血まみれの王妃は冷酷王の愛を乞う

斑猫

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司祭2

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「御使いをお慰めするお役目は過酷です。
王族同士で押しつけあい、結局は力の弱い
者に矛先が向く。
リチャード様の父君である先代の国王陛下
もまた幼い頃から御使いのお相手を
務めた方でした。
母君の身分が低い立場の弱い王子。
父王が亡くなるとそれまで押さえつけら
れていた怒りが爆発したのです。
国のために犠牲になった者こそ王位に
つくべきだと王太子を始め、上位にいる
王位継承者をことごとく誅殺された」

「そして誰もいなくなった。
リチャード様以外の子を成せる王族が。
眩暈がしそうな話だわ」

「それで?お姉様はなんと?」

「は?」

「とぼけなくてもいいわ。エミリとあなたは
お姉様の配下の者でしょう?
おかしいと思ったのよ。
最新鋭の戦艦の賠償金。国に払えなくとも
神殿には払えるもの。
最初から私を送りこんで御使いの子を
宿させるのが目的だったのね。
ご丁寧に国宝である月神の剣までつけて。
それで目的を果たした今。
姉は何と言っているのかしら?」

だまり込む司祭。
これだから信仰は厄介だ。
国よりも神を選ぶ。

「戻って来いと仰せです。リズボン様が
迎えに来られます。フェリシア様の功績で
海神様との契約は完了。
リチャード様はこれで苦しみから解放
されました。賠償金分の働きは十分した。
帰っておいで……だそうです。
残念です。せっかく仲の良いご夫婦に
なられたのに……」

リズボンね?
私の元婚約者だ。
彼は知っていたのかもね。だから一緒に
逃げようと言ってくれたのかも。
どちらにしても……はあ。
私はお腹をそっと撫でる。

「お姉様に迎えは無用と伝えてくれる?」

「それは……よろしいのですか?」

司祭が目を見張る。
よろしいも何もないでしょう。
私の気持ちを無視し過ぎだ。
それに……この子は道具じゃないの。
生まれて来るのを楽しみに待っている
父親もいる。

どんな化物でもと王は言った。
人面瘡の事で化物扱いされ孤独な王。
愛されなかったのに。
ちゃんと人を愛せるすごい人だ。


不愉快だ。
駒にされるのも私が従順に従うと思われて
いる事も。
──王との仲を裂かれるなんて。
姉を嫌いになりそうだ。
それに大それた事を……。
神を手に入れようだなんて。
なんて罰当たりな。

「エーギルの神殿長に伝えなさい。
わきまえろと。すでに神殿が頂点ではない。
あなたもどちらにつくべきか考えなさい」

「リチャード様と添い遂げられますか。
……そうですか。そうですか。はは!
それはよろしゅうございました。
私が結んだ婚姻です。
みすみす壊されるのは忍びなかった」


おや、この司祭。
神より国をとるのか。それは重畳。

エーギルとは距離を置かねばならない。
もう、私はゴードルの王妃だ。
もう二度と踏むことのない故郷に
思いを馳せる。

私はこの地で生きていく。
王……リチャード様と。
そしてお腹の中の愛しい我が子とともに。





「良かったのか?」

司祭を見送り冷めたお茶をすすると
隠し通路から王が現れる。
王の姿を見た瞬間、ほっとする。

そう。あの司祭は首が繋がった。
もし無理にでも私にエーギルへの帰国を
勧めるのなら目せしめとして
首をはねるつもりだった。

「良かったのかとは?」

「国に帰らなくても良かったのかと
聞いている。もしも帰りたいのならば……」

「怒りますよ?」

「……悪かった。でも俺はうれしい。
お前が残ってくれて……幸せだ」

本当にうれしそうに笑うリチャード様。
愛しい。
王は私を引き寄せると背後から抱きすくめ
つむじに口付ける。
くすぐったい。

「リチャード様」

「名を呼ばれるのがこんなにうれしいとは
思わなかったな。何だフェリシア?」

「後ろからは嫌です」

「は?……そうなのか?なら上になるか?
初めての時はお前が上だったしな。
俺はどちらでもいいぞ?」

この特殊性癖持ちが!
妊娠も安定期に入り医師から閨の許可が
下りたので床を共にし始めた。

でも、すぐに後ろからしたがる王。
だから後ろからは嫌ですって。

何で普通に組敷いてくれないのだろう。

「後ろからなら場所を選ばない。
今すぐに繋がれる。待てないんだ」

そう言いながら私の胸元に後ろから手を
差し入れてくる王。
いや、場所は選びましょう。
私は妊婦です。

「待てを覚えましょう。寝室に連れて行って
リチャード様?」

王はため息をつくと私を抱きあげた。

「王妃様のよき良いように」

私を軽々と運びながら歌うように王が言う。
今夜こそは正面から抱き合いたい。
私は密かな野望に燃えた。









  
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