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30話 ボス
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視界が戻ると私たちは大円形の台の中心にいた。
石造りの縁で囲まれているため、まるでここで戦えと言わんばかりの構造である。
ボッ! ボッ! ボッ!
するとその大円に沿って松明に火が付き始める。
そして、この部屋に光が充満したとき、やっと目の前にいる怪物が視界に入った。
見た目はミノタウロスのような容姿であり、身長も私たちの三倍ぐらいある。
しかし、そこらのミノタウロスとはレベルが違うことは一瞬で理解できた。
ここ三週間でミノタウロスとは何回も戦っている。そのたびに無傷で殺せてきたが、この怪物は違う。
まさにボスともいえる風格があった。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!」
私たちを視認したボスはこの部屋に響き渡る声で咆哮する。
片手に斧を持っており、あの筋骨隆々とした肉体で振り出される斬撃は私たちの骨など容易く切り落とす。
いわば、一撃でも食らえば終わりということだ。
「最初から全力で行くぞ! 【執行者】!」
テスラは右手で握っていた長剣にスキルを行使する。
すると、みるみると長剣は変形し、巨大な死神が持つような鎌へと変貌した。
その鎌からはボス同様、死の空気が漂う。
この三週間、テスラは一度もスキルを行使しなかった。
ちなみにスキルには行使制限などはない。
使わなかった理由としては使う必要がなかったためだ。
だが、今は違う。最初からスキルを行使しなければ勝てない。そんな相手だ。
「風の加護のもとに! 【エアロ】!」
サーシャは攻撃を仕掛けようとしているテスラに補助魔法を行使した。
エアロとは対象者の機敏さを上げる魔法である。
この状況では防御力や攻撃力を上げたところで意味を持たない。
攻撃に当たってはいけないのだ。となると【エアロ】がいいというわけである。
たかが補助魔法。ちょっとした身体能力の向上に過ぎない。そう思う人もいるかもしれない。
だが、実際は、
「おらあああああぁぁぁぁ!」
「グワッ!?」
まるで風と一体化するようにボスまでの距離を疾走したテスラはボスの足の間をスライディングし、両足に斬撃を叩きこむ。
その斬撃は硬そうな皮膚をやすやすと裂き、ボスの膝を地につけさせた。
「サーシャ! 追撃!」
「了解です! 【ウインドカッター】!」
サーシャは後方から濃縮された風をボスにぶつける。
その風は一枚一枚刃を持ち、ボスの皮膚、そして肉を切り裂いていく。
「ギャアアアアアアァァァァ!」
流石に人数差があったのか、ボスは肩で激しく息をしている。
だが、油断は禁物だ。ここはダンジョンなのである。
私はアイテムポーチにあった魔力の回復ポーションをサーシャに投げ渡す。
「サーシャ。これ!」
「ありがとうございます!」
サーシャはごくごくと回復ポーションを飲み干した。
サーシャの魔力はまだ残っているだろうが、万全の状態を保っておく方がいい。
「おらおらおらおらおらっ!」
テスラはその隙にもボスに向かって鎌で乱撃を加えている。
そのおかげでボスの足元はふらつき、ボロボロになっていた。
肉が裂け骨まで見ている状態である。
「【ファイアーボール】! 【ファイアーボール】!【ファイアーボール】!」
サーシャは後方からボスの顔面目がけて魔法を連続行使する。
ボスはとっさに片手で持っていた子斧で叩き落とす。
しかし、注意が上に逸れたことで、
「おらよっ!」
「グワアアアァァァ!」
テスラはまるで鎌をバットのようにして持ち、ボスの右足を切り落とした。
片足をなくしたボスはバランスをなくして顔面から倒れかけ、両腕さえも地につける。
それを待っていましたと言わんばかりにテスラは今度は腕を切り刻み始めた。
「モオオオオオオオオォォォォ!」
ボスは必死に子斧を振り回してテスラを潰そうとするが、テスラは機敏さが上がっているため、攻撃を見切り、すべて避けている。
まるで何かにたかる蠅のようにテスラは避け続けていた。
そうして、今度はテスラに意識が集中するため…………
「火の地獄へと落ちろ! 【煉獄《ボルケーノ》】!」
詠唱が必要な強力な魔法をサーシャは行使した。
サーシャの杖から放たれた真っ赤な炎はボスの顔面を焼き尽くす。
…………ん? 私何もしてなくないかしら?
ま、まぁ勝てばいいんだよね。うん。勝てば。
「やりましたか!?」
直撃した魔法を見てサーシャはガッツポーズをしながらテスラに聞く。
爆撃の煙でボスの様子が見えないのだ。
「…………」
しかし、返答は何もなかった。
そして、その代わりに、
「うぐっ! あああああああぁぁぁぁ!」
「「…………ッ!?」」
ボトッという鈍い音とともにテスラの絶叫が聞こえてきたのだった。
石造りの縁で囲まれているため、まるでここで戦えと言わんばかりの構造である。
ボッ! ボッ! ボッ!
するとその大円に沿って松明に火が付き始める。
そして、この部屋に光が充満したとき、やっと目の前にいる怪物が視界に入った。
見た目はミノタウロスのような容姿であり、身長も私たちの三倍ぐらいある。
しかし、そこらのミノタウロスとはレベルが違うことは一瞬で理解できた。
ここ三週間でミノタウロスとは何回も戦っている。そのたびに無傷で殺せてきたが、この怪物は違う。
まさにボスともいえる風格があった。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!」
私たちを視認したボスはこの部屋に響き渡る声で咆哮する。
片手に斧を持っており、あの筋骨隆々とした肉体で振り出される斬撃は私たちの骨など容易く切り落とす。
いわば、一撃でも食らえば終わりということだ。
「最初から全力で行くぞ! 【執行者】!」
テスラは右手で握っていた長剣にスキルを行使する。
すると、みるみると長剣は変形し、巨大な死神が持つような鎌へと変貌した。
その鎌からはボス同様、死の空気が漂う。
この三週間、テスラは一度もスキルを行使しなかった。
ちなみにスキルには行使制限などはない。
使わなかった理由としては使う必要がなかったためだ。
だが、今は違う。最初からスキルを行使しなければ勝てない。そんな相手だ。
「風の加護のもとに! 【エアロ】!」
サーシャは攻撃を仕掛けようとしているテスラに補助魔法を行使した。
エアロとは対象者の機敏さを上げる魔法である。
この状況では防御力や攻撃力を上げたところで意味を持たない。
攻撃に当たってはいけないのだ。となると【エアロ】がいいというわけである。
たかが補助魔法。ちょっとした身体能力の向上に過ぎない。そう思う人もいるかもしれない。
だが、実際は、
「おらあああああぁぁぁぁ!」
「グワッ!?」
まるで風と一体化するようにボスまでの距離を疾走したテスラはボスの足の間をスライディングし、両足に斬撃を叩きこむ。
その斬撃は硬そうな皮膚をやすやすと裂き、ボスの膝を地につけさせた。
「サーシャ! 追撃!」
「了解です! 【ウインドカッター】!」
サーシャは後方から濃縮された風をボスにぶつける。
その風は一枚一枚刃を持ち、ボスの皮膚、そして肉を切り裂いていく。
「ギャアアアアアアァァァァ!」
流石に人数差があったのか、ボスは肩で激しく息をしている。
だが、油断は禁物だ。ここはダンジョンなのである。
私はアイテムポーチにあった魔力の回復ポーションをサーシャに投げ渡す。
「サーシャ。これ!」
「ありがとうございます!」
サーシャはごくごくと回復ポーションを飲み干した。
サーシャの魔力はまだ残っているだろうが、万全の状態を保っておく方がいい。
「おらおらおらおらおらっ!」
テスラはその隙にもボスに向かって鎌で乱撃を加えている。
そのおかげでボスの足元はふらつき、ボロボロになっていた。
肉が裂け骨まで見ている状態である。
「【ファイアーボール】! 【ファイアーボール】!【ファイアーボール】!」
サーシャは後方からボスの顔面目がけて魔法を連続行使する。
ボスはとっさに片手で持っていた子斧で叩き落とす。
しかし、注意が上に逸れたことで、
「おらよっ!」
「グワアアアァァァ!」
テスラはまるで鎌をバットのようにして持ち、ボスの右足を切り落とした。
片足をなくしたボスはバランスをなくして顔面から倒れかけ、両腕さえも地につける。
それを待っていましたと言わんばかりにテスラは今度は腕を切り刻み始めた。
「モオオオオオオオオォォォォ!」
ボスは必死に子斧を振り回してテスラを潰そうとするが、テスラは機敏さが上がっているため、攻撃を見切り、すべて避けている。
まるで何かにたかる蠅のようにテスラは避け続けていた。
そうして、今度はテスラに意識が集中するため…………
「火の地獄へと落ちろ! 【煉獄《ボルケーノ》】!」
詠唱が必要な強力な魔法をサーシャは行使した。
サーシャの杖から放たれた真っ赤な炎はボスの顔面を焼き尽くす。
…………ん? 私何もしてなくないかしら?
ま、まぁ勝てばいいんだよね。うん。勝てば。
「やりましたか!?」
直撃した魔法を見てサーシャはガッツポーズをしながらテスラに聞く。
爆撃の煙でボスの様子が見えないのだ。
「…………」
しかし、返答は何もなかった。
そして、その代わりに、
「うぐっ! あああああああぁぁぁぁ!」
「「…………ッ!?」」
ボトッという鈍い音とともにテスラの絶叫が聞こえてきたのだった。
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