遊び人の恋

猫原

文字の大きさ
23 / 170
第二章

2-11

しおりを挟む
雪が久賀に手紙を差し出したまま動かないので、読んで良いのだと理解して受け取ると手紙に目を通した。
男友達と喧嘩して胸を触らせたら、大人しくなったと…。

————おい。
何を言ってるんだ。

「いつもこんな話をしてるの…?」
「ひっく、そこじゃなくて…違います、その下を読んでください…ひくっ」

促され続きを読めば、薫からの明日の約束が書いてあり、久賀はそれを読んで顔を顰めてしまう。
雪にその顔は見せないよう、手紙で隠しはしたが。

「神社で会おうって書いてあるけど」
「僕、それ読んで会いたくなって…薫の話はいつも面白いし、会った事もない僕の事を友達だって呼んでくれるし! 薫からの手紙を読んでたら前向きになれて!! 会おう、って書いてあるのを読んですごく嬉しくて会って喋りたくなって…ひっく…でも久賀様と会わないって約束してるし、でも明日行かなければもう文通も終わってしまう、って悩んで、明日、久賀様に言わずにこっそり会いに行けばばれないかもって思っちゃったりして…こんなに優しい久賀様に嘘を吐こうとするなんて僕はなんて馬鹿なんだろう…!!!」

わんわんと泣きじゃくる雪に久賀は怒りは沸いては来なかった。
会わないという約束を雪は破ろうとはしたが、良心が痛み、それを悔いて泣いているのだ。最終的には嘘を吐き続けることが出来ず、吐露している。それをどうこう怒る気にならない。雪にちょっかいを出す男には手厳しいし、雪が自分以外と親しくしているのが許せない心狭い男だが雪には甘いのだ。しかもこれは久賀の事で悩んで泣いているのだから、責める必要性はなかった。
それに、なんて従順だろう。

「久賀様に言えなくて。文通も辞めたくないし、でも久賀様に嘘吐きたくないし…悩んでたら食欲なくなって…」

まだグズグズと泣く雪の涙を拭いて上げると、久賀は苦笑しながら答えた。

「素直に白状したんだから、怒らないし、失望もしないよ。悩んだんでしょう? 辛かったね」

と久賀は雪の頭を撫でた。
すると雪は顔をくしゃくしゃにして余計泣きじゃくった。
そんな雪を久賀は引き寄せると、抱き締めた。背中を数回優しく撫でる。
泣かれるのは正直辛い。
近い将来雪を手に入れようとしているが、雪に泣かれるのは正直辛いのである。この男は一番は雪の笑顔が好きなのだ。

「会って話したいの?」

雪は久賀の腕の中で首を縦に振った。
それを見て、やはり久賀の中で黒い靄がかかるのだ。
それは女相手だろうが、雪に会って欲しくはなかった。
交流関係をこれ以上広げさせたくない。

「場所は橋の先だよ。そのずっと先は雪がいた花街。見つかるかもよ?」
「ひっく…明るい時間でもやっぱり駄目ですか…?」

腕の中で、上目遣いで見つめられれば、揺らぐものはある。
しかし、その理性はここで壊すものではなかった。

「雪に危険な目に遭って欲しくないんだよ。怪我をされたら心配でたまらないでしょ」
「薫が前に変な男に絡まれたら股間を蹴り上げろって言ってました」
「まぁ…効果はあるけど。相手が大男ならその足を掴まれて終わりだよ」

それに、と久賀は続けた。

「普段こんな卑猥な話をしてくるの? 嫌がらせじゃないか。あまりこういう話は雪にして欲しくないんだよ」

正直なところ、雪には擦れずに真っ直ぐ育って欲しいのである。

「卑猥…? どの辺が…?」
「胸を触らせたってところが」
「笑い話ではないのですか…?」

お互い解釈違いがあるようだ。

「胸は卑猥なのですか? 久賀様は好きなのに?」
「…好き?」

あぁ、と久賀は頷いた。そういえば過去に雨宿り中に雪がそんな事を言った記憶が蘇る。

あれは、肇が言い出したのではなかったか。元を辿れば、兄貴ではあるが…。
嫌いではないし、寧ろ好きな部類だが、どうも雪とは会話が噛み合わない。

「ごめんね、雪。変な事を聞くけど…雪の中でどれが卑猥な部類に入る?」

久賀に質問をされ、雪は考えた。
しかし、雪の辞書に卑猥という文字がない。
唯一目にした卑猥な物の言えば、由希と久賀が外でまぐわっていたものだが、知識に乏しい雪はあれを抱き締めあっているだけで恋人同士の密会だと思っている。雪には繋がった下半身は見えていなかった。
雪を買った男のイチモツも逃げようと必死だった為、見ていない。

「————なんでしょう?」
「—————」

————そういえば、雪は”下の世話”を知らなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。 「お前との婚約は破棄だ」  ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!? ※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日20時に一話投稿となります。 ※他の投稿サイトにも掲載しています。 ※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。

さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。 「甘酒って甘くないんだ!」 ピュアで、 「さ、さお…ふしゅうう」 私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。 だけど、 「し、しゅ…ふしゅうう」 それは私も同じで。 不器用な2人による優しい恋愛物語。 果たして私たちは 「さ…ふしゅぅぅ」 下の名前で呼び合えるのでしょうか?

処理中です...