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桃姫、何かに気付く(今更感)
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王虎を倒した後、酒宴は終始桃姫様が主導権を握ったまま勧められた。
なんでも、結構な数の珍しい品々を献上されたらしい。まあ、袖の下ってやつなんだろうけどな。
それで、滞りなく終わった宴のあと、俺とおなつさんは桃姫様のお部屋へお招きいただいている。食事もまだだったし、何か食べていきなさいとのお計らいだ。
桃姫様のお部屋の中にはお膳が三つ並べられていた。配置としては三角形の頂点のそれぞれにお膳が置かれていて、誰が何処に座っても同等というか、上座や下座という堅苦しいものは取り払った感じだ。
何となく、桃姫様が俺やおなつさんを、『主従』というより『友人』として接してくれているようで嬉しくなってしまう。しかしそれでも、俺とおなつさんは入口から一番遠くに置かれているお膳を避けた上で、桃姫様から座るよう促されてからお膳の前に座した。
「このお料理は、特別に弥五郎の鉄瓶で沸かしたお湯を使っているのです。酒宴で出たお料理よりも、ずっと美味しいはずですよ?」
「ああ、だから姫様は宴席で殆どお箸をお付けにならなかったのですね?」
へえ~、焼き魚、煮物に椀物。新鮮な魚介。そして白飯。俺にしてみればかなり豪華な献立だ。
宴席の場で桃姫様が殆ど料理を口にしていないのは俺も気付いていた。その理由がこれならば、彼女は初めから俺達をもてなすつもりだった事になる。
……もう、嬉しすぎて折角の飯の味が分からねえよ。
「それにしても驚きました。弥五郎は体術も非凡なのですね」
「ほんと、驚いちゃった。弥五郎様って謎の多い方ですよね~?」
二人ともニコニコしながら話しかけてくる。結局、剣術の要素が皆無な感じで王虎を倒しちまったもんだから、かなり意外に思われているらしい。
おなつさんは俺に様付けしてる事からあくまでもお仕事中って事なんだろうが、かなり口調は砕けているな。もういいじゃん、呼び捨てでさ。
「別に体術って程のもんじゃありませんよ」
俺は謙遜とかそんな事ではなく、真実を述べた。
実際、俺の修行は鍛冶と師匠との実戦形式だけで、体術はおろか剣術すらまともに習ったかどうかも疑わしい。
「ではあの技は……?」
だから、技ってほどのもんじゃないんだけどな。でも桃姫様の視線が真剣だ。
仕方ないから俺は島での修行の様子を思い出しながら語る事にした。
「俺の島での修行はですね……」
△▼△
「くっそ……どこだ? どこから来やがる……?」
今日の修行は島の中で師匠と鬼ごっこだ。もちろん只の鬼ごっこじゃねえ。島全体を使っての鬼ごっこ。しかも、どっちが鬼とかっていうんじゃなくて、お互いにスキを狙って不意打ちをかます。そんな鬼ごっこだ。
「……後ろだ」
ヤツの声と共に俺の頭上に棒きれが振り下ろされる。俺は慌てて前方に転がりながらなんとか回避し、体勢を整えて後ろを見た時にはもうヤツはいなかった。
ちっくしょう、全然気付かなかったぜ。
とにかく、ヤツに攻撃させちゃダメなんだ。俺から仕掛けねえと絶対に勝てない。俺は慎重に動き回り、必死でヤツを探す。
「どこを見ている?」
今度は右だ。
「ガハッ!」
脇腹に強烈な蹴りを食らってしまう。だが取った!
蹴ってきた足を右腕で掴み、やっと師匠を捉えた!
痛む脇腹を根性で堪え、ここからどうやって反撃するか考えていると、師匠は掴まれたままの足を引き戻した。ここで離れちゃまた一方的に攻撃されちまうから、俺は必死でしがみ付く。
だが、ヤツの行動は俺には理解不能だった。掴まれたままの足を軸にして、反対側の足で蹴りを見舞ってきた。後方に宙返りするような、そんな感じだ。
ヤツの蹴りを強かに顎に受けた俺は、師匠の足と、自分の意識を同時に手放した。
「足を取った時点で考えているからこうなる」
いつの間にか小屋に運ばれていた俺は、師匠の前で正座している。確かにそうだ。一瞬でも自分が優位に立った好機をむざむざ潰しちまった。あの時足を折るなり、軸足を払うなり、いくつか手段はあったはずだ。
今になれば分かる。戦場では一瞬の判断の遅れが命取りだ。考える前に身体が動くようにならねえと!
「考える前に動けるようになるにはどうしたらいいんすか……?」
「そんなもん、場数を踏むしかねえよ。そんで、生き残るこった」
自分が死ぬことなく、幾度も死線を潜り抜けろ。ヤツの言う事は分かる。場数だけは他の誰にも負けてねえ筈だ。毎日毎日実戦形式の修行だからな。それを活かせてねえのは俺の未熟さか。
「考えるな。感じろ」
師匠はそう言い残して小屋を出ていった。
……いやマテ。
そもそも戦場で生き残る術が、鍛冶職人になる俺に必要な事か? それにアイツ、ホントは何モンなんだよ。
△▼△
「……ってな具合でしてね。修行と言っても技なんか全然教わってないし、常に実戦で鍛えられました。とにかく自分がやられるより早く相手をやる。それだけなんですよ」
「まあ、厳しい御師様でしたのね……でも納得です」
桃姫様、納得しちゃうんだ? くどいようだけど、俺は職人であって剣士とかじゃないんだよ?
「そのおかげで、三島の村人達は弥五郎によって救われたのですから、御師様には感謝ですね」
……俺は、そんな桃姫様の言葉を聞いてハッとなった。
そうか。仮にあの時親父やお袋に力があれば。
三島の村人に戦う力があれば。
豊臣秀吉の天下統一で戦国の世も終わりに近付いているとは言え、落ち武者や盗賊が消えた訳じゃない。まだまだ命は軽くて、死が身近な世の中。
ヤツの修行も無駄じゃなかった訳か。癪だけどそこは感謝しとかなきゃいけねえだろうな。
「それにしても、婿候補がまた一人、潰れてしまいましたね。うふふふっ」
「あら、姫様? ちっとも残念そうじゃありませんよ?」
「ええ、それはもう。あの王虎の目、いやらしかったので。スッとしました」
乙女達が可笑しそうに笑い合う。眼福だ。うむうむ。
「この調子で弥五郎様が姫様を守り続けると、いつまでたっても姫様はお嫁に行けませんねえ?」
おなつさんがニヤニヤしながら桃姫様をからかっている。
「そうですね。でも私、弱い殿方は嫌なのです。せめて私を守ってくれるような強い殿方……で、ない……と?」
そこまで言った桃姫様が、何かに気付いたように俺を見た。
なんでも、結構な数の珍しい品々を献上されたらしい。まあ、袖の下ってやつなんだろうけどな。
それで、滞りなく終わった宴のあと、俺とおなつさんは桃姫様のお部屋へお招きいただいている。食事もまだだったし、何か食べていきなさいとのお計らいだ。
桃姫様のお部屋の中にはお膳が三つ並べられていた。配置としては三角形の頂点のそれぞれにお膳が置かれていて、誰が何処に座っても同等というか、上座や下座という堅苦しいものは取り払った感じだ。
何となく、桃姫様が俺やおなつさんを、『主従』というより『友人』として接してくれているようで嬉しくなってしまう。しかしそれでも、俺とおなつさんは入口から一番遠くに置かれているお膳を避けた上で、桃姫様から座るよう促されてからお膳の前に座した。
「このお料理は、特別に弥五郎の鉄瓶で沸かしたお湯を使っているのです。酒宴で出たお料理よりも、ずっと美味しいはずですよ?」
「ああ、だから姫様は宴席で殆どお箸をお付けにならなかったのですね?」
へえ~、焼き魚、煮物に椀物。新鮮な魚介。そして白飯。俺にしてみればかなり豪華な献立だ。
宴席の場で桃姫様が殆ど料理を口にしていないのは俺も気付いていた。その理由がこれならば、彼女は初めから俺達をもてなすつもりだった事になる。
……もう、嬉しすぎて折角の飯の味が分からねえよ。
「それにしても驚きました。弥五郎は体術も非凡なのですね」
「ほんと、驚いちゃった。弥五郎様って謎の多い方ですよね~?」
二人ともニコニコしながら話しかけてくる。結局、剣術の要素が皆無な感じで王虎を倒しちまったもんだから、かなり意外に思われているらしい。
おなつさんは俺に様付けしてる事からあくまでもお仕事中って事なんだろうが、かなり口調は砕けているな。もういいじゃん、呼び捨てでさ。
「別に体術って程のもんじゃありませんよ」
俺は謙遜とかそんな事ではなく、真実を述べた。
実際、俺の修行は鍛冶と師匠との実戦形式だけで、体術はおろか剣術すらまともに習ったかどうかも疑わしい。
「ではあの技は……?」
だから、技ってほどのもんじゃないんだけどな。でも桃姫様の視線が真剣だ。
仕方ないから俺は島での修行の様子を思い出しながら語る事にした。
「俺の島での修行はですね……」
△▼△
「くっそ……どこだ? どこから来やがる……?」
今日の修行は島の中で師匠と鬼ごっこだ。もちろん只の鬼ごっこじゃねえ。島全体を使っての鬼ごっこ。しかも、どっちが鬼とかっていうんじゃなくて、お互いにスキを狙って不意打ちをかます。そんな鬼ごっこだ。
「……後ろだ」
ヤツの声と共に俺の頭上に棒きれが振り下ろされる。俺は慌てて前方に転がりながらなんとか回避し、体勢を整えて後ろを見た時にはもうヤツはいなかった。
ちっくしょう、全然気付かなかったぜ。
とにかく、ヤツに攻撃させちゃダメなんだ。俺から仕掛けねえと絶対に勝てない。俺は慎重に動き回り、必死でヤツを探す。
「どこを見ている?」
今度は右だ。
「ガハッ!」
脇腹に強烈な蹴りを食らってしまう。だが取った!
蹴ってきた足を右腕で掴み、やっと師匠を捉えた!
痛む脇腹を根性で堪え、ここからどうやって反撃するか考えていると、師匠は掴まれたままの足を引き戻した。ここで離れちゃまた一方的に攻撃されちまうから、俺は必死でしがみ付く。
だが、ヤツの行動は俺には理解不能だった。掴まれたままの足を軸にして、反対側の足で蹴りを見舞ってきた。後方に宙返りするような、そんな感じだ。
ヤツの蹴りを強かに顎に受けた俺は、師匠の足と、自分の意識を同時に手放した。
「足を取った時点で考えているからこうなる」
いつの間にか小屋に運ばれていた俺は、師匠の前で正座している。確かにそうだ。一瞬でも自分が優位に立った好機をむざむざ潰しちまった。あの時足を折るなり、軸足を払うなり、いくつか手段はあったはずだ。
今になれば分かる。戦場では一瞬の判断の遅れが命取りだ。考える前に身体が動くようにならねえと!
「考える前に動けるようになるにはどうしたらいいんすか……?」
「そんなもん、場数を踏むしかねえよ。そんで、生き残るこった」
自分が死ぬことなく、幾度も死線を潜り抜けろ。ヤツの言う事は分かる。場数だけは他の誰にも負けてねえ筈だ。毎日毎日実戦形式の修行だからな。それを活かせてねえのは俺の未熟さか。
「考えるな。感じろ」
師匠はそう言い残して小屋を出ていった。
……いやマテ。
そもそも戦場で生き残る術が、鍛冶職人になる俺に必要な事か? それにアイツ、ホントは何モンなんだよ。
△▼△
「……ってな具合でしてね。修行と言っても技なんか全然教わってないし、常に実戦で鍛えられました。とにかく自分がやられるより早く相手をやる。それだけなんですよ」
「まあ、厳しい御師様でしたのね……でも納得です」
桃姫様、納得しちゃうんだ? くどいようだけど、俺は職人であって剣士とかじゃないんだよ?
「そのおかげで、三島の村人達は弥五郎によって救われたのですから、御師様には感謝ですね」
……俺は、そんな桃姫様の言葉を聞いてハッとなった。
そうか。仮にあの時親父やお袋に力があれば。
三島の村人に戦う力があれば。
豊臣秀吉の天下統一で戦国の世も終わりに近付いているとは言え、落ち武者や盗賊が消えた訳じゃない。まだまだ命は軽くて、死が身近な世の中。
ヤツの修行も無駄じゃなかった訳か。癪だけどそこは感謝しとかなきゃいけねえだろうな。
「それにしても、婿候補がまた一人、潰れてしまいましたね。うふふふっ」
「あら、姫様? ちっとも残念そうじゃありませんよ?」
「ええ、それはもう。あの王虎の目、いやらしかったので。スッとしました」
乙女達が可笑しそうに笑い合う。眼福だ。うむうむ。
「この調子で弥五郎様が姫様を守り続けると、いつまでたっても姫様はお嫁に行けませんねえ?」
おなつさんがニヤニヤしながら桃姫様をからかっている。
「そうですね。でも私、弱い殿方は嫌なのです。せめて私を守ってくれるような強い殿方……で、ない……と?」
そこまで言った桃姫様が、何かに気付いたように俺を見た。
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