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第一章
結婚記念日前日 過去からは逃げられないのか①
しおりを挟むオリヴィアの話をアンはひたすら無視して、六歳のオリヴィアを褒め称えた。
「六歳になった私を見てもイアンは気付いてくれるかしら?」
「六歳のオリヴィア様もお可愛いですね」
「この姿を見て思い出してくれるかしら?」
「オリヴィア様は花の妖精のですね」
「この姿でイアンにキスをしたら犯罪よね?」
「さぁ、髪を綺麗に整えましたよ!」
「可愛いという言葉はオリヴィア様の為にあります」と鏡に映ったオリヴィアにうっととりとした視線をアンは送った。
鏡に映るのは、肩に当たる髪の長さに整えられたオリヴィア。床には銀色が散らばっている。
「天使、女神、妖精」
「イアンと同じ事を言っているわ」
そう指摘すると口元を歪めるアンが鏡に映った。
「ねぇ。この姿になった理由なんだけどね」
クルっと椅子を回転させて、アンを見上げる。それから、自分が考えた理由を力説した。
「愛しあったら若返る、っていう効果があるんじゃないかしら」
真顔でアンに訴えたものの
「オリヴィア様が着る洋服を手に入れてきます!」
「人払いはしますので!」と壊れたドアを応急処置で元に戻してからアンは部屋を飛び出して行った。
(私の話、全くきいてない)
とは言うものの、ずっと裸でシーツに包まれたままだ。服はたしかに欲しい。
アンが私だと確信した理由は、どうやら私に流れている魔力がオリィヴィ様そのもの、だかららしい。
(私に魔力があるなんて初めて知ったわ)
じっと小さな手を見つめてから、出来心で火を放つ呪文を唱えるも……手からは何も発せられなかった。当然だ、魔術を使う為の訓練をしていないのだから。
「つまんないの」
ちぇっ、と椅子から飛び降りる。床に散らばった髪を踏まないように歩くものの、身長が小さいせいで引き摺ってしまう。足をバタバタ動かして気を付けて歩いたものの、諦めて床に散らばった髪を引き摺ったまま、寝台へ向かった。
ポスっとベッドの縁に座る。それからオリヴィアは誰も居ない隣を見た。そこに居ないイアンをオリヴィアが思い浮かべた。イアンと並んで座った事をオリヴィアは思い出して口元に笑みを浮かべる。
(抱き締めてもらった時、とても温かった)
もう少し前に私を抱き締めてくれたら良かったのに。遠慮してそうしなかったのだろうけど。
枕をぎゅっと抱き締める。昨夜のイアンより小さな枕は、昨晩の思い出を辿るのに充分な大きさではなかった。
オリヴィアはウトウトする。この身体になってから妙に眠くなる。気温が暖かいのもあるけれど、身体が変化したからかしら──と瞼がピクピクと痙攣して、ゆっくりと閉じていく。床がユラユラ揺れて視界が狭まって、瞼が閉じる瞬間、床に足が現れた。おかげで、一気に覚醒して目を見開く。顔を上げようとしても身体が張り付いたように動かなかった。その足をオリヴィアはじっと見つめる。足の爪に黒いマニュキュアが塗ってあった。それを好んで縫っていた人物をオリヴィアは一人だけ知っている。
──この世には居ない筈だ。
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