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その七

七―3

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「原山台五丁、ここかな?」
 巨大な団地内に入って、建物に描かれた棟番号を見回しながら、アクセルを踏まずにアイドリングだけでゆっくりクルマを進めていった。目の前に適当な空き地が出てきたので、そこにクルマを停める。

 回り込んで高層の建物を見上げると、
「五号棟・・・ここだ」
 エレベーターの上ボタンを押して、降りてくるのを待っていると、敷地内にある公園のベンチに女がひとりポツンと腰掛けているのが見えた。

 もしや、と思い外に出て近づいてみると、まさにマキさんだった。

「マキさん。いや、森川、真知子さんですか」

 女は振り向いて、
「 あ!岡崎さん?」と勢いよく立ちあがった。

「あの、息子に聞いて飛んできました」

「そうですか。それで私のことを」

「僕の会社だというのは知ってたんですか」

「ええ。あ、どうぞ。とにかく座りませんか」

 僕はマキさんの隣に腰掛けた。

「連絡を待ってたんですよ。待ちきれずに諦めかけていたんですが、まさか近くにいたとは」 

「一度夜の仕事を始めたら、昼の仕事を続けるのは難しいんですね。窮屈って言っていいかしら。まわりに人が多過ぎて」

「昼間だと余計なものまで目に入る、ということですか」

「あッ、そういうことか!やっぱり岡崎さんとは話しが合うなあ。これからまたよろしくお願いします。マキって名前、見つけてくださいね」

「それはつまり夜の商売に戻るつもりですか」

「駄目ですかね」

「とんでもない。大賛成ですよ」と僕は喜び勇んで言った。
「あの夜のあなたはとても明るく輝いてました。僕には神々しい観音さまにも見えたものです。真知子、いやマキさん、すぐにでもカムバックしてください。僕は一番の優良顧客になりますよ」

「岡崎さんにそう言ってもらえると勇気が湧いてきます。あとはこの間みたいなことがあったらどうしようかってことを、今考えてたところなんです」

「そうですね。それは考えないと」
 僕は振り返って府営住宅の建物を見直した。
 壁はあちこち剥がれ落ち、破壊されたオートバイが壁を背にして転がっているし、生活ゴミも散り捨てられている。
 この人をこんなところに置いといてはいけない、と僕は思った。

「マキさん。僕の家のひと部屋をお貸ししますから、そこに引っ越しませんか」

「え?」マキさんは目を丸くして、僕の目を見た。

「干渉はしません。勝手に部屋に入ることもしません。それでね、よければ僕が運転手兼マネージャーになりますよ。そうすれば様子がおかしいとか、時間になっても戻って来ないとかすぐに気がついて、手が打てますからね」

「でも岡崎さんはそんなことでいいんですか」

「僕はもうアレが駄目なのは知ってますよね。僕の望みはマキさんと一緒の時間を過ごしたい、ただそれだけなんです。うちに来てくれるなら、こんなに嬉しいことはないんですが」

「本当?」

「本当ですとも!」

「 本当に一緒にいるだけでいいの?お洋服とか、着たままでいいの?」

「 あッそれは・・・」

「私はして欲しいことがあるんだけどなあ」


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