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≪本編≫
【本編12】
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YORUのメイクが終わってすぐに撮影は始まった。
竜也さん──お兄さん呼びはやめろと言われたのでこうなった──が電話をかけに行っていなかったけど、次の衣装に変えるぐらいで戻ってきた。
そういや、葉月さんが戻ってこなくて心配だったけど、受け付けにいつの間にか伝言メモが残されていた。
《どうしても行かなければならないので少しだけ抜けさせて頂きます。下地は出来ているので、衣装に合わせてノートに書いてあるようにしてあげて下さい。中途半端で申し訳ありませんが、よろしくお願いします》
あれ?
俺はメモを見て何か違和感を感じたけど、それが何なのか解らなかった。
とにかく、いきなり呼びつけたのはこっちなので、文句は言えないし、逆に申し訳ない事をしてしまった。
母さんはダブルブッキングしてしまったと気付き「相手方に挨拶しなければならないわね」と申し訳なさそうにしていた。
そんな俺は、今、絶賛緊張中!
大好きだったよるがYORUとして腕の中にいる。
山田さんが色々な注文をつけてくれるから距離が近い。
細すぎて抱き締めるのも躊躇する。
衣装チェンジの時には、ノートを元に竜也さんがメイクを直してくれた。
YORUがにこにこと俺の髪型を弄ってたけど、それもノートに書いてあったものだったし、次の衣装に合っていたので誰からも文句は無かった。
一番緊張したのはYORUが急に白い薔薇の頭を千切って俺に咥えさせ、その薔薇にキスした時だった。
近い!
山田さんの賛辞が飛ぶ中で、にっこり笑ったYORUに俺は翻弄されていただけだった。
その様子が、またコンセプトにあっていたらしく、注意を受ける事なく2人での撮影は終了となった。
3人に先に控え室に向かってもらう。
俺は一応葉月さんを待つ形で一旦休憩を挟んでからソロの撮影をするので、母さんとスタッフと軽い打ち合わせをしてからYORU達の居る控え室に向かった。
「お疲れ様」
「お疲れさん」
《おつかれ》
ノックをして控え室に入ると、3人が挨拶してくれる。
「お疲れ様でした」
俺も頭を下げて挨拶をする。
「皆さん、お疲れ様でした。良かったらこの後食事でもいかがかしら?」
母さんが遅れて入ってきてみんなを食事に誘う。
「お誘いありがとうございます。ですが、私達はすぐに帰ります。言いにくいのですが、クライアントの方に捕まる前に立ち去りたいと思っておりますので、申し訳ありません」
高千穂さんが丁寧に喋る。
母さん、ホントに忘れちゃってるんだ…。
どうしよう。
我が儘だと解っているけど、連絡先を聞きたい…。
椅子に座って母さんと高千穂さんの会話を見つめていると、着替え終わったYORUが更衣室から出てきた。
ヨロヨロと歩いているのを見て笑いそうになったけど、竜也さんは片付けをしていたので、代わりにエスコートをしに行く。
ちなみに、エスコートが必要な訳も教えてもらった。
高すぎる厚底靴に足が震えてまともに歩けないからなんだって。
それなら、履かなきゃいいのにと思ったけど、2人と腕を組む事で下心がありそうな連中を牽制出来るからいいんだそうだ。
「どうぞ」
椅子に座らせてあげる。
《ありがとう》
YORUはメモ帳を取り出して、お礼を言ってくれた。
《きねん》
続けて書かれた文字に、首を傾げると、YORUは手を出した。
あ、握手か。
「ありがとうございました。また、いつか、一緒に仕事が出来たら嬉しいです」
…あれ?
YORUは握手をする振りをして俺の手に押し付けるようにメモを渡してくれた。
唇に人差し指を当てて、にっこり笑う。
俺はメモを素早く握りしめて頷いた。
「小野田社長にはまた、改めてご連絡させて頂きます。それでは撤収させて頂きましょうか」
高千穂さんが言いながらYORUをエスコートして、その後ろを竜也さんが付いていって、3人は撮影所から出ていった。
「おっと、こうしちゃいられないわ!中澤様が彼らを捕まえないように絡んでくるわ」
3人を見送った母さんがクライアントに“YORUを呼んだ事で今日の本当の相手モデルの事務所への謝罪について”と、突撃をかましていた。
俺は1人控え室に戻り、YORUがくれたメモをひらいた。
《おわったら
くさむしり》
俺にしか解らない暗号のような文だった。
懐かしさと嬉しさが込み上げてきて心が暖かくなった。
竜也さん──お兄さん呼びはやめろと言われたのでこうなった──が電話をかけに行っていなかったけど、次の衣装に変えるぐらいで戻ってきた。
そういや、葉月さんが戻ってこなくて心配だったけど、受け付けにいつの間にか伝言メモが残されていた。
《どうしても行かなければならないので少しだけ抜けさせて頂きます。下地は出来ているので、衣装に合わせてノートに書いてあるようにしてあげて下さい。中途半端で申し訳ありませんが、よろしくお願いします》
あれ?
俺はメモを見て何か違和感を感じたけど、それが何なのか解らなかった。
とにかく、いきなり呼びつけたのはこっちなので、文句は言えないし、逆に申し訳ない事をしてしまった。
母さんはダブルブッキングしてしまったと気付き「相手方に挨拶しなければならないわね」と申し訳なさそうにしていた。
そんな俺は、今、絶賛緊張中!
大好きだったよるがYORUとして腕の中にいる。
山田さんが色々な注文をつけてくれるから距離が近い。
細すぎて抱き締めるのも躊躇する。
衣装チェンジの時には、ノートを元に竜也さんがメイクを直してくれた。
YORUがにこにこと俺の髪型を弄ってたけど、それもノートに書いてあったものだったし、次の衣装に合っていたので誰からも文句は無かった。
一番緊張したのはYORUが急に白い薔薇の頭を千切って俺に咥えさせ、その薔薇にキスした時だった。
近い!
山田さんの賛辞が飛ぶ中で、にっこり笑ったYORUに俺は翻弄されていただけだった。
その様子が、またコンセプトにあっていたらしく、注意を受ける事なく2人での撮影は終了となった。
3人に先に控え室に向かってもらう。
俺は一応葉月さんを待つ形で一旦休憩を挟んでからソロの撮影をするので、母さんとスタッフと軽い打ち合わせをしてからYORU達の居る控え室に向かった。
「お疲れ様」
「お疲れさん」
《おつかれ》
ノックをして控え室に入ると、3人が挨拶してくれる。
「お疲れ様でした」
俺も頭を下げて挨拶をする。
「皆さん、お疲れ様でした。良かったらこの後食事でもいかがかしら?」
母さんが遅れて入ってきてみんなを食事に誘う。
「お誘いありがとうございます。ですが、私達はすぐに帰ります。言いにくいのですが、クライアントの方に捕まる前に立ち去りたいと思っておりますので、申し訳ありません」
高千穂さんが丁寧に喋る。
母さん、ホントに忘れちゃってるんだ…。
どうしよう。
我が儘だと解っているけど、連絡先を聞きたい…。
椅子に座って母さんと高千穂さんの会話を見つめていると、着替え終わったYORUが更衣室から出てきた。
ヨロヨロと歩いているのを見て笑いそうになったけど、竜也さんは片付けをしていたので、代わりにエスコートをしに行く。
ちなみに、エスコートが必要な訳も教えてもらった。
高すぎる厚底靴に足が震えてまともに歩けないからなんだって。
それなら、履かなきゃいいのにと思ったけど、2人と腕を組む事で下心がありそうな連中を牽制出来るからいいんだそうだ。
「どうぞ」
椅子に座らせてあげる。
《ありがとう》
YORUはメモ帳を取り出して、お礼を言ってくれた。
《きねん》
続けて書かれた文字に、首を傾げると、YORUは手を出した。
あ、握手か。
「ありがとうございました。また、いつか、一緒に仕事が出来たら嬉しいです」
…あれ?
YORUは握手をする振りをして俺の手に押し付けるようにメモを渡してくれた。
唇に人差し指を当てて、にっこり笑う。
俺はメモを素早く握りしめて頷いた。
「小野田社長にはまた、改めてご連絡させて頂きます。それでは撤収させて頂きましょうか」
高千穂さんが言いながらYORUをエスコートして、その後ろを竜也さんが付いていって、3人は撮影所から出ていった。
「おっと、こうしちゃいられないわ!中澤様が彼らを捕まえないように絡んでくるわ」
3人を見送った母さんがクライアントに“YORUを呼んだ事で今日の本当の相手モデルの事務所への謝罪について”と、突撃をかましていた。
俺は1人控え室に戻り、YORUがくれたメモをひらいた。
《おわったら
くさむしり》
俺にしか解らない暗号のような文だった。
懐かしさと嬉しさが込み上げてきて心が暖かくなった。
応援ありがとうございます!
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