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53/逃げられない
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雨ばかりの毎日にうんざりしてしまう。仕事ばかりの日々で、平日はまともに料理も出来ておらずコンビニのお弁当に頼ることが増えていた。ピルの副作用で酷くはないけれど吐き気を催す日もあり、食事を抜くことも増えた。お陰で体重は三キロも落ちたというのに、ピルの影響で胸はどんどん大きくなった。Dカップがギリギリのラインだったというのに、今はEカップでも少しだけ下着がキツい。それなのに新しく下着を購入しに行く気すら起きない。
気分を上げるために、先日ネットで新しいフレアスカートを購入した。今夜届く予定なので早めにお風呂を済ませて、久しぶりにのんびりとビーフシチューを煮込んでいる。
──ピンポーン
「あっ」
きっと宅配便だ。火を止めパジャマにエプロン姿のまま、玄関へと向かう。
「はーい…………えっ……」
「入るぞ」
「なっ……なに、なんで……!」
宅配員ではなく、そこに立っていたのは雨に濡れてずぶ濡れのとおやの姿。慌ててタオルを取りに向かい、手渡した。
「雨すげえ降ってる」
「シャワー浴びなよ。着替えも……そのままにしてあるから」
「……ありがと」
五ヶ月ぶりに会うというのに、自然とそんな言葉が出るのが不思議だった。ビーフシチューを火にかけ、ボイル済みのブロッコリーを鍋に投入する。宅配便はとおやが風呂場に入った直後にやってきた。待ち焦がれていた新しいスカート──……あんなに楽しみにしていたというのに、今はとおやのことで頭がいっぱいなわたしは、段ボールを開封しないまま玄関に放ったらかしにしてしまっている。
「いい匂いする。ビーフシチュー?」
「うん、とおや好きだったよね? ご飯まだなら食べ──」
振り返り、ハッとする。あんなことがあったというのに彼のことを気遣い、晒された上裸に見惚れてしまっている自分に驚き後退してしまう。これ以上下がれないというのに、とおやの姿を見るのが怖くなり、火を止めた鍋に視線を落とした。
「食べるの? 食べないの?」
「食う食う。久しぶりだから嬉しい」
「……そぅ」
(ああ駄目だ──。嬉しいだなんて言われたらわたし……)
「早く服着てよ!」
「熱いんだよ。エアコン付けたらお前寒いだろ? 扇風機出してねえの?」
「まだ……忙しくて出せてない」
「出しとこうか?」
「……いいの? 助かる」
盛り付けと配膳をしている間にとおやが扇風機を組み立ててくれる。散らかったままの部屋に置かれた扇風機は少しだけ邪魔だった。
「ごめんね、部屋も汚くて」
「綺麗好きなお前らしくないな」
「仕事、忙しくて。休みもあんまりなくって」
「明日は?」
「流石に日曜は休みなの」
「俺も」
「……ビーフシチュー、味、大丈夫?」
「うん、旨い」
微妙な空気が流れる中、ゆっくりと食事を進める。食べ終わり片付けようと食器を重ねる手がぶつかり、慌てて引っ込める。
「なんだよお前……中学生かよ」
「酷っ! 何よそんなじっと見て……」
「お前、なんで俺が来たのか聞かねえの?」
「……なんで来たのよ」
答えを聞くのが怖くて、食器の乗った盆を手に足早にキッチンへと向かう。婦人科の薬を飲み、食器を水に浸していると、すぐ後ろにとおやの気配があった。気が付かないフリをしてエプロンを巻いた。
「会いたかったんだよ、ほたる」
「…………」
「すげえ会いたかった。付き合ってた彼女とも上手くいかなくてすぐ別れて……慰めてくれよ」
「彼女って榎木さん?」
「榎木? ノアか? ちげーよ。あいつはただの遊びで……」
榎木 ノアがとおやの恋人でなかったことに安堵する。あの女にだけはとおやの隣を歩いてほしくなかった。
「彼女、仕事辞めたよ? 彼女としてとおやに尽くしたいって」
「は? 知らね、ほっとけあんな奴」
「冷たいのね」
「好きな女にしか優しくしねえよ」
そう言ってとおやは、そっとわたしの身体に手を伸ばす。「やめて」と後退すると、飲み終わり出しっぱなしにしていた薬のケースが床に落下し蓋が開いた。
「何、薬飲んでんの? ……どっか悪いのか? まさか病気とか……!」
「違うの。ちょっと…………仕事と、誰かさんのせいでストレスがアレで生理不順で飲んでるの……ピル」
「生理不順?」
「生理が来ない月があったり遅れたり……あと、生理痛が酷かったり」
「今日は?」
「今日? わりと元気だけど……なにっ!?」
横抱きにされ、ベッドの上に下ろされる。わたしに跨がってきたとおやの目が、珍しく真剣だった。
「ピルって……生でセックスしても妊娠しないやつ?」
「わかんない……百パーセント大丈夫なのか、わかんない……」
「大丈夫だろ、ピルだろ? 何かあっても……」
「やっ……いや、とおや……何するの」
パジャマの裾から、とおやとの手が滑り込む。ブラジャーのホックが外され、エプロンは胸元まで引き下げられた。上から手早く外されてゆくボタンにかかる彼の手を、恐怖で止めることが出来ない。
「……何かあっても……俺が責任とるから」
「あ……いや……いや……!」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない……怖いから、やめて、とおや……!」
「全部、責任とってやるから」
「いやっ……あ……やめて……!」
胸に触れることなく、頭の上でわたしの両手を自分の片手で拘束したとおやは、舐めるようにわたしの胸を見つめている。
「お前、胸でかくなった?」
「多分、薬の……副作用で……」
「うわ、やべえな……」
とおやの左手が、わたしの乳房に沈む。揉み心地を確認し終えたのか、彼はわたしの身体に舌を伸ばした。
気分を上げるために、先日ネットで新しいフレアスカートを購入した。今夜届く予定なので早めにお風呂を済ませて、久しぶりにのんびりとビーフシチューを煮込んでいる。
──ピンポーン
「あっ」
きっと宅配便だ。火を止めパジャマにエプロン姿のまま、玄関へと向かう。
「はーい…………えっ……」
「入るぞ」
「なっ……なに、なんで……!」
宅配員ではなく、そこに立っていたのは雨に濡れてずぶ濡れのとおやの姿。慌ててタオルを取りに向かい、手渡した。
「雨すげえ降ってる」
「シャワー浴びなよ。着替えも……そのままにしてあるから」
「……ありがと」
五ヶ月ぶりに会うというのに、自然とそんな言葉が出るのが不思議だった。ビーフシチューを火にかけ、ボイル済みのブロッコリーを鍋に投入する。宅配便はとおやが風呂場に入った直後にやってきた。待ち焦がれていた新しいスカート──……あんなに楽しみにしていたというのに、今はとおやのことで頭がいっぱいなわたしは、段ボールを開封しないまま玄関に放ったらかしにしてしまっている。
「いい匂いする。ビーフシチュー?」
「うん、とおや好きだったよね? ご飯まだなら食べ──」
振り返り、ハッとする。あんなことがあったというのに彼のことを気遣い、晒された上裸に見惚れてしまっている自分に驚き後退してしまう。これ以上下がれないというのに、とおやの姿を見るのが怖くなり、火を止めた鍋に視線を落とした。
「食べるの? 食べないの?」
「食う食う。久しぶりだから嬉しい」
「……そぅ」
(ああ駄目だ──。嬉しいだなんて言われたらわたし……)
「早く服着てよ!」
「熱いんだよ。エアコン付けたらお前寒いだろ? 扇風機出してねえの?」
「まだ……忙しくて出せてない」
「出しとこうか?」
「……いいの? 助かる」
盛り付けと配膳をしている間にとおやが扇風機を組み立ててくれる。散らかったままの部屋に置かれた扇風機は少しだけ邪魔だった。
「ごめんね、部屋も汚くて」
「綺麗好きなお前らしくないな」
「仕事、忙しくて。休みもあんまりなくって」
「明日は?」
「流石に日曜は休みなの」
「俺も」
「……ビーフシチュー、味、大丈夫?」
「うん、旨い」
微妙な空気が流れる中、ゆっくりと食事を進める。食べ終わり片付けようと食器を重ねる手がぶつかり、慌てて引っ込める。
「なんだよお前……中学生かよ」
「酷っ! 何よそんなじっと見て……」
「お前、なんで俺が来たのか聞かねえの?」
「……なんで来たのよ」
答えを聞くのが怖くて、食器の乗った盆を手に足早にキッチンへと向かう。婦人科の薬を飲み、食器を水に浸していると、すぐ後ろにとおやの気配があった。気が付かないフリをしてエプロンを巻いた。
「会いたかったんだよ、ほたる」
「…………」
「すげえ会いたかった。付き合ってた彼女とも上手くいかなくてすぐ別れて……慰めてくれよ」
「彼女って榎木さん?」
「榎木? ノアか? ちげーよ。あいつはただの遊びで……」
榎木 ノアがとおやの恋人でなかったことに安堵する。あの女にだけはとおやの隣を歩いてほしくなかった。
「彼女、仕事辞めたよ? 彼女としてとおやに尽くしたいって」
「は? 知らね、ほっとけあんな奴」
「冷たいのね」
「好きな女にしか優しくしねえよ」
そう言ってとおやは、そっとわたしの身体に手を伸ばす。「やめて」と後退すると、飲み終わり出しっぱなしにしていた薬のケースが床に落下し蓋が開いた。
「何、薬飲んでんの? ……どっか悪いのか? まさか病気とか……!」
「違うの。ちょっと…………仕事と、誰かさんのせいでストレスがアレで生理不順で飲んでるの……ピル」
「生理不順?」
「生理が来ない月があったり遅れたり……あと、生理痛が酷かったり」
「今日は?」
「今日? わりと元気だけど……なにっ!?」
横抱きにされ、ベッドの上に下ろされる。わたしに跨がってきたとおやの目が、珍しく真剣だった。
「ピルって……生でセックスしても妊娠しないやつ?」
「わかんない……百パーセント大丈夫なのか、わかんない……」
「大丈夫だろ、ピルだろ? 何かあっても……」
「やっ……いや、とおや……何するの」
パジャマの裾から、とおやとの手が滑り込む。ブラジャーのホックが外され、エプロンは胸元まで引き下げられた。上から手早く外されてゆくボタンにかかる彼の手を、恐怖で止めることが出来ない。
「……何かあっても……俺が責任とるから」
「あ……いや……いや……!」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない……怖いから、やめて、とおや……!」
「全部、責任とってやるから」
「いやっ……あ……やめて……!」
胸に触れることなく、頭の上でわたしの両手を自分の片手で拘束したとおやは、舐めるようにわたしの胸を見つめている。
「お前、胸でかくなった?」
「多分、薬の……副作用で……」
「うわ、やべえな……」
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