ターンオーバー

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その5

5−5

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 そこにお客さんが続けて二人来たので私は受付カウンターに立った。その間、社長はバックヤードで金銭出納帳などのチェックをされていたの。

 お客さんが帰ると、社長は用が済んだのか店に顔を出してきたわ。

「ご苦労さま」

「社長さん、お茶でもいかがですか」

「ありがとうございます。でもひとつ前の店でいただきましたから」

「そうですか。私は店でお会いするのは初めてなんですが、定期的に回ってらっしゃるんですか?」

「いやあ、本当はひと月に一回は顔を出したいんですがね、半年に二度来れるかどうかといったところです。先代は毎月必ず一回は全部の店を見て回っていたんですがね」

「そうですか。先代は今もお元気で?」

「親父は最近元気が無いんです。何でも女のことらしいんですが」

「おんな・・・それはお元気な」

「 七十を過ぎてるんですよ。母は早くに亡くなっていましてね。寂しいんでしょうね、これまでに何人かとつきあっていたようなんですが、最近本当に好きになった人ができたとか」

 そこまで喋ってから、社長は腕時計に目をやって、
「でもいくらメール連絡しても返ってこないって嘆いてました。七十過ぎの爺さんがメールですよ、世の中変わりましたね。さてと、それじゃまた、できれば来月!と言っときます」
 そう言ってにこやかな顔で店を出ていった。

 社長の姿が見えなくなると、私は急いで受付カウンターに戻って、店の資料を探した。
 実は社長の名前を知らなかったの。なのに社長の声、それに目元、そしてさっきの話。私には心当たりがあった。会社案内が出てきたので、それを広げて社長の名前を確認すると、

「岡崎富士夫・・・あのお爺ちゃんの息子さんなんだ」私はそう確信した。

 私はスマホでメールアプリを開く。
受信メールの未開封は見当たらないけど、
「あ、そうだった!・・・そういうことか」

 ビジネスを始めたとき、新しいアカウントを取得してそれを使ったんだけど、仕事をやめたときにアカウントを削除したのを思い出した。お客さんに電話番号は教えてないし、アカウントを削除したら連絡は取れないことになる。

 本当に岡崎さんからメールが来ていたのか気になった私は、知り合いの中で一番ITに強そうなショウちゃんに電話した。
「あら~真知子さん。お元気ぃ~?」
 彼が教えてくれたことは、サイトからアカウントを削除したら、二度と復活出来ないけれど、アプリ内から削除したものは、アカウントそのものは残っている可能性が高い、というものだったわ。
 私はアプリから削除したから、アプリの設定から「アカウントの追加」を選んでパスワードなんかを入力すると・・・良かった、アカウントは生きていた。

 受信ボックスには未開封メールがずらずらと表示された。
 岡崎さんだけじゃない。高橋さん、あびこさん、カリダカさん、ニッサンさん、佐藤さん。それぞれ最低二通のメールを送ってくれていた。


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