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酩酊.2
しおりを挟むあれよあれよと言っている間に、俺は本を貰うことになった。その代わりに嵩原さんの晩酌に付き合うことにもなった。
俺なんかでいいのか?とかそんなことを考えたが、せっかくのご厚意だし、もうここまで来たらやるっきゃない。
それに嵩原さんがあんまり酔わない方法を教えてくれるらしい。
「それじゃー乾杯」
コツンと缶ビールと甘めの缶チューハイがぶつかった。
嵩原さんが教えてくれたあんまり酔わない方法とは、ストローで酒を飲むことだった。なんでも、脳がジュースだと勘違いするとかなんとか。
恐る恐る一口、ストローに口をつける。甘い。
本当にジュースみたいだ。これなら俺でも飲めるぞ。
ごくごくと飲めてしまうので、俺はあっという間に一つを空っぽにしてしまった。
「まだあるよ、芦田さん」
嵩原さんは俺にもう一つ酒を渡す。俺ももう一つくらいならいけるかもしれない!とそれを嬉々として受け取る。
教えてもらった通りにストローを刺して口に含んだ。今度は桃のチューハイのようだ。これもまた美味しい。
その後も嵩原さんの飲んでいる缶ビールを少し飲んでみたり、日本酒を一口飲んでみたりしていると、ふと気付いた。
ふわふわと不思議な感覚が体中に回っていることに。
あ、これ酔ってるんじゃ……
そう分かった瞬間、俺はすぐ酒を飲む手を止めた。
「た、たかはらさ…おれ 」
呂律が回らないながらも、隣に座っている嵩原さんに必死に伝えた。
「酔っちゃったの?」
嵩原さんの言葉にこくこくと頷く。
「そっか、じゃあもういいよね」
「…へ?」
俺は力無くソファに倒れる。
正確に言うと嵩原さんに押し倒された。
「な、ん」
あまりにびっくりしすぎて、言葉が思うように出ない。それどころか嵩原さんをなんとか退けようと肩を押しているが、腕に力が入らない。
「なんでって、まあ…ずっと芦田さんのこと見てたんだよね」
嵩原さんはじいっと俺の目を見つめて、またにこにこと微笑む。今はその顔が怖い。背中が泡立つのが分かった。
「入社してすぐに歓迎会あったでしょ、そのとき芦田さん酒飲んで酔っぱらって、俺の所に来て寝て…覚えてる?」
たしかに歓迎会に行って飲んだ。でも、詳細なことまでは覚えていない。気付いたらタクシーに揺られて、家に着いていた。
次の日に会社の人から、お前すごかったぞとか羨ましかったとか色々と言われた。
大失態をしてしまったのだと思った。
部長のヅラを鷲掴みにしたかもしれない。
新人という立ち位置を利用して、大それたことを言ったのかもしれない。
もう、そんなことを言われないように俺は飲むのを自粛してアッシーに甘んじているのだ。
それがまさか、嵩原さんに関係してるなんて…。
「俺がね芦田さんのこと介抱したんだ、家まで送ったのも俺だよ」
「そのときの芦田さん、本当にくてんくてんで可愛くて守ってあげなきゃって思ったらいつの間にか好きになってた」
好き、なんていつぶりに言われただろうか。高校生の頃に一瞬できた彼女から言われてそれっきりだった気がする。
何か言い返したいのに、頭が働かない。目の前の嵩原さんの切なそうな、優しい顔しか見えない。
「好きだよ」
耳元で低い声でそう囁かれると、恐怖とか男同士で気持ち悪いとかそんな考えがどっかに吹っ飛ぶくらいに頭がぐらぐらした。
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