イケメン恐怖症ヒーラー、顔のいい騎士団長に口説かれてます!?

中洲める

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2話 今世は平和に

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「あー、昔の夢を見た。ムナクソ悪ぃ」
 まだ焼けるような痛みの幻を感じる。
 痛みのリアルさに、完全に覚醒した。

 俺は起き上がって毛布を捲り、夜着を捲って右わき腹を見てしまった。

 
 当たり前だけど、何もない。
 

「まぁ、俺あの時死んだんだろうな」
 次に目を開けたら俺は赤ん坊だった。
 そして育つにつれ、前世とは違う世界にいるのだと気付いた。

 化学も電気もない世界。
 けれど剣と魔法と魔獣がいる。

 魔力で灯る街灯や、水を汲み上げる魔道具などが整っていて、暮らしの快適さは前世の日本とほとんど変わらない。
 ただし街並みや生活様式は中世に近い。
「電気もねえのに、明るいのは魔道具のおかげ、水道だってあるし、すごく便利」
 俺は間接照明となっている淡く光る水晶石の動力スイッチを切った。
「環境汚染もないし前世よりエコかも」
 車や電車がなく、馬車や馬が主な足だ。
 空を見上げれば、人を乗せた竜がゆったりと飛んでいるのが見られる。
 乗るにはとんでもないお金がかかるから、貴族様専用だけどね。
 見る分には優雅でかなり壮観だから、俺は空を見るのが結構好きだ。


「なんかこの世界、環境汚染とかしたら、汚染された魔物とか出てきそうなんだよな」
 不思議なファンタジー世界あるあるの魔物は、本当に身近にいる。
 俺は実際に遭遇したことはないけれど、それは王都が強固な城壁で守られ、騎士団が民を守るため巡回してくれているからだ。

 城壁の外は危険に溢れている。

 前世の世界のように気楽に旅行などできない。
 街の外へ出るのなら相応の覚悟と、準備、それから命をかける必要がある。
「でも、それを不満に感じさせないくらい充実してる」

 ベッドから降りてカーテンを開けると、今日も青い空が広がっている。
 爽やかな風が吹き込んで来て、それを胸いっぱいに吸い込んだ。

 ここが今俺が生きる場所。アマリガル王国の王都グラーダ。




「一分一秒を競い合って消費するような世界じゃない分、息がしやすい気もするよな」

 異世界といえども空の青さは変わらない。

「さぁ、今日も仕事を頑張るか!」
 クローゼットから神官服を取り出して着替える。

 青と白を基調とした神官服は黒い髪と空色の瞳に映えて、我ながら似合ってると思う。
 なぜ神官服なのかといえば、俺がヒーラーだからだ。
 俺は、癒しの魔法が使えるのです! 異世界ファンタジーの極み。
 魔法が使えると分かった時はさすがにテンション上がった。



 王都郊外の貧乏な農民の家の子供に転生した俺は、平凡ではあるけれど、それなりに幸せだった。
 俺は八歳で治癒能力に開花した。
 教会は治癒能力に目覚めた子供がいる家に、多額の寄進をして引き取りを提案する。
 大抵の家はそれを拒まない。
 特に貧しい家は食い扶持を減らせたうえに金が貰え、子供はいい環境で育てられ、学びと職を得る。

 悪い取引ではない。

 普通の子供だったら親と離れたくないとゴネるところだが、兄弟も多く、食べさせるのがやっとだという経済状況は分かっていた。
 だから、俺は素直に教会へ入った。
 里心がつくといけないからと、家族に会えることはもうないのだけれど、最大の便宜を図ってくれる。
 他の都市ではわからないが、王都の教会はその辺りは誠実に対応してくれていた。


 家族とは会えなくなったけれど、ここでは友人もできて、仕事さえすれば金が手に入り、誰に邪魔されることなく自由に生きていける。

 それだけで俺にとっては天国みたいに思えた。

 前世でお気に入りだったゲームの主題歌を口ずさみながら、着替えが終わる。

 最後に左肩だけにヒーラーを示す青の片掛けのハーフマントを装着して完成だ。

 身なりが整うと気合が入る。

 鏡で変なところはないかと確認していると、コンコン、と軽いノック音が響く。
「おーい、ルイ。起きてるか?」
「起きてるぞ」
 返事をすると同僚で友人のガイズが入ってきた。
「はよー、朝飯行こうぜ」
 短く整えられた灰色の髪が朝日に反射している。
 紅茶色の瞳が柔らかく緩んで朗らかに笑う。
「おはよ、顔洗って髪整えるから待ってくれ」
「おう」
 返事をするとガイズは慣れた仕草でベッドへ腰かける。
 ここに来てから一番付き合いが長いから、俺の部屋へガイズが来るのはいつものことだからだ。

 洗面所に行き、顔を洗い髪を整える。
 降ろしていた長い髪を高い位置に結い上げた。
「何度見ても綺麗な黒髪だよなぁ。ルイ」
「見てんなよ、恥ずかしい」
「お前が髪を結うの見るの好きなんだよ、俺」
「変な趣味だな」
「だって、きれいじゃん」
 屈託のない笑顔をされてしまっては文句も言いづらい。

 ガイズの視線を感じながら長い髪を高い位置で縛って跳ねがないのを確かめた。
 鏡に映る空色のきれいな色の目は結構気に入ってる。

「よし、終わり! さ、飯に行こうぜ」
「そうだな、腹減った」
 俺が歩き始めると、ガイズもすぐについてくる。


「今日のスープは肉が多めだといいな」
「俺はハムが厚いと最高だな」
「違いない!」
 こうやって笑い合う友人がいる。それだけでいい。


 そう思いながら、食堂についた俺たちは、トレーに用意されていた朝食を乗せてテーブルに着く。

 かじったパンはいつも通りおいしい。

 向かいのガイズはおいしそうにスープを飲んでいて、目が合って笑い合う。

「ルイのハムの方が厚くない?」
「そういうお前の目玉焼きの方がでかいだろ」
 皿を交互に見る俺たちは同時に顔をあげた。
「……交換するか?」
「そうしよう」
 スッと皿を入れ替え、食べ始めた。

 この平凡な朝が、ずっと続けばいいのに。
 よく晴れた青空を見上げて、俺は知らず微笑んだ。
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