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酩酊.3○
しおりを挟む嵩原さんは俺の首の後ろに腕を入れて、優しく抱きしめた。左肩が俺の顔に当たる。
(すごいドキドキしてる)
嵩原さんの心臓の鼓動が俺にまで伝わってきた。この人が俺に対してこんな風になるなんて誰が思うだろう。
「嵩原さん、くるしい」
「…ごめん」
俺はそう言ったが、嵩原さんは抱きしめることを止めなかった。俺はどうすればいいんだろうと、腕もすっかり抵抗する気を失い、だらんと床に横たわっていた。
もしかして夜が明けるまでこのままなんじゃないかとも思う。
そんなことを考えていた瞬間、ツーっと首筋を何かが伝った。
「!!!!」
なんだ、今の!
何が起きたのか理解しないうちに、今度は耳に違和感を感じる。
耳たぶの裏を執拗に舐められる感覚。いや、舐められてるこれは完全に!
「や、め…ひゃ!」
今度はぐりぐりと耳の中を探られる。嵩原さんの吐息と舌を動かす度に聞こえる水音が頭にダイレクトに響く。
「っう、ぁ」
背中がぞわぞわする。やばいやばいと頭の中ではいくらでも叫べるのに、肝心の声は変な声になるばかりでちっとも役に立たない。
「もしかして、感じてる?」
吐息混じりに耳元でそう囁かれた。違うと首を小さく振るが、俺のソレは少し反応してしまっていた。
恥ずかしい気持ちが一気にせり上がった。
このまま消えてなくなりたい。
嵩原さんは首を振った俺を見て、少し微笑む。
「かわいい、芦田さん」
そう言われると瞼にキスをされた。次に頬、鼻と確かめるみたいにしていく。
俺は身をよじるがしっかり肩を掴まれていたため、力が入らない体では逃げ出すことは不可能だった。
嵩原さんは俺にちゅ、と一つ口にキスする。
そして、また一つ。
感触を味わうみたいに、下唇に吸い付く。
ゆっくりとした愛撫が、まるで自分が食べられているような感覚になってくる。
じわじわと着実に自分がほだされていくのが分かった。
それはきっと嵩原さんの自分への思いや葛藤が伝わってくるからだ。もしも、ヤりたいだけならこんなまどろっこしいことなんてしないだろう。もっと乱暴に事を進めることだって出来たはずだ。
なのに、この人はそれをしない。
先ほどから嵩原さんのアレが俺の太股に当たっている。男だから分かるが、正直ずっとこんな状態では辛いはずだ。
すぐにでも、どうにかしたいはずなのに
嵩原さんは俺が受け入れるまで待っているのだ。
こんな愛され方した事もされた事もない。
「…ね、口開けて」
懇願するように俺に視線を向ける。
俺はおずおずと口を開けた。
嵩原さんはその隙間にねじ込むように舌を滑り込ませる。
二人の荒い息がツンとした夜中の部屋に響いた。
「ぁ、んぅ」
口の端から情けない声と一緒に唾液が落ちる。
嵩原さんの舌が上顎の裏を這ったり、歯列をなぞる度に俺は小さく声を上げてしまう。
苦しい、気持ちいい、苦しい、気持ちいい気持ちいい。
俺はいつの間にか嵩原さんの腕を掴んでいた。もう、自分だけではこの快感の波に耐えられなかった。
高原さんがキスを止めて、俺からゆっくりと顔を離した。俺の頬を拭ってから静かに言った。
「ねぇ、どうしたい?」
嵩原さんの目は熱っぽく俺を見つめていた。どうしたいかなんて、嵩原さん自身が一番分かっているはずだ。俺は嵩原さんのすっかり形の変わってしまったスウェットのズボンを見る。
こんなになってても俺に最後の逃げるチャンスを与えてくれているのだと分かった。
ここで頷けば後戻りすることは出来ない。明日になっても忘れることは出来なくなる。
俺は嵩原さんの顔を見る。その顔には溢れ出てしまいそうな欲望の火が優しさとの間でちかちかと揺らいでいるように見えた。
その顔が、快感の波の縁に立っていた俺の背中を押す。
「た、嵩原さんと、気持ちよくなりたいです」
____________
ベッドのシーツが擦れる音と二人の息が交ざり合う。
嵩原さんと目が合う度にキスをした。
長くて綺麗なその指で敏感なところを触られるとびりびりと快感が体中に巡った。嵩原さんのソレに手を伸ばすと、きゅっと眉を潜めて浅く息を吐いていた。
艶やかな髪が揺れるとゆるゆると腹の奥底から快感がせり上がる。二人の熱い部分が交ざって、一つにでもなってしまいそうだった。
高原さんが俺の髪を撫でる。
掠れてしまった声で俺に囁く。
「一緒にいこう、ね」
焼き切れそうな意識の中、俺は小さく返事をした。
次第に二人の息が荒く大きくなり、目の前がちかちかと瞬く。
「ぁ、!」
頭の中が真っ白になり、体中を巡っていた熱が勢いをつけて外に出ると強ばった体が糸が切れるみたいに跳ねる。
脱力感が襲うと俺は目を瞑る。遠くなる意識の端に嵩原さんの声が聞こえる。
「……め…ね」
ひどく空しそうなその声が耳に残った。
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