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29話 いざ、尋常に
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私はダンジョンに行く前に安価の短剣を買った。
エルナからもらった短剣はいざという時のため置いておくことにしたのだ。
もしかしたら、エルナの想いが込められているかもしれない。そうであれば強力な力の促進剤になりうる。
「着いたぞ」
「「ゴクリっ」」
私とサーシャは目の前にそびえる巨大な扉を見て息をのんだ。
今まで見てきた扉の中で一番大きい。私たちを十段積んでも届くか分からない。
「これってどうやって開けるのかしら?」
私は少し立ち眩みしそうな光景を見て聞いた。
どう見ても人間仕様ではない。巨大な怪物が通るような扉である。
普通に押したところで動くはずもない。そのため、これ程の巨大な扉が動くとは思えないのだ。
するとテスラはゆっくりと扉に手を伸ばした。
「魔力だな。ちょっと流せば動く」
そう言ってテスラは手を扉から除ける。
どうやら魔力が扉の鍵になっているらしい。それならこれほど大きい扉を設計するのも納得である。
「ふぅ……準備はいいか? 二人とも」
テスラも一度深呼吸をしてから聞いてくる。
テスラは大人だからと言って緊張しないわけではない。私たちの面倒を見るという面においても何十倍も背負っているものがあるのだ。
頼りにしていたテスラも緊張しているという事実に私まで体が硬直してしまいそうになる。
ここから先は誰も知らない未知のエリア。
そこに一つの巨大な生命の反応があるのは、ここまで近づけば私でも分かる。
今まで出会ってきた魔獣の中で一番強い。それもかなりレベルの違う格上の存在だ。
無傷では帰れない可能性もある。
そして、運が悪ければだれかが死んでしまう可能性も…………
そんな不安が私の中で渦巻いているとき、隣から元気な声が響いた。
「エリス様! 二人で笑って帰りましょ!」
サーシャは私の手を取ってはにかむように笑っている。
すると、自然とその笑みを見ると不安になっていた私まで馬鹿であるような気がしてきた。
私もその笑みに答えるように頷く。
「ふふっ。ええ! 全力で楽しんで戦いましょ!」
そうだ。このメンバーなら信頼しあえる。
不安なんて無駄な感情だ。私は私のできることをするまでである。
「エリス。お前は今日は中衛で行け」
「ん? 前衛じゃないの?」
私が冒険に慣れて一週間ぐらい経った頃には私が前衛になっていた。
私が一番経験ができ、一番大きな理由としてはテスラが安定して指示を出せるからだ。
しかし、今日は違うようだ。
「今日ぐらいは俺が暴れてやるよ」
テスラは屈伸をしながら言った。
その表情からは今までにないほどやる気が満ち溢れているのが分かった。
今回なら敵も一人。作戦という作戦もない。
「サーシャとエリスはそこまで出なくていい。サーシャは後方で補助。エリスはたまにスイッチしてくれ」
「了解です」
「分かったわ」
私たちが了承したのを確認するとテスラは右手を扉につけた。
そして、口角を上げて一言だけ口にする。
「やるぞ」
その言葉と同時にテスラは魔力を扉に流し込む。
「「「…………」」」
しかし、扉が動く様子は見せない。
故障だろうか? そう思っていると、
『転移を開始します』
脳内に直接語りかけてくるような言葉が聞こえる。
それと同時に私たちの視界は真っ暗に染まったのだった。
エルナからもらった短剣はいざという時のため置いておくことにしたのだ。
もしかしたら、エルナの想いが込められているかもしれない。そうであれば強力な力の促進剤になりうる。
「着いたぞ」
「「ゴクリっ」」
私とサーシャは目の前にそびえる巨大な扉を見て息をのんだ。
今まで見てきた扉の中で一番大きい。私たちを十段積んでも届くか分からない。
「これってどうやって開けるのかしら?」
私は少し立ち眩みしそうな光景を見て聞いた。
どう見ても人間仕様ではない。巨大な怪物が通るような扉である。
普通に押したところで動くはずもない。そのため、これ程の巨大な扉が動くとは思えないのだ。
するとテスラはゆっくりと扉に手を伸ばした。
「魔力だな。ちょっと流せば動く」
そう言ってテスラは手を扉から除ける。
どうやら魔力が扉の鍵になっているらしい。それならこれほど大きい扉を設計するのも納得である。
「ふぅ……準備はいいか? 二人とも」
テスラも一度深呼吸をしてから聞いてくる。
テスラは大人だからと言って緊張しないわけではない。私たちの面倒を見るという面においても何十倍も背負っているものがあるのだ。
頼りにしていたテスラも緊張しているという事実に私まで体が硬直してしまいそうになる。
ここから先は誰も知らない未知のエリア。
そこに一つの巨大な生命の反応があるのは、ここまで近づけば私でも分かる。
今まで出会ってきた魔獣の中で一番強い。それもかなりレベルの違う格上の存在だ。
無傷では帰れない可能性もある。
そして、運が悪ければだれかが死んでしまう可能性も…………
そんな不安が私の中で渦巻いているとき、隣から元気な声が響いた。
「エリス様! 二人で笑って帰りましょ!」
サーシャは私の手を取ってはにかむように笑っている。
すると、自然とその笑みを見ると不安になっていた私まで馬鹿であるような気がしてきた。
私もその笑みに答えるように頷く。
「ふふっ。ええ! 全力で楽しんで戦いましょ!」
そうだ。このメンバーなら信頼しあえる。
不安なんて無駄な感情だ。私は私のできることをするまでである。
「エリス。お前は今日は中衛で行け」
「ん? 前衛じゃないの?」
私が冒険に慣れて一週間ぐらい経った頃には私が前衛になっていた。
私が一番経験ができ、一番大きな理由としてはテスラが安定して指示を出せるからだ。
しかし、今日は違うようだ。
「今日ぐらいは俺が暴れてやるよ」
テスラは屈伸をしながら言った。
その表情からは今までにないほどやる気が満ち溢れているのが分かった。
今回なら敵も一人。作戦という作戦もない。
「サーシャとエリスはそこまで出なくていい。サーシャは後方で補助。エリスはたまにスイッチしてくれ」
「了解です」
「分かったわ」
私たちが了承したのを確認するとテスラは右手を扉につけた。
そして、口角を上げて一言だけ口にする。
「やるぞ」
その言葉と同時にテスラは魔力を扉に流し込む。
「「「…………」」」
しかし、扉が動く様子は見せない。
故障だろうか? そう思っていると、
『転移を開始します』
脳内に直接語りかけてくるような言葉が聞こえる。
それと同時に私たちの視界は真っ暗に染まったのだった。
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