ターンオーバー

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その七

七−1

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「姐さん、よろしく頼みます。メールに書きましたけど、実はもう勃起しないんですよ。ただ裸になって、一緒に横になってお話ししたいだけなんです。もちろん約束通り代金は支払いますからね」
 僕は助手席に乗せた女性にちらちら目をやりながら、自宅に向かってクルマを走らせていた。

「そりゃそーよ。代金はちゃんとしてもらいますからね。それと何?お話しだけなら、服着てていいですか?他人の家って、なんかいろいろ気になるのよねえ。年寄りの独り暮らしって、大丈夫なのかなあって。タオルとかちゃんと洗ってる?マネージャーはさ、持参のタオル以外絶対に使うな、って言うのよね。だからニ、三枚持ってはいるんだけどさあ、そんなこと言われて気にしなきゃなんないのはタオルだけじゃないと思うんだよねえ」

「あ、しまった!今日は息子が来る日でした。姐さん、申し訳ないが、キャンセルだ。いや何、駅前まで戻りますから。お金も全額払いますから。そうだ、今日だったんだ。やっぱり歳を取ると失敗ばかりだ」
 僕は年寄りがよくやるように後頭部をパシンパシンと手のひらで叩きながら、ハンドルを大きく回してUターン。駅前で女を返品だ。

 車を降りた女が何やら捨て台詞を吐いているようだけど、僕は無視してすぐにクルマを発進させた。

 自宅に戻ると、僕はため息をついてリビングのソファーに身体を沈めた。マキさんからの連絡を待ちくたびれて別の商売女を探してみたけれど、今日の女はこれまでで最低だった。
 マキさんに待つと書いたのに、待てなくて別の女に手を出そうとした罰なのかもしれない。

 ひと月ほど前、マキさんからメールが送信されてきた。
 内容は中学二年生の美しい女の子のことだった。あの事件の最大の被害者で、結果的にマキさんが命を救った女の子の心の傷について書かれていた。
 それは興味のある内容ではあったものの、僕が待ち望んでいる彼女の返事ではない。未だに彼女の「時」が満ちていないのなら、そろそろ諦めるべきなのかも知れなかった。

 しかし、新たな女性を見つけるのは大変だ。今夜がまさにそうだった。昔味わった、
「仕方ないんじゃない?もうお爺ちゃんなんだからさ」
 だとか、
「勃たないのなら、お金の無駄じゃない?」
 だとか言われたときの嫌な思いをまたする羽目になった。

 マキさんだけは僕を年寄り扱いしなかった。タオルがどうとか、バスルームがどうとか、そんなことも気にしていなかった。僕の目からは、マキさんは心から楽しんでいるように見えた。あの夜以来、彼女のことが頭から離れなくなってしまったのだ。

 あんな人と巡り会える機会がもう一度来るのだろうか。


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