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獣国編 毒蛇と魔女
生きる為ならば
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「(左右確認よーし。誰も居ない、気配も無し、聞こえてくるのは虫の声だけ。よしよし)」
どうも、食い物を探す為に一時的な脱獄を計画した幼竜イヴニアです。
現在俺は牢屋から抜け出して階段を上がり、随分と久しぶりな気がする外の空気を吸っていた。この姿でも筋力はしっかりそのままなのはありがたい。歪めた鉄格子は後でしっかり直すよ。
見渡してみると周りは木に囲まれた森の中。こんな場所にポツンと牢屋へ続く階段があるのだからおかしなものだ。
松明の光が届くのも地下だけで、地上は木々に遮られて月の光さえ届いていない。夜目が効かなかったら危なかったな。下手に動いたら遭難待ったなし。
と言っても、獣人達が頻繁に出入りしているせいか道らしき物は出来てるし、よほど道を外れなきゃ大丈夫か。
この道は何処に続いてるんだろう? もしかして獣人達が住んでる場所か?
「(ホントに何処だよここ。あーもうチクチクするっ!)」
人知れず心中で文句を零す。何に対してと問われたなら、今着ている下着? に対してと答えよう。
さっきまで裸状態だった俺も、今は大事な部分だけ隠した姿に落ち着いた。それはいい。問題は、腰に巻いたこれの着心地が最悪なのがな……。
何せ材料にしたのはレッドベリーが入っていた麻袋だ。そりゃ着心地が良い訳もない。さっきから大事な所にチクチクされて鬱陶しいことこの上ないぜチクショー。
でもこればっかりは我慢する他ない。誰も見ていなくたって、人として最低限の体裁は保たないと。……まぁドラゴンなんですけどね。
「(このチクチクは我慢できるとしても、邪魔だなぁこれ)」
右手で鷲掴みにした髪の毛を恨みがましく睨みつける。
歩く度に体の何処かにサラサラと当たってくるから気になって仕方ない。それに歩きづらいんだよ、ここまで上ってくるだけの間に何回も踏んづけたし。
いくら母様の子だからって、ここまで似なくてもさ。そもそもこんな姿イメージして身体創造使った訳じゃないのに何でだよって話だ。
髪の長い女性ってこういう時どう対処してるんだろ。
いっそバッサリ切るか。刃物でも手に入れたらやってみてもいいかもな。
「(今は我慢だイヴニア。それよりさっさと食い物見つけて戻らないと。抜け出してる事がバレて面倒な事になる前に!)」
不満漏らしもそこそこに、とりあえず俺は道を辿って歩みを進めるのだった。
――……。
虫達の鳴き声に耳を傾けながら歩き続ける事しばらく、草木ばかりだった視界にようやく変化が起こった。
道の先に見えてきたのは淡い光。おそらくは松明だろう。予想通り、獣人達の住処と見た。
「(よーしよし、順調だな。ここからは慎重に行かないと)」
姿勢を低くしてしゃがみ移動。馬鹿正直に道を進む事はせず、少し外れて遠回りを選択した。
果たしてその選択は正しかったらしく、近付いてみると門番らしき男性獣人が2人。あのまま進んでいたら一発で見つかっていただろう。
見てみろよあの筋骨隆々の体。捕まったら俺の体なんぞ簡単にへし折られてしまいそうだ。
「(ここまで近付いても勘付かれる気配無し。匂い消し効果バッチリだな)」
ホッと一息。
実は、道中でヴェロニカさんの嗅覚によってレッドベリーの存在がバレた事を思い出し、そこら辺の泥を体中に塗りたくって即席の匂い消しを行ったのだ。
上手くいくかはほとんど賭けだったが、結果良ければ全て良し!
とにかく見つからないように食料をぬす――つまみ食いして帰ろう。もう少しの辛抱なんだから作戦中に鳴らないでくれよ腹の虫くん……!
「なぁ聞いたか?」
「何を?」
「例のドラゴンだよ」
「っ……!」ビックーン
移動しようとした矢先、唐突に門番の口からドラゴンという単語が出て来て思わず反応してしまった。しかも草を揺らしてしまう大失態!
慌ててその場に身を隠し、息を殺した。
「ん? なんだ? 動物?」
「……いや、匂いはしない。ただの虫だろ」
「そうか。で、何だっけ?」
あっっっっっぶねぇぇぇぇぇぇ!!!! 匂い消ししてて良かった!! よくやった俺!超偉い!
下手に留まるのは危険か。直ぐに離れよう……って、俺についての話だし、ちょっと気になるな。少しだけ聞かせてもらおう。
「ああ。例のドラゴン、族長が見張りは必要無いって言っててさ」
「えっ、いやそれはマズくないか? ドラゴンだぞ? 何だってそんな」
「さぁな。しかも牢から出そうと考えてるらしい。あのドラゴンは危険じゃないからって」
「何考えてるんだあの方は……」
うん、ごもっとも。
「仮にそれが本当だとしても、ドラゴンが居るってだけでこの国に危険が及ぶじゃないか。
幼い竜なんだったら、さっさと殺してしまった方が俺達の為だろ」
「馬鹿か。無闇矢鱈にドラゴンを害したりなんてしてみろ。仲間意識の強い同族が報復に飛んできたっておかしくないんだぞ。それこそ親が来たら最悪だ。
獣人とドラゴンとじゃ天と地ほどの実力差がある。リィベレーナくらい一夜とかからず焼け野原だろうさ」
……? ドラゴンが居るだけで危険ってどういう事だ? いやまぁ正しいっちゃ正しいんだけどさ。
やっぱりルミリスと比べて、かなりドラゴンに対する扱いが違う。ドラゴンが怖いってよりも、別の何かを警戒してるような……?
うーん、何か引っかかるな。もうちょっと詳しく聞きたいところだが、あんまり長居して腹が鳴ったら終わりだ。
情報感謝するよ、名も知らぬ獣人さん。
「でぇっくしっ!」
「風邪か?」
――……。
物陰に身を潜めながら探索する事しばらく。住処の中を色々と見て回るものの、肝心の食料は未だに見つからない。
腹は減るばかりだ。とはいえ、その一方で一時的に空腹を忘れる程度には興味深い発見が多かった。
あれだけしっかりした牢屋を作れるくらいなのだから、てっきり住んでいる場所もそれなりに技術の行き届いた所なのだろうと思っていた。
しかし実際は、ルミリスとは比べるまでもないお粗末な建物ばかり。いや、言い方が悪いな。獣人特有? の家がそこかしこに存在している。
木材やら草やらで組み上げたそれは、お世辞にも立派とは言えない建築物。見上げてみれば、大木と大木を繋ぎ合わせるように幾つもの橋がかけられていて、木の上にも家らしきものがあった。
「(何でだ?)」
周りをどれだけ見渡してみても、俺を捕らえている牢屋程の技術が見当たらない。家も、橋も、この場のあらゆる物全て、とても鉄が使われているようには見えなかった。
道中で武器庫っぽい場所を見つけて覗いてみたものの、乱雑に立て掛けられた剣や槍の切っ先すら、鉄ではなく石製。
明らかに文明が遅れている。
では何故、あの牢屋だけがあんなにもしっかりとしているのだろう?
「(前世でも獣人に関しての知識は皆無だったからなぁ。何の参考にもならない)」
て、元の世界の獣人がこっちと同じとは限らないんだってば。事実、コアちゃん然りヴェロニカさん然り、こちらの獣人達はかなり社交的っぽいもんな。
「(っと、あぶね)」
考え事をしながら歩いていると、不意に話し声が聞こえてきた。直ぐに体勢を低くして注意を払うが、声の主達は見当たらない。
どうやら近くの建物内から漏れ出ている声のようだ。
「(あの家か)」
視線の先には他の物よりも少し大きめな作りをした建物があり、そこから松明の光らしきものと複数名の声が漏れている。
妙だ。周りの建物を見渡してみても灯りが点いているのはあそこだけ。単なる夜更し?
「(ん……? お? おおっ!?)」
気になってその建物を凝視していたら、直ぐ横に食料らしき物が吊るされているのを発見した。俺の目が確かなら干し肉と見た。
あったぜ! 念願の食料! 建物に近付くのはリスクが高いけど、ようやく見つけた獲物を逃す手はない!
辺りの警戒は怠らず、さながら虫の如くカサカサと素早く移動を開始。目的の場所に辿り着いてからも、最終確認として周りを見渡す。
よし、誰も居ない。中の獣人達も気付いてはいないな。ふふふ、我ながら完璧な隠密行動だ、惚れ惚れするね。
「(大事な食料だろうけど、ごめんなさい。もう限界が近いんです)」
両手を合わせて心中で謝罪をし、いざ干し肉へと手を伸ばして掴み取った。
匂いは……うん、大丈夫だ、腐ってない。ちょっと独特な香りはするけど、腐敗臭とは違うものだ。これなら食べれそう。
「(全部は、流石に悪いよな。でもこれっぽっちじゃ全然足りないし)」
拝借した干し肉の量は俺の胃を満たすには程遠い。ここで満足してしまえば、また中途半端な食事となり逆効果だ。
かと言って全部を掻っ攫うのも相当に気分が悪い上に、盗ったとしても全然足りない。ここ以外にもあると信じて探索を続けるべきか。
「(ん~……って悠長な事言ってられないな)」
ふと見上げた頭上には、俺の残り魔力量を示す数字。1900を越えていたそれも、間もなく1400を切ろうとしていた。
間違いなく身体創造によって魔力が消費され続けている。しかも思っていたよりも早い。
母様をして相当に魔力を使うと言わしめるスキルだ。少し甘く見てたな。
帰りの道のりも考えて、ちゃっちゃと探索してしまった方がよさそうだ。
「(干し肉は少しだけ頂戴して、と。武器庫があるくらいだ、きっと食糧庫もある筈。そっちを探して――)」
「東の集落が壊滅!!?」
「(うひゃあっ!!?)」
長居は無用と一歩踏み出す直前に、家の中から女性の大声が響いてきた。あまりに突然のこと過ぎて、干し肉を落としてしまったくらいだ。
嗚呼、無情。せっかくの干し肉が砂だらけ……後で洗わないと。まったく何なんだいきなり、驚かすなよ。
「不吉っす! やっぱりドラゴンがもたらした災厄っすよ!」
「(おっと?)」
また俺の話題か。大人気だなまったく。
でも良い話ではないようだ。やっぱりヴェロニカさんやコアちゃんが特別なだけで、他の獣人は俺を良く思っていないらしい。
「馬鹿者。何でもかんでも幼い竜に押し付けるな。それでも誇りある獣戦士か」
あ、この声ヴェロニカさんだ。
一国の王まで交えて何の話をしてるんだろう……極秘の会議とか? ちょっと気になるな。時間制限は念頭に置いて、情報収集と考えて聞かせてもらうか。
「でもっ、あのドラゴンが現れた後にこの事態っす! 無関係とは思えないっすよ!」
「ほう? 言うではないか。今回の件とあの幼竜が繋がっておるという確証があっての発言なのだろうな?」
「えっ、そ、それは……」
「不安を他者にぶつけるだけならガキにも出来る事だ。分かるな?」
「……申し訳ないっす」
「んはっ、よい! 許す!
それになウルズ、今回の件と幼竜には直接的な関係は無いという確証もあるのだ」
「それは、族長お得意の勘っすか?」
「そうだ、と言いたいところだが違う。そもそも集落が壊滅した理由すらまだ話しておらんだろうが。
ウルズ、あのドラゴンが現れるより以前から、オレ達を悩ませておる存在とは何だ?」
「……! 喰らう者っすか」
「分かっておるではないか」
集落の壊滅? また穏やかじゃない話題だな。
それに、喰らう者って何だ……?
――――
あとがき。
目指せ書籍化!
多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!
どうも、食い物を探す為に一時的な脱獄を計画した幼竜イヴニアです。
現在俺は牢屋から抜け出して階段を上がり、随分と久しぶりな気がする外の空気を吸っていた。この姿でも筋力はしっかりそのままなのはありがたい。歪めた鉄格子は後でしっかり直すよ。
見渡してみると周りは木に囲まれた森の中。こんな場所にポツンと牢屋へ続く階段があるのだからおかしなものだ。
松明の光が届くのも地下だけで、地上は木々に遮られて月の光さえ届いていない。夜目が効かなかったら危なかったな。下手に動いたら遭難待ったなし。
と言っても、獣人達が頻繁に出入りしているせいか道らしき物は出来てるし、よほど道を外れなきゃ大丈夫か。
この道は何処に続いてるんだろう? もしかして獣人達が住んでる場所か?
「(ホントに何処だよここ。あーもうチクチクするっ!)」
人知れず心中で文句を零す。何に対してと問われたなら、今着ている下着? に対してと答えよう。
さっきまで裸状態だった俺も、今は大事な部分だけ隠した姿に落ち着いた。それはいい。問題は、腰に巻いたこれの着心地が最悪なのがな……。
何せ材料にしたのはレッドベリーが入っていた麻袋だ。そりゃ着心地が良い訳もない。さっきから大事な所にチクチクされて鬱陶しいことこの上ないぜチクショー。
でもこればっかりは我慢する他ない。誰も見ていなくたって、人として最低限の体裁は保たないと。……まぁドラゴンなんですけどね。
「(このチクチクは我慢できるとしても、邪魔だなぁこれ)」
右手で鷲掴みにした髪の毛を恨みがましく睨みつける。
歩く度に体の何処かにサラサラと当たってくるから気になって仕方ない。それに歩きづらいんだよ、ここまで上ってくるだけの間に何回も踏んづけたし。
いくら母様の子だからって、ここまで似なくてもさ。そもそもこんな姿イメージして身体創造使った訳じゃないのに何でだよって話だ。
髪の長い女性ってこういう時どう対処してるんだろ。
いっそバッサリ切るか。刃物でも手に入れたらやってみてもいいかもな。
「(今は我慢だイヴニア。それよりさっさと食い物見つけて戻らないと。抜け出してる事がバレて面倒な事になる前に!)」
不満漏らしもそこそこに、とりあえず俺は道を辿って歩みを進めるのだった。
――……。
虫達の鳴き声に耳を傾けながら歩き続ける事しばらく、草木ばかりだった視界にようやく変化が起こった。
道の先に見えてきたのは淡い光。おそらくは松明だろう。予想通り、獣人達の住処と見た。
「(よーしよし、順調だな。ここからは慎重に行かないと)」
姿勢を低くしてしゃがみ移動。馬鹿正直に道を進む事はせず、少し外れて遠回りを選択した。
果たしてその選択は正しかったらしく、近付いてみると門番らしき男性獣人が2人。あのまま進んでいたら一発で見つかっていただろう。
見てみろよあの筋骨隆々の体。捕まったら俺の体なんぞ簡単にへし折られてしまいそうだ。
「(ここまで近付いても勘付かれる気配無し。匂い消し効果バッチリだな)」
ホッと一息。
実は、道中でヴェロニカさんの嗅覚によってレッドベリーの存在がバレた事を思い出し、そこら辺の泥を体中に塗りたくって即席の匂い消しを行ったのだ。
上手くいくかはほとんど賭けだったが、結果良ければ全て良し!
とにかく見つからないように食料をぬす――つまみ食いして帰ろう。もう少しの辛抱なんだから作戦中に鳴らないでくれよ腹の虫くん……!
「なぁ聞いたか?」
「何を?」
「例のドラゴンだよ」
「っ……!」ビックーン
移動しようとした矢先、唐突に門番の口からドラゴンという単語が出て来て思わず反応してしまった。しかも草を揺らしてしまう大失態!
慌ててその場に身を隠し、息を殺した。
「ん? なんだ? 動物?」
「……いや、匂いはしない。ただの虫だろ」
「そうか。で、何だっけ?」
あっっっっっぶねぇぇぇぇぇぇ!!!! 匂い消ししてて良かった!! よくやった俺!超偉い!
下手に留まるのは危険か。直ぐに離れよう……って、俺についての話だし、ちょっと気になるな。少しだけ聞かせてもらおう。
「ああ。例のドラゴン、族長が見張りは必要無いって言っててさ」
「えっ、いやそれはマズくないか? ドラゴンだぞ? 何だってそんな」
「さぁな。しかも牢から出そうと考えてるらしい。あのドラゴンは危険じゃないからって」
「何考えてるんだあの方は……」
うん、ごもっとも。
「仮にそれが本当だとしても、ドラゴンが居るってだけでこの国に危険が及ぶじゃないか。
幼い竜なんだったら、さっさと殺してしまった方が俺達の為だろ」
「馬鹿か。無闇矢鱈にドラゴンを害したりなんてしてみろ。仲間意識の強い同族が報復に飛んできたっておかしくないんだぞ。それこそ親が来たら最悪だ。
獣人とドラゴンとじゃ天と地ほどの実力差がある。リィベレーナくらい一夜とかからず焼け野原だろうさ」
……? ドラゴンが居るだけで危険ってどういう事だ? いやまぁ正しいっちゃ正しいんだけどさ。
やっぱりルミリスと比べて、かなりドラゴンに対する扱いが違う。ドラゴンが怖いってよりも、別の何かを警戒してるような……?
うーん、何か引っかかるな。もうちょっと詳しく聞きたいところだが、あんまり長居して腹が鳴ったら終わりだ。
情報感謝するよ、名も知らぬ獣人さん。
「でぇっくしっ!」
「風邪か?」
――……。
物陰に身を潜めながら探索する事しばらく。住処の中を色々と見て回るものの、肝心の食料は未だに見つからない。
腹は減るばかりだ。とはいえ、その一方で一時的に空腹を忘れる程度には興味深い発見が多かった。
あれだけしっかりした牢屋を作れるくらいなのだから、てっきり住んでいる場所もそれなりに技術の行き届いた所なのだろうと思っていた。
しかし実際は、ルミリスとは比べるまでもないお粗末な建物ばかり。いや、言い方が悪いな。獣人特有? の家がそこかしこに存在している。
木材やら草やらで組み上げたそれは、お世辞にも立派とは言えない建築物。見上げてみれば、大木と大木を繋ぎ合わせるように幾つもの橋がかけられていて、木の上にも家らしきものがあった。
「(何でだ?)」
周りをどれだけ見渡してみても、俺を捕らえている牢屋程の技術が見当たらない。家も、橋も、この場のあらゆる物全て、とても鉄が使われているようには見えなかった。
道中で武器庫っぽい場所を見つけて覗いてみたものの、乱雑に立て掛けられた剣や槍の切っ先すら、鉄ではなく石製。
明らかに文明が遅れている。
では何故、あの牢屋だけがあんなにもしっかりとしているのだろう?
「(前世でも獣人に関しての知識は皆無だったからなぁ。何の参考にもならない)」
て、元の世界の獣人がこっちと同じとは限らないんだってば。事実、コアちゃん然りヴェロニカさん然り、こちらの獣人達はかなり社交的っぽいもんな。
「(っと、あぶね)」
考え事をしながら歩いていると、不意に話し声が聞こえてきた。直ぐに体勢を低くして注意を払うが、声の主達は見当たらない。
どうやら近くの建物内から漏れ出ている声のようだ。
「(あの家か)」
視線の先には他の物よりも少し大きめな作りをした建物があり、そこから松明の光らしきものと複数名の声が漏れている。
妙だ。周りの建物を見渡してみても灯りが点いているのはあそこだけ。単なる夜更し?
「(ん……? お? おおっ!?)」
気になってその建物を凝視していたら、直ぐ横に食料らしき物が吊るされているのを発見した。俺の目が確かなら干し肉と見た。
あったぜ! 念願の食料! 建物に近付くのはリスクが高いけど、ようやく見つけた獲物を逃す手はない!
辺りの警戒は怠らず、さながら虫の如くカサカサと素早く移動を開始。目的の場所に辿り着いてからも、最終確認として周りを見渡す。
よし、誰も居ない。中の獣人達も気付いてはいないな。ふふふ、我ながら完璧な隠密行動だ、惚れ惚れするね。
「(大事な食料だろうけど、ごめんなさい。もう限界が近いんです)」
両手を合わせて心中で謝罪をし、いざ干し肉へと手を伸ばして掴み取った。
匂いは……うん、大丈夫だ、腐ってない。ちょっと独特な香りはするけど、腐敗臭とは違うものだ。これなら食べれそう。
「(全部は、流石に悪いよな。でもこれっぽっちじゃ全然足りないし)」
拝借した干し肉の量は俺の胃を満たすには程遠い。ここで満足してしまえば、また中途半端な食事となり逆効果だ。
かと言って全部を掻っ攫うのも相当に気分が悪い上に、盗ったとしても全然足りない。ここ以外にもあると信じて探索を続けるべきか。
「(ん~……って悠長な事言ってられないな)」
ふと見上げた頭上には、俺の残り魔力量を示す数字。1900を越えていたそれも、間もなく1400を切ろうとしていた。
間違いなく身体創造によって魔力が消費され続けている。しかも思っていたよりも早い。
母様をして相当に魔力を使うと言わしめるスキルだ。少し甘く見てたな。
帰りの道のりも考えて、ちゃっちゃと探索してしまった方がよさそうだ。
「(干し肉は少しだけ頂戴して、と。武器庫があるくらいだ、きっと食糧庫もある筈。そっちを探して――)」
「東の集落が壊滅!!?」
「(うひゃあっ!!?)」
長居は無用と一歩踏み出す直前に、家の中から女性の大声が響いてきた。あまりに突然のこと過ぎて、干し肉を落としてしまったくらいだ。
嗚呼、無情。せっかくの干し肉が砂だらけ……後で洗わないと。まったく何なんだいきなり、驚かすなよ。
「不吉っす! やっぱりドラゴンがもたらした災厄っすよ!」
「(おっと?)」
また俺の話題か。大人気だなまったく。
でも良い話ではないようだ。やっぱりヴェロニカさんやコアちゃんが特別なだけで、他の獣人は俺を良く思っていないらしい。
「馬鹿者。何でもかんでも幼い竜に押し付けるな。それでも誇りある獣戦士か」
あ、この声ヴェロニカさんだ。
一国の王まで交えて何の話をしてるんだろう……極秘の会議とか? ちょっと気になるな。時間制限は念頭に置いて、情報収集と考えて聞かせてもらうか。
「でもっ、あのドラゴンが現れた後にこの事態っす! 無関係とは思えないっすよ!」
「ほう? 言うではないか。今回の件とあの幼竜が繋がっておるという確証があっての発言なのだろうな?」
「えっ、そ、それは……」
「不安を他者にぶつけるだけならガキにも出来る事だ。分かるな?」
「……申し訳ないっす」
「んはっ、よい! 許す!
それになウルズ、今回の件と幼竜には直接的な関係は無いという確証もあるのだ」
「それは、族長お得意の勘っすか?」
「そうだ、と言いたいところだが違う。そもそも集落が壊滅した理由すらまだ話しておらんだろうが。
ウルズ、あのドラゴンが現れるより以前から、オレ達を悩ませておる存在とは何だ?」
「……! 喰らう者っすか」
「分かっておるではないか」
集落の壊滅? また穏やかじゃない話題だな。
それに、喰らう者って何だ……?
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