いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

225.奥の手

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   まさかこれ程までとはな。

   「よう、キツネ。随分と凶悪な姿だな。さっきのケモ耳獣人モードのが可愛かったぞ?」

   【この妖狐の真の姿の美しさが分からないとは気の毒な事じゃな。】

   (ライム!聞こえるかライム!)

   通信ピアスでライムに念話を送る。  

   (カズにぃ?ごめんなさい…私…)

   (いいか、ライム。今から俺は奥の手を使う。何が起こっても手を出すな。そして…事が済んだ後は全てお前にまかせる。皆を頼んだぞ?勇者ライム。)

   九尾に気取られない様に軽口を叩きながらライムに指示を出す。俺の意図はほぼ正解に伝わっているはずだ。俺とライムはそういう風にからな。そして『戦闘指揮』のスキルのおかげでクランメンバーも俺のやる事は察してしまうだろう。眷属達は以心伝心という奴だ。この場にいる者で俺の意図が分からないのはテルとユキ、段蔵爺さんと千代ちゃん、あとはエスプリか。まあ、エスプリの方はライムの思考を読めるだろうが。

   「さて、動物虐待は趣味じゃないがそろそろ本気を出させて貰うぞ?」

   クランメンバーが皆悲壮な表情だ。みんな、悪いな。

   俺は今現在の正真正銘、全力全開で九尾に迫ったのだが九尾の放つ妖気弾に対処出来ずに被弾する。しかしそれでも御構い無しで九尾に突っ込む。

   【ふふ。さっきまでのキレがまるで無い。もううぬと遊ぶのも飽き飽きじゃ。壊れた玩具は只のゴミぞ。】
 
   言ってろ。

   右脚で蹴りを放つ。しかし奴は妖狐の姿になり四足歩行のクセに右前脚でガードしてくる。いや…右と右?

   【ほほほ、愚か者。】

   「うがあああっ!」

   奴は俺の蹴りをガードするんじゃ無くて刈り取りに来やがった。右脚の腿から下が奴の爪に切り飛ばされた。

   【これでもはや俊敏な動きは出来まい。終わりじゃな。しかし、久々に楽しかったぞよ?】

   そして九尾は俺の頭を食い千切ろうと大きく口を開く。俺は予想外の大ダメージを負ったが逆にチャンスも予想外に早く来た。

   【ウガッ!?】

   「まだまだ、お楽しみはこれからだぜ?」

   俺は九尾の口腔奥深くまで右腕を突っ込んだ。

◇◇◇
   
   セリカ以下、この戦闘に参加した者は異形の者達の掃討を終えていた。

   九尾が出した干将・莫耶の双剣。カズにぃと九尾の均衡していた戦況はその双剣のおかげで一気に九尾に傾いてしまった。

   「ライムさん、ヤツは魔力を吸収するんですよね?直接斬りつけるのはどうなんですか?」

   「テル君、それをさっき確かめようとしたの。でもあの双剣に魔剣も魔槍もあっさり斬られちゃったんだ…」

   その時視界に入ったのはカズにぃが背中を斬り裂かれた瞬間。

   「カズにぃ!?いやぁぁっ!」

   「ライムさん、落ち着いて。治癒の準備をしておいて下さい。」

   …テル君?

   その時私が見たのは九尾の両腕を一太刀で切り落としたテル君とこっちに瞬間移動テレポートさせたカズにぃと干将・莫耶。次いでテル君も飛んでくる。干将・莫耶をすぐに収納に仕舞い込み、セリカがカズにぃにヒールを掛ける。その間、眷属達が時間を稼いでくれるみたいだ。

   そうか。対応出来ない攻撃なら物理ダメージは通るのか。私にもテル君の能力が欲しかったな。

   その後本当の姿を現した九尾の圧倒的な妖気に私達は全員心を折られてしまった。ただ一人を除いては。

   カズにぃだけは九尾の妖気に呑まれていなかったし勝算もあるみたいだった。そしてカズにぃから通信ピアスを通しての念話。頭に流れ込んでくるカズにぃの思考。

   それを私は涙を流しながら受け止めるしか出来なかった。右脚を切り飛ばされ、今まさに右腕も食い千切られんとしている。それでも私は見ている事しか出来ない。だってそれがカズにぃの狙いだもの。そして私がここで見届ける事。それがカズにぃの最期の願い。

   「陛下、申し訳ありません。私はここでカズ君と共に。」

   「陛下、悪いね。アタシもだ。悪いが人間の国の運命よりアタシはカズの方が大事なんだ。」

   「陛下、私達クノイチの命はマスターの物なのです。何卒、ご理解を。」

   サニー、ローレル姐、ソアラ…気持ちは分かるけど、ゴメン。それをカズにぃは望んでいないのは分かるでしょ?

   「アクア様。ここにいる全員がカズにぃの邪魔が出来ない様に結界を張ってくれますか?私も含めて。」

   「そんな、ライム!?」

   【良いのか?つらい物を見る事になるやも知れぬが。】

   「はい。それからサンタナ様。カズにぃが目的を果たすまで事切れないように生命維持に全力を。」

   【ライムの覚悟、見届けましょう。ご主人様の事は任せなさい。】

   「ライム…あなたは…!!」

   誰かが私の名を呼び息を飲む。そう、私は血の涙を流していた。
   
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