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〝 藍〟 3話 紺青の友人
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「おい、藍。期末テストの結果見せてみろ。」
「は、はい。」
あれから二つ季節が過ぎていった。今は十二月の上旬、息が白くなり始める頃だ。この時期になると、学生の本分である勉強...その定着度を確認するために実施されるテスト、所謂定期テストが行われる。藍の通う中学校は三学期制であるため、ちょうどこの時期に学年末テストをする訳である。
藍はテストで常に学年1位を取り続けていた。常に、というのは定期テストは勿論小テストや朝テストを含めて...である。それはこの家の家主、藤田の教育方針だからである。彼は幼い頃から藍にひたすら勉強を叩き込み、塾通いの生徒を鼻で笑うような成績を残すようにと散々言い聞かせてきた。
これだけ聞くとスパルタだと思われるかもしれないが、実際その通りであるから他に形容する言葉もない。1位以外を取ってきた日には問答無用でビンタを食らわし飯抜き、そういった行為を行ってきた。藍はそれに耐え、藤田の期待に応えるべく日々を勉強に費やしている。それは藍にとって唯一の藤田からの望みであり、不自由なく育ててもらっている恩返しともとれた。
「...1位か。統一模試は散々だったからな、当たり前だ。」
「...はい。これからも頑張ります。」
「よし。じゃあ飯にしよう、ご飯よそってくれ。」
「はい。」
(...統一模試は1桁だけど...それでも駄目なんだ。期待に応えないと...)
台所に立ち、二人分の茶碗を棚の中から取り出す。炊飯器のスイッチをoffにし、しゃもじを取り出して水にさらす。フタを開けると蒸気と共に白米の香りが立ち込めた。
(...あ、換気扇回さないと)
慌ててしゃもじを持ち直し、換気扇のスイッチをつける。コンロの前で味噌汁の確認をしている藤田をチラリと見つつ、何も無かったようにお茶碗に盛っていく。
二人の間に会話はない。
しゃもじを炊飯器側の水入れに漬け、フタを閉じた。丁度藤田も味噌汁を入れたようで、揃って食卓に運んでいく。藤田はそのまま棚から箸を二人分取り出し、ポットのお茶を湯呑みに注いでいった。藍は台所へ戻り、惣菜を皿に盛る。
どちらも準備を終えると、揃って席につく。窓側が藍の席であり、その正面が藤田の席だ。幼い頃からずっと変わらない。
"頂きます"と一言言って、無言のまま夜食を食べ進めていく。
(...そういえば、授業参観...)
ふと思い出し、箸を止める。皿に乗った残り一つの唐揚げをつつきながら、チラリと藤田の顔を見る。
(...言わなくていいか。どうせ来ない。)
黙々と食べ進める姿を見て、聞こえないような溜息をついた。喉がきゅぅっと狭くなり、無理矢理唐揚げを口に放り込む。
その時の唐揚げの味は、よく分からなかった。
翌日、いつも通り起床して昨日の残りを電子レンジで温める。その間、朝刊をドアポストから引き抜き、今日の記事に目を通していく。一面には昨晩の事故や政治関連の記事が並んでいた。
キリの良い所でピーっと終了音が鳴り、新聞を机に置くと、扉を開け中から惣菜を出していく。
そのまま一人分の朝食を用意して、"頂きます"と声を発した。
(...そういえば今日の天気見てないや)
藤田が既に出ているのをもう一度確認し、再度新聞を広げる。いつもであれば、食事中にこんなことをすればビンタされるだろうが本人が居なければこの位は許されるだろう。
(...あ、雪だ......随分早い気がする)
支度を終えて玄関を出ると、パリッとした空気が張り詰めていた。空気を吸い込むと、喉がいっそう冷たくなり、背筋が震える。
ドアを閉め、手をポケットに突っ込み歩き出す。
階段を駆け下り歩道へと足を進めると、違和感を覚えた。
いつもならそこに居ないはずの人で。
ローファーを踏み潰し、電柱に背を向けていて。
...同じ制服の男子が立っている。あいつは...
(...あいつ、なんでここに)
咄嗟ににロビーの内側へ身を隠した。そっと頭を出してその男を見ると、どうやらこの家を見張っているようだ。その場から動かず、チラチラとこちらを見ている。
(僕何かしたっけ...。でも、どうしよう...登校できない)
鞄を握りしめ、俯く。そこに居たのは、入学当初から避けていた"あの"不良だった。藍の住むマンションには裏口はないし、他に出口もない。
カチリ、カチリとロビーにある時計の秒針が音を刻んでいく。
(仕方ない、僕目当てと決まったわけじゃないし...行こう)
10分たった辺りで決心し、ゴクリと唾を飲み込む。会って突然暴力などはないだろう。運動は苦手ではないから逃げることができるかもしれない。一歩ずつ、踏み出していく。
(...気が付きませんように)
視線を下げて素早く通り過ぎた。
(...あれ、大丈夫だ......なんだぁ)
胸をなで下ろし、急いで曲がり角まで走っていく。角を曲がり、今度はその陰からあの不良を見つめた。姿勢は変わっておらず、まだ藍の住むマンションを眺めている。
不思議に思いながらも、腕時計をチラリと見て目を見開いた。
(...あ、いつもよりだいぶ遅い!早く行かないと)
振り返りもう一度不良の姿を確認すると、そのまま小走りで学校へと向かった。
その後、例の不良が藍のマンションの前に来ることはなかった。
──────────────────────
────翌年 五月 下旬。
「なぁなぁ、ここめっちゃすごいと思わねぇ?」
突然視界を遮り、目の前に"建長寺"と大きく印刷された観光ガイドブックが差し出された。右上には白い付箋が貼られており、目をずらすと天井に大きく描かれた龍の写真が目に入る。読み込んだのだろうか、他のページにも様々な色の付箋が貼られている。
「綺麗だけど...時間的に無理じゃないかなぁ。」
隅に記載された地図をチラリと見て、その本をどかす。投げかけられた言葉をスルーし、再び手に持っていたシャーペンを動かし始める。
「...それに、もう回る場所は女子が決めてるんじゃなかったっけ?」
「いや、まあそうなんだけど!藍は行きたい所とかないのかよ~?」
不満げに本を手に取り、再びパラパラと捲りながら藍を見つめる。数歩歩き、空いていることを確認して後ろの机にピタリと椅子をつけ、それにまたがるように座る。
「楽しみじゃねーの?」
「楽しみ...だけど、行きたい場所は他にあるんだ。」
そう言った瞬間、動かしていたシャーペンが手元から無くなった。溜息をつきながら顔を上げると、不安そうな顔をした木崎が目に入る。心配そうに藍を見つめていた。
「俺から女子に言ってやるから...行きたい所言えよ。」
真っ直ぐと見つめる視線に驚き、呆れたように笑いだす。何を言ってるんだ、と言わんばかりに。そんな反応に驚いたのか、木崎は固まったままポカーンと口を開けっぱなしにしている。
...徐々に落ち着いてきた頃、藍はシャーペンを木崎の手からそっと奪い返し、再び問題集に取り掛かった。その後なぜそんな反応をしたのか木崎が問い詰めても、藍は微かに笑って"教えない"の一点張りだった。目には薄く涙が浮かんでいた。
〈放課後〉
今日も帰りの挨拶と同時に席を立ち、早歩きで階段を降りていく。二年生の教室は3階にあり、学年が上がるごとにワンフロア下がる為降りると三年生が姿を現す。わが物顔で振る舞う上級生を横目で見ながら、体を傾けくぐり抜けていく。
「あの、藤田くん!」
下駄箱を開けようとした藍をとめるように、1人の女子生徒が学ランの裾を掴んだ。振り返って見ると、同じクラスになった...森田さんが息を切らしながら上目遣いで見上げている。
「...どうしたの?」
「どうしたの、じゃなくて!
鎌倉遠足の回る場所、みんなで残って決めようって言ったよね!?」
噛み付くようにグッと距離を詰める。走ってきたのだろうか、呼吸が乱れている。
「僕はどこでもいいから...それに、門限が。」
視線を逸らし、一歩後ずさる。
「門限...?まだ下校のチャイム鳴ったばっかでしょ、嘘つかないで!いっつもすぐ帰っちゃうから困るの!
......それに、木崎から聞いた。行きたい場所あるけど教えてくれないって。」
(...アイツか)
軽くキレそうになるのをぐっと堪え、掴まれた裾を離すように促す。彼女に悪気はないだろうし、いつも早く帰る自分も班のみんなに迷惑をかけているのは事実なのだから。
「え~......、あ、建長寺!あそこに行きたいと思ってたんだよ!」
「ふ~ん、でもそれさっき木崎が行きたいって言ってた所だよね?やっぱり...」
「っじゃなくて!その近くの...あの綺麗な所!名前忘れちゃって...」
すぐにでも立ち去りたいが、彼女の眼光で射止められ身動きが取れない状態になっている。疑うような目で藍をじっと見つめる。
「...それもしかして、明月院?」
(...知らないけど丁度いいか)
「それそれ!そこがいいかな。...だからもう帰っても平気だよね?」
ジトーっとした目で見つめ、その後素早くポケットからゴソゴソとメモ帳とシャーペンを取り出した。呆気にとられていると、何か書き終えたのかそれらを再びポケットにしまいこう言った。
「期待しててね。じゃあね。」
藍の胸をポンポンと二回叩くと、ポニーテールをなびかせ颯爽と消え去った。
(残らないでよくなった...、ってことかな)
疑問に思いながらも再び下駄箱の扉を開き、靴を取り出して履いていく。脱いだ上履きを入れ、増えてきた生徒を避けるように歩き出す。
校門を出ようとした時、風に乗って誰かが呼ぶ声がした。振り返り、教室の窓を見上げると木崎が身を乗り出して手を大きく振っている。
(...あいつの差し金かっ)
眉間にシワをよせると、木崎は笑いながら
「じゃーな!!鎌倉楽しみにしとけよ!」
そう言って、藍が見えなくなるまで手を振り続けた。クラスの人々は、面白い人がいるのかと続いて窓の外を見るが、それは藍が見えなくなった後だった。
(一年の時とは全く違うな...)
勉強ばかりする藍を馬鹿にする連中は少なからずおり、友人と呼べる者も小学生からの付き合いをしていた人達だけだった。そんな藍にとって、二年でのクラス替えで一緒になった木崎は新鮮に写っていた。
藍は、その紺青を知らないままでいる。
「は、はい。」
あれから二つ季節が過ぎていった。今は十二月の上旬、息が白くなり始める頃だ。この時期になると、学生の本分である勉強...その定着度を確認するために実施されるテスト、所謂定期テストが行われる。藍の通う中学校は三学期制であるため、ちょうどこの時期に学年末テストをする訳である。
藍はテストで常に学年1位を取り続けていた。常に、というのは定期テストは勿論小テストや朝テストを含めて...である。それはこの家の家主、藤田の教育方針だからである。彼は幼い頃から藍にひたすら勉強を叩き込み、塾通いの生徒を鼻で笑うような成績を残すようにと散々言い聞かせてきた。
これだけ聞くとスパルタだと思われるかもしれないが、実際その通りであるから他に形容する言葉もない。1位以外を取ってきた日には問答無用でビンタを食らわし飯抜き、そういった行為を行ってきた。藍はそれに耐え、藤田の期待に応えるべく日々を勉強に費やしている。それは藍にとって唯一の藤田からの望みであり、不自由なく育ててもらっている恩返しともとれた。
「...1位か。統一模試は散々だったからな、当たり前だ。」
「...はい。これからも頑張ります。」
「よし。じゃあ飯にしよう、ご飯よそってくれ。」
「はい。」
(...統一模試は1桁だけど...それでも駄目なんだ。期待に応えないと...)
台所に立ち、二人分の茶碗を棚の中から取り出す。炊飯器のスイッチをoffにし、しゃもじを取り出して水にさらす。フタを開けると蒸気と共に白米の香りが立ち込めた。
(...あ、換気扇回さないと)
慌ててしゃもじを持ち直し、換気扇のスイッチをつける。コンロの前で味噌汁の確認をしている藤田をチラリと見つつ、何も無かったようにお茶碗に盛っていく。
二人の間に会話はない。
しゃもじを炊飯器側の水入れに漬け、フタを閉じた。丁度藤田も味噌汁を入れたようで、揃って食卓に運んでいく。藤田はそのまま棚から箸を二人分取り出し、ポットのお茶を湯呑みに注いでいった。藍は台所へ戻り、惣菜を皿に盛る。
どちらも準備を終えると、揃って席につく。窓側が藍の席であり、その正面が藤田の席だ。幼い頃からずっと変わらない。
"頂きます"と一言言って、無言のまま夜食を食べ進めていく。
(...そういえば、授業参観...)
ふと思い出し、箸を止める。皿に乗った残り一つの唐揚げをつつきながら、チラリと藤田の顔を見る。
(...言わなくていいか。どうせ来ない。)
黙々と食べ進める姿を見て、聞こえないような溜息をついた。喉がきゅぅっと狭くなり、無理矢理唐揚げを口に放り込む。
その時の唐揚げの味は、よく分からなかった。
翌日、いつも通り起床して昨日の残りを電子レンジで温める。その間、朝刊をドアポストから引き抜き、今日の記事に目を通していく。一面には昨晩の事故や政治関連の記事が並んでいた。
キリの良い所でピーっと終了音が鳴り、新聞を机に置くと、扉を開け中から惣菜を出していく。
そのまま一人分の朝食を用意して、"頂きます"と声を発した。
(...そういえば今日の天気見てないや)
藤田が既に出ているのをもう一度確認し、再度新聞を広げる。いつもであれば、食事中にこんなことをすればビンタされるだろうが本人が居なければこの位は許されるだろう。
(...あ、雪だ......随分早い気がする)
支度を終えて玄関を出ると、パリッとした空気が張り詰めていた。空気を吸い込むと、喉がいっそう冷たくなり、背筋が震える。
ドアを閉め、手をポケットに突っ込み歩き出す。
階段を駆け下り歩道へと足を進めると、違和感を覚えた。
いつもならそこに居ないはずの人で。
ローファーを踏み潰し、電柱に背を向けていて。
...同じ制服の男子が立っている。あいつは...
(...あいつ、なんでここに)
咄嗟ににロビーの内側へ身を隠した。そっと頭を出してその男を見ると、どうやらこの家を見張っているようだ。その場から動かず、チラチラとこちらを見ている。
(僕何かしたっけ...。でも、どうしよう...登校できない)
鞄を握りしめ、俯く。そこに居たのは、入学当初から避けていた"あの"不良だった。藍の住むマンションには裏口はないし、他に出口もない。
カチリ、カチリとロビーにある時計の秒針が音を刻んでいく。
(仕方ない、僕目当てと決まったわけじゃないし...行こう)
10分たった辺りで決心し、ゴクリと唾を飲み込む。会って突然暴力などはないだろう。運動は苦手ではないから逃げることができるかもしれない。一歩ずつ、踏み出していく。
(...気が付きませんように)
視線を下げて素早く通り過ぎた。
(...あれ、大丈夫だ......なんだぁ)
胸をなで下ろし、急いで曲がり角まで走っていく。角を曲がり、今度はその陰からあの不良を見つめた。姿勢は変わっておらず、まだ藍の住むマンションを眺めている。
不思議に思いながらも、腕時計をチラリと見て目を見開いた。
(...あ、いつもよりだいぶ遅い!早く行かないと)
振り返りもう一度不良の姿を確認すると、そのまま小走りで学校へと向かった。
その後、例の不良が藍のマンションの前に来ることはなかった。
──────────────────────
────翌年 五月 下旬。
「なぁなぁ、ここめっちゃすごいと思わねぇ?」
突然視界を遮り、目の前に"建長寺"と大きく印刷された観光ガイドブックが差し出された。右上には白い付箋が貼られており、目をずらすと天井に大きく描かれた龍の写真が目に入る。読み込んだのだろうか、他のページにも様々な色の付箋が貼られている。
「綺麗だけど...時間的に無理じゃないかなぁ。」
隅に記載された地図をチラリと見て、その本をどかす。投げかけられた言葉をスルーし、再び手に持っていたシャーペンを動かし始める。
「...それに、もう回る場所は女子が決めてるんじゃなかったっけ?」
「いや、まあそうなんだけど!藍は行きたい所とかないのかよ~?」
不満げに本を手に取り、再びパラパラと捲りながら藍を見つめる。数歩歩き、空いていることを確認して後ろの机にピタリと椅子をつけ、それにまたがるように座る。
「楽しみじゃねーの?」
「楽しみ...だけど、行きたい場所は他にあるんだ。」
そう言った瞬間、動かしていたシャーペンが手元から無くなった。溜息をつきながら顔を上げると、不安そうな顔をした木崎が目に入る。心配そうに藍を見つめていた。
「俺から女子に言ってやるから...行きたい所言えよ。」
真っ直ぐと見つめる視線に驚き、呆れたように笑いだす。何を言ってるんだ、と言わんばかりに。そんな反応に驚いたのか、木崎は固まったままポカーンと口を開けっぱなしにしている。
...徐々に落ち着いてきた頃、藍はシャーペンを木崎の手からそっと奪い返し、再び問題集に取り掛かった。その後なぜそんな反応をしたのか木崎が問い詰めても、藍は微かに笑って"教えない"の一点張りだった。目には薄く涙が浮かんでいた。
〈放課後〉
今日も帰りの挨拶と同時に席を立ち、早歩きで階段を降りていく。二年生の教室は3階にあり、学年が上がるごとにワンフロア下がる為降りると三年生が姿を現す。わが物顔で振る舞う上級生を横目で見ながら、体を傾けくぐり抜けていく。
「あの、藤田くん!」
下駄箱を開けようとした藍をとめるように、1人の女子生徒が学ランの裾を掴んだ。振り返って見ると、同じクラスになった...森田さんが息を切らしながら上目遣いで見上げている。
「...どうしたの?」
「どうしたの、じゃなくて!
鎌倉遠足の回る場所、みんなで残って決めようって言ったよね!?」
噛み付くようにグッと距離を詰める。走ってきたのだろうか、呼吸が乱れている。
「僕はどこでもいいから...それに、門限が。」
視線を逸らし、一歩後ずさる。
「門限...?まだ下校のチャイム鳴ったばっかでしょ、嘘つかないで!いっつもすぐ帰っちゃうから困るの!
......それに、木崎から聞いた。行きたい場所あるけど教えてくれないって。」
(...アイツか)
軽くキレそうになるのをぐっと堪え、掴まれた裾を離すように促す。彼女に悪気はないだろうし、いつも早く帰る自分も班のみんなに迷惑をかけているのは事実なのだから。
「え~......、あ、建長寺!あそこに行きたいと思ってたんだよ!」
「ふ~ん、でもそれさっき木崎が行きたいって言ってた所だよね?やっぱり...」
「っじゃなくて!その近くの...あの綺麗な所!名前忘れちゃって...」
すぐにでも立ち去りたいが、彼女の眼光で射止められ身動きが取れない状態になっている。疑うような目で藍をじっと見つめる。
「...それもしかして、明月院?」
(...知らないけど丁度いいか)
「それそれ!そこがいいかな。...だからもう帰っても平気だよね?」
ジトーっとした目で見つめ、その後素早くポケットからゴソゴソとメモ帳とシャーペンを取り出した。呆気にとられていると、何か書き終えたのかそれらを再びポケットにしまいこう言った。
「期待しててね。じゃあね。」
藍の胸をポンポンと二回叩くと、ポニーテールをなびかせ颯爽と消え去った。
(残らないでよくなった...、ってことかな)
疑問に思いながらも再び下駄箱の扉を開き、靴を取り出して履いていく。脱いだ上履きを入れ、増えてきた生徒を避けるように歩き出す。
校門を出ようとした時、風に乗って誰かが呼ぶ声がした。振り返り、教室の窓を見上げると木崎が身を乗り出して手を大きく振っている。
(...あいつの差し金かっ)
眉間にシワをよせると、木崎は笑いながら
「じゃーな!!鎌倉楽しみにしとけよ!」
そう言って、藍が見えなくなるまで手を振り続けた。クラスの人々は、面白い人がいるのかと続いて窓の外を見るが、それは藍が見えなくなった後だった。
(一年の時とは全く違うな...)
勉強ばかりする藍を馬鹿にする連中は少なからずおり、友人と呼べる者も小学生からの付き合いをしていた人達だけだった。そんな藍にとって、二年でのクラス替えで一緒になった木崎は新鮮に写っていた。
藍は、その紺青を知らないままでいる。
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この作品は感想を受け付けておりません。
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