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鼬瓏の言葉通り、あれから毎日のように何かしら買い与えられるようになった。彼なりの甘やかし方がそういった手法なのか、お世辞にも広いとは言えない朱兎の部屋は鼬瓏から与えられたモノで溢れかえっていた。
「お前、何をしたらここまで鼬瓏に気に入られるんだ」
「そんなの、オレが一番知りてぇよ」
衣類や装飾品、バッグや日用品。果てはいつの間にやらグレードの上がっている家具たち。どうりでここ数日ベッドの寝心地が良いはずだ。家主の許可なく勝手に買い換えていくのはどうかとも思ったが、そんなことを言える権限はないのだと思い出した朱兎はチベットスナギツネのような顔をしながら、ぐっと言葉を飲み込んだのは記憶に新しい。
日に日に増えていくそれらは、やはりどれもこれもがブランド品ばかりで頭が痛くなりそうだった。
人生でこんなにも貢がれたのは始めてで、とても不思議な感覚を覚えた。
「確かに、気に入られろとは言ったが……」
眉間に寄せた皺へ手を当ててため息を吐いたのは、いつぞやのオークションの際に朱兎を軽々と肩に担ぎ上げた男……名は麗だと言う。
いつも大学やバイトへ付いてきていたのは紫釉だったが、どうにも外せない仕事が入ったらしい。あの日以来の顔合わせに、といっても麗の顔をちゃんと見るのは今日が初めてなのでついつい緊張してしまう。
しかしそんな心配を他所に、麗は大学でも程よい距離を保ってくれていたので、いつの間にか緊張は解けていた。
(ただなぁ……紫釉と違って、こいつ口数少ないし喋り方冷たいんだよな)
他者と比較するのは良くないとわかっていても、どうしても比較をしてしまう。見た目は十中八九誰に聞いてもイケメンだと返ってきそうなのに、口調や態度が冷たい。クールなのだと言ってしまえばそうなんだろうが。
それに、気のせいか……麗からの視線がチクチクと刺さって痛い。
「今日はこの後の予定がない日だと聞いているが」
「あ、あぁ。今日はバイト入ってねぇし、課題も終わってるから特にやることはないな」
「なら良い。俺は鼬瓏が来るまでここにいるが、お前はお前の好きなようにしていろ」
そう言うと、麗は朱兎の視界から遠ざかるように玄関の方へと移動し、壁へもたれ掛かるようにして腕を組み目を閉じた。
(いや、沈黙が重い!)
いくら玄関までにはいくらか距離があるとしても、狭いこの部屋に仕切りなどないのでお互いの気配はダイレクトに感じ取れる。
当たり前のように我が家に入り浸る鼬瓏が、今日はこんなにも待ち遠しい。本人に伝えればまたなにか物が増えそうなので、絶対に口にはしないと朱兎はキュッと口を噤んだ。
麗を見れば変わらず同じ体勢を保っており、これは鼬瓏が来るまで本当にただここにいるだけを貫く態度だった。
(考えるのも面倒になったきた。風呂入ろ)
小さく溜息を吐き出した朱兎は、いつの間にかクローゼットの中に増えていた不思議とサイズがピッタリの下着を引っ張り出して風呂場へと向かった。
風呂場は玄関横なので、必然的に麗の側を通るわけだが……当の本人は目を閉じたまま微動だにしない。今日一日で麗について知り得た情報は、朱兎に対して警戒心を持っているということだけだ。
「上司が急に人間買ったら……そりゃ警戒するわ」
麗の言動はある意味普通なんだろう。最近普通からかけ離れてしまっていた朱兎は、改めて己も普通の感覚を無くし始めていたことに気が付かされた。
この短期間で随分と毒されてしまったものだと軽くショックを受けながらも、狭い脱衣所でポイポイと脱ぎ捨てた服を適当に洗濯機に放り込む。
湯船に湯を張るのも面倒なので適当にシャワーで済ませてしまおうと、蛇口を捻ってお湯が出てくるのを待った。
「お前、何をしたらここまで鼬瓏に気に入られるんだ」
「そんなの、オレが一番知りてぇよ」
衣類や装飾品、バッグや日用品。果てはいつの間にやらグレードの上がっている家具たち。どうりでここ数日ベッドの寝心地が良いはずだ。家主の許可なく勝手に買い換えていくのはどうかとも思ったが、そんなことを言える権限はないのだと思い出した朱兎はチベットスナギツネのような顔をしながら、ぐっと言葉を飲み込んだのは記憶に新しい。
日に日に増えていくそれらは、やはりどれもこれもがブランド品ばかりで頭が痛くなりそうだった。
人生でこんなにも貢がれたのは始めてで、とても不思議な感覚を覚えた。
「確かに、気に入られろとは言ったが……」
眉間に寄せた皺へ手を当ててため息を吐いたのは、いつぞやのオークションの際に朱兎を軽々と肩に担ぎ上げた男……名は麗だと言う。
いつも大学やバイトへ付いてきていたのは紫釉だったが、どうにも外せない仕事が入ったらしい。あの日以来の顔合わせに、といっても麗の顔をちゃんと見るのは今日が初めてなのでついつい緊張してしまう。
しかしそんな心配を他所に、麗は大学でも程よい距離を保ってくれていたので、いつの間にか緊張は解けていた。
(ただなぁ……紫釉と違って、こいつ口数少ないし喋り方冷たいんだよな)
他者と比較するのは良くないとわかっていても、どうしても比較をしてしまう。見た目は十中八九誰に聞いてもイケメンだと返ってきそうなのに、口調や態度が冷たい。クールなのだと言ってしまえばそうなんだろうが。
それに、気のせいか……麗からの視線がチクチクと刺さって痛い。
「今日はこの後の予定がない日だと聞いているが」
「あ、あぁ。今日はバイト入ってねぇし、課題も終わってるから特にやることはないな」
「なら良い。俺は鼬瓏が来るまでここにいるが、お前はお前の好きなようにしていろ」
そう言うと、麗は朱兎の視界から遠ざかるように玄関の方へと移動し、壁へもたれ掛かるようにして腕を組み目を閉じた。
(いや、沈黙が重い!)
いくら玄関までにはいくらか距離があるとしても、狭いこの部屋に仕切りなどないのでお互いの気配はダイレクトに感じ取れる。
当たり前のように我が家に入り浸る鼬瓏が、今日はこんなにも待ち遠しい。本人に伝えればまたなにか物が増えそうなので、絶対に口にはしないと朱兎はキュッと口を噤んだ。
麗を見れば変わらず同じ体勢を保っており、これは鼬瓏が来るまで本当にただここにいるだけを貫く態度だった。
(考えるのも面倒になったきた。風呂入ろ)
小さく溜息を吐き出した朱兎は、いつの間にかクローゼットの中に増えていた不思議とサイズがピッタリの下着を引っ張り出して風呂場へと向かった。
風呂場は玄関横なので、必然的に麗の側を通るわけだが……当の本人は目を閉じたまま微動だにしない。今日一日で麗について知り得た情報は、朱兎に対して警戒心を持っているということだけだ。
「上司が急に人間買ったら……そりゃ警戒するわ」
麗の言動はある意味普通なんだろう。最近普通からかけ離れてしまっていた朱兎は、改めて己も普通の感覚を無くし始めていたことに気が付かされた。
この短期間で随分と毒されてしまったものだと軽くショックを受けながらも、狭い脱衣所でポイポイと脱ぎ捨てた服を適当に洗濯機に放り込む。
湯船に湯を張るのも面倒なので適当にシャワーで済ませてしまおうと、蛇口を捻ってお湯が出てくるのを待った。
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