視線を勘違いする男の謝罪は人助け!?――お前今、〇〇されたそうな目でこっち見てたろ?――

SHO

文字の大きさ
24 / 25
3章 歌音(カノン)

3-6 歌音(カノン)⑥

しおりを挟む
「ふふふ。店の女共も、そのうち牢から出てくるとは思っていたが、案外早かったな。だが、肝心の店が無くなってしまったのではどうしようもあるまい」

 男はビロードのガウンを纏い、グラスの中で優雅にワインを回してながらその芳香を楽しんでいた。

「フフフ……はっはっは! これでこの街も邪魔者はいない! はーっはっはっは!」

 堪えきれずといった感じで高笑いをあげ、グラスの中身を喉に流し込む男。ズレた金縁眼鏡を直す仕草が気障である。

「よう、何がそんなに楽しいんだ? オーナー?」
「なっ!?」

 眼鏡のポジションを修正して顔を上げた時、目の前に立っていたのは褐色の肌をした赤毛の男。

「掃除屋……いつの間に……? いや、外にはボディーガードがいたはずだ!」
「そうだな、高笑いしてる時に入って来たぜ? ボディーガードは外で泡吹いて寝てるわ。どうしたんだろうな?」
「くっ……役立たず共が!」
「そうだな。もう少しまともなヤツを雇った方がいいぜ? ま、それは置いといて、だ」

 テンはそう言って背中のカタナを抜く。

「な、何を……」



 オーナーは怯えて後ずさりしようとする。しかし、豪華なソファとその背もたれが邪魔をして、その場から逃れることができない。

「ノンの店に嫌がらせをさせたのはお前だってのはもう分かってる」

 まさか副団長まで買収していたのにあっさりとバレているとは。そんな驚きから、オーナーは大きく口を開くが声が出ない。

「そしてノンの店の火事。ありゃあ、お前の放火だろ? 高笑いの前に独り言、外に漏れてたぜ?」
「し、知らない!」

 眼前に迫るカタナの切っ先に思わず白を切るオーナーだが、鼻先にチクリと僅かに切っ先が触れ、それ以上動けなくなる。

「まあ、どうでもいいんだよ。俺はお前から賠償してもらう為に来たんだ」
「賠償……だと?」
「そうだな。焼けちまったノンの店の分、そして近隣の家屋の賠償。それから迷惑料だ」

 ほんの少し、鼻先に深く突き入れるテン。

「一体いくら……」
「そんなに怯えるなよ。別に命までは取らねえから。そうだな……全財産貰おうか」
「全財産だと……?」
「そう、全財産。おら、権利証とか諸々よこせ」

 いくら何でも全財産は取りすぎだ。オーナーはそう思う。この街のこの店一軒の価値ですら、焼けたノンの店や周辺の家屋よりも遥かに高いのだ。
 それを全財産というからには、他の街々にある店舗の権利まで奪うつもりなのだろう。しかし、裏社会に名を馳せるこの男の要求に抗えよう筈もなく、オーナーは金庫から書類や現金、貴金属など、全てのものを持ち出しテーブルに並べた。

「オーケー。じゃあ、貰っていくぜ」

 そう言ってテンが左手をテーブルに翳すと、オーナーが築き上げてきた財産とも言うべきものが全て吸い込まれて消えていく。その中にはあくどい手段でのし上がってきた証拠となるものもある。

「あ、ああ……くっ!」

 全てが吸い込まれていく様を見届けたあと、オーナーはありったけの憎悪を込めてテンを睨んだ。

「ん? その目は……そうか」

 テンはオーナーの視線を受け止めたあと、音もなくカタナを横に薙いだ。白銀の切っ先が横一文字に糸を引く。

「う? うぎゃあああああ!」
「あれ? もう俺の顔なんて二度と見たくねえって目で俺を見てたろ? だから潰してやったんだが、違ったか?」

 眼鏡ごと、スパッと切り裂かれたオーナーの瞼。

「うがぁ! 目がぁ! 目がぁぁぁ!」

 両目から流れ出る血を両手で押さえながら、もがき苦しむオーナー。

「そんなメガ、メガって、俺の名前を気安く呼ぶな。じゃあな」

*****

 テンがオーナーのところから消えて一週間後。ノンの店はまだ焼け落ちたままだが、周囲の家は改築が始まっていた。

「それにしても、こんな快適な牢屋暮らしってあるんだねえ」
「そうそう、そこらの宿屋よりいいよね!」

 ナナとリンネがそう言うように、拘束とは名ばかりの牢獄での暮らし。豪華とはいかないが、それなりのベッドや衣服が支給され、食事も日に三度、文句が出ない程度にはまともなものが出される。外出時は自警団の護衛が付くが、基本自由だ。
 身内の団員が買収されていた事に対する、自警団長の罪滅ぼしだろうか。
 そんな中でただ一人、ノンだけは日々心ここにあらずといった感じで、ボーっとして過ごしている。

「ノンさ~ん。そろそろ正気にもどりましょうよぉ~~?」
「ええ、そうね。大丈夫よ? ただあの時、テンがあたしの視線をどう受け取ったか心配でね」
「「「ああ~~」」」

 テンの視線の勘違いには、多かれ少なかれ様々な思いをしてきたであろう娘たちがしみじみと頷く。

「ちなみにあの時は、なんて思いを込めたんです?」
「今まで助けてくれてありがとうって。もう十分だから、あたしの為にその手を汚さないでねって」
「「「おおお~」」」」

 ナナの問いに対するノンの答えに、今度は感心する三人。

「それに、アイツの超高額報酬なんて、店を無くしたあたしには払えっこないしね。あはは」

 その時、看守から声が掛かった。

「おーい、迎えが来たぞー。準備して出てきてくれー」
「迎え、ですか?」
「ああ、表で待ってるらしいぞ」

 看守に促されるまま外に出た四人。元より全て焼けてしまった彼女達に、荷物などほとんどない。自警団から支給された、僅かな日用品と着替えくらいだ。
 そんな僅かな手荷物を持って外に出た彼女達を待っていたのは、赤い長髪を後ろで結んだ後ろ姿。その背にはカタナを背負う。

「テン!」

 口々にそう叫びながら、彼に駆け寄る四人。

「わりぃな。ちょっと時間が掛かっちまった。付いてきてくれ」
「「「「?」」」」

 テンの『時間がかかった』という言葉の意味を理解できないまま、一同はテンに従い歩いていく。そしてテンが足を止めたその場所は。

「ここは……」

 ノンが目を見張る。
 元々は例の金縁眼鏡のオーナーの店だった豪華なレストラン。人目を引く派手な外装はシックな色合いに塗り替えられており、看板には『食事処・酒処 歌音』と大きく書かれている。

「放火犯からの損害賠償ってとこだ。店を立て直すのも時間がかかるからな」
「だからって店ごと丸々分捕ったの!?」

 テンの説明にナナが呆れる。

「店だけじゃねえぞ。全部だ」
「全部って!?」

 テンの追加説明にリンネが驚く。

「全部は全部さ。ま、入ってみりゃ分かるって」

 無遠慮にテンが店に入ると、料理人と思しき男が三人、それに若い女が数人整列していた。

「よう、こっちが新しいオーナーだ。よろしくな」

 そう言って、テンがずいっとノンを前に押し出した。

「え? え?」
「これだけの店だからな。お前らだけじゃ回せないだろ? だから料理人とホール係を引き抜いた。あとはお前の好きな店にすればいい」

 戸惑うノンにそう宣うテン。

「テン。あたしには支払える報酬なんかないんだよ……」
「は? だってお前この間、店が無くなって困ったよって目で俺を見てたじゃねえか」
「「「「それは絶対に違う!」」」」
「う……そうか」

 テンの言葉に一斉にダメ出しを喰らわせる女性陣。 

「テン……あたしはあんたにどう報いればいいの?」
「そうだな。これからは歌ってくれ。歌を取り戻してくれると嬉しい。あとは美味い飯をたまに食わせてくれ」
「でもあたしは歌は……」

 テンは無言で店の片隅にあるピアノを見る。

「料理はあの三人、ホールは若い女の子がいる。お前はあれで歌を聞かせろ。だから店の名前は『歌音カノンなんだ」
「うっ……あたし、歌っていいのかい?」

 かつて歌手を志し、ボロボロになって自暴自棄になったところをテンに救われた。
 店を切り盛りしていくことで生きていく事はできたが、歌う事は捨てた。それがテンに対する義理立てと信じ、必死に生きた。しかし、食事処の女将と歌手の二足の草鞋は履けない。だから名前から『歌』の文字を捨て、ノンと名乗っている。
 しかし、今またテンに救われ、この男は名前さえも取り戻してくれた。溢れる涙が止まらない。嗚咽しながら座り込むノンに、スイカ、ナナ、リンネが駆け寄る。

「良かったですね!」
「これからはカノンさんって呼ばなくちゃ!」
「うふふ~、いつもニクイ男ですねぇ~? 惚れ直しちゃいましたぁ~?」

 そんな三人に、カノン・・・は真っ直ぐな視線で答えた。

「そうだねえ。一生アイツしか見えないかもね」

 その視線の先には、既にテンはいなかった。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...