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「こんなに調子が良いの久しぶりかもしれない」
手際良く手を付けられずにいた家事をこなしながら、律は久方ぶりに身体の軽さを実感した。
黒川から処方された薬は、予想していた以上の効果をはっきしてくれたと言って良い。
(ベータのときにでも戻ったみたいだ)
帰宅直後から薬の効き目は現れていた。
いつもなら部屋の中に入れば紫藤の残り香に反応して不調の症状が現れていたのだが、それがどうだろう。あれだけ強いと感じた紫藤の匂いを感じ取ることすら出来ずにいた。
たったそれだけのことなのに、不思議と不安や不調の症状が現れることはなく、その日の夜はしわくちゃになった紫藤のシャツを抱いて眠らずとも穏やかに眠ることができた。
あれから二日が過ぎているが、律の調子は変わらず安定をしていて、顔色も元通りとまではいかないが回復をしていた。
「よし、綺麗に干せた」
今日は天気も良く、初夏の青空の下でシャツがそよそよと靡いている。気温も高く、きっと良く乾く。あれだけ世話になった紫藤のシャツも、もう大丈夫だと洗濯をして他の洗濯物に紛れながらゆらゆらと風に揺れている。
それを満足気に見た律は、時計を確認すると休む間もなくキッチンへと立った。身体の調子が良くなったことで、必然と食欲も戻ってきた。冷蔵庫の中身を一掃するチャンスとばかりに、律は昼間から少し多めに食事を作っていた。
「残ったら夕飯に回せば良いし、あっちは冷凍しておけば明日以降に食べられるし……」
色々と考えながら一品二品と品数を増やしていく。
鼻歌混じりで料理を作っていると、テーブルの上に置いていた携帯端末の通知音が鳴った。
「誰だろ」
手を止めて画面を見れば、二件の通知を知らせる文字が見えた。どうやら、洗濯を干している間にも通知が来ていたらしい。
「あ、望からだ」
一件は従兄弟の望から来たメールの通知だった。
内容はオメガになった律の体調を気遣うものや、今度また会おうといった取り留めのないもの。しかし、誰かに気に掛けてもらえるというだけで嬉しくなった律は、嬉々として望に返事を返す。聞きたいこと、聞いて欲しいこと、沢山あるから近いうちに会いたいという文言を詰め込んだ文章を送った。
「もう一件は――紫藤、さん?」
紫藤からのメールはとても簡潔で『今日帰る』と一言だけ書かれていた。
それだけの内容にも関わらず、律は心臓がドクンと脈打つのを感じた。
(帰って、くるんだ)
紫藤が帰ってくることを素直に喜んでいる自分を感じて、律は慌てて首を左右に振る。
「せ、折角薬で落ち着いてるのに……またあんな風になるかもしれないんだぞ。喜んでる場合じゃないだろう僕!」
口ではああだこうだと言い訳を並べてはいるが、沸き上がってくる気持ちは抑えられずにどんどんと膨らんでいった。薬でオメガの性質は抑えられているはずなのに、こんな気持ちになるなんて。これじゃまるで、オメガなど関係なく紫藤のことを好いているようではないか。律は思わずしゃがみこんで頭を抱えた。
「……薬の効きが悪くなったのかもしれない。多分、きっと」
手際良く手を付けられずにいた家事をこなしながら、律は久方ぶりに身体の軽さを実感した。
黒川から処方された薬は、予想していた以上の効果をはっきしてくれたと言って良い。
(ベータのときにでも戻ったみたいだ)
帰宅直後から薬の効き目は現れていた。
いつもなら部屋の中に入れば紫藤の残り香に反応して不調の症状が現れていたのだが、それがどうだろう。あれだけ強いと感じた紫藤の匂いを感じ取ることすら出来ずにいた。
たったそれだけのことなのに、不思議と不安や不調の症状が現れることはなく、その日の夜はしわくちゃになった紫藤のシャツを抱いて眠らずとも穏やかに眠ることができた。
あれから二日が過ぎているが、律の調子は変わらず安定をしていて、顔色も元通りとまではいかないが回復をしていた。
「よし、綺麗に干せた」
今日は天気も良く、初夏の青空の下でシャツがそよそよと靡いている。気温も高く、きっと良く乾く。あれだけ世話になった紫藤のシャツも、もう大丈夫だと洗濯をして他の洗濯物に紛れながらゆらゆらと風に揺れている。
それを満足気に見た律は、時計を確認すると休む間もなくキッチンへと立った。身体の調子が良くなったことで、必然と食欲も戻ってきた。冷蔵庫の中身を一掃するチャンスとばかりに、律は昼間から少し多めに食事を作っていた。
「残ったら夕飯に回せば良いし、あっちは冷凍しておけば明日以降に食べられるし……」
色々と考えながら一品二品と品数を増やしていく。
鼻歌混じりで料理を作っていると、テーブルの上に置いていた携帯端末の通知音が鳴った。
「誰だろ」
手を止めて画面を見れば、二件の通知を知らせる文字が見えた。どうやら、洗濯を干している間にも通知が来ていたらしい。
「あ、望からだ」
一件は従兄弟の望から来たメールの通知だった。
内容はオメガになった律の体調を気遣うものや、今度また会おうといった取り留めのないもの。しかし、誰かに気に掛けてもらえるというだけで嬉しくなった律は、嬉々として望に返事を返す。聞きたいこと、聞いて欲しいこと、沢山あるから近いうちに会いたいという文言を詰め込んだ文章を送った。
「もう一件は――紫藤、さん?」
紫藤からのメールはとても簡潔で『今日帰る』と一言だけ書かれていた。
それだけの内容にも関わらず、律は心臓がドクンと脈打つのを感じた。
(帰って、くるんだ)
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「せ、折角薬で落ち着いてるのに……またあんな風になるかもしれないんだぞ。喜んでる場合じゃないだろう僕!」
口ではああだこうだと言い訳を並べてはいるが、沸き上がってくる気持ちは抑えられずにどんどんと膨らんでいった。薬でオメガの性質は抑えられているはずなのに、こんな気持ちになるなんて。これじゃまるで、オメガなど関係なく紫藤のことを好いているようではないか。律は思わずしゃがみこんで頭を抱えた。
「……薬の効きが悪くなったのかもしれない。多分、きっと」
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