2 / 3
2話 今世は平和に
しおりを挟む「あー、昔の夢を見た。ムナクソ悪ぃ」
まだ焼けるような痛みの幻を感じる。
痛みのリアルさに、完全に覚醒した。
俺は起き上がって毛布を捲り、夜着を捲って右わき腹を見てしまった。
当たり前だけど、何もない。
「まぁ、俺あの時死んだんだろうな」
次に目を開けたら俺は赤ん坊だった。
そして育つにつれ、前世とは違う世界にいるのだと気付いた。
化学も電気もない世界。
けれど剣と魔法と魔獣がいる。
魔力で灯る街灯や、水を汲み上げる魔道具などが整っていて、暮らしの快適さは前世の日本とほとんど変わらない。
ただし街並みや生活様式は中世に近い。
「電気もねえのに、明るいのは魔道具のおかげ、水道だってあるし、すごく便利」
俺は間接照明となっている淡く光る水晶石の動力スイッチを切った。
「環境汚染もないし前世よりエコかも」
車や電車がなく、馬車や馬が主な足だ。
空を見上げれば、人を乗せた竜がゆったりと飛んでいるのが見られる。
乗るにはとんでもないお金がかかるから、貴族様専用だけどね。
見る分には優雅でかなり壮観だから、俺は空を見るのが結構好きだ。
「なんかこの世界、環境汚染とかしたら、汚染された魔物とか出てきそうなんだよな」
不思議なファンタジー世界あるあるの魔物は、本当に身近にいる。
俺は実際に遭遇したことはないけれど、それは王都が強固な城壁で守られ、騎士団が民を守るため巡回してくれているからだ。
城壁の外は危険に溢れている。
前世の世界のように気楽に旅行などできない。
街の外へ出るのなら相応の覚悟と、準備、それから命をかける必要がある。
「でも、それを不満に感じさせないくらい充実してる」
ベッドから降りてカーテンを開けると、今日も青い空が広がっている。
爽やかな風が吹き込んで来て、それを胸いっぱいに吸い込んだ。
ここが今俺が生きる場所。アマリガル王国の王都グラーダ。
「一分一秒を競い合って消費するような世界じゃない分、息がしやすい気もするよな」
異世界といえども空の青さは変わらない。
「さぁ、今日も仕事を頑張るか!」
クローゼットから神官服を取り出して着替える。
青と白を基調とした神官服は黒い髪と空色の瞳に映えて、我ながら似合ってると思う。
なぜ神官服なのかといえば、俺がヒーラーだからだ。
俺は、癒しの魔法が使えるのです! 異世界ファンタジーの極み。
魔法が使えると分かった時はさすがにテンション上がった。
王都郊外の貧乏な農民の家の子供に転生した俺は、平凡ではあるけれど、それなりに幸せだった。
俺は八歳で治癒能力に開花した。
教会は治癒能力に目覚めた子供がいる家に、多額の寄進をして引き取りを提案する。
大抵の家はそれを拒まない。
特に貧しい家は食い扶持を減らせたうえに金が貰え、子供はいい環境で育てられ、学びと職を得る。
悪い取引ではない。
普通の子供だったら親と離れたくないとゴネるところだが、兄弟も多く、食べさせるのがやっとだという経済状況は分かっていた。
だから、俺は素直に教会へ入った。
里心がつくといけないからと、家族に会えることはもうないのだけれど、最大の便宜を図ってくれる。
他の都市ではわからないが、王都の教会はその辺りは誠実に対応してくれていた。
家族とは会えなくなったけれど、ここでは友人もできて、仕事さえすれば金が手に入り、誰に邪魔されることなく自由に生きていける。
それだけで俺にとっては天国みたいに思えた。
前世でお気に入りだったゲームの主題歌を口ずさみながら、着替えが終わる。
最後に左肩だけにヒーラーを示す青の片掛けのハーフマントを装着して完成だ。
身なりが整うと気合が入る。
鏡で変なところはないかと確認していると、コンコン、と軽いノック音が響く。
「おーい、ルイ。起きてるか?」
「起きてるぞ」
返事をすると同僚で友人のガイズが入ってきた。
「はよー、朝飯行こうぜ」
短く整えられた灰色の髪が朝日に反射している。
紅茶色の瞳が柔らかく緩んで朗らかに笑う。
「おはよ、顔洗って髪整えるから待ってくれ」
「おう」
返事をするとガイズは慣れた仕草でベッドへ腰かける。
ここに来てから一番付き合いが長いから、俺の部屋へガイズが来るのはいつものことだからだ。
洗面所に行き、顔を洗い髪を整える。
降ろしていた長い髪を高い位置に結い上げた。
「何度見ても綺麗な黒髪だよなぁ。ルイ」
「見てんなよ、恥ずかしい」
「お前が髪を結うの見るの好きなんだよ、俺」
「変な趣味だな」
「だって、きれいじゃん」
屈託のない笑顔をされてしまっては文句も言いづらい。
ガイズの視線を感じながら長い髪を高い位置で縛って跳ねがないのを確かめた。
鏡に映る空色のきれいな色の目は結構気に入ってる。
「よし、終わり! さ、飯に行こうぜ」
「そうだな、腹減った」
俺が歩き始めると、ガイズもすぐについてくる。
「今日のスープは肉が多めだといいな」
「俺はハムが厚いと最高だな」
「違いない!」
こうやって笑い合う友人がいる。それだけでいい。
そう思いながら、食堂についた俺たちは、トレーに用意されていた朝食を乗せてテーブルに着く。
かじったパンはいつも通りおいしい。
向かいのガイズはおいしそうにスープを飲んでいて、目が合って笑い合う。
「ルイのハムの方が厚くない?」
「そういうお前の目玉焼きの方がでかいだろ」
皿を交互に見る俺たちは同時に顔をあげた。
「……交換するか?」
「そうしよう」
スッと皿を入れ替え、食べ始めた。
この平凡な朝が、ずっと続けばいいのに。
よく晴れた青空を見上げて、俺は知らず微笑んだ。
103
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる