歪な戦士の異世界転生録 〜授かった【変換】スキルが尖り過ぎてて異常な性能を得る〜

チャド丸

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希望の炎編

無事じゃない無事の帰還

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『不安』

霧の向こうから現れたのは、その言葉を具現化したような者だった。

シャツと肌は真っ白、スラックスとベストとネクタイと帽子は真っ黒。

前世でみたパントマイマーから、不気味さ以外を取り払ったような見た目をしている。・・・久しぶりに恐怖心を変換しておいて良かったと思った。



ソレは今ユウの剣を、嘘のように細いステッキで受け止めていた。

「キミダケマトモダッタネェ。ツマンナイノ。」

無感情かつ人間離れした高い声でソレは告げる。やはり、先ほどまでの異常事態の元凶はこいつだったようだ。



「おまえ・・・何が目的だ?」

「ンンン?ワカンナイナァ。ナンデキミカラ」

質問に答えることなくそう言って顔をグッと近づけてきて、



「アイノニオイガスルノカナァ?」



なぜこいつからあの少女の名前が出たのか?固まった瞬間に、背後からケールが近づいてきて目の前の男に殴りかかった。

男はヒラリと躱して、壁から生えたクリスタルに片手でぶら下がる。



「くっ、頭がガンガンしやがる・・・おいユウ!あいつはなんなんだ!」

「分かりません!でも、さっきまでの仲間割れはあいつのせいです!」



そうして謎の男に向かって構えを取る。すこし遅れてパルファとミュアも周囲に集まってきた。

「不覚だわ、いつの間にかあいつの術中にいただなんて。」

パルファもそう言って、頭を押さえながら剣を構えている。ミュアも杖を構えているが、言葉を放つほど余裕が無いようだ。



「アイツアイツッテシツレイダナァ。ボクニハマリッテナマエガアルノニ。」

いまだぶら下がったまま、男はパーティーにマリと名乗った。



「ハァアアアア。オモッタヨリモツマンナカッタネェ。モウカエロ。」

そう言うや否やマリは足先から黒い霧になり散っていく。

だがユウは見逃さなかった。足から始まった霧散が顔に差し掛かる瞬間、マリの口がどう動いたかを。





『ナンチャッテネ』





~~~~~





湖からの帰り道、ユウはパーティーの先頭を歩いていた。

あの最後の言葉。奴はきっと消えたふりをしてユウたちをまだ狙っている。そう感じたからだ。



おそらく奴の能力は、霧を目にしたものを対象に発動する。ユウの目は変換スキルによって性能が強化されているため効かなかったのだろう。



相手の能力が効かない自分がパーティーを守らなければいけない。ユウは今、片道30分ほどの洞窟を過剰なほど慎重に戻っていた。



・・・・・。

希望の炎のメンバーは、言葉を発すること無くユウについていく。

敵の術中とはいえ本気の殺し合いをしたのだ。わだかまりが無いわけない。



「・・・ユウ。気を張って疲れたでしょ?一旦後ろに下がりなさい。後ろから私たちを見ていてちょうだい。」

パルファがユウを気遣ってそう言う。正直精神をすり減らしていたのでありがたい提案だった。だが、



「・・・嫌よ。ユウにはそのまま前を歩いてもらうわ。後ろから刺されたらたまらないもの。」

気を張って憔悴しきったミュアが、その提案を却下した。



~~~~~



「・・・ミュア、いい加減にしなさい。さっきユウがいなかったら全滅していたのよ?」

パルファはミュアの発言を注意する。が、ユウを怪しむ声は別のところからもあがった。



「・・・たしかに。あの野郎はお前の事をなにか知っているようだった。一人だけ無事だったのもワケが分からねぇ。」

普段の豪快な姿からは想像も出来ない、不安に満ちた声でユウに詰め寄る。



「ユウお前・・・なんなんだ?」

「・・・っ!」

ケールのユウを見る目は、もはや仲間に向けるものでない目だった。



その目は・・・苦手だ。腫れ物を見るような目。

2時‬間ほど前は仲間として自分を見てくれていた者からそんな目を向けられ、ユウは言葉を発せず全身から嫌な汗が吹き出てきた。



―――パン!

そんな膠着を破ったのは乾いた音だった。ケールの頬をパルファが引っぱたいたのだ。

「あんたケールになにすん」「いい加減にしなさい!」



ミュアの文句も遮ってパルファが怒鳴った。

少しの沈黙の後、ユウの横を「後ろお願いね。」と言って通り過ぎ、先頭を歩き始める。



そしてまた、先程と同じ無言の進行が始まった。

違うのは、前を歩く2人の男女が、しきりに後ろにいる自分を疑わし気に振り返ることだろう。



何かを変換したわけではないのに、ユウの心から何かが無くなっていく気がした。



~~~~~



2日後‬、憔悴しきった希望の炎一行は王都へと帰ってきた。

あの後、何事もなく洞窟を抜けることができた。だが帰り道は疑心暗鬼による衝突が絶えなかった。付かず離れずの距離感を保ち、野営も離れて行った。



会話を交わすことなく、猜疑心に蝕まれながらギルドまで帰ってきた。

希望の炎を知っている冒険者は、帰ってきた彼らの姿を見て驚いただろう。ほとんどの者が目の下に濃いクマが出来てやつれている。



ただひとり。恐怖心が欠落して、クマも無ければやつれてもいないユウが、その中で異彩を放っていた。
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