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西国編
前門の虎後門の狼
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「撤退だぁーっ!砦まで退けぇぇぇぃ!」
島国のサル共めが。あのような化け物染みた船を造りおって。海戦ではまるで歯が立たん。遺憾だが砦まで下がり立て直さねばなるまい。多くの兵を失ったが数の上ではまだ互角。陸上戦ならまだ勝ち目はある。
「将軍!殿部隊壊滅した模様です!」
ぐぬぬぬ…何がなんでも砦まで逃げ延びツシマの味方に増援を求めねばならんと言うのに!川だ!砦の前を流れる川さえ渡ってしまえば!
「500の兵を殿にまわせ!本隊が渡河を終えるまで何としても持ちこたえよ!」
「はっ!」
そして本隊は漸く川に辿り着く。川を渡れば砦は目と鼻の先。川を挟めば敵も迂闊に追撃してこられまい。
「将軍!追撃の手が緩みましたぞ!今の内に渡河を!」
「うむ!」
ザブザブと川を渡り漸く一息つく。全軍の半数程が渡り終えたか。あと少しだ。その時一人の兵が血相を変えて駆け寄って来る。
「将軍!砦の守備兵が開門要請に応じませぬ!」
……何を言っておるのだ?兵の報告が理解出来ん。門を開けぬとはどういう事なのだ?
「どういう事かっ!?」
砦の守備兵が門を開けぬのは分かる。何故開けないのかが分からない。伝令兵に再度状況を正しく報告させようと思ったその時。
《ズズン!ズズン!》
な、なんだ今の地響きのようなものは!?砦の方向で何かが光ったように見えたが?
「将軍!将軍!」
別の兵が顔面蒼白で駆けつけて来る。
「ええい!今度は何事かっ!」
「砦が…砦から攻撃を受けています!」
なん…だと?
◇◇◇
「半数程が渡河を終えたようですね。」
テルが双眼鏡を目にして言う。ああ、俺が日本で買って来たやつだよ。安モンだけどな。
「頃合いです。」
今度はテルの隣でユキがテルから双眼鏡を借り受けて覗き込んだ。
「渡河を終えた部隊から砦に向かって走って来ている。無事に逃げ切れたと思っているのかやや士気が上がっているようだな。」
連中は既に砦が陥落している事を知らない。開門の要求などスルーだ。
「そろそろやるか。スタリオン、ブレス弾発射だ。」
『はーい!』
ドドン!と地響きを立てながら爆発するスタリオンのブレス弾。しかもそれが速射される。一息で五発くらいいけるみたいだな。ゲンの兵は突然地竜が櫓から顔を出しブレスを放って来る事に理解が追い付いていないようだ。殆どの兵が呆然としている。自分達が攻撃対象である事すらわかっていない。
「よーし!我らも続くぞ!弓隊!構え!ぅてーーいっ!」
テルの引率して来た別働隊もスタリオンのブレスを皮切りに弓による総攻撃を仕掛ける。ちなみに矢は砦にあった備品ね。
「なるほどなあ…そういう事か。大した軍略家だよ、テル。」
「うむ、そうだろうそうだろう。テルはかの軍神の末裔だからな。」
俺はここに至ってなぜ敵の半分が渡河したタイミングで攻撃を仕掛ける作戦を立てたのか理解した。なぜかユキがドヤ顔で答える。軍神ってのはユキが日本で仕えていた戦国大名の上杉謙信の事だ。もっとも、ユキが仕えていた頃はまだ謙信を名乗っておらず、上杉輝虎と名乗っていた時期らしいが。で、テルはその傍流なのだとか。
「半数が渡った所で攻撃、その後開門してこちらから攻め込めば奴らは押し返されて再び川に逆戻りです。そこに本隊に追撃されている残りの敵も川に突入してくる訳ですからね。後は川の中でぎゅうぎゅう詰めになった敵を河岸からちくちく攻撃するだけです。」
という事らしい。全隊が渡り切ってからの攻撃だと文字通りの『背水の陣』となり、かえって手強くなる可能性も捨てきれない。ふむ。なるほど。
海戦では数で上回っているにも関わらず惨敗を喫し多くの戦力を失ったゲン軍。利の無い海上での戦いを諦め砦に戻り陸上戦にシフトしようとした敵の指揮官の判断は正しいだろう。その方がまだ勝てる可能性はある。だが俺達はその一縷の望みさえも既に摘み取っていた。必死の敗走からようやく辿り着いた砦。しかしその砦から強烈な攻撃を加えられたゲンの将兵の心はポッキリと折れたらしい。
「開門!掃討戦を開始する!」
武器を投げ捨て防具を脱ぎ捨て、ひたすら身軽になって逃げようとするゲンの兵にはもはや抗う意思など欠片も残っていないように見える。その様子を見たこちらの指揮官が掃討を命じた。開いた門から飛び出して行く別動隊の兵達が碌に抵抗も出来ないゲンの兵を屠っていく。
「スプライト。川にしか逃げられないように土壁を生やしてくれ。」
「うん、わかったぞー!散り散りに逃げないようにすればいいのだなー?」
「そうそう、後で飴玉やるから頼んだぞ。」
「まっかせるのだー!」
スプライトが地面に手をやり魔力を流すと地面が盛り上がり高さ3メートル程の壁が形成されていく。砦から川へと向かう土壁に囲まれた通路に『捕獲』されたゲンの兵は恐慌状態になりながらひたすらに川へと逃げる。
こうしてスプライトは逃走経路を川の方向だけに限定し、味方の兵はゲンの兵を川へと追い落としていく。そして川の対岸には同じように川へと押し込まれて来るゲンの兵が見える。やがて川はゲンの兵で埋め尽くされた。
島国のサル共めが。あのような化け物染みた船を造りおって。海戦ではまるで歯が立たん。遺憾だが砦まで下がり立て直さねばなるまい。多くの兵を失ったが数の上ではまだ互角。陸上戦ならまだ勝ち目はある。
「将軍!殿部隊壊滅した模様です!」
ぐぬぬぬ…何がなんでも砦まで逃げ延びツシマの味方に増援を求めねばならんと言うのに!川だ!砦の前を流れる川さえ渡ってしまえば!
「500の兵を殿にまわせ!本隊が渡河を終えるまで何としても持ちこたえよ!」
「はっ!」
そして本隊は漸く川に辿り着く。川を渡れば砦は目と鼻の先。川を挟めば敵も迂闊に追撃してこられまい。
「将軍!追撃の手が緩みましたぞ!今の内に渡河を!」
「うむ!」
ザブザブと川を渡り漸く一息つく。全軍の半数程が渡り終えたか。あと少しだ。その時一人の兵が血相を変えて駆け寄って来る。
「将軍!砦の守備兵が開門要請に応じませぬ!」
……何を言っておるのだ?兵の報告が理解出来ん。門を開けぬとはどういう事なのだ?
「どういう事かっ!?」
砦の守備兵が門を開けぬのは分かる。何故開けないのかが分からない。伝令兵に再度状況を正しく報告させようと思ったその時。
《ズズン!ズズン!》
な、なんだ今の地響きのようなものは!?砦の方向で何かが光ったように見えたが?
「将軍!将軍!」
別の兵が顔面蒼白で駆けつけて来る。
「ええい!今度は何事かっ!」
「砦が…砦から攻撃を受けています!」
なん…だと?
◇◇◇
「半数程が渡河を終えたようですね。」
テルが双眼鏡を目にして言う。ああ、俺が日本で買って来たやつだよ。安モンだけどな。
「頃合いです。」
今度はテルの隣でユキがテルから双眼鏡を借り受けて覗き込んだ。
「渡河を終えた部隊から砦に向かって走って来ている。無事に逃げ切れたと思っているのかやや士気が上がっているようだな。」
連中は既に砦が陥落している事を知らない。開門の要求などスルーだ。
「そろそろやるか。スタリオン、ブレス弾発射だ。」
『はーい!』
ドドン!と地響きを立てながら爆発するスタリオンのブレス弾。しかもそれが速射される。一息で五発くらいいけるみたいだな。ゲンの兵は突然地竜が櫓から顔を出しブレスを放って来る事に理解が追い付いていないようだ。殆どの兵が呆然としている。自分達が攻撃対象である事すらわかっていない。
「よーし!我らも続くぞ!弓隊!構え!ぅてーーいっ!」
テルの引率して来た別働隊もスタリオンのブレスを皮切りに弓による総攻撃を仕掛ける。ちなみに矢は砦にあった備品ね。
「なるほどなあ…そういう事か。大した軍略家だよ、テル。」
「うむ、そうだろうそうだろう。テルはかの軍神の末裔だからな。」
俺はここに至ってなぜ敵の半分が渡河したタイミングで攻撃を仕掛ける作戦を立てたのか理解した。なぜかユキがドヤ顔で答える。軍神ってのはユキが日本で仕えていた戦国大名の上杉謙信の事だ。もっとも、ユキが仕えていた頃はまだ謙信を名乗っておらず、上杉輝虎と名乗っていた時期らしいが。で、テルはその傍流なのだとか。
「半数が渡った所で攻撃、その後開門してこちらから攻め込めば奴らは押し返されて再び川に逆戻りです。そこに本隊に追撃されている残りの敵も川に突入してくる訳ですからね。後は川の中でぎゅうぎゅう詰めになった敵を河岸からちくちく攻撃するだけです。」
という事らしい。全隊が渡り切ってからの攻撃だと文字通りの『背水の陣』となり、かえって手強くなる可能性も捨てきれない。ふむ。なるほど。
海戦では数で上回っているにも関わらず惨敗を喫し多くの戦力を失ったゲン軍。利の無い海上での戦いを諦め砦に戻り陸上戦にシフトしようとした敵の指揮官の判断は正しいだろう。その方がまだ勝てる可能性はある。だが俺達はその一縷の望みさえも既に摘み取っていた。必死の敗走からようやく辿り着いた砦。しかしその砦から強烈な攻撃を加えられたゲンの将兵の心はポッキリと折れたらしい。
「開門!掃討戦を開始する!」
武器を投げ捨て防具を脱ぎ捨て、ひたすら身軽になって逃げようとするゲンの兵にはもはや抗う意思など欠片も残っていないように見える。その様子を見たこちらの指揮官が掃討を命じた。開いた門から飛び出して行く別動隊の兵達が碌に抵抗も出来ないゲンの兵を屠っていく。
「スプライト。川にしか逃げられないように土壁を生やしてくれ。」
「うん、わかったぞー!散り散りに逃げないようにすればいいのだなー?」
「そうそう、後で飴玉やるから頼んだぞ。」
「まっかせるのだー!」
スプライトが地面に手をやり魔力を流すと地面が盛り上がり高さ3メートル程の壁が形成されていく。砦から川へと向かう土壁に囲まれた通路に『捕獲』されたゲンの兵は恐慌状態になりながらひたすらに川へと逃げる。
こうしてスプライトは逃走経路を川の方向だけに限定し、味方の兵はゲンの兵を川へと追い落としていく。そして川の対岸には同じように川へと押し込まれて来るゲンの兵が見える。やがて川はゲンの兵で埋め尽くされた。
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