8 / 41
07
しおりを挟む
「結果から言って良いかな?」
「はい」
診察室で医師と向き合いながら、律は緊張した面持ちで返事をする。
返答が返ってくるほんの数秒の間ですら、罪状を言い渡されるのを待つ囚人にでもなった気分だった。
「君は、オメガだね」
ピシャーンっと、雷が落ちたような衝撃が律を襲う。
「データベース上では確かにベータだったけど、検査の結果はオメガになっている。突然変異の後天性オメガっていうやつだね」
「そんな……」
突然変異なんて初めて見たよと、紹介してもらった医者は律のカルテを興味深そうに見入っている。
「伊織先輩がこんな時間に急に呼びつけるから、余程のことだとは思ってたけど」
紫藤の後輩に当たるらしいまだ年の若そうな医者は、カルテと検査結果を見比べながらあーでもない、こーでもないと何やら考え込んでいた。
改めて面と向かってオメガだと断言されてしまった律も、何故こんな事態になってしまったのかと頭を悩ませる。
いくら頭を悩ませたところで辿り着くのは、専門知識も持たない一般人が考えても何も分からない――それが答えだった。
「続いていたっていう体調不良は、君の身体がベータからオメガに変異を始めていたからだったんだろうね」
大変だったねと労ってくれた言葉が優しくて身に染みる。久しぶりに人の優しさに触れたせいか、鼻の奥がツーンとして目頭が熱くなってしまった。
「落ち着くまでゆっくりすると良いよ。診療時間外だし、誰も来ないからさ」
「ありがとう、ございます」
時計の針はもう九時を過ぎている。
ここに連れてこられて早々に色々な検査に回されて、慌ただしく時間が過ぎた筈なのに……今日はやたらと時間の流れが遅く感じてしまう。
「音無くん、君のご家族の中にオメガって居たりする?」
「はい、従兄弟に一人」
「そっか……じゃあ、その可能性もあるのか」
親族にオメガがいる家系は、オメガが生まれやすい血筋の可能性があるらしい。
とは言うものの、律の家系にオメガは従兄弟一人だけだ。父の双子の弟の息子で、同い年。背格好も顔立ちも良く似ていたため、二人で並んでいると双子みたいだと言われたことはある。
最近連絡を取っていないが、元気にしているだろうか気になるところだ。落ち着いたら、たまには連絡でも取ってみよう。
「いきなりで不安なことだらけだと思うけどさ。こちらも出来る限りサポートに回るから安心してよ」
にこりと笑って律を落ち着かせようとしてくれる。この先生は、何処かの保健医とは違って信頼に足る人物だと思う。
「結果は出たのか、黒川?」
「先輩、音もなく急に入って来ないでくださいよ」
噂をすれば何とやら。口にこそ出してはいなかったが、いつの間に入って来たのか、医者――黒川の背後には紫藤が立っていた。
「しかもそっちから……」
「別に誰も居ないんだから構わないだろう?」
「本当に、変わらないですね伊織先輩」
どうやら医療関係者が出入りする通用路から入って来たらしい。黒川が咎めないところを見ると、医者という肩書は本物なのだろう。
こんな胡散臭い笑顔を貼り付けた医者、絶対に掛かりたくないと律は内心毒づく。
「それで?」
そんなことは良いからと急かすように、紫藤は黒川に検査結果の報告を促した。
「彼は突然変異のオメガで間違い無いですよ」
「……そうか」
自分で聞いた割に、結果を聞いた後の紫藤は素っ気ない返事を返すだけだった。
黒川からカルテと検査結果を奪い取ると、珍しく真面目な表情でその紙の文字に目を走らせていた。
「あ、の」
「何だい?」
「僕は、これからどうすれば良いんでしょう?」
突然変異だオメガだ言われても、この先どうして良いのか分からない。
普通に生活は出来るのか? 大学には通えるのか? そう言った不安が一気に押し寄せて来てしまう。
「そうだね……これか色々と書類や手続きが必要にはなると思うけど、大丈夫。少し生活の様式が変わるだで、普通に生活出来るさ!」
「はい」
診察室で医師と向き合いながら、律は緊張した面持ちで返事をする。
返答が返ってくるほんの数秒の間ですら、罪状を言い渡されるのを待つ囚人にでもなった気分だった。
「君は、オメガだね」
ピシャーンっと、雷が落ちたような衝撃が律を襲う。
「データベース上では確かにベータだったけど、検査の結果はオメガになっている。突然変異の後天性オメガっていうやつだね」
「そんな……」
突然変異なんて初めて見たよと、紹介してもらった医者は律のカルテを興味深そうに見入っている。
「伊織先輩がこんな時間に急に呼びつけるから、余程のことだとは思ってたけど」
紫藤の後輩に当たるらしいまだ年の若そうな医者は、カルテと検査結果を見比べながらあーでもない、こーでもないと何やら考え込んでいた。
改めて面と向かってオメガだと断言されてしまった律も、何故こんな事態になってしまったのかと頭を悩ませる。
いくら頭を悩ませたところで辿り着くのは、専門知識も持たない一般人が考えても何も分からない――それが答えだった。
「続いていたっていう体調不良は、君の身体がベータからオメガに変異を始めていたからだったんだろうね」
大変だったねと労ってくれた言葉が優しくて身に染みる。久しぶりに人の優しさに触れたせいか、鼻の奥がツーンとして目頭が熱くなってしまった。
「落ち着くまでゆっくりすると良いよ。診療時間外だし、誰も来ないからさ」
「ありがとう、ございます」
時計の針はもう九時を過ぎている。
ここに連れてこられて早々に色々な検査に回されて、慌ただしく時間が過ぎた筈なのに……今日はやたらと時間の流れが遅く感じてしまう。
「音無くん、君のご家族の中にオメガって居たりする?」
「はい、従兄弟に一人」
「そっか……じゃあ、その可能性もあるのか」
親族にオメガがいる家系は、オメガが生まれやすい血筋の可能性があるらしい。
とは言うものの、律の家系にオメガは従兄弟一人だけだ。父の双子の弟の息子で、同い年。背格好も顔立ちも良く似ていたため、二人で並んでいると双子みたいだと言われたことはある。
最近連絡を取っていないが、元気にしているだろうか気になるところだ。落ち着いたら、たまには連絡でも取ってみよう。
「いきなりで不安なことだらけだと思うけどさ。こちらも出来る限りサポートに回るから安心してよ」
にこりと笑って律を落ち着かせようとしてくれる。この先生は、何処かの保健医とは違って信頼に足る人物だと思う。
「結果は出たのか、黒川?」
「先輩、音もなく急に入って来ないでくださいよ」
噂をすれば何とやら。口にこそ出してはいなかったが、いつの間に入って来たのか、医者――黒川の背後には紫藤が立っていた。
「しかもそっちから……」
「別に誰も居ないんだから構わないだろう?」
「本当に、変わらないですね伊織先輩」
どうやら医療関係者が出入りする通用路から入って来たらしい。黒川が咎めないところを見ると、医者という肩書は本物なのだろう。
こんな胡散臭い笑顔を貼り付けた医者、絶対に掛かりたくないと律は内心毒づく。
「それで?」
そんなことは良いからと急かすように、紫藤は黒川に検査結果の報告を促した。
「彼は突然変異のオメガで間違い無いですよ」
「……そうか」
自分で聞いた割に、結果を聞いた後の紫藤は素っ気ない返事を返すだけだった。
黒川からカルテと検査結果を奪い取ると、珍しく真面目な表情でその紙の文字に目を走らせていた。
「あ、の」
「何だい?」
「僕は、これからどうすれば良いんでしょう?」
突然変異だオメガだ言われても、この先どうして良いのか分からない。
普通に生活は出来るのか? 大学には通えるのか? そう言った不安が一気に押し寄せて来てしまう。
「そうだね……これか色々と書類や手続きが必要にはなると思うけど、大丈夫。少し生活の様式が変わるだで、普通に生活出来るさ!」
24
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる