遊び人の恋

猫原

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第二章

2-10

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どうすれば良いか、答えを見つける事が出来ず、時間だけが過ぎていく。
その晩、雪は悩み過ぎて夕食が喉に通らず、久賀を心配させた。
食事の片付けは食べ終わった皿を雪の手から奪い取ると、「俺が片付けるから」休んでいるようにと雪を制した。
しかし、皿は全て廊下へ置くとすぐさま戻ってきて、熱はないか、寒くないか、痛いところはないか、欲しい物はないか、立て続けに質問を浴びせると久賀はおもむろに雪の額に手を当て、自分の額とくっ付けて熱を測った。

「熱はないようだな」

とホッと息を吐くと久賀は安堵した。
雪はと言えば久賀の顔が近いせいで心中穏やかではなかった。

口付をされるのかと思った…。

額を触られ、ゆっくりと久賀の綺麗な顔が近付いてきて、雪はそう思ってしまったのである。
久賀の薄い唇を視線で追いそうになり、思わず目を閉じてしまったが、当てられたのは雪の額に久賀の額だった。

口付されるなんて絶対ないのに。
恋人同士が交わす神聖な物なのだ。私ごときが久賀様とするなんて絶対ない。

一緒の布団で抱き締めあって寝ていたり、腰や足、腹を触られていたりとぎりぎり際どい事を久賀からされているにも関わらず、雪の知識ではその行為はただの触れ合いであって、接吻のみが恋人同士が愛を確かめ合う行為である。
くっつけていた額と右掌を雪の額から離し見下ろすと雪の顔は燃えたように赤くなっていた。やはり熱があるのではと久賀は再度雪の額を触るが、先程よりも熱がこもっている気がした。

「医者を連れてくるから」
「え?! く、久賀様、僕はどこも悪くありません!!」

部屋を出て行こうとする久賀の袖を慌てて引き止めた。

「具合が悪い訳ではないのです…! 具合が悪い訳でもないのに北さんは呼べません!」
「医者は病気を治すのが仕事だよ? 熱があるようだから診て貰わないと」
「元々僕は体温が高いんです! 熱なんてありません!」

冷える夜に雪を抱き締めて寝ているが湯たんぽ代わりになっており、心当たりのある言葉である。確かに温かいのだ。

「そう…。でも体調は良くはないようだからもう横になりなさい」
「体調悪い訳ではないです」
「そんなに顔色悪いのに?」

と久賀に言われ雪は思わず両手を頬に添えた。

————そんなに顔色悪いの?

元々色白だから、見るようによっては顔色が悪く見えてしまう。
久賀は雪にもう少し血色良くなって欲しかった。
これでは、ありとあらゆる衝撃に耐え切れないのだから。

「昼飯食ってる? 俺に作ってくれているんだから、多めに作って握り飯一個でも良いから食べなさい」
「はい」
「明日はお休みで良いから。ゆっくり休みな。明日から数日間は身の回りは自分でするから。あと食事は俺が作るよ。卵焼き好きだろう? 明日作るから食べな」

————だから、今日はもう休みなさい

雪は、久賀の穏やかな声に泣きたくなっていた。

なんて、優しい人だろう。
僕はそんな人に嘘を吐こうかどうかを悩んでいたなんて。

涙が出そうになり顔をくしゃりと歪めたが、間に合わず一筋流れてしまった。

「ぐすっ…」
「————!! どうしたの!? やっぱり具合悪いんじゃないか? 呼ぶのが駄目なら連れていくから!!」

と久賀は雪の細腕を掴んだが、雪はひたすら首を横に振ってそれを遮った。
座り込んだままぐずぐずと泣く雪の腕を掴んだまま、久賀は雪の目の前に座った。
開いている片手で雪の腕を擦ると、雪は落ち着きを取り戻したようで、

「ちが、うんです…僕、僕、久賀様に謝らなきゃいけない事があるんです」
「謝る? 何かあったのか?」

ずず、と雪は鼻を啜り、胸元に手をやると、紙を徐に出した。
薫からの手紙だと久賀は咄嗟に理解した。
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