47 / 48
その七
七―3
しおりを挟む
「原山台五丁、ここかな?」
巨大な団地内に入って、建物に描かれた棟番号を見回しながら、アクセルを踏まずにアイドリングだけでゆっくりクルマを進めていった。目の前に適当な空き地が出てきたので、そこにクルマを停める。
回り込んで高層の建物を見上げると、
「五号棟・・・ここだ」
エレベーターの上ボタンを押して、降りてくるのを待っていると、敷地内にある公園のベンチに女がひとりポツンと腰掛けているのが見えた。
もしや、と思い外に出て近づいてみると、まさにマキさんだった。
「マキさん。いや、森川、真知子さんですか」
女は振り向いて、
「 あ!岡崎さん?」と勢いよく立ちあがった。
「あの、息子に聞いて飛んできました」
「そうですか。それで私のことを」
「僕の会社だというのは知ってたんですか」
「ええ。あ、どうぞ。とにかく座りませんか」
僕はマキさんの隣に腰掛けた。
「連絡を待ってたんですよ。待ちきれずに諦めかけていたんですが、まさか近くにいたとは」
「一度夜の仕事を始めたら、昼の仕事を続けるのは難しいんですね。窮屈って言っていいかしら。まわりに人が多過ぎて」
「昼間だと余計なものまで目に入る、ということですか」
「あッ、そういうことか!やっぱり岡崎さんとは話しが合うなあ。これからまたよろしくお願いします。マキって名前、見つけてくださいね」
「それはつまり夜の商売に戻るつもりですか」
「駄目ですかね」
「とんでもない。大賛成ですよ」と僕は喜び勇んで言った。
「あの夜のあなたはとても明るく輝いてました。僕には神々しい観音さまにも見えたものです。真知子、いやマキさん、すぐにでもカムバックしてください。僕は一番の優良顧客になりますよ」
「岡崎さんにそう言ってもらえると勇気が湧いてきます。あとはこの間みたいなことがあったらどうしようかってことを、今考えてたところなんです」
「そうですね。それは考えないと」
僕は振り返って府営住宅の建物を見直した。
壁はあちこち剥がれ落ち、破壊されたオートバイが壁を背にして転がっているし、生活ゴミも散り捨てられている。
この人をこんなところに置いといてはいけない、と僕は思った。
「マキさん。僕の家のひと部屋をお貸ししますから、そこに引っ越しませんか」
「え?」マキさんは目を丸くして、僕の目を見た。
「干渉はしません。勝手に部屋に入ることもしません。それでね、よければ僕が運転手兼マネージャーになりますよ。そうすれば様子がおかしいとか、時間になっても戻って来ないとかすぐに気がついて、手が打てますからね」
「でも岡崎さんはそんなことでいいんですか」
「僕はもうアレが駄目なのは知ってますよね。僕の望みはマキさんと一緒の時間を過ごしたい、ただそれだけなんです。うちに来てくれるなら、こんなに嬉しいことはないんですが」
「本当?」
「本当ですとも!」
「 本当に一緒にいるだけでいいの?お洋服とか、着たままでいいの?」
「 あッそれは・・・」
「私はして欲しいことがあるんだけどなあ」
巨大な団地内に入って、建物に描かれた棟番号を見回しながら、アクセルを踏まずにアイドリングだけでゆっくりクルマを進めていった。目の前に適当な空き地が出てきたので、そこにクルマを停める。
回り込んで高層の建物を見上げると、
「五号棟・・・ここだ」
エレベーターの上ボタンを押して、降りてくるのを待っていると、敷地内にある公園のベンチに女がひとりポツンと腰掛けているのが見えた。
もしや、と思い外に出て近づいてみると、まさにマキさんだった。
「マキさん。いや、森川、真知子さんですか」
女は振り向いて、
「 あ!岡崎さん?」と勢いよく立ちあがった。
「あの、息子に聞いて飛んできました」
「そうですか。それで私のことを」
「僕の会社だというのは知ってたんですか」
「ええ。あ、どうぞ。とにかく座りませんか」
僕はマキさんの隣に腰掛けた。
「連絡を待ってたんですよ。待ちきれずに諦めかけていたんですが、まさか近くにいたとは」
「一度夜の仕事を始めたら、昼の仕事を続けるのは難しいんですね。窮屈って言っていいかしら。まわりに人が多過ぎて」
「昼間だと余計なものまで目に入る、ということですか」
「あッ、そういうことか!やっぱり岡崎さんとは話しが合うなあ。これからまたよろしくお願いします。マキって名前、見つけてくださいね」
「それはつまり夜の商売に戻るつもりですか」
「駄目ですかね」
「とんでもない。大賛成ですよ」と僕は喜び勇んで言った。
「あの夜のあなたはとても明るく輝いてました。僕には神々しい観音さまにも見えたものです。真知子、いやマキさん、すぐにでもカムバックしてください。僕は一番の優良顧客になりますよ」
「岡崎さんにそう言ってもらえると勇気が湧いてきます。あとはこの間みたいなことがあったらどうしようかってことを、今考えてたところなんです」
「そうですね。それは考えないと」
僕は振り返って府営住宅の建物を見直した。
壁はあちこち剥がれ落ち、破壊されたオートバイが壁を背にして転がっているし、生活ゴミも散り捨てられている。
この人をこんなところに置いといてはいけない、と僕は思った。
「マキさん。僕の家のひと部屋をお貸ししますから、そこに引っ越しませんか」
「え?」マキさんは目を丸くして、僕の目を見た。
「干渉はしません。勝手に部屋に入ることもしません。それでね、よければ僕が運転手兼マネージャーになりますよ。そうすれば様子がおかしいとか、時間になっても戻って来ないとかすぐに気がついて、手が打てますからね」
「でも岡崎さんはそんなことでいいんですか」
「僕はもうアレが駄目なのは知ってますよね。僕の望みはマキさんと一緒の時間を過ごしたい、ただそれだけなんです。うちに来てくれるなら、こんなに嬉しいことはないんですが」
「本当?」
「本当ですとも!」
「 本当に一緒にいるだけでいいの?お洋服とか、着たままでいいの?」
「 あッそれは・・・」
「私はして欲しいことがあるんだけどなあ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる