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彼と交際を開始してもうすぐ丸二年だというのに、こんな性癖があるだなんて知りもしなかった。鎖で繋がれた私が好きに動けないのをいいことに、その日の晩は卑猥な言葉を耳元で囁かれながら何度も恥ずかしいことをされたのだ。
すっかり冷めてしまった角煮と白米、それにスープを温め直し、私はケージの中、彼は私に向き合う形で食事を頂く。勿論、私は全裸のまま。ついでに言えば彼も全裸のままだった。
「啓くん、寒いよ……」
「暖房つけよう。温度も高くするね」
「そうじゃなくて、服は……」
「駄目だよ。僕を裏切ったのはひかりだよ? 誠意を見せてよ」
見せているのは誠意ではなく裸であって。流石に眠るときくらい着衣を認めて貰えるかと思いきや、甘かった。入浴中は流石に首輪も鎖も外してもらえたけれど、入浴後に着衣は認められず、鎖で繋がれ全裸のまま、私は彼と同じベッドへ押し込められた。
「駄目だなあ……」
「……何が?」
「ひかりが縛られて繋がれてるって考えるだけで、どうにも興奮してしまう」
「んッ……!」
私に背を向け何やら作業をしていた手を止め、ベッドへと歩み寄り──唇が迫る。もう、好きにしたら良い。私が何を言っても、どう抵抗しても、彼のこの遊戯が止まることはない。
──でも、一体これはいつまで続くのか。
まだ始まって数時間。欲望のたかが外れた彼の行動はきっとエスカレートしていくだろう。そうなると、今後私は一体何をされるのか。想像するのも恐ろしい。
「ひかり、ちゃんと集中して?」
「ん……んッ……んぅ……」
「うん、上手、上手、可愛いよ。次はこっちしてみようか」
止まらないこのふざけた遊戯を終わらせる方法──考えないと……。
「ひかり、集中して? 何考えてるの?」
「んぐッ……あ……あ……!」
「ほら、ほら……」
その日はいつ眠りに落ちたのか、はっきりとした記憶がない。ベッドで眠ったに違いないのに、翌朝目覚めるとまたしてもケージの中。両手両足を繋がれたまま、なんとも恥ずかしい体勢だというのに、足を閉じることすら叶わない。どうしてこんなおかしな体勢だというのに目覚めなかったのか──ひょっとして薬でも盛られていたのかもしれない。
「ひかり、最高だよひかり」
「おかしいよ、啓くん……」
「何が?」
たった一晩全裸でケージの中に閉じ込められていただけだというのに、気が狂いそうになっていた。昨夜いつまでこれが続くのか考えたのがいけなかったのかもしれない。
「そうだ。昨日ひかりが寝てから組み立てたんだけどこれ、ひかりの代わりに家事とかしてくれるからよろしくね」
「……これ、最新式のやつ?」
「そうだよ。家事ロボットのアイ」
今やロボットなど珍しくない。家事ロボットもコミュニケーション能力のないものならば数万円から購入することができる。が、彼が用意したこれは最新式の「アイ」。百万円を軽く越える金額だった筈。見た目には殆ど人間と変わらない彼女は自己で思考しコミュニケーションをとることも朝飯前。今ニコッと微笑んだが実に自然な笑みだった。
「よろしくお願いします、ひかり様」
「は……はあ」
「朝食の用意も出来ております。さ、ご主人様も一緒に」
鎖で繋がれたままの私がどうやって食事をするのか。一瞬、この縛りを解いてくれるのかと期待したが甘かった。ケージの鍵を解錠したアイが、食事の乗った盆片手に上半身を滑り込ませてくる。
「ひかり様、さあ、口を開けて下さい」
「こんなことって……」
「ひかり様、あーん」
仕方がなく口を開けて、イチゴジャムの塗られたトーストの端をかじる。スープが欲しいなと視線を落とせばすかさずアイが口元にスープスプーンを運んでくれた。同じ調子で歯磨きも済ませ (流石に洗顔は運ばれてきた洗面器で自分で行った) 、啓くんが出勤してからはのんびりとテレビを眺めるしかない。時折アイと会話をしたが、プログラムを設定されているのか、長続きはしなかった。
朝昼夕とテレビニュースを観て愕然としたことがある。昨日の朝ニュースで観た、致死率百パーセントのウイルスについてだ。たった一日しか経っていないというのに、ヨーロッパ内での感染者数は五万人を越えたという。更には今朝の速報でそのウイルスがアジア内に拡大。昼のニュースでは日本全国各地で原因不明の突然死が三十件起きたということだった。
「人間はこういうとき大変ですよね」
「えっ」
充電モードで壁沿いの充電器に腰掛けていたアイが、突然ぽつりと一言溢した。目を閉じ無言でスリープモードだったというのに、急に目を開けたものだから何事かと飛び跳ねてしまった。
「その点、家事ロボットは病気とは無縁です。怖いのは交換部品が廃盤になり修理不可になった時。それに修理をしてくださる人間が滅びてしまったとき」
「こんなときに恐ろしいことを言わないでよ……」
「滅び、ですか」
「そう」
縁起でもない。致死率百パーセント──詳しいことは何もわかっていないというのに感染者と死者がどんどん増えてゆく。
「体内にウイルスがいつ入ったのかもわからず、感染しても症状は全く出ず突然死ぬ。恐ろしいですね。アイはロボットなだけ幾分かマシなように思えてきました」
「でもそのウイルスで……──いや、何でもない」
「そうですか。では、充電に戻ります」
マイペースな家事ロボットだ。最近のロボットは皆こんな風なのだろうか。実家にいたロボットはここまで自我がなかったけれど、やはり最新式は違うのかもしれない。
すっかり冷めてしまった角煮と白米、それにスープを温め直し、私はケージの中、彼は私に向き合う形で食事を頂く。勿論、私は全裸のまま。ついでに言えば彼も全裸のままだった。
「啓くん、寒いよ……」
「暖房つけよう。温度も高くするね」
「そうじゃなくて、服は……」
「駄目だよ。僕を裏切ったのはひかりだよ? 誠意を見せてよ」
見せているのは誠意ではなく裸であって。流石に眠るときくらい着衣を認めて貰えるかと思いきや、甘かった。入浴中は流石に首輪も鎖も外してもらえたけれど、入浴後に着衣は認められず、鎖で繋がれ全裸のまま、私は彼と同じベッドへ押し込められた。
「駄目だなあ……」
「……何が?」
「ひかりが縛られて繋がれてるって考えるだけで、どうにも興奮してしまう」
「んッ……!」
私に背を向け何やら作業をしていた手を止め、ベッドへと歩み寄り──唇が迫る。もう、好きにしたら良い。私が何を言っても、どう抵抗しても、彼のこの遊戯が止まることはない。
──でも、一体これはいつまで続くのか。
まだ始まって数時間。欲望のたかが外れた彼の行動はきっとエスカレートしていくだろう。そうなると、今後私は一体何をされるのか。想像するのも恐ろしい。
「ひかり、ちゃんと集中して?」
「ん……んッ……んぅ……」
「うん、上手、上手、可愛いよ。次はこっちしてみようか」
止まらないこのふざけた遊戯を終わらせる方法──考えないと……。
「ひかり、集中して? 何考えてるの?」
「んぐッ……あ……あ……!」
「ほら、ほら……」
その日はいつ眠りに落ちたのか、はっきりとした記憶がない。ベッドで眠ったに違いないのに、翌朝目覚めるとまたしてもケージの中。両手両足を繋がれたまま、なんとも恥ずかしい体勢だというのに、足を閉じることすら叶わない。どうしてこんなおかしな体勢だというのに目覚めなかったのか──ひょっとして薬でも盛られていたのかもしれない。
「ひかり、最高だよひかり」
「おかしいよ、啓くん……」
「何が?」
たった一晩全裸でケージの中に閉じ込められていただけだというのに、気が狂いそうになっていた。昨夜いつまでこれが続くのか考えたのがいけなかったのかもしれない。
「そうだ。昨日ひかりが寝てから組み立てたんだけどこれ、ひかりの代わりに家事とかしてくれるからよろしくね」
「……これ、最新式のやつ?」
「そうだよ。家事ロボットのアイ」
今やロボットなど珍しくない。家事ロボットもコミュニケーション能力のないものならば数万円から購入することができる。が、彼が用意したこれは最新式の「アイ」。百万円を軽く越える金額だった筈。見た目には殆ど人間と変わらない彼女は自己で思考しコミュニケーションをとることも朝飯前。今ニコッと微笑んだが実に自然な笑みだった。
「よろしくお願いします、ひかり様」
「は……はあ」
「朝食の用意も出来ております。さ、ご主人様も一緒に」
鎖で繋がれたままの私がどうやって食事をするのか。一瞬、この縛りを解いてくれるのかと期待したが甘かった。ケージの鍵を解錠したアイが、食事の乗った盆片手に上半身を滑り込ませてくる。
「ひかり様、さあ、口を開けて下さい」
「こんなことって……」
「ひかり様、あーん」
仕方がなく口を開けて、イチゴジャムの塗られたトーストの端をかじる。スープが欲しいなと視線を落とせばすかさずアイが口元にスープスプーンを運んでくれた。同じ調子で歯磨きも済ませ (流石に洗顔は運ばれてきた洗面器で自分で行った) 、啓くんが出勤してからはのんびりとテレビを眺めるしかない。時折アイと会話をしたが、プログラムを設定されているのか、長続きはしなかった。
朝昼夕とテレビニュースを観て愕然としたことがある。昨日の朝ニュースで観た、致死率百パーセントのウイルスについてだ。たった一日しか経っていないというのに、ヨーロッパ内での感染者数は五万人を越えたという。更には今朝の速報でそのウイルスがアジア内に拡大。昼のニュースでは日本全国各地で原因不明の突然死が三十件起きたということだった。
「人間はこういうとき大変ですよね」
「えっ」
充電モードで壁沿いの充電器に腰掛けていたアイが、突然ぽつりと一言溢した。目を閉じ無言でスリープモードだったというのに、急に目を開けたものだから何事かと飛び跳ねてしまった。
「その点、家事ロボットは病気とは無縁です。怖いのは交換部品が廃盤になり修理不可になった時。それに修理をしてくださる人間が滅びてしまったとき」
「こんなときに恐ろしいことを言わないでよ……」
「滅び、ですか」
「そう」
縁起でもない。致死率百パーセント──詳しいことは何もわかっていないというのに感染者と死者がどんどん増えてゆく。
「体内にウイルスがいつ入ったのかもわからず、感染しても症状は全く出ず突然死ぬ。恐ろしいですね。アイはロボットなだけ幾分かマシなように思えてきました」
「でもそのウイルスで……──いや、何でもない」
「そうですか。では、充電に戻ります」
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