神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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117話 最終形態

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 黒翼の天使が十体。そのうち五体は三戸達の小隊へ向かい、残りの五体は基地へと襲来した。
 一体を倒すのにも総力戦で挑んだほどの強敵である黒翼の天使。それを一人で一体以上受け持たなければならない状況になってしまった。

「だからと言って、あっさり通す訳には行かないわよね! ブリューナク!」
『おう!』

 ジャンヌはただ名前を呼んだだけ。それだけでブリューナクは槍から姿を現した。
 さらに赤い羽毛の鳥人の姿が、完全に伝説の聖獣『朱雀』に変わる。この姿は今まで誰も見た事がなく、その神々しくも美しい姿に関羽やリチャード、そしてサラディンも感嘆の吐息を漏らした。

「やっと本気を出してくれるのかしら?」
『今度ばかりはな。俺の力の全部をお前に貸してやる。その代わり、しばらく俺は休眠に入らなきゃならねえ。いいか? 俺が寝ている間に負けるんじゃねえぞ?』
「分かっているわ。ありがとう」

 ついに本来の姿を現したブリューナクの首に手を回し、優しく抱擁しながらジャンヌは感謝の言葉を口にした。それは『任せておきなさい』という決意の籠った、力強いだった。
 その言葉を聞いたブリューナクが、甲高い声で雄叫びを上げた。
 そして霊体と化したブリューナクが、ジャンヌと融合していく。
 燃えるような真っ赤な毛並みのブリューナクが、白銀の甲冑に身を包んだジャンヌと完全に融合を果たすと、ジャンヌ本人にも変化が訪れる。
 全身が燃えるような赤いオーラに包まれ、背中には真っ赤な一対の翼。ジャンヌのあどけなさを残した美しい容姿と相まって、飛来する無機質な黒翼の天使よりも余程天使らしい。

赫翼かくよくの天使と言ったところか。見事なものだ」
 
 燃え盛るように赤く輝くその翼を見て、関羽が思わず口走った。

「それ、いいですね。頂きました、関羽殿!」

 そんな関羽に、ジャンヌはチャーミングな笑みを浮かべて返す。そして彼女は飛来する黒翼の天使を迎え撃つべく、宙に舞う。

△▼△

『ふふ。なんとも愛らしく、そして強い娘だな。見惚れたか? 雲長よ?』
「む? そのような事はないが……内より溢れ出づる途轍もない力を感じてな」

 いつの間にか青龍偃月刀から出ていた青龍が、空に舞い上がったジャンヌを見上げる関羽の後ろからからかうように声を掛けた。
 確かに、決戦を前に色香に絆されるような関羽ではないが、そのジャンヌとブリューナクの真なる力に対して、そしてその神々しい美しさに対して敬意と羨望の感情は抱いていた。 

『ふっ。雲長の見た目では美しさはどうにもならんが、力だけなら負けはせんぞ。私とて朱雀と対を成す聖獣の一角!』

 関羽を心を見透かしたように青龍がそう言うと、彼女は長く巨大な龍となり、天に向けて駆け昇った。
 そして一旦空中でとぐろを巻き咆哮を上げると、関羽目掛けて急降下してくる。

『雲長、この力は諸刃の剣。強大過ぎる故にお前の身体をも傷付けかねん。心せよ。それから、ブリューナクと同様私も休眠に入る。負けるなよ?』
「愚問なり!」

 一方の関羽は、目を閉じ、両手を広げて青龍を受け入れる体勢をとっていた。初めから覚悟は出来ていたという事か。青龍の心配など一笑に付し、早く来いと言わんがばかリである。
 その関羽の答えに満足気に笑みを浮かべた青龍は、するりとその巨体を関羽の身体に融合させていく。

「これは……漲る。どれ、それがしも一体受け持つとしようぞ」

 青龍の融合と同時に全身が青緑の燐光に包まれた関羽が、重力から解放されたようにふわりと宙に浮く。そしてそのまま残光を残し、猛スピードで黒翼の天使へと向かって行った。

△▼△

 ジャンヌ、そして関羽の最終形態とも言える姿を目の当たりにしたリチャードが、エクスカリバーを鞘から抜いて話しかける。

「余にはあのような裏技はないのか?」

 すると、黒光りする見事な馬体のエクスカリバーが現れる。足は八本。その昔、神の乗馬だったという神獣スレイプニルの姿だ。

『あるにはあるが?』
「おお、ならばさっさとそれをするのだ!」
『断る!』
「何故に!?」

 まさか自分の相棒に拒否されると思いもよらず、目玉が落ちそうなくらい驚いているリチャードだが、エクスカリバーがさらに追い打ちを掛けた。

『いいか? よく聞くのだ。私とお前が先の二人と同じように融合すれば、確かに力は爆発的にあがるだろう」
「ならばすg――」

 ――ガブリ

 組みつかんばかりの勢いのリチャードの頭をガブリと噛み、エクスカリバーが落ち着かせる。

『最後まで聞かぬかバカ者が。よいか? 我等の融合は美しくないのだ』
「は?」
『美しくないのだ』
「……」

 まさかの拒絶の理由にリチャードが絶句する。見た目を気にして死んでしまったら何にもなるまい。その思いが心を満たしていくにつれ、激情を抑えきれなくなっていく。

『ま、待て。分かったからそう怒るな。いいか、後悔しても知らぬぞ?』

 そんなリチャードの様子を敏感に察したエクスカリバーが、少し焦ったような様子で念を押す。そしてそんな彼女をリチャードがじろりと一瞥する。

『くう……ではいくぞ?』

 仕方ないと言った雰囲気をありありと醸し出しながら、エクスカリバーはその馬体を黒い霧へと変えていく。そしてその霧はリチャードの皮膚から吸収されるように彼と同化していった。
 すると、リチャードの身体に変化が現れ始めた。ジャンヌや関羽のように光を纏うとか、そう言った類のものではなく、どちらかと言えばジャンヌが翼を生やしたのと同類の変化と言っていい。

「む? これは……」

 しかしそれは翼が生えるなどと言った生易しいものではなかった。

「くっくっく……なるほどのう……」

 その様子を見ていたサラディンが可笑しそうに嗤う。

「これの何処が醜いというのだ!?」

 変態というか変形というか、とにかく姿を変えたリチャードが憤慨している。 まず、下半身が馬だ。しかもスレイプニルの八本脚を超える十本脚である。これは単純にリチャードの脚が加算されたのかも知れない。
 そして本来馬の首のある部分、そこにはリチャードの上半身がある。つまり、簡単に言うなら十本脚のケンタウルスである。
 その姿はあくまでも雄々しく、気高いものであった。それだけに、エクスカリバーの言った『美しくない』という言葉に対して憤りを覚えたのだ。

『いや、上半身が貴様の姿ではな……』
「ひゃっはっはっは! そうじゃのう!」

 物凄く残念そうなエクスカリバーの声に、サラディンが爆発したように笑った。

「ぐぬぬぬ! 覚えておれよ貴様ら! 取り敢えずのこの怒りはあの黒翼どもにぶつけてくれるわ!」

 そう捨て台詞を吐いて、リチャードは空へと駆け上がって行った。
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