面の瞳がなかったの。
神が降りる訳がない。それで契約が
歪んだのね。王族が御使いと交わっても
子を授からず、凌辱だけが続く。
悪夢の始まりだわ」
「ええ。リチャード様の側近である
カインがその事に気づいたのです。
仮面の石を探して儀式を正常に戻そうと。
海神様の神器はどこに行っても必ず
エーギルへと還ると言われています。
カインはエーギルへと向かい……
船の事故で亡くなりました」
カインはエーギルで青い石を手に入れ
ゴードルへ戻る所で死んだ。
無念だったでしょうね。
だからゴードルへリチャード様に嫁ぐ
巫覡の私に接触して来たのね。
死してなおリチャード様のために。
青い石を私に託した。
私はそっと左足首に巻いた包帯の上から
人面瘡を撫でた。
あなたでしたか」
私と王の黒歴史。ずぶ濡れの婚姻式に
立ち合ってくれた司祭様。
私の体調が落ち着いたのを見計らって
私を訪ねてやって来た。
エミリの話ではこの司祭様が王の次の
花嫁として私の名を上げたのだという。
当然、儀式絡みだろう。
何せこの方は海神神殿と月神殿の司祭を
兼任されている。
嫌な話の前に少しでも食べ物を
胃に入れよう。
お茶菓子代わりに最近すっかり
私の栄養源となった南方の果物を
口に入れる。
爽やかな酸味と甘さにうっとりする。
悪阻の時期を何とか乗りきり
ようやく食欲が戻って来た。
王が南方から取り寄せてくれたこの
果物の砂糖漬けは不思議と食べられ
これのお陰でつらい悪阻を乗りきれた
ようなものだ。
後で知ったがこれは大変高価で貴重なもの
らしい。なのに今でも私の部屋には普通に
常備してある。
なんだか申し訳ない。
貧乏小国の王族の生まれのせいか
高価で貴重という言葉に弱い。
子供のためだと思え気にするなと王が言う。
なので高価で貴重な果物を今もせっせと
食べながら司祭様に話しかけた。
「ええ。もしかしたらエーギルの巫女姫様
ならば海神様のお怒りを鎮められるかもと
一縷の望みを持ってお迎えしました。
それに怪異に慣れたお方なら、
陛下の人面瘡にも他の姫君よりは
堪えられるのではと思いまして。
あの婚姻式は肝を冷やしましたが
今では仲睦まじくていらっしゃる。
思った以上のご縁でした。
本当にありがとうございます」
司祭様が私に頭を下げる。
ごめんなさい。エーギルの巫女姫と言っても
前にへっぽこがつくわ。
私の巫覡の才はたかが知れている。
頭なんて下げないで。
今回は月神の剣が手元にあったから
何とかなったに過ぎない。
私の母国は造船と海神神殿の国エーギル。
エーギルの海神神殿は周辺国に
強い影響力を持つ。
自然災害の予知や鎮めの儀式を行う
巫覡が沢山いる。
私の母はその神殿の神殿長を務める
巫女だった。
神降ろしの巫女姫と呼ばれていたそう。
今では私の姉がその神殿長を務める。
エーギルは王族よりもこの神殿長の方が
地位が高い。
お姉様は国内の貴族と結婚したが
未だにこの神殿長として君臨している。
事実上の国の支配者だ。
私は母よりも国王である父の血が
濃いのだろう。
大した力は受け継がなかった。
それでも神殿には長い間巫女として
仕えて来たのだ。
力はないが知識はある。
海神様の御使い。
長い間王を苦しめて来た悪夢。
終わらせる事ができて本当に良かった。
「それで海神様との契約は一体何が報酬
だったのですか?対価を払う前に報酬を
受けとる。一番危ない契約です。
約束を違えた場合の神の祟りは凄惨です。
しかも長い間、放置しましたね?
丸投げされる方の身にもなって下さい。
王は一体、いつからあのような目に
あわされてきたのですか?」
そう。これだけは聞いておきたい。
一体なぜ?
司祭様の顔色は悪い。
「津波です。津波から港を守るためでした。
五代前の国王の御世、大きな地震の後で
巨大な津波が押し寄せました。
とっさに王は海神様に祈りを捧げた。
何を引きかえにしてもいい。
津波からこの地を守ってくれと」
「その王は巫覡の才がありましたね。
祈りだけで神降ろしをするなんて」
成る程。報酬の先取りは仕方がない。
自然災害から国を守ったのか。
でも対価は?
「津波は一瞬で消え去り。凪いだ海から
最初の御使いが上がって来ました。
お前の血筋の者と御使いとの間に子を成せと
王に迫りました。
青黒い触手を何本もうねらせる化物。
王には王女が一人だけ。
王女は他国へ逃げました」
最低~!一番してはいけない事を
やらかした。
対価の踏み倒し。しかも大津波を鎮める
なんて桁違いの神力を使わせておいて。
「他国へ逃げた王女はその地で結婚。
生まれた子供を呼び寄せ世継ぎとして
次の王としました。ですが年初めの新月に
御使いは必ずやって来る。
武力では神は追い払えず。
困った王は月神殿を頼りました」
「神を武力で……なんて愚かな。
大体、なぜ月神殿に頼るの海神様よ?
海神神殿になぜ頼らないの」
「もはや海神様自体が恐怖の対象だった
からではないでしょうか。
月神殿の司祭は海神様の神器を
どこからか手に入れ儀式を行いました。
あの化物のような御使いと人が交わるのは
無理だと……神器を使い御使いをその身に
宿し、王族と交わり子を成す。
けれど儀式は失敗しました。
神降ろしに失敗し、月神殿の神官は
海神の祟りですべて死にました」
「あの仮面の神器は欠損していたわ。
男神の仮面の瞳がなかったの。
神が降りる訳がない。それで契約が
歪んだのね。王族が御使いと交わっても
子を授からず、凌辱だけが続く。
悪夢の始まりだわ」
「ええ。リチャード様の側近である
カインがその事に気づいたのです。
仮面の石を探して儀式を正常に戻そうと。
海神様の神器はどこに行っても必ず
エーギルへと還ると言われています。
カインはエーギルへと向かい……
船の事故で亡くなりました」
カインはエーギルで青い石を手に入れ
ゴードルへ戻る所で死んだ。
無念だったでしょうね。
だからゴードルへリチャード様に嫁ぐ
巫覡の私に接触して来たのね。
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