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お前はどうしてそこまで出来る…?

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 それからも俺は、俺自身の気持ちをまとめることが出来ずにいた。

 ちゃんと振り向いて、この間のクッキーの事を『ありがとう』と言えればいいものの…言えずに日々が過ぎれば過ぎるほど、言い出せなくなっていく…

 そんな俺とは裏腹に、毎日変わらず俺の背中へ声をかけてくれる山下。

 振り向かせたいと思う山下に
 振り向かないと決めた俺…

 俺は…本当はどうしたいんだ…?

 きっと心では振り向きたいんだ…
 でも、振り向いて‪α‬だと言うことがいつかバレて、また何もかもを失う事の方が遥かに怖い…

 その気持ちが心で絡まりついてたからこそ、気持ちもまとまらないんだ。

 そんな日々が続き、気付けば四月も終わりを迎えようとしていたある日の事。

 数学の時間に二年生の振り返りをやると先公が言っているのが聞こえる。
 ここに来て、振り返りねぇ…?

 先公は黒板に三角関数の問題をカッカッと書き表していくけれど、今日も俺は授業なんか聞かずに空を眺めていた。

 何も変わらない……いや違う、変わり始めなきゃいけないのは、俺なのかもしれない…

 山下の行動がウザいと思うなら、はっきり言っちまえば楽なはずなのに…

 山下はそれを望んでるのか…?
 そして、俺も本当にそれを望んでいることなのか…?

 雲の動きを見ていても、絡まった気持ちが落ち着く訳でもない…俺はどうしたいんだ…?

 そんな時だった。
 とあるチャンスが俺に巡ってきたんだ。

「この問題を…山下!解けるかぁ~?」

 先公が黒板に書き表した問題をチラッとだけ見てみる俺…なんだ、計算もいらねぇじゃんかよ。

 なのに、後ろに座る山下から答えが返って来ない…しかも後ろで、ソワソワしているのも感じ取れたんだ…

 もしかして、分かんねぇのか…?

 くしゃみ野郎が解けるとも思えん…そして、真面目な山下が授業を聞いてないなんて先公から怒られるのも、なんだか尺に合わねぇ…

 山下を助けてやりたい…
 素直にこの前の『ありがとう』が言えないなら俺が今、山下のことを助けてやればいいんだ。

 俺は周りに、そして山下に悟られないように握りこぶしを作っていた。

 こんなに緊張したのは久しぶりだ…
 おい、俺…今、言わないと…後悔すんぞっ…!

「……-2/5π……」

 山下に俺の声が届いただろうか…
 身体はでけぇくせに、気も小さくて度胸もない…こんな俺の小さな小さな『ありがとう』がお前に届いただろうか…

 その答えは、ちゃんと山下が示してくれた。

「おお、正解!分かってるじゃねぇか!」

 ちゃんとお前に届いたみたいだな…?

 素直になれない俺は、こんな事しかしてやれなかったけれど、どこか達成感と嬉しさが俺の心を温めていく。

 そして、そのまま何事も無かったかのように俺はまた、空へと目を向けていたけれど…

 実は俺、口元を緩ませて喜んでたんだぜ…?

 俺はまだ、お前の事を何も知らない…
 それでも、こんな形でも…お前に何かを伝えられた事が何より嬉しくて、堪らなかったんだ…
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