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その七

七―2

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 翌日。
 昨夜の女の顔を忘れたくて、会社の事務員の顔でも拝みに行こうかと思いついた。
 珍しく富士夫は社長のデスクに座っていた。
「お早う御座います、会長」事務員たちの挨拶で富士夫は私に気づいて立ち上がった。

「僕を会長と呼ぶの、やめさせてくれんかのう。僕は給料なんか一切受け取ってないんだからさ」

「あはは。おはようございます、お父さん。会社に顔を出すのは久し振りですね。新しい子が入ってないか見に来たんですか」

「人聞きの悪いことを。しかしせっかくそう言うんなら、聞かせてくれ。新人はどのくらい入った?みんないい人なんだろうね」

「いい人かどうかはなかなかねえ。いい人みたいに見えても実は、って人はいますからねえ。この間も失敗したところでして」

「失敗?何事だ」

「新金岡店なんですけどね。良さそうな人だったんですよ。人懐っこい顔をしてて、愛想も良くてね。ところがですね、ほら、ちょっと前に女性三人監禁事件というのがあったでしょ」

 マキさんが巻き込まれたあの事件のことだ、と僕はすぐに気づいた。しかし気にする素振りはせずに、 
「うん、覚えているよ」そっけなく答えた。

 富士夫は机の引き出しから薄っぺらな写真週刊誌を取り出して、パラパラとめくった。

「犯人と被害者の顔がパパラッチされたんですわ。さすがに中学生の娘さんの顔は出してないんですけどね、ほら、これ見てください」

 富士夫が開いたのは二人の女性の写真だった。これって、もしかして・・・。

「このおばはんのほう、森下真知子って名前なんですがね、彼女、新金岡店で働いてたんですよ」

 写真の中の女性は紛れもなくマキさんだった。

「事件に巻き込まれて酷い目に遭った。それに懲りてまっとうな職を探してうちに来た、ってことでしょうね。えらい迷惑なことで」

「それで、その人はどうなった?」

「もちろんすぐに辞めてもらいました。うちの店にいるのが知られたら、うちの評判ガタ落ちですからね」

「この人の住所を教えてくれ!」

「はい?」

「住所!」

 僕は事務員にマキさんの住所を調べさせ、そのメモを受け取った。

「富士夫。こんないい人をそんなことくらいでクビにしよって。お前はまだまだ修行が足らん!」
 僕はそう言うと、外に向かって歩き出した。

「娘の次はお父さんですか・・・」
 富士夫が何やらつぶやいていたが、聞き直してる時間はなかった。


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