中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

文字の大きさ
11 / 34

11

しおりを挟む
 鼬瓏の言葉通り、あれから毎日のように何かしら買い与えられるようになった。彼なりの甘やかし方がそういった手法なのか、お世辞にも広いとは言えない朱兎の部屋は鼬瓏から与えられたモノで溢れかえっていた。

「お前、何をしたらここまで鼬瓏に気に入られるんだ」
「そんなの、オレが一番知りてぇよ」

 衣類や装飾品、バッグや日用品。果てはいつの間にやらグレードの上がっている家具たち。どうりでここ数日ベッドの寝心地が良いはずだ。家主の許可なく勝手に買い換えていくのはどうかとも思ったが、そんなことを言える権限はないのだと思い出した朱兎はチベットスナギツネのような顔をしながら、ぐっと言葉を飲み込んだのは記憶に新しい。
 日に日に増えていくそれらは、やはりどれもこれもがブランド品ばかりで頭が痛くなりそうだった。
 人生でこんなにも貢がれたのは始めてで、とても不思議な感覚を覚えた。

「確かに、気に入られろとは言ったが……」

 眉間に寄せた皺へ手を当ててため息を吐いたのは、いつぞやのオークションの際に朱兎を軽々と肩に担ぎ上げた男……名はリィだと言う。
 いつも大学やバイトへ付いてきていたのは紫釉だったが、どうにも外せない仕事が入ったらしい。あの日以来の顔合わせに、といっても麗の顔をちゃんと見るのは今日が初めてなのでついつい緊張してしまう。
 しかしそんな心配を他所に、麗は大学でも程よい距離を保ってくれていたので、いつの間にか緊張は解けていた。

(ただなぁ……紫釉と違って、こいつ口数少ないし喋り方冷たいんだよな)

 他者と比較するのは良くないとわかっていても、どうしても比較をしてしまう。見た目は十中八九誰に聞いてもイケメンだと返ってきそうなのに、口調や態度が冷たい。クールなのだと言ってしまえばそうなんだろうが。
 それに、気のせいか……麗からの視線がチクチクと刺さって痛い。

「今日はこの後の予定がない日だと聞いているが」
「あ、あぁ。今日はバイト入ってねぇし、課題も終わってるから特にやることはないな」
「なら良い。俺は鼬瓏が来るまでここにいるが、お前はお前の好きなようにしていろ」

 そう言うと、麗は朱兎の視界から遠ざかるように玄関の方へと移動し、壁へもたれ掛かるようにして腕を組み目を閉じた。

(いや、沈黙が重い!)

 いくら玄関までにはいくらか距離があるとしても、狭いこの部屋に仕切りなどないのでお互いの気配はダイレクトに感じ取れる。
 当たり前のように我が家に入り浸る鼬瓏が、今日はこんなにも待ち遠しい。本人に伝えればまたなにか物が増えそうなので、絶対に口にはしないと朱兎はキュッと口を噤んだ。
 麗を見れば変わらず同じ体勢を保っており、これは鼬瓏が来るまで本当にただここにいるだけを貫く態度だった。

(考えるのも面倒になったきた。風呂入ろ)

 小さく溜息を吐き出した朱兎は、いつの間にかクローゼットの中に増えていた不思議とサイズがピッタリの下着を引っ張り出して風呂場へと向かった。
 風呂場は玄関横なので、必然的に麗の側を通るわけだが……当の本人は目を閉じたまま微動だにしない。今日一日で麗について知り得た情報は、朱兎に対して警戒心を持っているということだけだ。

「上司が急に人間買ったら……そりゃ警戒するわ」

 麗の言動はある意味普通なんだろう。最近普通からかけ離れてしまっていた朱兎は、改めて己も普通の感覚を無くし始めていたことに気が付かされた。
 この短期間で随分と毒されてしまったものだと軽くショックを受けながらも、狭い脱衣所でポイポイと脱ぎ捨てた服を適当に洗濯機に放り込む。
 湯船に湯を張るのも面倒なので適当にシャワーで済ませてしまおうと、蛇口を捻ってお湯が出てくるのを待った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...