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十七話 Xクラスへようこそ

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「「「……………………」」」

 この沈黙は一気に全体へと広がり、案内役であるはずの職員までがこちらを見ている。
 そしてその沈黙はすぐに破られた。

「あっはっはっは! 魔力がゼロだってよ!」
「こっちの測定石も壊れてるんじゃない?」
「雑魚だろ! なんでこんな奴が入学試験突破できるんだよ?」

 俺は周りを見渡すがエリーナ以外の全ての魔族たちが俺を見て笑う者もいれば俺を非難する者もいた。
 そのすべての標的は俺だ。

 俺はただうつむいたままその罵声を浴び続ける。

 【テレポート】を使ったから魔力がなくなった?
 否、それは平等ではなくなるためありえない。
 
 俺は魔力が本当にないのか?
 否、なら【テレポート】が使えるはずもない。

 どうなってるんだ?

 そんなことを考えていると案内係がこちらに向かってくる。
 
「残念ですがあなたは退学してもらいます」

 受付係の魔族は口を開け一切表情を動かさずに言った。
 その様子を見た魔族たちはさらに笑い始めた。

「あッはッは! 何の魔族だよあいつ!」
「ふっふっふ。一でもあるならともかくゼロって!」

 その笑い越えは蔓延し始めやがて、何百人もの笑い声になる。
 これはもう止まらないのではと錯覚してしまうぐらい。
 だが、

「うるさい!」

 隣にいるエリーナが必死に大声を出してそう叫んだ。
 その目には少し涙が浮かんでいる。
 エリーナの声に真意が込められていたためか徐々に声が静まっていく。

「…………ごめんね」

 俺はエリーナに謝ってから自然に空いた道を俺は進む。
 当然その道の最後はこの学校の出口だ。

 結局、俺は何も変わってない。
 魔大陸で一年、みんなと何不自由なく過ごしていたためそう、錯覚してしまっていたのだ。
 俺はどうあがいたって最弱テイマー。
 今日も一年前もこうして俺は追放されるのだ。

 俺は多くの視線を浴びながこのホールに向かおうとする。
 その時!

「待ちたまえ少年!」

 深海の深魚族ヴァースキの野太い声がホールに響いた。
 その声で軽い空気がまた引き締まり全ての魔族の表情が真剣になる。

 深海の深魚族ヴァースキは高台のところのような所から現れた。
 いつもの髭を生やした優しいおじさんではなく、鰓も整えられ厳しいおじ様というイメージだ。

「君はXクラスだ。そこの君、連れて行きたまえ」
「ですが…………この少年は魔力がゼロで」
「学校長に口答えするのか?」

 まるで殺気のようなオーラを出しながらそう言った深海の深魚族ヴァースキに受付係はもちろん、他の学生たちも怯えるようにあとずさる。
 中には、尻もちをつく生徒までいた。

「は、はい!」

 先ほど俺に退学宣言を出した受付係の魔族が冷や汗を流しながら俺の元まで走ってくる。

「こっちです。ついてきなさい」

 受付係は落ち着いた様子を保っているつもりなのだろうが手がぶるぶると震えている。
 俺は素直に受付係の後ろを指示通りついていった。

「早く一次試験を始めてください!」

 ホールで固まっていた魔族たちはその深海の深魚族ヴァースキの声でまた測定を始めた。



 ホールから出た俺と受付係はそのまま真っ暗な細い通路を歩いていく。
 本当にここは人が通るところなのだろうか。
 埃まみれで蜘蛛の巣まである。

「あの…………Xクラスなんてあるんですか?」

 いまだにあの状況から学校に残れたことが信じられず、そんなことを受付係に聞く。
 すると受付係はまっすぐ前を向いて歩きながら答える。

「ええ。あるといえばあります。ですがまともなクラスではありません」

 俺は受付係の言葉を聞いて俺は少し安堵する。
 その様子を見て受付係は不思議そうに聞く。

「何故、この話を聞いて安心するのですか? 普通なら嫌な表情を浮かべると思っていたのですが」
「…………え? 学校に残れるだけで俺は十分ですよ」

 正直に言おう。嘘だ。
 俺だってAクラスに入りたかった。エリーナたちと肩を並べたかった。
 だが、何故か数値はゼロだし、測定石は壊れるし。
 しかし、そんな状況に陥ってしまえば、たとてXクラスだろうと良かったと思える。

「そうですか…………こちらです」

 何故か少し口角を上げた受付係はかたそうな扉を強引に開け、俺を中に入れた。

 すると、

「お! 新入り? 今年も来ないと思ってたのにね!」
「ジー…………な! こいつ魔力量きもいの!」
「やっと男子か! 俺一人だったから本当に嬉しいぜ!」

 教室の中に入るとそこには木製の椅子と机が二十個ほどきれいに整列させられ、前には大きな黒板がある。
 まさに教室という感じだ。

 そして前に女子が二人、一番奥に男子が一人と魔族が座っている。
 三人は顔を見合わせるようにして声を合わせて俺に向いて言う。

「「ようこそ! Xクラスへ」」
「ようこそなの」

 笑顔で俺を迎え入れてくれた。

 さぁここから俺の怒涛の学園生活が始まる。
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